じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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16章 奪われた姫君

15-1 魔王軍の包囲

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15-1 魔王軍の包囲

「敵影だって!?くそ、モンスターか?よりにもよって、こんなところで!」

「ぼやいてもしかたないだろう!僕は仲間たちの所に戻る!」

クラークは手綱をぐいっと引くと、白馬をひるがえして走り去った。やつの心配は、まあいらないだろう。それよりも、俺たちだ。

「みんな、いるな?ちゃんと聞いてたよな」

「あれが聞こえないやつがいたら、耳が腐ってるわね」

一言余計なアルルカが、ストームスティードのそばに降り立つ。フランも駆け寄ってきた。

「また、あの女かな」

あの、カタコトの女の子か……モンスターが襲ってくる時には、毎回あの子の姿があった。今回も同じか?

「また小手調べのつもりなのか。それとも。今度こそ本気か」

前回の攻撃の苛烈さを鑑みれば、油断は禁物だ。気を引き締める。
俺たちはひとまず、隊の先頭へと向かった。そこにはすでに、クラーク一行と尊、そしてエドガーが集まっていた。

「で、状況は?」

着くなりそう訊くと、エドガーが難しい顔でうなずく。

「うむ。この先八百キュビットほどのところに、魔物の大群が列をなしている」

「魔物の群れ?」

「単に群れているというより、陣を敷いていると言ったほうが正確だな」

はっとした。普通の魔物が、整列して陣を作ることなんてないだろう。

「魔王軍、ってことか」

エドガーは再度うなずいた。

「ついに、両軍が真っ向からぶつかる時が来たようだ。よりにもよってその時が、本隊と離れた今というのが腹立たしいがな」

ついにこの時が……!フィドラーズグリーン戦線でぶつかるはずだったのが、魔王が戦線を放棄したせいで、こんな後ろ倒しになってしまったんだ。

「だけど、なんでここなんだ?見たところ、ここはただの荒れ地だろ。魔王の別荘でも建ってるのか?」

「防衛上重要な拠点があるというわけではあるまい。おそらく地形を選んで、ここで我々を待ち受けたのだ」

地形……俺は左右の崖を見渡す。

「ここは、左右を崖に挟まれた峡谷だ。我々は迂回することもできず、敵の軍を正面から突破して進むしかない」

「つまり敵は、真っ向勝負をお望みってわけ、か……」

「そういうことだろう」

クラークが緊張した面持ちで、エドガーに問いかけた。

「敵の数は、どれくらいなんですか?」

「多くはない、せいぜい百五十といったところです」

「百五十、確かに少ないですね。僕たちが、えっと……」

「精鋭ばかり、五百騎を揃えております。数字の上では我々が有利ですが、少々厄介な点が」

「厄介な点?」

「この地形です。この狭い渓谷では、広く面を取って戦うことができません。せっかくの数の利が活かせないのです」

なるほど。こっちの方が多いのなら、取り囲むなり、挟み撃ちにするなりして、有利に戦えそうなもんだが、この谷ではそれができないんだ。

「加えて、こちらは騎兵隊ばかり。弓兵や魔術師が不在なので、遠距離から一網打尽にするわけにもいきません」

「ううむ……そう聞くと、厄介ですね。もしや敵は、それすら計算に入れて?」

「可能性はあるでしょう。これまでに二度、敵は我々の力を測っているわけですしな」

てことはこの待ち伏せは、相当周到に用意されたものってことだ。これまでの突発的な襲撃とはわけが違うと見たほうがよさそうだ。

「で、どうすんだ?」

俺はエドガーに訊ねた。

「戦うのか、引き返すのか。隊長殿のご意見を伺おうか」

「ううむ……」

「数の上ではこっちが有利。でも、敵はそれを承知で待ち構えていたわけだろ。だったら、本隊と合流してからでもいいんじゃないか?」

「……そうだな。今戦うことにメリットは少ない。よし、様子を見ながら後退し、本隊との合流をはか……」

「たっ、隊長殿!」

エドガーが指示を出しかけたまさにそのタイミングで、兵士の一人がドカドカと馬を走らせてきた。そいつは転げ落ちるように馬から下りると、早口でまくし立てた。

「こ、後方より伝令です!我々の後方千キュビットほどの地点にて、新たな魔物の大群が出現しました!」

「なっ、なにぃ!?」

なんだって?俺たちの後ろにも、魔物の群れが?

