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17章 再開の約束
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「きゃああああ……」
ウィルの悲鳴が聞こえる。ちょっと怖いかな?でも大丈夫、絶対に落っことしたりしないから!
(お、桜下。これって、風のまほー?)
耳元から、ライラの度肝を抜かれた声が聞こえてきた。
「そうだよ。ヴィントネルケのまほーを、うーんと広範囲に拡大して使ってるんだ」
ボクたちは今、空へと落っこちている。ボクの風の魔法で、みんなを押し上げているんだ。
(すごい……やっぱり、桜下はすごいよ!)
「ライラ、それは違うってば。これは、ボクとライラ、二人の力だって」
(でも……でも!ライラ、こんなにたくさんに、同時にまほーを使うなんてできない……)
「ううん。この力は、ライラの中に眠ってる力なんだ。ボクが先に借りてしまったけれど、これは本来、キミの中にあるものなんだよ」
(ライラの、中に……?)
そうさ。キミは、まだまだ成長できるんだ。ボクの胸の中、魂の中に、とても強い光を感じる。なんて美しく、暖かい光なんだろう!
「最高だよ、ライラ!この力は、才能なんかじゃない!キミの願いの結晶なんだ!」
ボクらはぐんぐん飛んで行き、さっき落とされた場所を越え、そしてついに……魔王の城・ヘルズニル。その前へと到着した。
「よ……っと。とうちゃーく!戻ってこれたね」
城の前にみんなを下ろす。固い地面に足が触れると、ほとんどの人は崩れ落ちるように膝をついた。すごい人は、地面に頬ずりまでしてる。痛そう……
「……驚いたな。こんな力を持つ奴がいるなんて、聞いてないが?」
む。この声!さっきも聞いた、皮肉っぽい声。
城門の前に、背の高い男が立っている。頭は鳥の頭蓋骨そっくりなので、男かどうかは声で判断するしかないけど。ていうかコイツ、人間じゃあないな。
(桜下。こいつ、さっきライラたちを落っことした奴だよ……!)
うん、分かってる。ボクだって、二度も同じ目に遭うつもりはないさ。慎重に行こう。
「おにーさん、一体何者なの?いきなり不意打ちするなんて、びっくりしちゃったよ」
ボクは、なるべく気楽に話しかけた。敵の正体が分からない以上、いきなりぶちかますのもどうかと思ったんだ。狙い通り、敵も砕けた調子で返事を返してきた。
「おおそうか。そいつは悪かったな、お嬢ちゃん。驚かせるつもりはなかったんだぜ。てっきり全員くたばってくれると思ってたからよ」
「ぷぷぷ、ざんねんでーした!ボクたち、ちゃーんと生きてるもんね!」
「カッカッカ。一本取られたな、こりゃ」
ボクが愛想よくにっこり笑うと、鳥骨頭は、のけ反りながら震えた。笑っているってことなんだろう。
(お、桜下!敵と仲良くしてどーするの!)
「ライラ、そうじゃない」
(え?)
ボクは敵に聞こえないように、ほとんど唇を動かさずにささやく。
「感じないかい?奴の気配。おぞましくって、吐き気がしそうだよ」
(……!)
そう。表面上は和やかだけど、あの男からは、邪悪な気配が毒煙のように滲みだしている。少しでも隙を見せたら、毒牙が一瞬で、ボクの首を貫く……!ボクは背中の冷や汗を無視して、あくまで子どものように続ける。
「ねえねえ。それより、あの橋さ、壊しちゃってよかったの?ボク、魔王軍にとっても大事な橋だって聞いてたよ」
「だった、が正解だな。橋をぶっ壊してもいいっつったのは、魔王様自身だ」
「ふーん……急に考えが変わった、ってことかな」
ホントかな?まあでも、橋一つと引き換えに敵を一網打尽にできるなら、そう悪くないって思っても、無理ないかも。
「でも、なおさら残念だねぇ。ボクらはこうして、お城に到着したんだからさ。無駄になっちゃったね?」
「あー。そうだな。ちと面倒なことになった」
鳥骨頭の男は、ガリガリと頭をかいた。皮膚なんかないように見えるけど、感覚があるのかな?
