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17章 再開の約束
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(ああ……俺は今、夢を見ているんだな)
ふむ。眠っているのに、眠っていると自覚できるなんて。こういうの、なんて言うんだっけ?よく分からないが、ともかく今俺は、夢の中で目を覚ました。……これ、表現としてあっているのかな?
(ここは……シェオル島?)
遠くから波の音が聞こえる。なんとなくシェオル島を思い出したら、本当に周囲が海になった。へえ、なかなか便利なもんだな。何でも思い通りになるぞ。夢って言うのは、たいがい自分の思った通りにならないもんなのに。
「でも、なんでシェオル島にいるんだろ」
俺は周囲を見渡してみた。ここはどうやら、俺たちが泊まった、海の上のコテージのようだ。懐かしいな。ここ過ごした日々は、今でも色褪せない。楽しいことも、驚くことも、たくさんあったから。それに、ここで初めて、俺はフランとウィルの心を知ったんだ。
「桜下さん」「桜下」
へ?背後から同時に名前を呼ばれた。この声、フランとウィルじゃないか。うわさをすればだな。夢にまで出てくるなんて、と思いながら振り返ると……
「おおっ!?」
な、なんだ?確かにそこに、二人はいた。だが、俺の知っている二人じゃない。だって、背中に黒い羽が生えているし、腰元からは細い尻尾が垂れている。それに、その、恰好が……布がほとんどない。服を着ているというより、辛うじて隠れていると言った方がよさそうだ。
「ど、どうしちゃったんだよ、二人とも……フランと、ウィルなんだよな?」
おっかなびっくり、俺は訊ねる。俺の夢とは分かっていても、二人のあられもない姿を見るのは、その……気まずい。
アルルカの五倍くらいキテレツな格好をした二人は、顔を見合わせると、妖艶にくすっと笑った。
「何言ってるんですか?私たちはサキュバスです」
「へ?」
「あなたの精を、いただきにきた」
「な、なにを……」
り、理解が追い付かない。ひょっとして、あれか?昼間、アルアにサキュバスについての話を聞いたから……すっかりうろたえている俺に、二人はじりじりと近づいてくる。これはまずい!と思った次の瞬間には、二人は獲物に襲い掛かる蛇のごとく、ばっと飛び掛かってきた。
「うわっ!」
お、押し倒される!フランの腕は鋼のように堅く、ウィルの胸は水風船のように柔らかい。驚きながらも、俺は正直、まんざらでもなかった。かわいい恋人の夢を見られるなんて、役得だ。普段は恥ずかしくてできないけれど、夢の中でくらい、イチャイチャしたってばちは当たるまい。どれどれ……もう少し、二人の体の感触を味わって……
(あれ?)
ふと、我に返る。なにか、おかしいな。なんだろう……あ、思い出した。ここがあの時のコテージなら、確かこの辺に、海へとつながるハッチがあるはずなんだ。ちょうど、俺の背後辺りにさ……カチャリ。
「え?」
俺がそう考えた途端、本当に背後で、ハッチが開く音がした。あ、ああ!しまった!ここは俺の夢の中、余計なことを考えたら、それが本当に反映されてしまうんだ!
「お、落っこちるぞ!フラン、ウィル、一旦落ち着いて……」
そう言いながら二人の方を見て、俺は夢の中なのに卒倒しそうになった。二人の姿は掻き消え、代わりにヴィーヴルとライカンスロープが、俺を押し倒そうとしているじゃないか!獣臭い、生暖かい息が、俺の顔に掛かる。俺はなすすべもなく、ハッチをくぐって、海へと叩き落とされた。
ダバーン!
