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16章 奪われた姫君
13-3
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13-3
「あれぇ~?桜下くんじゃないですかぁ」
な、なにっ!?デュアン!?
赤ら顔で目元が定まっていないデュアンが、ふらりと茂みから現れた。が、その位置が最悪だ。あろうことか、マスカレードの進む方向と、ドンピシャ重なる位置に立っている。
ドンッ!
思わず目を覆いたくなった。後ろ歩きで遠ざかっていたマスカレードは、振り返った拍子にぼーっと突っ立っていたデュアンと正面衝突した。二人が絡まり合いながら、背の高い草むらの陰に消える。
「やっ、やべえ!フラン!」
「うん!」
フランはひゅっと音を残して、風のように草むらに駆け込んだ。マスカレードは、邪魔者は容赦なく殺すと言っていた。このままじゃ、デュアンが危ない!
「くそっ、どけっ!」
「ぐえっ」
ドガ!っと何かを叩く音と、次いでどちゃっと倒れる音。そして、ガサガサと草をかき分ける音。それらが続けざまに聞こえてきた後、夜の湿原は再び静かになった。俺は心臓のあたりをギュッと押さえながら、全神経を耳に集中させる。フランは、デュアンは無事か?マスカレードは……
ガサガサと、草むらが揺れた。だんだんこっちに近づいてくる。やがてフランが、そしてぐったりと背負われたデュアンが姿を現した。
「デュアン!フラン、まさか……」
フランは黙って首を横に振った。
「寝てる」
「は?」
じきに、ぐぅぐぅといういびきが聞こえてきた……こ、こいつ!
「だはぁ~……ったく、どこまでも人騒がせな……」
フランは今すぐにでも、背中の荷物をその辺にほっぽり出したそうな顔をしている。
「まあけど、無事でよかった。ひとまず、連合軍のところに戻ろう。マスカレードはもう、戻っちゃ来ないとは思うが……」
あいつは、次に会う時は、俺を殺す時だと言った。それはつまり、いつの日か、あいつが俺の前に立ちはだかるということだ。一体どんな形で、俺たちの前に現れるのか……
「チッ。気味が悪いな……」
デュアンを担いで連合軍のキャンプに戻るところで、尊に出くわした。
「あっ、桜下くん!よかったぁ、デュアンくんを見つけてくれたんだ!ありがとう!」
尊は息を切らしていたし、ブーツには泥や草が張り付いていた。よっぽど熱心に探し回っていたんだろう。
「いや……それでさ尊。悪いんだけど、魔法使って、冷たい水を出してくれないか?」
「へ?いいけど、桜下くん、喉が渇いたの?」
「俺じゃなくて、こいつに飲ませなきゃなんだよ。後はついでに、顔も洗わせた方がよさそうだな」
俺はフランの背中で伸びているデュアンを、あごでしゃくった。尊は目をぱちぱちさせていたが、すぐに詠唱に取り掛かった。
尊の魔法を待っている間に、ウィルも俺たちを見つけて、空から降りてきた。
「桜下さん、フランさん。見つかったんですね」
尊の手前、返事をするわけにもいかないので、俺はウィンクした後で、やはりデュアンの方をあごで指し示す。
「あーあー、ほんとにしょうがない人ですね……おおかた、その辺でひっくり返っていたんでしょう?村でもしょっちゅうでしたよ」
あれが初めてじゃないのか……しかしまあ、今回は珍客も相まって、なかなかややこしいことになってしまった。そうこうしているうちに、尊の魔法が完成する。
「ポンドロータス!」
尊は呪文を唱えると、両手をおわんの形にした。すると、そこからこんこんと水が沸き始めた。フランがデュアンを地べたに下ろすと(かなり雑だったので、半分投げ出したみたいだ……)、尊と俺は、彼の側に屈みこんだ。俺は尊の手の中から水を掬うと、デュアンの顔の上まで持っていって、ぱっと離した。
「ぶはあっ!?なな、何事ですか!?」
デュアンが飛び起きて、きょろきょろとあたりを見渡す。おい、目が半分しか開いてないぞ。大丈夫か?
