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17章 再開の約束
6-1 束の間の休息
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6-1 束の間の休息
「どうにか、追い払えたか……」
クラークは剣を鞘に納めると、額の汗をぬぐった。そこまで激しい戦闘じゃなかったはずだけど、かなり疲弊しているようだ。ボクは彼のもとまで降りていくと、からかうように笑う。
「なんだよぉクラーク。ずいぶんお疲れみたいじゃない」
「う、うるさいな。急展開の連続で、ついてこれてないんだよ……」
クラークはため息をつくと、背後を振り返って、仲間たちや連合軍の無事を確かめた。そして何度かうなずくと、改めてこちらに向き直る。
「それはそうと、君。男だって言っていたけれど、あれ、本当なのかい?」
「えぇ?まだ疑ってたの?いいよ、今融合を解いてあげるよ。どっちにしろ時間切れだしね」
ボクの魔力ももう限界だ。まばゆい光がボクの体を包み込み、ボクとライラの魂は分離した。
パアアァァー!
「っとと」
「うわ、わ。元に戻った……」
俺とライラは、それぞれの体に戻ってきた。ライラはぽかんとした表情で、自分の手のひらを見つめている。今しがた起きたことが信じられないみたいだ。うぐっ、それはそうと……やっぱり全身が痛む。融合の後は、いっつもこれだもんな。あいてて。
「うわっ!お、桜下じゃないか!」
クラークは元の姿に戻った俺たちを見て、驚愕したようすで震えていた。
「ば、馬鹿な!どうやって女の子に……?」
「だーから、もともと男だっつの。お前も見たことあるだろ?俺の技、ソウルレゾナンス」
「あ、あれで?じゃあ、本当に君だったのか……うっ!じゃあ、あの時も、中身は君で……」
クラークはぶるぶる震えると、腕をさすった。こいつ、ぶん殴ってやろうか?
「にしても……恩を着せるつもりじゃないが、九死に一生だったな。いやぁ、焦った」
「ああ、うん。そうだね。本当に、危ないところだった……」
ようやくまともに戻ったクラークが、顔をしかめた。
「油断していたよ。情けない。君たちがいなかったら、本当に一巻の終わりだった」
「いやあ、マジで焦ったよ。助かったのは、ライラのおかげだ」
俺が頭を撫でると、ライラは気持ち良さそうに目を細めた。猫みたいでかわいいな。
「さてと、詳しい話は、ちょっと落ち着いてからにするか?」
「そうだね。今はまず、事態を収集するところから始めようか」
俺はうなずくと、離れたところで固まっている仲間たちのもとへ、ライラと一緒に歩き始めた。
その後、体勢を立て直した連合軍は、宙に浮かぶ島の端っこに、仮設のキャンプ地を設営した。そこからそう遠くない丘の上に、魔王城がそびえている。敵の本拠地の目前に陣を敷くのは落ち着かないが、橋が落とされた今、地上へ帰ることは叶わない。背水の陣とは、まさにこの事だ。
「しかし、魔王軍の追撃がなかったのは幸いだったな……いてて」
「こら、桜下さん。動いちゃダメですよ」
「へーい」
俺は仮設テントの中でうつ伏せになり、ウィルの治療を受けていた。つっても、俺の体の痛みは、いわゆる筋肉痛みたいなもんだ。回復魔法をかけてもらい、薬草を刷り込んだシップを張ってもらうくらいなんだけど。ウィルの冷たい手が背中に触れると、思わず声が出そうになる。
「ほんとなら、無茶しないでって言いたいところですけど……さっきの場面、桜下さんが居なかったら、間違いなく全滅していましたからね。すごいです、大活躍じゃないですか」
「こら、やめろってウィル」
「謎の美少女、連合軍を救うって持ちきりですよ」
「ウィル!」
俺が脅すように唸っても、ウィルにはちっとも効いていない様子だった。こいつめ!