「おい、それって……」

「ちぃ!挟まれたか!」

なんてこった!俺たちはこの狭い谷の中で、魔王軍に挟み撃ちにされてしまった!きっと後から現れた奴らは、ひっそりと息を潜めていたに違いない。前方の連中がこれ見よがしに陣を敷いていたのも、挟撃を気取られないよう、注意を引くためか?

「で、その数は!」

「おおよそではありますが、前方の敵の二倍ほどかと思われます……」

てことは、約三百か……合わせて四百五十。まだ数ではギリギリ有利だが、挟み撃ちという大ピンチを足せば、その差はあっという間にひっくり返りそうだ。

「……」

「隊長、いかがなされますか……?」

エドガーは握り拳を口元に当て、目をカッと見開いて、地面を凝視している。そのままじりじりと一分ほどが過ぎ、焦れに焦れた兵士が、もう一度エドガーを呼んだ。

「隊長!」

「……総員、戦闘態勢を取れ!これより、魔王軍に突撃する!」

大声の指示を、兵士は上手く呑み込めなかったのか、まぬけな返事をした。

「は……?」

「聞こえなかったのか、このバカチンが!」

ゴチン!と、エドガーのげんこつが飛んだ。

「とっとと剣を抜いて馬に乗るように伝えろ!包囲を突破するのだ!ぐずぐずしていると、お前を突撃の最前列に放り込むぞ!」

兵士は頭のてっぺんを押さえながらも、弾かれたように走り去っていく。その後を置いてけぼりにされた馬が、不貞腐れた様子で追いかけて行った。

「おいエドガー、包囲を突破するって言ったか?」

「そうだ。このままでは、我々は挟み撃ちされて全滅だ」

「なら、後ろのを破って、そのまま本隊に合流するってことか」

「いいや。破るのは、前だ」

「へ?前?」

「前の包囲は百五十。後ろの半分にすぎん。お前、この程度の算術もできんのか?」

「ばっ、できらい!じゃなくて、前を破っても、後ろの敵がそのまま残るじゃないか!結局全部と戦う羽目になるだろ!」

「そうはならん。なぜなら、今度は敵が挟み撃ちされることとなるからな」

「え?あ……本隊か!」

「その通りだ。我々は前方の包囲を破ったのち、谷を抜けた地点に陣を敷く。そこでなら、こちらの数の有利を十分に活かせるだろう。敵が手をこまねくようならそれでいい。本隊が到着次第、私たちと挟撃して一網打尽だ」

お、おおお……確かにそれなら、この窮地を脱出できる。百五十の敵軍を蹴散らしさえすれば、後はひたすら防御に徹すればいいんだ。本隊が来れば数百の魔物くらいどうとでもなるし、俺たちは敵を近づかせなければそれでいいんだから。こちらの方が数が多い以上、そこまで難しい事じゃない。

「エドガー、あんた……ほんとに指揮官だったんだな」

エドガーの二発目のげんこつが飛んできたか、そんなもん喰らうか!俺がひらりと飛び退ると、エドガーは空振りしてヨタヨタとよろけた。

「わかった、それで行こう。で、俺たちは何すればいい?」

「ちぃ、すばしっこい小僧め!……お前たちには、突撃の最前列に回ってもらうぞ。槍の切っ先がなまくらでは、貫けるものも貫けんからな」

エドガーはごほんと咳払いすると、態度を改め、クラークたちに向き直る。

「一、三の勇者様方にも、それをお願いしたい。お二人の力で、敵陣を切り裂いてほしいのです」

クラークは一も二もなくうなずいた。尊もちょっと自信なさげだったが、承知した。

「ありがとうございます。では、さっそく準備をお願いします。敵にこちらの動きを悟られる前に、電光石火で包囲を突破しなければ」

ううぅ、まさに電撃戦だ。いざ本番となったら、ストームスティードの速度を、こっそり落とすことにしようか……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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