「デュアン。何事ですか、はこっちのセリフだぜ」
「へ?桜下くん?それに、尊さんも……」
「お前、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっきのことぉ……?」
デュアンの目がまたとろんとしだす。こいつ、まだ目が覚め切っていないのか?俺は彼の目の前に指をかざす。
「おいデュアン。これ、何本に見える?」
「ふへ?何言ってんですか。五本に決まってるでしょう」
俺も尊もフランもウィルも、俺の手を見下ろした。グーの形で、指は一本も出ていない?。
「……重症だな」
「み、みたいだね……」
尊の手から冷たい水をしこたま飲ませ、それから顔が白くなったデュアンが草陰に消えて(何をしたのかはご想像にお任せする)帰ってくると、ようやく彼は平静を取り戻した。
「いやぁ、すみませんでした。僕としたことが、つい悪酔いしてしまって。こんなことは滅多にないんですけれどね」
デュアンはへらへら笑っているが、ウィルがちゃんと「酔うといつもこう言い訳するんです」と教えてくれている。
「デュアン……お前、危ないからそんなに深酒すんなよ。どんな飲み方したんだ?」
「いやあ、そんなに飲んだはずはないんですがね。兵士の皆さんが是非にと勧めて下さるので、一杯だけ頂いたはずなんです。ただ、そこからの記憶があいまいで……」
「え。一杯で、こんなになったのか?」
「いや、その後もちょっとはいただきましたが。そう、確か……何か特技はあるのかと訊かれて、触れるだけで胸の大きさが分かると答えたら、実際にやってみろと言われて……ちょうど都合よく女騎士の方がいらしたので、その方のご協力を得ようとしていたら、何かが目の前に凄い勢いで迫ってきて……気がついたら、誰もいなくなっていたような……」
「……」
ど、どうしようもないな……ウィルが拳を握り締めて、わなわなと震えている。こいつの女好きも相変わらずだな。
「じゃあお前、さっきの事も覚えてないのか?」
「さっきの事?ああそう言えば桜下くん、さっきも僕ら、会いましたよね?それで、いきなり突き飛ばされて……」
「え?桜下くん、デュアンくんと何かあったの?」
尊が不安そうな目でこちららを伺ってくる。今の言い方だと、まるで俺たちがデュアンを突き飛ばしたみたいだ。
「いや、そうじゃないんだけど……」
「けど?」
俺は一瞬迷った。奴のことを、尊に話すべきかどうか。けどデュアンがそのことを覚えているのなら、どのみち尊にも伝わるだろう。なら、きちんと説明したほうがいいな。
「実は……さっき、マスカレードが現れたんだ」
「えっ!」と、ウィルが大きな声を出す。一方の尊はぽかんとしていた。
「マスカレード……それって確か、この前シェオル島に出たっていう、危ない人だったよね?」
「そうだよ。そいつがさっき、デュアンを探している俺たちのところにやって来た」
「お、襲われたの?」
「いいや、何て言うか、ちょっと話をしに来ただけだった……」
会話の内容は、伏せた。あいつの話が真実である保証はないし、たとえ仮定の話だとしても、動揺させてしまうかもしれないだろ。魔王の正体が勇者だなんてさ。
「それで、そのいざこざのなかで、デュアンが吹っ飛ばされたんだ。覚えてるか?」
俺はデュアンに話しを振ったが、やつもぽかんと口を開けていた。
「そ、そんなことがあったんですか?」
「お前、あの場に居ただろ?何にも聞いてなかったのか?」
「ええ、まったく……完全に熟睡してました」
あんなジメジメしたところで、よくぐっすり眠れるな……するとウィルが、「デュアンさんは酔っ払うと、まるで死人みたいに静かに、深ーく寝入るんです」と耳打ちしてくれた。なるほど、どうりでいびきも何も聞こえなかったわけだ。
