じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
725 / 860
17章 再開の約束

2-1 天然の城壁

しおりを挟む
2-1 天然の城壁

ウィルとフランとの一悶着があった後に、行軍が開始された。二人は相変わらずプンプン怒っていたが(俺が悪いのか?)、道のりを進むうちに、次第にいつも通りに戻っていった。
魔王城への進行は、いよいよ後半に差し掛かったところだ。

『ここは、“黒の荒れ地”と呼ばれる地帯です』

アニはそんな風に、この辺りについて説明してくれた。この道は過去に一度、勇者ファースト、セカンド、サードが率いた連合軍も通ったことがあるという。そん時に開拓されたルートってことだな。

「でもそれなら、もっとマシな道を選んでくれたらよかったのに。こんな岩場じゃなくてさ」

『ここが一番マシだったんですよ。他のルートを通った際には、燃え盛る炎の巨人イフリートが出現したという記録もあります』

「あ、じゃあここでいいや……」

魔王城までのルートは、大きく分けて三つのエリアで構成されている。最初が、“霧の湿地”地帯。俺たちがギガースと戦ったところだな。次が“黒の荒れ地”地帯で、現在地だ。そしてここが、もっとも長いという。で、これから通る最後の地帯が……

『最後の地帯は“花園”です』

「花園?花畑ってことか?ははは、そんなまさかな」

『さて、どうなんでしょう。私も実際に観測したことはありませんから。記録ではそこに魔王の城があるそうです』

じゃあなおさら、違うな。お花畑の中に城があったら、そこは魔王城じゃなくてシンデレラ城だろう。でもじゃあ、花園ってのは何かの隠喩か?例えば、生えているのが花じゃなくてアルラウネだとか……

『ですがその前に、大きな山を一つ越えなければなりません』

「え、山?」

『そうです。この黒の荒れ地の最後に、ひときわ高い山脈がそびえ立っています。そこを越えれば、魔王城は目前だそうです』

うへあ、山か。北の最果て・ミストルティンの町へ行った時のことを思い出す。あの時も大変だった……

(……ミストルティンと言えば、コルトは無事かな)

コルト。俺たちが北の町で出会い、そして魔王軍に攫われてしまった女の子だ。わざわざ攫ったくらいだから、きっと命を害する目的ではない、と信じたい。彼女やロア、それに攫われた大勢を救い出すためにも、山登りくらいで音を上げていちゃいけないな。

(先に進もう。そうしていけば、いずれは到着するんだから)

俺たちは、黒い岩山の間を、長い行列となって進んでいった。



それから三日後。ついに、アニの言った、最後の山が見えてきた。

「たっ……高いな……」

俺と仲間たちは、そろって首を上げて、その山を見上げる。つっても、あまりにも高すぎて、そのまま後ろにひっくり返りそうだ。山の頂は、雲に隠れていて見えない。山頂に近づくにつれて、黒い岩肌が白へと変わっていくのは美しいが、それはふもとにいるから抱ける感想だろう。実際にあの場へ行けば、極寒と豪雪の地獄なはずだ。

「どっかに、抜け道とかはないのかよ?」

ないとは分かっていつつも、ついそんなことを言ってしまう。

『ありません。見てわかる通り、この一帯を横断するように尾根が続いていますから。厳密には、この尾根はぐるりと円形に続いているのです』

「円形?どこがだよ。まっすぐな壁じゃないか」

『それは、あまりにも広大過ぎるからですよ。我々が今見ているのは、引き延ばされた一辺にすぎません。そして、魔王城はその円の中心に建っているのです。避けて通る道はありません』

ううむ……カルデラみたいな地形ってことか。

「ちぇっ、さすが魔王の城だな。天然の城壁に守られてるってわけだ」

『ええ、まあ……そうですね』

うん?妙に歯切れ悪いな。珍しい、アニに限って。しかしまあ、こっからは一苦労になりそうだ。
さて、最後の関門へと差し掛かった連合軍だったが、ここまで来ていまさら、俺は兵士たちの備えに不安を感じ始めていた。
例えば、防寒着。これから、あのはるかな雪山を越えていくってのに、まるで準備らしい準備がないように見える。俺の中の勝手なイメージだと、でっかいリュックサックを担いで、目にはゴーグル、手には杖、足にはスパイク付きの長靴……雪山登山って、そんな感じなんだけどな。