俺とライラの活躍によって(ライラの部分を強調して言いたいが)、危機を脱した連合軍は、俺たちに賞賛の嵐を浴びせかけた。もちろん俺だけじゃなくて、クラークや尊にもだが、やはり一番は俺たち……ではなく、謎の魔法少女が最も脚光を浴びていた。
(男なんだけどなぁ~)
いちおう、あれは俺が変化した姿だ。つまり、肉体はあくまで俺ベース、性別は変わっていないはず……だっていうのに、俺がどれだけ言っても、みんな女だと信じて疑わない。終いにはもう、諦めた。ちょっとヤバい目の色をした兵士が、しつっこくあの娘の居場所を聞いて回っていたからな。身の危険を感じたんだ……
「でも、本当に女の子にしか見えなかったですよ、あの姿。かわいかったな~」
「ウィル、少しは俺をいたわれないのか……?」
「あら、だからこうして手当してあげてるんじゃないですか」
くそ!だいたい、もしそれだけ可愛らしかったとしたら、それはライラの魂の影響だろう。
ソウルレゾナンスで融合した姿は、アンデッドによって異なる。フランとの場合は大男に、ウィルとの場合は修道士となったように。あの姿は、おそらくライラが望んだ姿なのだ。
で、そのライラなんだけど……
「……なあ、ところでさ」
俺はちょいちょいと、指でウィルを呼ぶ。不思議そうなウィルが顔を寄せると、俺は小声で訊ねた。
「ライラは、一体どうしちゃったんだ?」
ウィルは目をぱちくりすると、ライラの方をそっと見た。その当人は、テントの隅っこで、ぽけーっと天井を見上げている。目は何にも見ていなくて、とろんと眠そうだ。疲れてしまったんだろうか?
「ああ、あれですか。そうですね……軽い魔力切れではあるとも、思うんですけど」
「けど?」
「うーんと……あはは、ちょっと恥ずかしいんですけど」
え?ウィルははにかむように笑うと、俺の耳に口を寄せた。
「たぶん……ライラさんも、気持ちよかったんだと思いますよ」
うへっ?俺は思わず首をひねって、ウィルの顔をまじまじと見つめてしまった。
「前にも、少し話しましたか?桜下さんとの融合の感覚は、私も、フランさんも、なかなか忘れられません」
「……なあ、ウィル。この際だからはっきり訊くけど、それって、変な意味じゃないんだよな?」
「あはは、もちろんです。なんて言えばいいんでしょうね……体だけじゃなくて、それこそ魂まで、一つになるわけですから。やっぱり、安心というか、心地いいというか」
ふむ、まあそれは……俺だって、ウィルたちと融合している間は、とても心地いい。力が沸き上がってくるあの感覚は、普段じゃなかなか味わえない。
「後はまあ、ほら?私とフランさんの場合、好きな人と、身も心も一つになるわけですし……」
「……」
俺は黙って、地面にめり込むことにした。顔が熱い……
「ライラさんも、桜下さんのことが大好きですしね。そういう意味でも、嬉しい気持ちがあったとは思います。でも、多分一番は……願い、じゃないでしょうか」
「え?願い?」
思わず顔を上げる。そう言えば、俺も融合中に、そんなことを言った気がする。あの間は人格まで別人になるので、自分が何を思って言ったのか、いまいちピンとこないのだけれど。ウィルも、同じことを思ったってことなのか?