「まあ、覚えてないならいいけど。お前、結構危ないところだったんだぞ。マスカレードとぶつかった時には焦ったなぁ」
「え……あ!そ、そう言えば、女性とぶつかった夢を見ましたが、あれがもしかして……」
「そうだよ。女どころか、超危険な極悪人だったんだぞ」
さぁーっと、デュアンの顔から血の気が引いていく。まったく、いい薬だ。
「まあ、事なきを得たからいいけど……さあ、もうそろそろ戻ろうぜ。あんまり夜が更けると、みんな心配するだろ」
明日も早いんだ。昼間あんなことがあったから疲れたしな。ふあぁ。
「そうだね。桜下くん、手伝ってくれてありがとう」
「んや、いいよ。じゃあな、尊」
「あ、ちょっと待って!」
ん?立ち去ろうとしたところを、ちょっと焦ったような顔の尊に呼び止められる。
「あの、さっきの、マスカレードって人の話なんだけど……桜下くん、どうするつもり?」
「どうする?えっと……?」
「みんなに、話すの?」
「ああ、そういう……いや、どうかとも思うんだけど、黙っていよっかなって。とりあえず、あちらもちょっかい掛けてくる気はないみたいだったし……余計なことは言わないほうがいいかな、と」
「よ、よかったぁ。実は私もそう考えてたの。そんな怖い人が近くにいるなんて、言っていいのかなって……」
なるほど、それを気にしていたのか。尊も案外、周りが見えているじゃんか。
「じゃあ、今夜のことは、俺たちだけの秘密な」
「うん、そうだね。じゃあ、はい」
はい?尊はそうするのが当然とばかりに、右手の小指を差し出してきた。
「指切り、ね?」
「あ、ああ」
「ふふっ。ゆーびきーりげーんまーん……」
尊は楽し気にリズムを付けながら、つないだ小指を揺らす。デュアンはそれを物珍しそうにしながら、フランとウィルは口に砂の塊を突っ込まれたような顔で、それを眺めていた。
「ゆーび切った!じゃあお休み、桜下くん!今日はありがとう!いこっ、デュアンくん」
「ええ。では、また」
尊とデュアンは連れ立って、自分たちのキャンプへと戻って行った。後には俺、フラン、ウィルだけが残される。
「えっと……俺たちも、戻ろうか?」
「……わたしやっぱり、あの女、好きになれない」
「……奇遇ですね。私も今、同じことを考えてました」
え、ええー……
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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な、なにっ!?デュアン!?
赤ら顔で目元が定まっていないデュアンが、ふらりと茂みから現れた。が、その位置が最悪だ。あろうことか、マスカレードの進む方向と、ドンピシャ重なる位置に立っている。
ドンッ!
思わず目を覆いたくなった。後ろ歩きで遠ざかっていたマスカレードは、振り返った拍子にぼーっと突っ立っていたデュアンと正面衝突した。二人が絡まり合いながら、背の高い草むらの陰に消える。
「やっ、やべえ!フラン!」
「うん!」
フランはひゅっと音を残して、風のように草むらに駆け込んだ。マスカレードは、邪魔者は容赦なく殺すと言っていた。このままじゃ、デュアンが危ない!
「くそっ、どけっ!」
「ぐえっ」
ドガ!っと何かを叩く音と、次いでどちゃっと倒れる音。そして、ガサガサと草をかき分ける音。それらが続けざまに聞こえてきた後、夜の湿原は再び静かになった。俺は心臓のあたりをギュッと押さえながら、全神経を耳に集中させる。フランは、デュアンは無事か?マスカレードは……
ガサガサと、草むらが揺れた。だんだんこっちに近づいてくる。やがてフランが、そしてぐったりと背負われたデュアンが姿を現した。
「デュアン!フラン、まさか……」
フランは黙って首を横に振った。
「寝てる」
「は?」
じきに、ぐぅぐぅといういびきが聞こえてきた……こ、こいつ!
