じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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16章 奪われた姫君

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クラークとコルルの報せを聞いて、緊張したり驚いたりしたせいだろうか。俺は用を足しに、一人で外に出ていた。今はその帰り道だ。

「しっかし、馬車ばっかりで迷うな、こりゃ」

当然、案内板も標識もないので、記憶を頼りに進むしかない。確かこっちだったと、半ばカンで進んでいると、ばったり数人の集団に出くわした。

「あれ?みこと?」

「はれ、桜下くん?」

その内の一人の顔を、俺はよく知っていた。三の国の勇者、尊だ。

「あ、それにシリス大公と、エリスまで?」

残りの二人も、よく見れば顔見知りだ。三の国の大公シリスに、その姪っ子のエリス。相変わらずシリス大公は何一つ面白くなさそうな無表情だし、エリスは俺に気付いて、目を輝かせている。このは勇者が大好きだったっけか。

「ど、どうしてこんなところに?」

「どうしてって、そりゃあ、桜下くんと同じだと思うけど」

え。お花摘みの帰りって意味じゃないだろ?

「まさか、尊も、戦争に行くのか?」

「あはは、いちおうねぇ。勇者だから」

そりゃそうなんだが、にしても現実味がなかった。というか、俺がそれを望んでいなかったのかもしれない。クラークや俺ならともかく、尊には危険なことをしてほしくない。

「それは、こちらのセリフでもあるな。どうして君はここにいる?」

シリス大公が、抑揚のない声で言う。前と変わらず、とっつきづらいヤローだ。

「どうしてって、俺が外を出歩いてちゃいけませんか」

「ここは三の国のスペースだが。君はいつから転向を考えているんだね」

なに?あちゃぁ、しまった!迷って変なところに来てしまっていたのか。

「あ、す、すみません。迷っちゃったみたいで……ははは」

俺が苦笑いをしても、シリス大公は顔のあらゆるパーツをぴくりともさせなかった。それとは対照的に、エリスは頬をピンク色に染めて、ふんふんと興奮気味だ。

「勇者様!勇者様も、魔王との決戦に望まれるのですね!かつての伝説の、三人の勇者のように!」

「まあ、いちおうな……え?待ってください、シリス大公。まさか、あなたたちまで?」

「そんなわけないだろう。我々が付き添うのはここまでだ」

だ、だよな。この男ならともかく、小さなエリスまで戦場についてくるのは、さすがにだ。すると大公が、すっと目を細めて、俺をじっと見つめてきた。

「……」

「……あの、なにか?」

「ふむ。前に会った時よりも、魔力の質が変化しているな。より高みへ昇ったという事か」

え?まさか、俺の能力のことを言っているのか?見ただけで分かるもんかな、普通……

「その分なら、期待をしてもよさそうだ。しかし、あまり長くここにいることは許可できない。早々に立ち去りたまえ」

それだけ言うと、大公は長いローブの裾をひるがえして行ってしまった。エリスも名残惜しそうにしながら、その後を追う。尊も続こうとしたが、なにかを思い出したのか、こちらにたたっと寄ってきた。

「そうだ、桜下くん。実は、あの男の子も一緒なんだよ。デュアンくん」

「えっ。なんであいつが……?」

「ほら、この前島にいるために、私の仲間だってことにしたでしょ?それのせいで、ついてくることになっちゃったんだ」

「ああ、そういえば……」

「今度、あの子にも会ってあげてね。じゃね!」

それだけ早口に言うと、尊は大公の後を小走りで追いかけていった。

「あいつらも、来てるんだ……」

魔王との決戦に、出し惜しみはしないってことか。そしてさらにその後、俺はそれを痛感することになる。
なんとか二の国の馬車が停まっている近くまで戻ってきた時、俺は十人くらいのシスターの集団を見かけた。どこかへ向かう途中なのか、ゆっくりしずしずと歩いている。真っ白なローブを着ているから、夜の闇の中でもよく目立つんだ。

(こんな時間に、どこ行くんだろ。……って、あれ?)