「桜下さんも、気付いているでしょう?桜下さんの術で、魂が一つになった時。フランさんの場合は、強靭で壊れない肉体が。私の場合は、皆さんを守れる強い力が、それぞれ手に入ったんです」
「それが、願い……?」
「そうです。私たちが強く願っていることが、あの時の姿に反映されているんだと思います。もちろんそれだけじゃなくて、個人個人の能力の影響もあるでしょうけど」
「それなら、ライラの願いは……」
「まあ、それは私に訊くよりも、本人に訊いたほうが早いですよ」
ウィルはピシリと、シップの上から背中を叩いた。
「はい、これで終わりました。続きは直接、お願いします」
「ん、そうだな。分かった、そうしてみるか。サンキューな、ウィル。手当てしてくれて」
「これくらい、お安い御用です。それにきっと、ライラさんも、桜下さんと話したがっていると思うので」
ウィルに後押しされて、俺はライラの下へと向かった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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クラークは剣を鞘に納めると、額の汗をぬぐった。そこまで激しい戦闘じゃなかったはずだけど、かなり疲弊しているようだ。ボクは彼のもとまで降りていくと、からかうように笑う。
「なんだよぉクラーク。ずいぶんお疲れみたいじゃない」
「う、うるさいな。急展開の連続で、ついてこれてないんだよ……」
クラークはため息をつくと、背後を振り返って、仲間たちや連合軍の無事を確かめた。そして何度かうなずくと、改めてこちらに向き直る。
「それはそうと、君。男だって言っていたけれど、あれ、本当なのかい?」
「えぇ?まだ疑ってたの?いいよ、今融合を解いてあげるよ。どっちにしろ時間切れだしね」
ボクの魔力ももう限界だ。まばゆい光がボクの体を包み込み、ボクとライラの魂は分離した。
パアアァァー!
「っとと」
「うわ、わ。元に戻った……」
俺とライラは、それぞれの体に戻ってきた。ライラはぽかんとした表情で、自分の手のひらを見つめている。今しがた起きたことが信じられないみたいだ。うぐっ、それはそうと……やっぱり全身が痛む。融合の後は、いっつもこれだもんな。あいてて。
「うわっ!お、桜下じゃないか!」
クラークは元の姿に戻った俺たちを見て、驚愕したようすで震えていた。
「ば、馬鹿な!どうやって女の子に……?」
「だーから、もともと男だっつの。お前も見たことあるだろ?俺の技、ソウルレゾナンス」
「あ、あれで?じゃあ、本当に君だったのか……うっ!じゃあ、あの時も、中身は君で……」
クラークはぶるぶる震えると、腕をさすった。こいつ、ぶん殴ってやろうか?
「にしても……恩を着せるつもりじゃないが、九死に一生だったな。いやぁ、焦った」
「ああ、うん。そうだね。本当に、危ないところだった……」
ようやくまともに戻ったクラークが、顔をしかめた。
「油断していたよ。情けない。君たちがいなかったら、本当に一巻の終わりだった」
「いやあ、マジで焦ったよ。助かったのは、ライラのおかげだ」
俺が頭を撫でると、ライラは気持ち良さそうに目を細めた。猫みたいでかわいいな。
「さてと、詳しい話は、ちょっと落ち着いてからにするか?」
「そうだね。今はまず、事態を収集するところから始めようか」
俺はうなずくと、離れたところで固まっている仲間たちのもとへ、ライラと一緒に歩き始めた。
その後、体勢を立て直した連合軍は、宙に浮かぶ島の端っこに、仮設のキャンプ地を設営した。そこからそう遠くない丘の上に、魔王城がそびえている。敵の本拠地の目前に陣を敷くのは落ち着かないが、橋が落とされた今、地上へ帰ることは叶わない。背水の陣とは、まさにこの事だ。
「しかし、魔王軍の追撃がなかったのは幸いだったな……いてて」
「こら、桜下さん。動いちゃダメですよ」
「へーい」
俺は仮設テントの中でうつ伏せになり、ウィルの治療を受けていた。つっても、俺の体の痛みは、いわゆる筋肉痛みたいなもんだ。回復魔法をかけてもらい、薬草を刷り込んだシップを張ってもらうくらいなんだけど。ウィルの冷たい手が背中に触れると、思わず声が出そうになる。
「ほんとなら、無茶しないでって言いたいところですけど……さっきの場面、桜下さんが居なかったら、間違いなく全滅していましたからね。すごいです、大活躍じゃないですか」
「こら、やめろってウィル」
「謎の美少女、連合軍を救うって持ちきりですよ」
「ウィル!」
俺が脅すように唸っても、ウィルにはちっとも効いていない様子だった。こいつめ!