「だはぁ~……ったく、どこまでも人騒がせな……」
フランは今すぐにでも、背中の荷物をその辺にほっぽり出したそうな顔をしている。
「まあけど、無事でよかった。ひとまず、連合軍のところに戻ろう。マスカレードはもう、戻っちゃ来ないとは思うが……」
あいつは、次に会う時は、俺を殺す時だと言った。それはつまり、いつの日か、あいつが俺の前に立ちはだかるということだ。一体どんな形で、俺たちの前に現れるのか……
「チッ。気味が悪いな……」
デュアンを担いで連合軍のキャンプに戻るところで、尊に出くわした。
「あっ、桜下くん!よかったぁ、デュアンくんを見つけてくれたんだ!ありがとう!」
尊は息を切らしていたし、ブーツには泥や草が張り付いていた。よっぽど熱心に探し回っていたんだろう。
「いや……それでさ尊。悪いんだけど、魔法使って、冷たい水を出してくれないか?」
「へ?いいけど、桜下くん、喉が渇いたの?」
「俺じゃなくて、こいつに飲ませなきゃなんだよ。後はついでに、顔も洗わせた方がよさそうだな」
俺はフランの背中で伸びているデュアンを、あごでしゃくった。尊は目をぱちぱちさせていたが、すぐに詠唱に取り掛かった。
尊の魔法を待っている間に、ウィルも俺たちを見つけて、空から降りてきた。
「桜下さん、フランさん。見つかったんですね」
尊の手前、返事をするわけにもいかないので、俺はウィンクした後で、やはりデュアンの方をあごで指し示す。
「あーあー、ほんとにしょうがない人ですね……おおかた、その辺でひっくり返っていたんでしょう?村でもしょっちゅうでしたよ」
あれが初めてじゃないのか……しかしまあ、今回は珍客も相まって、なかなかややこしいことになってしまった。そうこうしているうちに、尊の魔法が完成する。
「ポンドロータス!」
尊は呪文を唱えると、両手をおわんの形にした。すると、そこからこんこんと水が沸き始めた。フランがデュアンを地べたに下ろすと(かなり雑だったので、半分投げ出したみたいだ……)、尊と俺は、彼の側に屈みこんだ。俺は尊の手の中から水を掬うと、デュアンの顔の上まで持っていって、ぱっと離した。
「ぶはあっ!?なな、何事ですか!?」
デュアンが飛び起きて、きょろきょろとあたりを見渡す。おい、目が半分しか開いてないぞ。大丈夫か?
「デュアン。何事ですか、はこっちのセリフだぜ」
「へ?桜下くん?それに、尊さんも……」
「お前、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっきのことぉ……?」
デュアンの目がまたとろんとしだす。こいつ、まだ目が覚め切っていないのか?俺は彼の目の前に指をかざす。
「おいデュアン。これ、何本に見える?」
「ふへ?何言ってんですか。五本に決まってるでしょう」
俺も尊もフランもウィルも、俺の手を見下ろした。グーの形で、指は一本も出ていない?。
「……重症だな」
「み、みたいだね……」
尊の手から冷たい水をしこたま飲ませ、それから顔が白くなったデュアンが草陰に消えて(何をしたのかはご想像にお任せする)帰ってくると、ようやく彼は平静を取り戻した。
「いやぁ、すみませんでした。僕としたことが、つい悪酔いしてしまって。こんなことは滅多にないんですけれどね」
デュアンはへらへら笑っているが、ウィルがちゃんと「酔うといつもこう言い訳するんです」と教えてくれている。
「デュアン……お前、危ないからそんなに深酒すんなよ。どんな飲み方したんだ?」
「いやあ、そんなに飲んだはずはないんですがね。兵士の皆さんが是非にと勧めて下さるので、一杯だけ頂いたはずなんです。ただ、そこからの記憶があいまいで……」
「え。一杯で、こんなになったのか?」
「いや、その後もちょっとはいただきましたが。そう、確か……何か特技はあるのかと訊かれて、触れるだけで胸の大きさが分かると答えたら、実際にやってみろと言われて……ちょうど都合よく女騎士の方がいらしたので、その方のご協力を得ようとしていたら、何かが目の前に凄い勢いで迫ってきて……気がついたら、誰もいなくなっていたような……」
「……」
ど、どうしようもないな……ウィルが拳を握り締めて、わなわなと震えている。こいつの女好きも相変わらずだな。
「じゃあお前、さっきの事も覚えてないのか?」
