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17章 再開の約束
3-1 魔王の城
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3-1 魔王の城
ついに、山頂に辿り着いた!
長く険しい登山の果てに、俺たちはとうとう、高い高い尾根のてっぺんを踏みしめた。
「うわ……すごいところだな……」
俺は背後を振り返り、頂上からの景色を一望する。黒くギザギザした岩山が、足下いっぱいに広がっている。それらがずーっと続くと、その先は紫色のかすみで見えなくなってしまう。ひょっとして、あそこが湿地帯か?そのまた先はもうほとんど見えないが、辛うじて、フィドラーズグリーン戦線の山脈が、うっすら青い線となって垣間見えた。
「すごいね」
フランが俺の隣にならんだ。彼女の銀色の髪が、山に吹く風に緩くなびいている。フランに背負われたライラが、その隙間から目の前に広がる景色を覗いていた。
「わたしたちが通って来た道が、全部見えるなんて」
「ああ、ほんとうに。こうしてみると、ここまで来たかって実感湧くよな。まあ見えるっつっても、ほとんどかすみくらいしか分かんないんだけどさ」
「え?」
「え?」
え、ってまさかフラン、見えるのか……?何百キロ離れていると思っているんだよ……?
「そうだ、見えると言えば……」
フランは振り返って、上を見上げた。何かあるのか?俺も同じ方を見てみたが、薄い水色の空が広がっているだけだ。
「……見間違い、か。ごめん、何でもない」
んん、なんだろう?フランの目には、なにかが見えたのだろうか?
さて。登ったからには当然、その分下りなきゃいけない。ひえー、ここまで来るだけでも大変だったのに、同じ分だけ下らないといけないなんて。登山は下りの方が危険だって、前にエラゼムも言っていたぜ?
すると、ちりんとアニが揺れた。
『ご安心ください、主様。下りは、上りより短いはずです』
「え、どうして?」
『前に、この山は巨大な円を描いていると言いましたよね。このような地形を、主様たちは、カルデラと呼ぶのではないですか?』
「ああ、うん。聞いた事あるよ」
『ここも同じなのです。円の内側は、ふもとより盛り上がっていますからね』
「ああ、なるほど。それを聞いて、少しは気が楽になったな」
だがそれでも、雪山の下山は易しいものではなかった。雪で足が取られやすいし、雪崩やクレバスにも注意が必要だ。途中、隊のすぐわきの斜面が崩れ、巨大な雪崩が発生する事件もあった。白い波が次々に周りの雪を巻き込んでいき、眼下の景色はあっという間に雪煙に包まれて見えなくなってしまった。もしあの中にいたら、ひとたまりもないだろう……
「ある意味では、ゾッとするほど美しい光景ですね……」
真っ白に染まる眼下を見つめて、ウィルが溢した。確かに、自然の驚異という意味では、畏怖のような魅力がある。極限まで鋭さを求めた刀が、芸術品と評されるように。
「これじゃ魔王なんかより、自然の方がよっぽど恐ろしいな……」
足を止めて雪崩が収まるのを待ちながら、地響きの中で呟くと、ロウランがこちらを見た。
「魔物も、人も、昔は自然の一部だったの」
「へ?」
なんだ、いきなり?ロウランは、視線を遠くの山々へと向ける。
「アタシのいた国に伝わる、昔話なんだ。ダーリンの言葉を聞いたら、思い出したの。太古の昔は、人は自然の一部だったって。動物も、人も、モンスターも、みんな一緒の存在だったって。みんな等しく、自然に生きる、自然の一部」
人も、モンスターも……面白い世界感だな。人間もモンスターも、大まかに見れば動物になると思うのに、そこをあえて分けて考えるわけか。俺は黙って続きを待つ。
「けどある時、世界は三つに分かれた。最初に分かれたのは、人間だったの。人間は自然を利用し、自分たちだけが豊かになろうとした。自然の一部の人間じゃなく、人間の一部に自然を取り込もうとしたの。それに抗うために、魔物が分かれた。魔物は自然を守るために、自然から離れた。最後に残った動物たちだけが、原初の姿をとどめ続けているの」
「原初の姿、か。なら、人間と魔物は、別の存在になっちまったわけか?」
「そう。自然から離れたせいで、人間と魔物は、自然の祝福を永遠に失ってしまった」
「自然の、祝福?」
どういう意味だろう?自然の恵みなら、誰であっても等しく恩恵にあやかっているはず。大自然の猛威もまた、万物に平等だろう。
「んーと、祝福を失ったよりも、呪いを与えられた、と言ったほうが分かりやすいかも」
「の、呪いか。物騒になってきたな。で、その呪いの効果のほどは?」
「うん。自然の呪いを受けたことで、その時から人間と魔物は、アンデッドになってしまうようになったの」
「へ……?」
アンデッドになることが、呪い?