集団の中心に、守られるように周囲を囲まれた女性がいる。その顔を見て、俺は目を丸くした。ひまわりのような黄色の髪に、左右で色の違う、青と緑の瞳。

「キサカじゃないか!」

俺が大声を上げたので、シスターたちは不審者を見る目をこちらに向けてきた。弁明しようかとも思ったが、シスターたちは関わり合いにならないことに決めたらしい。足を速めて、とっとと行ってしまう。

「あ……」

一瞬、キサカと目が合った。キサカは何か話したそうにしていたが、諦めたのか、困った顔で笑うだけだった。遠のいていくシスターの集団を、俺は茫然と見送る。彼女たちが向かっているのは、あの荘厳なガラスの建物ではなく、一の国の陣営の方向だ。

「おいおい……キサカまでいるのか?ほんとにオールスターじゃないか」

光の聖女と呼ばれるキサカは、強力な回復効果を持つ光の魔法を使うことができる。戦争においては頼もしい存在だろうが、彼女の魔法は代償も大きいのだ。ライカニール帝は、よく彼女を同行させる気になったな。

「……こりゃ、本気も本気みたいだぞ」

多くの人間が、ここを天王山だと認識しているらしい。どうしよう、俺、あんまり不真面目だと後ろから刺されちゃうんじゃないか?



翌日。一、二、三の国連合軍は、早朝の庭園に集結していた。彼ら彼女らの向かう先には、各国の皇帝、大公がいる。王は不在だ。

「諸君。これより連合軍は、魔大陸ゲヘナへと進軍する!かの邪知暴虐の魔王を、必ず打ち砕くのだ!」

うおぉー!兵士たちの雄たけびは、朝の静寂を打ち破り、空気をも震わせた。ついに、ゲヘナへの行軍が始まったのだ。
帝都を出発する際には、民衆も王宮も総出で、熱烈な送迎が行われた。王宮の合奏団はにぎやかなファンファーレをかき鳴らし、人々はそれに負けないくらいの歓声を上げて、手に持ったハンカチを振り回している。連合軍の長い長い行列はいつまでもいつまでも続き、住民たちの声もそれに合わせて、いつまでもいつまでも、途切れることなく続いていた。

帝都を出ると、荒野が続いていた。土はほこりっぽく、空気は乾燥してパサパサしている。

『一の国西部には、広大な砂漠地帯が広がっています。つまりこの先、砂漠を越えていく必要があるわけですね』

馬車の中で、アニが教えてくれた。

『この砂漠は、魔王の大陸との境界となっている二つの山脈まで続いています。一説では、魔王が自らの領土に人間を近寄らせないために、豊かな森を潰して作り上げたと言われていますが……眉唾の域は出ませんね』

「砂漠か……さすがに、対策とかしてるんだよな?みんなで干からびてミイラになるなんて、ごめんだぜ」

『無策ということはあり得ないでしょう。対策なしには越えられないのが砂漠というものですから』

ううむ。砂漠と聞くと、昼は灼熱、夜は極寒のイメージだ。そんなとこを抜けていくなんて……

「魔王のおひざ元に着くだけでも、一苦労だな」

それから数日間は、荒野の旅が続いた。
そして今日、俺たちは“サーガ”という町に到着した。いわく、ここは西の果ての町。この町を出れば、そこから果てしない砂漠が始まるという、砂漠の玄関口のような町だ。そしてこの先には、もう町は存在しない。いくつか村はあるそうだが、大きな町はここが最後なんだそうだ。

「こっから先は、人外魔境ってやつか……」

いよいよ、実感が湧いてきたぞ。魔王の住む世界にカチこむ実感だ。
最後の町と言うことで、連合軍はここで一日補給兼休息を取り、明日から本格的に砂漠越えを敢行するらしい。

「俺たちも自由にしていいらしいけど」

俺はみんなに、とりわけウィルに訊ねる。うちの台所当番だからな。といっても今のところ、大量の食糧が必要になる予定はない。連合軍と行動している今は、一緒に食事を出してもらえるからだ。

「ですが、いつ何時、私たちだけで行動することになるか分かりませんものね」

ウィルの提案で、市場に向かうことになった。保存がきく食料を買いためておきたいらしい。確かに、この先連合軍とはぐれることもあるかもしれないしな。備えはいくつあってもいいだろう。
市場では砂漠が近いこともあってか、魚の干物や干した肉にドライフルーツ、塩漬けやカチカチの岩みたいなパンなど、物持ちの良い食材が多く揃った。俺だったらでたらめに買い込むことしかできなかっただろうけど、ウィルはちゃんと味のバランスを考えて選んでくれた。

「どうせなら、おいしく食べられる方がいいですからね。余ってしまった時にも無駄にならないですし」

うーん、さすが。しっかりしている。食料以外には、薬草や包帯、糸と針など応急処置に使えそうなものを、医学に詳しいロウランがいくつかチョイスした。

「うんうん。これくらいあれば十分だろ」

さて、そろそろ戻ろうかと思ったその時。市場の端っこに、見知った顔がいることに気が付いた。

「あ。あいつ、クラークじゃないか?」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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