「さっきの事?ああそう言えば桜下くん、さっきも僕ら、会いましたよね?それで、いきなり突き飛ばされて……」
「え?桜下くん、デュアンくんと何かあったの?」
尊が不安そうな目でこちららを伺ってくる。今の言い方だと、まるで俺たちがデュアンを突き飛ばしたみたいだ。
「いや、そうじゃないんだけど……」
「けど?」
俺は一瞬迷った。奴のことを、尊に話すべきかどうか。けどデュアンがそのことを覚えているのなら、どのみち尊にも伝わるだろう。なら、きちんと説明したほうがいいな。
「実は……さっき、マスカレードが現れたんだ」
「えっ!」と、ウィルが大きな声を出す。一方の尊はぽかんとしていた。
「マスカレード……それって確か、この前シェオル島に出たっていう、危ない人だったよね?」
「そうだよ。そいつがさっき、デュアンを探している俺たちのところにやって来た」
「お、襲われたの?」
「いいや、何て言うか、ちょっと話をしに来ただけだった……」
会話の内容は、伏せた。あいつの話が真実である保証はないし、たとえ仮定の話だとしても、動揺させてしまうかもしれないだろ。魔王の正体が勇者だなんてさ。
「それで、そのいざこざのなかで、デュアンが吹っ飛ばされたんだ。覚えてるか?」
俺はデュアンに話しを振ったが、やつもぽかんと口を開けていた。
「そ、そんなことがあったんですか?」
「お前、あの場に居ただろ?何にも聞いてなかったのか?」
「ええ、まったく……完全に熟睡してました」
あんなジメジメしたところで、よくぐっすり眠れるな……するとウィルが、「デュアンさんは酔っ払うと、まるで死人みたいに静かに、深ーく寝入るんです」と耳打ちしてくれた。なるほど、どうりでいびきも何も聞こえなかったわけだ。
「まあ、覚えてないならいいけど。お前、結構危ないところだったんだぞ。マスカレードとぶつかった時には焦ったなぁ」
「え……あ!そ、そう言えば、女性とぶつかった夢を見ましたが、あれがもしかして……」
「そうだよ。女どころか、超危険な極悪人だったんだぞ」
さぁーっと、デュアンの顔から血の気が引いていく。まったく、いい薬だ。
「まあ、事なきを得たからいいけど……さあ、もうそろそろ戻ろうぜ。あんまり夜が更けると、みんな心配するだろ」
明日も早いんだ。昼間あんなことがあったから疲れたしな。ふあぁ。
「そうだね。桜下くん、手伝ってくれてありがとう」
「んや、いいよ。じゃあな、尊」
「あ、ちょっと待って!」
ん?立ち去ろうとしたところを、ちょっと焦ったような顔の尊に呼び止められる。
「あの、さっきの、マスカレードって人の話なんだけど……桜下くん、どうするつもり?」
「どうする?えっと……?」
「みんなに、話すの?」
「ああ、そういう……いや、どうかとも思うんだけど、黙っていよっかなって。とりあえず、あちらもちょっかい掛けてくる気はないみたいだったし……余計なことは言わないほうがいいかな、と」
「よ、よかったぁ。実は私もそう考えてたの。そんな怖い人が近くにいるなんて、言っていいのかなって……」
なるほど、それを気にしていたのか。尊も案外、周りが見えているじゃんか。
「じゃあ、今夜のことは、俺たちだけの秘密な」
「うん、そうだね。じゃあ、はい」
はい?尊はそうするのが当然とばかりに、右手の小指を差し出してきた。
「指切り、ね?」
「あ、ああ」
「ふふっ。ゆーびきーりげーんまーん……」
尊は楽し気にリズムを付けながら、つないだ小指を揺らす。デュアンはそれを物珍しそうにしながら、フランとウィルは口に砂の塊を突っ込まれたような顔で、それを眺めていた。
「ゆーび切った!じゃあお休み、桜下くん!今日はありがとう!いこっ、デュアンくん」
「ええ。では、また」
尊とデュアンは連れ立って、自分たちのキャンプへと戻って行った。後には俺、フラン、ウィルだけが残される。
「えっと……俺たちも、戻ろうか?」
「……わたしやっぱり、あの女、好きになれない」
「……奇遇ですね。私も今、同じことを考えてました」
え、ええー……
つづく
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読了ありがとうございました。
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