「へえ~。桜下さんのいたところだと、そんなに重装備なんですね」

ストームスティードを歩かせながら、俺がこの話をみんなにすると、ウィルがさも興味深そうに、なんどもうなずいた。

「すごいなぁ。そんなにたくさんの荷物を持って、重くないんですか?」

「そりゃ、重いよ。だけど、少しでも軽くするために、いろんな工夫がされてるんだって。特殊な素材で作られてたり、袋とか箱はあらかじめ捨てておいたりさ」

「うわぁ、そんなことまで。やっぱりそっちの世界の人たちって、頭いいんですね」

うーん?ウィルはどうにも、俺がいた世界のことを、過剰評価している気がするが。

「なら、こっちの世界だとどうなんだ?」

「え、そんなの、決まってるじゃないですか。魔法ですよ、魔法」

「あ、そうか。こっちにはそれがあるもんな」

「ええ。魔法は便利です。でも、今の話を聞くと、一長一短かもしれませんね。その便利さのおかげで、私たちは工夫を凝らすってことをしませんから」

ふぅむ。でも実際、魔法はとても便利なんだよな。現に俺たちも、ライラの呼び出したストームスティードに乗っている。これだけ速くてタフな移動手段があるのなら、それこそ自動車なんかを発明しようとは思わないよな。
そして魔法は、この軍にとっても必要不可欠だ。雪山を越えるために連合軍が用意したのは、大量の防寒具ではなく、熱を生み出す炎属性魔法が使える術者だった。魔法は荷車を圧迫しないから、雪山用の装備を山と積む必要がなくなる。さらに、それら装備よりも高い効果を期待できるんだから、言うことなしだ。

「うーん……俺からしたら、魔法が使える方が、やっぱりすごいと感じるなぁ……」

「そういうものですか?不思議なものですね。隣の芝はなんとやら、ってやつなんでしょうか」

俺たちの技術をすごいと言うウィルと、ウィルたちの魔法がすごいと言う俺。確かに、不思議なもんだ。するとライラが、くるりとこちらに振り返った。

「でもさ、ライラだって、ウィルおねーちゃんって、けっこーすごいと思ってるよ」

「え、え?なんですか、急に……」

「だって最近のおねーちゃん、どんどんうまくなってるもん。前にやったファイアアントなんて、かなりむつかしーまほーなんだから」

「そうだぜ。実際、大したもんだよ」

「えぇ、やだぁ。おだてても何も出ませんよ!」

そう言いつつ、ウィルはにやつくのを抑えられていない。わかりやすいなぁ。

「すると、この先の山では、またウィルの魔法にお世話になるのかな?ほら、この前に使ってた、暖房魔法とか言うやつ」

「ああ、確かにあれが使えるかもしれませんね。なんだったら、今試してみましょうか?」

「え?いや、今は」

しかし、調子に乗ったウィルは、俺の言葉を聞いていなかった。ロッドを掲げて、高らかに唱える。

「ヒートアナナス!」

ふわぁー。ロッドの先から、ドライヤーを吹き付けたような温風が出て、俺たちを包み込んだ。うん、すごい。これが極寒の雪山なら、ウィルを聖母とあがめていたかも。けど、思い出して欲しい。ここはまだ、太陽がぎらつく荒れ地なのだ。

「あああ、暑ーい!」

「やああぁ!おねーちゃん、ライラたちを蒸し焼きにしたいの!」

「ああっ、ごめんなさい!すっかり忘れてました!」

ウィルは慌てて魔法を止めて、俺とライラを手で扇いだ。だがそんなんじゃ足りないと見るや、気が動転したウィルは、ローブの裾を掴んでばっさばっさとやり始めた。ばっ、思いっきり見ちゃったじゃないか……白か……

「すみませんでした、ここは暑いんでしたよね。幽霊になると、どうにも気温というものに疎くなってしまって……」

「ご、ごほん。まぁ、ウィルの魔法のすごさは、よくわかったよ。この身で味わったから」

「面目次第もありません……」

「……あなたたち、何しているんですか?」

ん?大騒ぎしているところに、そう声をかけて、馬を寄せてきたのは……

「アルア?」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...