「どうにかして、このツケは払わねぇといけないな」
「うーん、でもそれ、おにーさんがやること?だってこれ、魔王が考えた作戦なんでしょ?だったら、責任はそいつにあるじゃん。マヌケな作戦考えた上が……」
その瞬間。ビリビリビリッ!空気が、にわかに震えた。耳元でライラが、小さく悲鳴を上げる。
「黙れ」
あ。しまったなぁ、ボクとしたことが……
「魔王様を侮辱することは、誰であろうと許さねえ」
鳥骨頭は、もうその殺気を隠そうともしていなかった。剥き出しの殺意が、ボクの肌をチクチクと刺す。
「……これじゃもう、交渉の余地はないね」
(お、桜下!)
「うん。どうやら、やるしかないみたいだよ」
小声でささやくと、鳥骨頭は、ゆっくりと首を回した。ゴキ、ゴキ。
「しゃーないな。こうなったらオレ様が直接、テメーらをぶっ殺せばいいだろ。それで結果は同じにならぁな」
「……そーいえば、まだおにーさんの名前を聞いてなかったね。なんていうの?」
「オレか?オレは三幹部が一角。烈風のヴォルフガング様よ!」
三幹部!さっき話していたことが、もう現実になるなんて!それも、こんなに早く!
「……参ったな。城に入る前にボスが出てくるなんて、ちょっと反則じゃない?」
「ククク。悪いな、現実はクソゲーなんだよ、お嬢ちゃん」
え?ボクは驚いて、鳥骨頭、もといヴォルフガングを見つめた。そのヴォルフガングは、ボクに向かって、真っすぐ指を突き立てている。
「んで、さっきからぺちゃくちゃうるさいお前は、誰だ?オレ様が名乗ったからには、お嬢ちゃんの名前も……あー、やっぱいいか」
「え?どうしてさ」
「だってそうだろ?これから殺す奴の名前なんて、聞いてもしゃーないだけさ」
「むっ。いいの?後で聞いとけばよかったって、後悔するかもよ。大体さっきから、お嬢ちゃんおじょーちゃんって、失礼だな。ボクは……」
「あー、もういい、もういい。なら安心だ。そんな日は絶対に……来ねえからなっ!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「きゃああああ……」
ウィルの悲鳴が聞こえる。ちょっと怖いかな?でも大丈夫、絶対に落っことしたりしないから!
(お、桜下。これって、風のまほー?)
耳元から、ライラの度肝を抜かれた声が聞こえてきた。
「そうだよ。ヴィントネルケのまほーを、うーんと広範囲に拡大して使ってるんだ」
ボクたちは今、空へと落っこちている。ボクの風の魔法で、みんなを押し上げているんだ。
(すごい……やっぱり、桜下はすごいよ!)
「ライラ、それは違うってば。これは、ボクとライラ、二人の力だって」
(でも……でも!ライラ、こんなにたくさんに、同時にまほーを使うなんてできない……)
「ううん。この力は、ライラの中に眠ってる力なんだ。ボクが先に借りてしまったけれど、これは本来、キミの中にあるものなんだよ」
(ライラの、中に……?)
そうさ。キミは、まだまだ成長できるんだ。ボクの胸の中、魂の中に、とても強い光を感じる。なんて美しく、暖かい光なんだろう!
「最高だよ、ライラ!この力は、才能なんかじゃない!キミの願いの結晶なんだ!」
ボクらはぐんぐん飛んで行き、さっき落とされた場所を越え、そしてついに……魔王の城・ヘルズニル。その前へと到着した。
「よ……っと。とうちゃーく!戻ってこれたね」
城の前にみんなを下ろす。固い地面に足が触れると、ほとんどの人は崩れ落ちるように膝をついた。すごい人は、地面に頬ずりまでしてる。痛そう……
「……驚いたな。こんな力を持つ奴がいるなんて、聞いてないが?」
む。この声!さっきも聞いた、皮肉っぽい声。
城門の前に、背の高い男が立っている。頭は鳥の頭蓋骨そっくりなので、男かどうかは声で判断するしかないけど。ていうかコイツ、人間じゃあないな。
(桜下。こいつ、さっきライラたちを落っことした奴だよ……!)
