じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

4-1 三幹部と三勇者

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4-1 三幹部と三勇者

「かつて魔王軍には、通称三幹部と呼ばれる、三体の強力な魔物がいた」

アドリアの語りは、そんな出だしから始まった。

「そのうちの一体は、ロードデーモン。“奈落のデモン”とも呼ばれた、大型の悪魔で、三幹部の中でも最も強大なモンスターだった」

「奈落の、デモン、か……」

「その魔人が腕を一振りするだけで、百人の兵士が薙ぎ払われたという。そして魔法の一撃で、千人の兵士を消炭にしてしまったそうだ」

なんだそれ……もう、そいつが魔王みたいなもんじゃないか。

「二体目は、“炎の巨人”イフリート。全身が紅蓮の炎で包まれた巨人で、その大きさたるや、空が燃えているように見えたほどだ」

巨人か……この前のギガースも大きかった。さらにその前のダイダラボッチは、凄まじい巨体だった。あれよりも、もっと大きいのだろうか?

「だがイフリートには、明確な弱点もあった。奴は強大であったが、愚鈍だったんだ。かの巨人を前に、連合軍と勇者たちはとっさの判断で、一芝居打って見せ、見事に危機を回避したのだが……その話をし出すと、ちと長くなりすぎるな。またの機会にするとしよう」

なんだ、残念だな。そっちも面白そうだったのに……

「そして最後が、“太古の巨竜”……ムシュフシュと呼ばれる、ドラゴンだ」

「どっ、ドラゴン!?」

「そうだ。驚くべきことに、先の大戦では、竜も参加していたのだ。ふむ、ちょうどいい。では、そのあたりから語り始めようか。伝説の勇者たち、サード、セカンド、そしてファーストの武勇伝を……」



空は、血のような赤色に染まっていた。西の空は煮えたぎるような茜色、東の空は夜がすそ野を広げ、紫色がじわじわと滲みつつある。異様な赤さは、見る人にこう思わせた。
ここは、地獄の空だと。

「ついに、ここまで来おったか。愚かな人間どもよ」

その声は、天から轟くようだった。ふいに、空が暗くなる。もう夜が訪れたのか?否、そうではない。やがて、激しく振り下ろされる翼の音が聞こえてきた。連合軍の兵士たちは、息が詰まり、声も上げられない。やがてそれは、彼らの頭上まで迫った。

「どっ……ドラゴン……」

辛うじて、兵士の一人がそうつぶやいた。
空を覆い隠すように、巨大な翼を広げたドラゴンが、連合軍を見下ろしていた。真っ赤な空を背に飛ぶドラゴンの姿は、禍々しさと神々しさを兼ね備えた姿に見えたという。

「やれやれ……あの燃えるしか能のないデカブツは、結局役に立たんだか。まあだがよい。おかげでこうして、我自ら傲慢な虫けら共を潰す機会を得たのだから」

そう言ってドラゴンは、口から地鳴りのような音を発した。それが笑い声だと理解できたのは、連合軍の中でも一握りのみだった。その数少ないうちの一人が、大声で叫ぶ。

「傲慢なのは貴様の方だ、竜よ!」

ドラゴンは声のした方へ、煩わし気に首を向けた。そこに立っていたのは、黒い髪の、立派な体格の男だった。

「ほう……お前が、勇者とかいう人間か?」

「いかにもそうだ。私は勇者ファースト。あらかじめ言っておくが、私を簡単に踏みつぶせると思っているのなら、それは大きな過ちというものだ」

ファーストはそう叫ぶと、空色の剣を抜き、それを雄々しく突き上げた。

「私たちは、お前を倒し、そして魔王を倒す!」

勇者の頼もしい後姿は、兵士たちの胸にも勇気を灯した。次々と、彼に賛同する声が上がる。それを見たドラゴンは、つまらなそうに鼻から息を吹き出した。

「つくづく愚かな連中よ。お前、ファーストとか言ったか?我が、お前たちを簡単に踏みつぶせると思っているとか言っていたが、断じてそんなことはない」

「なんだと?」

ファーストはぴくりと眉を持ち上げる。それはつまり、ファーストたちの強さを認めている、という事だろうか?だが、それは違った。ドラゴンは、牙を向き出して、残忍な笑みを浮かべた。よく見るとその牙は、一本欠けている。

