じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

2-2

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2-2

一の国出身の、傭兵の少女アルアが、馬上で戸惑った顔をしていた。

「みなさん、なんだか大騒ぎをしていましたが」

「あ、ごめん。うるさかったか」

「あっ、すみません。そういうわけではないのですが、気になってしまって」

アルアは慌てた様子で、手をわたわたさせた。俺の前で、こういう歳相応の仕草を見せるようになったのは、つい最近のことだ。

「いやまあ、この先のこととか、ちょっと話してたんだよ。ほら、あの山を越えていくんだって?」

「ええ、そのようですね。あんなに高い山は、私も久々です」

「へぇ、アルア、山登りとかするのか?それも傭兵の仕事で?」

「あ、いえ。前に、母に連れられて一度だけ……」

おっと、母だって?アルアの母さんは、あのおっかないプリメラだ。てことはたぶん、いい思い出じゃないんだろうな……

「みなさんは、山越えは不安ですか?」

「ん?いや、そうでもないかな。うちにはほら、優秀な魔術師がいるから」

俺がそう言うと、ライラは偉そうにふんぞり返り、ウィルは恥ずかしそうにぽっと頬を染めた。アルアがうなずく。

「そうでしたね。この連合軍にも、三の国の優秀な魔術師が多数同行しています。大丈夫、きっとうまくいくでしょう」

「ははは、そうなるように祈るよ」

励ましてくれたのか?本当に、前とはえらい変わりようだ……と。俺はふと気になって、訊ねてみた。

「なあ、アルア。訊いてもいいか?」

「はい?なんでしょう」

「前さ、うちのエラゼムと、なんかあったんだよな?それって何か、訊いてもいいかな」

アルアはゆっくりとまばたきすると、顔を前に向けた。
以前アルアと旅をした時、二人はたぶん、何かについての話をしていたらしい。俺はその時寝ていたから、詳しく知らないんだけどな。でもそれ以降、アルアはちょくちょくエラゼムを気にするようになった。なかなか聞く機会がなかったけれど、今ならちょうどいいだろ。

「……あの騎士様には、私の目標についての、話をさせていただきました」

「お前の目標……って、あれだよな」

「はい。魔王の討伐、です」

そんなことを話したのか……かなりの難題だが、エラゼムはなんと答えたんだろう?

「あの方は……私と、自分とが似ていると言いました」

「エラゼムと、アルアが?」

「はい。意外でしょう?私もそうでした」

「まあ……似てるとこよりは、似てないところの方が多い、かな」

大柄で渋みのあるエラゼムと、線の細さが目立つアルア。エラゼムはどこに共通点を見出したんだ?

「彼は、私のことを、燃え盛る松明のようだと言いました」

「松明?」

「ええ。自らを燃やし、周囲を燃やし、そうして最後には燃え尽きる。彼自身がそうだったから、よく分かると」

エラゼム自身が……?俺は、彼の一生を思い出した。城に仕え、城主が去り、そして裏切りが起こって……

「そうか……あいつは、自分のことを、復讐に狂ったやつだって言ったんだな」

「はい、そうです。復讐という炎に身を焦がした者の、末路だ、と」

なるほど、な。俺たちと出会うまで、エラゼムは復讐に駆られる怨霊だった。過去に囚われ続け、惨劇の夜を繰り返し続けるだけの……

「それで、エラゼムはその後、なんて?」

「私に、警告をしました。自ら兜を外し、その中身を見せることで」

「……見たのか、あれを。こう言うのはあれだけど、よく平気でいられたな。いや、俺たちだって、最初はかなりビビったんだぜ」

「さすがに、平気ではありませんでしたよ。むしろ、とても恐ろしく、おぞましかった……すみません、こんな」

「いや、いいよ。言ったろ、俺たちもそうだった。なかなか、衝撃強いよな」

「ええ。でもだからこそ、忘れられずにいます。復讐に憑りつかれた人間の、あれが末路だと言うのなら……私は……」

アルアはぎりっと歯を食いしばると、遠くを見つめた。

「……アルアはさ。将来、何になりたいんだ?」

俺がそう問いかけると、アルアは目をぱちくりさせて、こちらを見た。

「はい?」

「だって、そういう事じゃないのか?エラゼムが言ったことって。たぶんあいつは、復讐をやめろだなんて、言わなかっただろ」

「え、ええ、そうです、よく分かりましたね」

アルアは感心した顔をしたが、こんなのすぐに分かるさ。だってエラゼムは、自分を燃え尽きた松明だって言ったんだろ?真面目な彼は、自分が辿ってきた足跡を棚に上げて、誰かを批判することはしないはずだ。

「騎士様にも、同じように言われました。魔王を倒し、私の目標を達成した後のことが肝心だと」

「そっか。それで、なんて?」

「……答え、られませんでした」

なに?アルアはうなだれ、自分の馬のたてがみを撫でた。

「分からなかったんです。だって、そうでしょう?できるかも分からない目標の、その先のことを考えるなんて……辛すぎます」

「アルア……」

魔王を倒す……字面だけなら、どこまでも王道で、どこまでもシンプルな目標。だけどいざ真っ向から向かい合ってみると、それのなんと難しいことか。それを、この少女が、たった一人でなんてな……