うん、分かってる。ボクだって、二度も同じ目に遭うつもりはないさ。慎重に行こう。
「おにーさん、一体何者なの?いきなり不意打ちするなんて、びっくりしちゃったよ」
ボクは、なるべく気楽に話しかけた。敵の正体が分からない以上、いきなりぶちかますのもどうかと思ったんだ。狙い通り、敵も砕けた調子で返事を返してきた。
「おおそうか。そいつは悪かったな、お嬢ちゃん。驚かせるつもりはなかったんだぜ。てっきり全員くたばってくれると思ってたからよ」
「ぷぷぷ、ざんねんでーした!ボクたち、ちゃーんと生きてるもんね!」
「カッカッカ。一本取られたな、こりゃ」
ボクが愛想よくにっこり笑うと、鳥骨頭は、のけ反りながら震えた。笑っているってことなんだろう。
(お、桜下!敵と仲良くしてどーするの!)
「ライラ、そうじゃない」
(え?)
ボクは敵に聞こえないように、ほとんど唇を動かさずにささやく。
「感じないかい?奴の気配。おぞましくって、吐き気がしそうだよ」
(……!)
そう。表面上は和やかだけど、あの男からは、邪悪な気配が毒煙のように滲みだしている。少しでも隙を見せたら、毒牙が一瞬で、ボクの首を貫く……!ボクは背中の冷や汗を無視して、あくまで子どものように続ける。
「ねえねえ。それより、あの橋さ、壊しちゃってよかったの?ボク、魔王軍にとっても大事な橋だって聞いてたよ」
「だった、が正解だな。橋をぶっ壊してもいいっつったのは、魔王様自身だ」
「ふーん……急に考えが変わった、ってことかな」
ホントかな?まあでも、橋一つと引き換えに敵を一網打尽にできるなら、そう悪くないって思っても、無理ないかも。
「でも、なおさら残念だねぇ。ボクらはこうして、お城に到着したんだからさ。無駄になっちゃったね?」
「あー。そうだな。ちと面倒なことになった」
鳥骨頭の男は、ガリガリと頭をかいた。皮膚なんかないように見えるけど、感覚があるのかな?
「どうにかして、このツケは払わねぇといけないな」
「うーん、でもそれ、おにーさんがやること?だってこれ、魔王が考えた作戦なんでしょ?だったら、責任はそいつにあるじゃん。マヌケな作戦考えた上が……」
その瞬間。ビリビリビリッ!空気が、にわかに震えた。耳元でライラが、小さく悲鳴を上げる。
「黙れ」
あ。しまったなぁ、ボクとしたことが……
「魔王様を侮辱することは、誰であろうと許さねえ」
鳥骨頭は、もうその殺気を隠そうともしていなかった。剥き出しの殺意が、ボクの肌をチクチクと刺す。
「……これじゃもう、交渉の余地はないね」
(お、桜下!)
「うん。どうやら、やるしかないみたいだよ」
小声でささやくと、鳥骨頭は、ゆっくりと首を回した。ゴキ、ゴキ。
「しゃーないな。こうなったらオレ様が直接、テメーらをぶっ殺せばいいだろ。それで結果は同じにならぁな」
「……そーいえば、まだおにーさんの名前を聞いてなかったね。なんていうの?」
「オレか?オレは三幹部が一角。烈風のヴォルフガング様よ!」
三幹部!さっき話していたことが、もう現実になるなんて!それも、こんなに早く!
「……参ったな。城に入る前にボスが出てくるなんて、ちょっと反則じゃない?」
「ククク。悪いな、現実はクソゲーなんだよ、お嬢ちゃん」
え?ボクは驚いて、鳥骨頭、もといヴォルフガングを見つめた。そのヴォルフガングは、ボクに向かって、真っすぐ指を突き立てている。
「んで、さっきからぺちゃくちゃうるさいお前は、誰だ?オレ様が名乗ったからには、お嬢ちゃんの名前も……あー、やっぱいいか」
「え?どうしてさ」
「だってそうだろ?これから殺す奴の名前なんて、聞いてもしゃーないだけさ」
「むっ。いいの?後で聞いとけばよかったって、後悔するかもよ。大体さっきから、お嬢ちゃんおじょーちゃんって、失礼だな。ボクは……」
「あー、もういい、もういい。なら安心だ。そんな日は絶対に……来ねえからなっ!」
つづく
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