「ダーリンはさ、鳥や馬やねずみや鹿、そういう動物のアンデッドって、見たことある?」
「え?ちょっと待てよ……いや……ない、な。確かに、一度もない!」
「そうでしょ?アンデッドになるのは、人間と魔物だけなの。自然の中で生き、自然の中で死ねるのは、動物だけなんだ」
確かに……!野に生きる動物たちは、いちいち墓を掘って、骨をうずめたりなんかしない。それなのに、そこら中が動物のゾンビで埋め尽くされることはない。だけど人間は、墓に葬られないと、ゾンビとなってしまう……
「それが、呪い……」
「だからこそ、自然は人に牙を剥くのかもね。だからこそ、人は自然を恐ろしく感じるのかもしれないの……」
ロウランの語り口調は、まるで永くを生きた仙人のようだ。それが余計に、悲壮感を際立たせる。
「そんな……それじゃあ俺たち人間は、自然に恨まれてるってことか……?」
この山も、空も、水も光も何もかも、俺たちの敵だって言うのか……?俺たち人間は、どうやっても、自然と調和することができない生き物なのだろうか?
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ついに、山頂に辿り着いた!
長く険しい登山の果てに、俺たちはとうとう、高い高い尾根のてっぺんを踏みしめた。
「うわ……すごいところだな……」
俺は背後を振り返り、頂上からの景色を一望する。黒くギザギザした岩山が、足下いっぱいに広がっている。それらがずーっと続くと、その先は紫色のかすみで見えなくなってしまう。ひょっとして、あそこが湿地帯か?そのまた先はもうほとんど見えないが、辛うじて、フィドラーズグリーン戦線の山脈が、うっすら青い線となって垣間見えた。
「すごいね」
フランが俺の隣にならんだ。彼女の銀色の髪が、山に吹く風に緩くなびいている。フランに背負われたライラが、その隙間から目の前に広がる景色を覗いていた。
「わたしたちが通って来た道が、全部見えるなんて」
「ああ、ほんとうに。こうしてみると、ここまで来たかって実感湧くよな。まあ見えるっつっても、ほとんどかすみくらいしか分かんないんだけどさ」
「え?」
「え?」
え、ってまさかフラン、見えるのか……?何百キロ離れていると思っているんだよ……?
「そうだ、見えると言えば……」
フランは振り返って、上を見上げた。何かあるのか?俺も同じ方を見てみたが、薄い水色の空が広がっているだけだ。
「……見間違い、か。ごめん、何でもない」
んん、なんだろう?フランの目には、なにかが見えたのだろうか?
さて。登ったからには当然、その分下りなきゃいけない。ひえー、ここまで来るだけでも大変だったのに、同じ分だけ下らないといけないなんて。登山は下りの方が危険だって、前にエラゼムも言っていたぜ?
