じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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16章 奪われた姫君

13-2

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13-2

「……お前、黙って聞いてれば……!」

フランが敵意を剥き出しにして、低く唸るように言う。

「お前なんかに、この人は殺させない!絶対に!」

対するマスカレードは、余裕をもってそれを受け止める。

「そう思うかい?ま、思うだけならタダだからね」

「黙れ!今すぐにだって……!」

「お、おい、フラン!抑えろって、誰かに聞こえちゃうぞ!」

俺は怒りで盛り上がったフランの肩を押さえる。誰かに聞きつけられて、覗きに来られてしまったら大変だ。マスカレードなら、容赦なく部外者を殺すだろう。

「ぐっ……」

フランは悔しそうに歯ぎしりしながら、一歩後ろに下がった。

「そうそう。それでいいんだよ、ゾンビちゃん」

「~~~……!」

ああ、フラン。頼むから抑えてくれよ……

「ああ、それでそうそう。君に聞かせてあげる話だったね」

「あ、おい、その前に。これが最後ってのは、どういう事なんだ。お前の計画が、詰めの局面に入ったって意味か?」

「ふふふ、どうだろうね。残念だけど、今夜はそっちについては話してあげないよ。もっとも、僕の仲間になるってんなら、教えてあげてもいいけどね」

くそ……さすがにそこまで口を割らせることはできないか。これ以上フランの怒りをため込ませないためにも、俺はマスカレードに続きを促す。

「わかった……で、なんだ?話って」

「それは、この戦争にまつわることだよ。この戦争が、そもそもどういう戦いなのか、君には理解してもらいたくって」

なんだと?どういう戦いか、だって……?

「君、この戦争、何と何と戦いだと思ってるんだ?」

「何をいまさら。人類と魔王の戦いに決まってるだろ」

「はい、もう間違い。テストじゃ零点だね」

は……?こいつ、一体何を言い出すつもりだ?マスカレードは、それこそ間違いを指摘する教師のように、びしっと指を突き付ける。

「そもそも、これは魔王との戦いじゃない。君たちがこれから立ち向かおうとしているのは、もっと別の存在だ」

「は……ははは。なんじゃそら。新しいジョークか?」

「ジョークでも何でもない、僕が話しているのは、現実の話だ。そもそも君たち、疑問に感じなかったのかい?」

「疑問、だと?」

「そうさ。僕からしたら、どうして疑問を抱かないのか不思議でならない。魔王が復活した?一度死んだはずの生命が、以前と全く同じ姿で蘇っただって?そんなこと、起こり得るはずがないだろう!」

……!俺も、そしてフランさえも、これには息をのんだ。死んだ命は、生き返らない。誰もが知っている、この世の普遍かつ不変のルールだ。今夜初めて思ったが、マスカレードの言っていることは、正しい。

「でも……相手は、魔王だろ?常識外れのことだって、起こせるんじゃないのか」

「そうだ、魔王に常識は通用しない。でもね、死者が蘇らないというのは、常識とかそんなレベルの話じゃない。それは、この世界の法則だ。この世に生きている以上、どうしたって従うほかないルールだ。空が青く、雨は昇らず、夜に星がまたたくのを変えられないように。たとえ魔王と言えど、この世の理から外れることなんてできないのさ」

「……でも、そんなこと、国の人たちだって分かってるはずだろ。その人たちが、魔王が復活したと言ったんだぞ」

「ハハハ、そうさ。それこそが、恐るべき想像力の欠如だ!ここの連中と来たら、まるでイマジネーションが足りていない。やれ魔王だ、やれ勇者だと、決まったフレーズに沿ったセリフしか喋れない朴念仁どもだ。だから、こんな簡単なことにも気付けないんだよ」