「簡単になど、殺すものか。お前たちのことは、じっくりといたぶり、骨の髄まで噛み砕いてやるつもりだ」

ざわ……あたりが、にわかにざわめく。何かが、ひたひたと這い寄ってくる。やがて見えてきたそれは、トカゲの化石のような姿をした、奇妙な魔物だ。

「我が牙から生み出された、竜牙兵たちだ。こやつらは我の憎しみ、我の恨みから産み落とされたも同然。貴様らに対しては、その思いを存分にぶつけることだろう」

竜牙兵スパルトイが、骨を軋ませながら、ゆっくりと行進を始めた。連合軍を取り囲むように、じりじりと間を詰めてくる。

「くっ!罠か!」

「罠?貴様たちの方から飛び込んできておいて、どこが罠か。初めからここは、お前たちのような、愚劣な存在が許される場所ではないだけのこと」

「黙れ、化け物め!私たちは、お前のような怪物の奴隷ではない!正当な権利として、どこにだって行けるんだ!筋違いな恨みを建て前に、小賢しい自己弁護を展開するな!」

「虫けらふぜいが、まだ言うか!」

ドラゴンは怒りが頂点に達したのか、口からシューシューと汽車のような音を出した。

「お前たちが我が同胞にしたことを、忘れたとは言わせんぞ!あのような卑劣な策を思いつくとは、げに浅ましき人の業よ」

「卑劣なのはどちらか!お前たちこそ、七頭の竜を放っただろう!戦争に関係のない、私たちの大陸に向かって!」



「ちちち、ちょーっと待ってくれ!七頭の竜だって!?」

悪いとは思いつつも、俺は口を挟まずにはいられなかった。七頭の竜と言われて、真っ先に思いつくのは、七つの魔境のことだ。

「それ、本当なんだよな?」

「ん?ああ、そうだとも」

話の腰を折られ、アドリアは一瞬眉をひそめたが、すぐに自信ありげな様子でうなずいた。

「前にも言ったが、この話は、私の父が実際に見聞きしたことだ。実際、戦争終盤にドラゴンが飛来したのを見たという兵士にも会ったことがある」

「やっぱり、本当だったんだな……じゃあ、そこで竜は全部、倒された?」

「その通り。勇者たちが快進撃を重ね、いよいよ魔王城へ乗り込もうというタイミングでのことだったそうだ。突如として竜が飛び去り、人間の大陸を攻撃し始めた。連合軍は進撃を中断し、とんぼ返りをせざるを得なかった」

「それが狙いだった、ってことか……」

「そうともとれる。中には、連合軍の家族や故郷を襲うことで、気勢を削ごうとしたという意見もあったが……いずれにせよ、真意は不明だ。しかし、前線で戦う兵士を無視して、後方の民間人を狙うというのは、卑劣であると私も思う」

「ファーストもそう思ってたんだな……それ、被害は?」

「幸い、大したことはなかったそうだ。竜は大きな町ではなく、人里離れた場所に飛来した。魔物からしたら、我々人間の営みが理解できなかったのだろう。そして大きな被害を与える前に、勇者たちによって討伐されたからな」

ドラゴンを、それも七頭もの数を、あっさりと片付けてしまうなんて……当時の勇者は、本物の勇者だな。すると、話を聞いていたミカエルが、少し青ざめた顔で訊ねた。

「あの……私、そんな話は初めて聞きました。どうして、七頭もの竜が襲撃した事件が、後世に伝わっていないのでしょうか?」

「うむ、そこが不思議なのだ。この話はそれこそ、三十三年戦争の生き残りぐらいしか知らん。なぜかどの記録にも、書物にも書かれていない……が、予想はできる」

「予想、ですか?」

「なに、簡単だ。当時のゴタゴタを考えてみろ。連合軍は行ったり来たり、竜と戦ったと思えば次は魔王だ。そしてようやく勝利したかと思えば、セカンドの裏切り、魔王の復活。とても記録をしたためるどころじゃなかっただろう」

うーん、確かにそうかもしれないが……七つの魔境のことは、二の国でも知られていなかった。こんな大事件を、三つの国全てが揃って忘れるなんて、ちょっと違和感があるけどな。

「さて……わき道にそれたが、続きを話しても?」

「あ、悪い。続けてくれ」

アドリアはうなずくと、続きを語り始めた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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