俺とライラの活躍によって(ライラの部分を強調して言いたいが)、危機を脱した連合軍は、俺たちに賞賛の嵐を浴びせかけた。もちろん俺だけじゃなくて、クラークや尊にもだが、やはり一番は俺たち……ではなく、謎の魔法少女が最も脚光を浴びていた。
(男なんだけどなぁ~)
いちおう、あれは俺が変化した姿だ。つまり、肉体はあくまで俺ベース、性別は変わっていないはず……だっていうのに、俺がどれだけ言っても、みんな女だと信じて疑わない。終いにはもう、諦めた。ちょっとヤバい目の色をした兵士が、しつっこくあの娘の居場所を聞いて回っていたからな。身の危険を感じたんだ……
「でも、本当に女の子にしか見えなかったですよ、あの姿。かわいかったな~」
「ウィル、少しは俺をいたわれないのか……?」
「あら、だからこうして手当してあげてるんじゃないですか」
くそ!だいたい、もしそれだけ可愛らしかったとしたら、それはライラの魂の影響だろう。
ソウルレゾナンスで融合した姿は、アンデッドによって異なる。フランとの場合は大男に、ウィルとの場合は修道士となったように。あの姿は、おそらくライラが望んだ姿なのだ。
で、そのライラなんだけど……
「……なあ、ところでさ」
俺はちょいちょいと、指でウィルを呼ぶ。不思議そうなウィルが顔を寄せると、俺は小声で訊ねた。
「ライラは、一体どうしちゃったんだ?」
ウィルは目をぱちくりすると、ライラの方をそっと見た。その当人は、テントの隅っこで、ぽけーっと天井を見上げている。目は何にも見ていなくて、とろんと眠そうだ。疲れてしまったんだろうか?
「ああ、あれですか。そうですね……軽い魔力切れではあるとも、思うんですけど」
「けど?」
「うーんと……あはは、ちょっと恥ずかしいんですけど」
え?ウィルははにかむように笑うと、俺の耳に口を寄せた。
「たぶん……ライラさんも、気持ちよかったんだと思いますよ」
うへっ?俺は思わず首をひねって、ウィルの顔をまじまじと見つめてしまった。
「前にも、少し話しましたか?桜下さんとの融合の感覚は、私も、フランさんも、なかなか忘れられません」
「……なあ、ウィル。この際だからはっきり訊くけど、それって、変な意味じゃないんだよな?」
「あはは、もちろんです。なんて言えばいいんでしょうね……体だけじゃなくて、それこそ魂まで、一つになるわけですから。やっぱり、安心というか、心地いいというか」
ふむ、まあそれは……俺だって、ウィルたちと融合している間は、とても心地いい。力が沸き上がってくるあの感覚は、普段じゃなかなか味わえない。
「後はまあ、ほら?私とフランさんの場合、好きな人と、身も心も一つになるわけですし……」
「……」
俺は黙って、地面にめり込むことにした。顔が熱い……
「ライラさんも、桜下さんのことが大好きですしね。そういう意味でも、嬉しい気持ちがあったとは思います。でも、多分一番は……願い、じゃないでしょうか」
「え?願い?」
思わず顔を上げる。そう言えば、俺も融合中に、そんなことを言った気がする。あの間は人格まで別人になるので、自分が何を思って言ったのか、いまいちピンとこないのだけれど。ウィルも、同じことを思ったってことなのか?
「桜下さんも、気付いているでしょう?桜下さんの術で、魂が一つになった時。フランさんの場合は、強靭で壊れない肉体が。私の場合は、皆さんを守れる強い力が、それぞれ手に入ったんです」
「それが、願い……?」
「そうです。私たちが強く願っていることが、あの時の姿に反映されているんだと思います。もちろんそれだけじゃなくて、個人個人の能力の影響もあるでしょうけど」
「それなら、ライラの願いは……」
「まあ、それは私に訊くよりも、本人に訊いたほうが早いですよ」
ウィルはピシリと、シップの上から背中を叩いた。
「はい、これで終わりました。続きは直接、お願いします」
「ん、そうだな。分かった、そうしてみるか。サンキューな、ウィル。手当てしてくれて」
「これくらい、お安い御用です。それにきっと、ライラさんも、桜下さんと話したがっていると思うので」
ウィルに後押しされて、俺はライラの下へと向かった。
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