「……なにか、俺たちに手伝えることがあればいいけど」

「え?あはは……」

アルアは一瞬戸惑った表情を浮かべると、乾いた笑いを溢した。

「あなた、どこまでお人好しなんですか。私の手伝いだなんて……」

「う、うるさいな。さすがに、見過ごせないだろ……」

「ふふふ……お気持ちは嬉しいですが、結構です。私個人の私情で、軍全体を危険に晒すことはできません」

「ん……軍、全体?ずいぶん大きな話になったな?」

「そうでしょう?もしあなたたちが私に協力してくれるとして、どうしますか?」

「どうって……あんたがうまく戦えるように、サポートするとか」

「そうです。それが、問題です。……一流の選手の中に、素人の子どもが混じっていたら、試合にならないでしょう?」

俺は目を丸くした。軍を選手に、アルアを子どもに当てはめれば、隠喩の意味は、簡単に理解できた。

「でも、それは……」

「私だって、自分の実力くらい、分かっているつもりです。私に足並みを合わせることで、あなたたちの力が発揮されない事態など、絶対に起こしてはいけません。だから……」

そこまで言うと、アルアは口をつぐんだ。そしてそのまま、馬を歩かせて、俺たちから離れて行ってしまった……

「あっちゃ~……いらんこと聞いちまったかぁ」

小さくなったアルアの背中を見ながら、俺は首の後ろをかいた。

「桜下、なんで桜下があちゃーって顔してるの?」

ライラがこちらを振り返った。どことなく、納得いかないような顔をしている。

「あいつが、勝手に話を終わらせたんでしょ?なんなの、あいつ!」

「ライラ、アルアはむしろ、俺たちに気を遣ってくれたんだ」

「ええ?あれで……」

「それにほら、俺があいつの、なんてーか、あんまり触れてほしくないところを突っついちゃったんだ。俺が悪いんだ、あんまりそういうこと言うなって」

「でも……!桜下は、あいつを助けてあげようとしたんじゃん。あいつが弱っちいのは、あいつのせいでしょ?」

「いろいろ難しいんだよ、アルアの場合は特に……」

「むー!なんでそんなに、あいつの肩ばっかり持つの!」

ええ?俺がうまく説明できないでいると、ウィルがふわりと、俺たちの隣に並んだ。

「ライラさん、気持ちは分かりますけど、その辺にしときましょう」

「おねーちゃん……」

「ほんとに、気持ちは分かるんですよ?桜下さんの誰にも優しいところはステキですけど、時々見境なさ過ぎてイラっとしますよね」

えっ、なんで俺がここで刺されるんだ!?

「とまあ、冗談はさておき……ほんとうに、彼女の問題は複雑ですね」

ウィルは腰に手を当てると、ふうとため息をついた。

「分不相応な大役を押し付けられて、それでも逃げることはできず、向き合い続けるしかない……いっそ、玉砕して楽になろうとしているじゃないかって、時々思うくらいですよ」

冗談にしてはかなりどぎついが、俺はウィルを嗜めることも、ましてや笑うこともできなかった。

「せめてもう少し、アルアが不真面目なやつだったらよかったんだがな」

「真面目過ぎるのも問題ですね。それで身を滅ぼすのでは……でも、桜下さん。さっきの話、優しすぎるのだって、それはそれでよくないですよ?」

「え?冗談じゃなかったのか?」

「八割くらいはそうです。でも、一番大事なことを忘れてないですよね?」

「え?ああ、そりゃもちろん。一番はウィルたちだ。だろ?」

さすがにそこを間違えるほど、俺も馬鹿じゃないぞ。どうだ、ウィルもきっと納得して……と思ったのに、ウィルはあんぐり口を開けると、ぼぼんと湯気が立ち昇りそうなほど、一瞬で顔を赤くした。

「なーんでそうなるんですか!一番はあなた自身だって、何度も言ってるじゃないですか!」

「え?俺?」

「そうですよ!他人より自分を大事にしてください!」

「え、で、でもウィルは他人じゃ」

「他人です!仲間で恋人ですけど、自と他なら間違いなく他人ですって!あなたがやられたら元も子もないんですから、自分を一番に考えてって言ってるんです!」

「お、おう……」

ウィルの言っていることは、分かる。分かるが……俺は腕組してじっくり咀嚼した後、やっぱりこう吐き出した。

「……でもやっぱり、みんなのこと、他人だとは思いたくないよ。だってウィル、俺たち、家族じゃないか」

「………………」

ウィルは水に浸かるように、ずぶずぶと地面に埋まって見えなくなってしまった。お、怒らせてしまったか?すると背後で、大きなため息が聞こえた。

「はぁー……ダーリン、気にしないでいいよ。照れてるだけだから」

「え、あ、そうなのか、ロウラン?」

「そうだよ……もうなんだか、一年間分のお砂糖を突っ込まれた気分なの」

は、はあ……?



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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