「おわあぁ!」
おっ、溺れる!早く陸に……いや、まて。これは確か、夢じゃなかったか?そう気付いた瞬間、海も、島も、二体のモンスターもいなくなっていた。あたりは白く、もしくは黒い。つまり何もない。
「なんだよ、もう……疲れる夢だったな」
どうやら、夢は終わりを迎えたらしい。くそっ、あそこで余計なことを考えなければ、今頃……げふん、げふん。いかんな、二人の淫らな姿を想像した、ばちが当たったのかもしれないぞ。夢の中とは言え、二人に勝手にあれこれするのは、よくなかったかもな。
「さてと……いい加減、夢を見るのも疲れたな。そろそろ起きようぜ、おい」
俺は自分自身に言い聞かせるつもりで、そう口に出した。本当に奇妙な感じだ……こんなわけ分からない夢、もうそろそろいいってば。ここまで意識が覚醒しているのだから、起きようと思えば簡単に起きられるはずだ。にしても、まったく。どんな顔して、二人に会えばいいんだか……
俺が気まずい思いで、目を覚まそうとした、その時だった。
「……ぉ……ぃ……おい!よし、やっと繋がったぞ。おい、おい!私の声が聞こえるか!」
あん?どこからか、聞き慣れない男の声が聞こえてきた。なんだよもう、夢はもういいって。ほら、もう起きる時間だ。
「待て、まだ起きるな!私の声に耳を傾けるんだ!」
おい、うるさいぞ。俺はもう起きるんだって。なんで自分の夢に指図されなきゃならないんだ?
「私はお前の夢じゃない!ああくそ、もう時間がない。いいか、よく聞くんだ!」
「あん?」
なんだこいつ、俺の夢に出てきておきながら、俺の夢じゃないだと?だいたい、俺の脳内の声とナチュラルに会話している時点で、夢以外のなにものでもない。
「あー、ちょっと。もしもし?俺、もう起きたいんだけど?くそ、自分の夢に許可を取るだなんて、変な気分だな……」
「だから、夢じゃないんだと言っているだろう!ええい、そんなことはこの際どうでもいい!これを、よく覚えておくんだ。いいか、これから先、君の前にある男が……」
うーん、なんかごちゃごちゃ言っているけど、さっぱりわけ分からん。それにどっちみち、もうタイムアップだ。眠りにつく直前のように、意識が、夢が、薄らいでいくのを感じる。体が目覚めようとしているんだ。
「悪いな、俺の夢。今度続きを見たら、そん時にゆっくり聞いてやるよ」
「おい、行くな!いいか、あいつは嘘をついている……お前たちを、騙している……あいつの、正体は……」
声が遠のいていく。さあ、もう朝だ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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(ああ……俺は今、夢を見ているんだな)
ふむ。眠っているのに、眠っていると自覚できるなんて。こういうの、なんて言うんだっけ?よく分からないが、ともかく今俺は、夢の中で目を覚ました。……これ、表現としてあっているのかな?
(ここは……シェオル島?)
遠くから波の音が聞こえる。なんとなくシェオル島を思い出したら、本当に周囲が海になった。へえ、なかなか便利なもんだな。何でも思い通りになるぞ。夢って言うのは、たいがい自分の思った通りにならないもんなのに。
「でも、なんでシェオル島にいるんだろ」
俺は周囲を見渡してみた。ここはどうやら、俺たちが泊まった、海の上のコテージのようだ。懐かしいな。ここ過ごした日々は、今でも色褪せない。楽しいことも、驚くことも、たくさんあったから。それに、ここで初めて、俺はフランとウィルの心を知ったんだ。
「桜下さん」「桜下」
へ?背後から同時に名前を呼ばれた。この声、フランとウィルじゃないか。うわさをすればだな。夢にまで出てくるなんて、と思いながら振り返ると……
「おおっ!?」
な、なんだ?確かにそこに、二人はいた。だが、俺の知っている二人じゃない。だって、背中に黒い羽が生えているし、腰元からは細い尻尾が垂れている。それに、その、恰好が……布がほとんどない。服を着ているというより、辛うじて隠れていると言った方がよさそうだ。
「ど、どうしちゃったんだよ、二人とも……フランと、ウィルなんだよな?」
おっかなびっくり、俺は訊ねる。俺の夢とは分かっていても、二人のあられもない姿を見るのは、その……気まずい。
アルルカの五倍くらいキテレツな格好をした二人は、顔を見合わせると、妖艶にくすっと笑った。
「何言ってるんですか?私たちはサキュバスです」
「へ?」
「あなたの精を、いただきにきた」
「な、なにを……」
り、理解が追い付かない。ひょっとして、あれか?昼間、アルアにサキュバスについての話を聞いたから……すっかりうろたえている俺に、二人はじりじりと近づいてくる。これはまずい!と思った次の瞬間には、二人は獲物に襲い掛かる蛇のごとく、ばっと飛び掛かってきた。
「うわっ!」
お、押し倒される!フランの腕は鋼のように堅く、ウィルの胸は水風船のように柔らかい。驚きながらも、俺は正直、まんざらでもなかった。かわいい恋人の夢を見られるなんて、役得だ。普段は恥ずかしくてできないけれど、夢の中でくらい、イチャイチャしたってばちは当たるまい。どれどれ……もう少し、二人の体の感触を味わって……
(あれ?)