すると、ちりんとアニが揺れた。
『ご安心ください、主様。下りは、上りより短いはずです』
「え、どうして?」
『前に、この山は巨大な円を描いていると言いましたよね。このような地形を、主様たちは、カルデラと呼ぶのではないですか?』
「ああ、うん。聞いた事あるよ」
『ここも同じなのです。円の内側は、ふもとより盛り上がっていますからね』
「ああ、なるほど。それを聞いて、少しは気が楽になったな」
だがそれでも、雪山の下山は易しいものではなかった。雪で足が取られやすいし、雪崩やクレバスにも注意が必要だ。途中、隊のすぐわきの斜面が崩れ、巨大な雪崩が発生する事件もあった。白い波が次々に周りの雪を巻き込んでいき、眼下の景色はあっという間に雪煙に包まれて見えなくなってしまった。もしあの中にいたら、ひとたまりもないだろう……
「ある意味では、ゾッとするほど美しい光景ですね……」
真っ白に染まる眼下を見つめて、ウィルが溢した。確かに、自然の驚異という意味では、畏怖のような魅力がある。極限まで鋭さを求めた刀が、芸術品と評されるように。
「これじゃ魔王なんかより、自然の方がよっぽど恐ろしいな……」
足を止めて雪崩が収まるのを待ちながら、地響きの中で呟くと、ロウランがこちらを見た。
「魔物も、人も、昔は自然の一部だったの」
「へ?」
なんだ、いきなり?ロウランは、視線を遠くの山々へと向ける。
「アタシのいた国に伝わる、昔話なんだ。ダーリンの言葉を聞いたら、思い出したの。太古の昔は、人は自然の一部だったって。動物も、人も、モンスターも、みんな一緒の存在だったって。みんな等しく、自然に生きる、自然の一部」
人も、モンスターも……面白い世界感だな。人間もモンスターも、大まかに見れば動物になると思うのに、そこをあえて分けて考えるわけか。俺は黙って続きを待つ。
「けどある時、世界は三つに分かれた。最初に分かれたのは、人間だったの。人間は自然を利用し、自分たちだけが豊かになろうとした。自然の一部の人間じゃなく、人間の一部に自然を取り込もうとしたの。それに抗うために、魔物が分かれた。魔物は自然を守るために、自然から離れた。最後に残った動物たちだけが、原初の姿をとどめ続けているの」
「原初の姿、か。なら、人間と魔物は、別の存在になっちまったわけか?」
「そう。自然から離れたせいで、人間と魔物は、自然の祝福を永遠に失ってしまった」
「自然の、祝福?」
どういう意味だろう?自然の恵みなら、誰であっても等しく恩恵にあやかっているはず。大自然の猛威もまた、万物に平等だろう。
「んーと、祝福を失ったよりも、呪いを与えられた、と言ったほうが分かりやすいかも」
「の、呪いか。物騒になってきたな。で、その呪いの効果のほどは?」
「うん。自然の呪いを受けたことで、その時から人間と魔物は、アンデッドになってしまうようになったの」
「へ……?」
アンデッドになることが、呪い?
「ダーリンはさ、鳥や馬やねずみや鹿、そういう動物のアンデッドって、見たことある?」
「え?ちょっと待てよ……いや……ない、な。確かに、一度もない!」
「そうでしょ?アンデッドになるのは、人間と魔物だけなの。自然の中で生き、自然の中で死ねるのは、動物だけなんだ」
確かに……!野に生きる動物たちは、いちいち墓を掘って、骨をうずめたりなんかしない。それなのに、そこら中が動物のゾンビで埋め尽くされることはない。だけど人間は、墓に葬られないと、ゾンビとなってしまう……
「それが、呪い……」
「だからこそ、自然は人に牙を剥くのかもね。だからこそ、人は自然を恐ろしく感じるのかもしれないの……」
ロウランの語り口調は、まるで永くを生きた仙人のようだ。それが余計に、悲壮感を際立たせる。
「そんな……それじゃあ俺たち人間は、自然に恨まれてるってことか……?」
この山も、空も、水も光も何もかも、俺たちの敵だって言うのか……?俺たち人間は、どうやっても、自然と調和することができない生き物なのだろうか?
つづく
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読了ありがとうございました。
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