「……でも、じゃあ……それだと……」

「そう。魔王は復活なんかしていない。奴は死んだ。なら、今の魔王は、以前の魔王とはまるで別の存在だということに他ならない」

まるで、別の存在……それは、俺も一度は考えたことだった。復活したと見せかけ、別の存在が成り代わったのではないかと……しかし。

「それは、あり得ないはずだろ!魔王ってのは、そう簡単になれるものじゃない。それだけの力を持った存在が、そうほいほいといるわけが……」

「いいや、いるね。それも、そうほいほいと、だ」

マスカレードは、はっきりとそう言った。笑い飛ばしてもよさそうなのに、俺はなぜか、奴の言葉を一蹴できなかった。

「それは……より強い魔物がいるってことか?」

「違うね。それは魔物じゃない。だが、魔物に匹敵するほどの力を持ち、なおかつ定期的にこの世界に発生する者たちだ……もう、分かるだろう?」

ば……馬鹿な。そんなはず……

「魔王の正体は、勇者だよ」

……
沈黙が、辺りを包んだ。夜の湿原では風すら吹かず、虫の音も聞こえてこない。完全な静寂。聞こえるのは、俺の荒い息遣いくらいだ。

「今の魔王は、実は勇者だと……お前は、そう言いたいのか?」

「そうだよ。魔王に匹敵する存在は、それくらいしかないだろう」

「なら、俺たちは……人間どうしで争っていると、そう言いたいってのか?」

「その通り。だから僕は、この話を君に伝えに来た。このくだらない、壮絶な同士討ちに、価値なんてないだろう?」

同士討ち……人間同士が争っているなら、確かにその通りだ。だがフランは、奴の話に納得していなかった。

「信じられるか!勇者が魔王?そんなことあり得ない!」

「あり得ない、ね。なんでそんなことが言い切れる?」

「わたしは、この人がどんな目に遭ったか見てきたからだ!勇者に自由なんて、与えられていない!」

ハッとして、フランを見る。フランはマスカレードに怒ると同時に、俺の過去にも怒っているようだった。

「王国の連中は、この人を物みたいに管理しようとした!他の勇者だって似たようなものだ!魔王になって寝返るようなこと、許させるはずがない!」

マスカレードは以外にも、神妙な態度でうなずいた。

「まさにその通りだね。あいつらは、君たち勇者が人間であるということを認めようとしない。君たちが生きている間はね。だけど、一度死んだ者ならどうだろう?」

「一度、死んだ……?」

「っ!ま、まさか、お前……」

魔王に匹敵する力を持ち、すでに故人となっている勇者。俺はそれに、三人ほど心当たりがある。

「まさかお前、伝説の勇者……ファースト、セカンド、サードのことを言ってるのか?」

フランは目を見開き、マスカレードをギッと睨む。マスカレードは、ニヤニヤとねばついた声を出した。

「ご名答。彼らなら、この条件にピッタリ当てはまると思わないかい?」

「ふざけるな!死者が蘇らないと言ったのはそっちだ!」

フランが鋭く言い返す。

「言ったよ。でも、それは確実に死んでいたらの話だ。魔王は死んだ。だから蘇らない。三人の勇者も、死んだと思われていた。でも、実際は違った。彼らのうちの誰かが生きていて、そして今、魔王となって人類に復讐しようとしている。これが、この戦争の真実さ」

なんだって……?俺はごくりと固唾をのみ込むと、慎重に訊ねる。

「誰なんだ。三人のうちの誰が、魔王になったっていうんだ」

「クククク……」

マスカレードはたっぷりと焦らした後で、ようやく口を開く。

「それはね……」

その時だ。ガサッ。マスカレードの背後で、草が擦れるような、小さな物音がした。マスカレードが素早く後ろを振り返る。俺も驚いて、奴の背後を見つめた。まさか、誰かが聞きつけて……?
しかし、夜の湿原は相変わらず静かだった。人のいる気配はない。今のは、風か、それとも小さな生き物の立てた音だったのか……?

「……ま、いいか。ずいぶん長く話したし、そろそろ潮時だね」

マスカレードはこちらに向き直った。

「さて……返事を聞かせてもらおうかな?ネクロマンサーくん」

「なっ。お、おい!さっきの答えはどうなったんだ!一体誰が、魔王になったんだよ!?」

一番肝心なところが、まだ聞けていない!だがマスカレードは、その話は終わりだとばかりに首を横に振る。

「誰だっていいじゃないか。魔王は勇者だ。君たちは人類同士で争い合っている。それに対して、君はどう思ったのかな?返事は今、ここで聞かせてもらおう」

くっ……これ以上無駄話をするつもりはないと言いたげだ。実に癪だが、連合軍が後ろに控えている今、いざこざはマズいか……

「……何度誘われても、答えはノーだ。俺がお前と手を組む未来なんて、ありっこない」

「ふーん……そうかい。残念だな。僕じゃなくて、君がね。せっかく真の自由を手に入れられたかもしれないのに」

奴の声からは、目に見えて興が冷めたことが感じ取れた。

「それじゃ、ほんとにこれでサヨナラだね。君とおしゃべりすることは、もう二度とないだろう」

「おい、待て!そもそも俺は、お前が何をするつもりなのか、まるで聞いてないんだぞ!そんな状況で手を組めだなんて、土台無茶だ」

俺はあえて、興味を持っているような言い方をした。こう言えば、もう少し情報を引き出せないだろうか?

「僕が何をするか、ねえ。前に一度、話さなかったかな?」

「俺たちを自由にしてやれる、とは聞いた。でも、それだけじゃ具体的なことは何も分からないだろ」

「ああ、そうだったかな……ま、その言葉通りだよ。僕について来れば、こんなくだらない戦争から君たちを解放すると約束しよう。勇者や魔王といったしがらみからも自由になれる。そうだな、じゃあこれだけ教えてあげようか……僕は、今あるこのふざけた世界を、一度ぶっ壊そうと思ってるんだ」

せ……世界を、ぶっ壊す、だと?

「魔王がいて、国があって、勇者がいる。僕はそれをまっさらにして、新たに僕だけの、自由な世界を描くつもりだ。もし君が付いてくるって言うなら、その一部を分けてあげてもいいよ」

「ど……どんな方法で、そんなことをするつもりなんだ」

「それは言えないなぁ。この先は、企業秘密。仲間にならなきゃ教えてやんなーい」

くっ。世界を白紙にするだなんて、言っていることは魔王よりもそれらしい。同時に、荒唐無稽だ。だがこの男が言うと、どうしようもなく不安になるのはなんでなんだ?こいつなら、最低で最悪の手段を用いて、それを実現してきそうな……そんな気持ちにさせられる。

「……」

「……ま、君は断ったんだものね。それじゃ、これ以上の問答は無用だ」

黙っている俺を見て、マスカレードは完全に見切りをつけたらしい。こちらを向いたまま、草をかき分けて後ろ向きに下がり始めた。

「な、おい!待て!」

俺の制止を聞くはずもなく、マスカレードはすごい速さで遠ざかっていく。その時だった。

「ふにゃ?」

え?奴の背後から、ひょっこりと人影が起き上がったじゃないか!



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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