ふと、我に返る。なにか、おかしいな。なんだろう……あ、思い出した。ここがあの時のコテージなら、確かこの辺に、海へとつながるハッチがあるはずなんだ。ちょうど、俺の背後辺りにさ……カチャリ。
「え?」
俺がそう考えた途端、本当に背後で、ハッチが開く音がした。あ、ああ!しまった!ここは俺の夢の中、余計なことを考えたら、それが本当に反映されてしまうんだ!
「お、落っこちるぞ!フラン、ウィル、一旦落ち着いて……」
そう言いながら二人の方を見て、俺は夢の中なのに卒倒しそうになった。二人の姿は掻き消え、代わりにヴィーヴルとライカンスロープが、俺を押し倒そうとしているじゃないか!獣臭い、生暖かい息が、俺の顔に掛かる。俺はなすすべもなく、ハッチをくぐって、海へと叩き落とされた。
ダバーン!
「おわあぁ!」
おっ、溺れる!早く陸に……いや、まて。これは確か、夢じゃなかったか?そう気付いた瞬間、海も、島も、二体のモンスターもいなくなっていた。あたりは白く、もしくは黒い。つまり何もない。
「なんだよ、もう……疲れる夢だったな」
どうやら、夢は終わりを迎えたらしい。くそっ、あそこで余計なことを考えなければ、今頃……げふん、げふん。いかんな、二人の淫らな姿を想像した、ばちが当たったのかもしれないぞ。夢の中とは言え、二人に勝手にあれこれするのは、よくなかったかもな。
「さてと……いい加減、夢を見るのも疲れたな。そろそろ起きようぜ、おい」
俺は自分自身に言い聞かせるつもりで、そう口に出した。本当に奇妙な感じだ……こんなわけ分からない夢、もうそろそろいいってば。ここまで意識が覚醒しているのだから、起きようと思えば簡単に起きられるはずだ。にしても、まったく。どんな顔して、二人に会えばいいんだか……
俺が気まずい思いで、目を覚まそうとした、その時だった。
「……ぉ……ぃ……おい!よし、やっと繋がったぞ。おい、おい!私の声が聞こえるか!」
あん?どこからか、聞き慣れない男の声が聞こえてきた。なんだよもう、夢はもういいって。ほら、もう起きる時間だ。
「待て、まだ起きるな!私の声に耳を傾けるんだ!」
おい、うるさいぞ。俺はもう起きるんだって。なんで自分の夢に指図されなきゃならないんだ?
「私はお前の夢じゃない!ああくそ、もう時間がない。いいか、よく聞くんだ!」
「あん?」
なんだこいつ、俺の夢に出てきておきながら、俺の夢じゃないだと?だいたい、俺の脳内の声とナチュラルに会話している時点で、夢以外のなにものでもない。
「あー、ちょっと。もしもし?俺、もう起きたいんだけど?くそ、自分の夢に許可を取るだなんて、変な気分だな……」
「だから、夢じゃないんだと言っているだろう!ええい、そんなことはこの際どうでもいい!これを、よく覚えておくんだ。いいか、これから先、君の前にある男が……」
うーん、なんかごちゃごちゃ言っているけど、さっぱりわけ分からん。それにどっちみち、もうタイムアップだ。眠りにつく直前のように、意識が、夢が、薄らいでいくのを感じる。体が目覚めようとしているんだ。
「悪いな、俺の夢。今度続きを見たら、そん時にゆっくり聞いてやるよ」
「おい、行くな!いいか、あいつは嘘をついている……お前たちを、騙している……あいつの、正体は……」
声が遠のいていく。さあ、もう朝だ。
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