じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
740 / 860
17章 再開の約束

6-1 束の間の休息

しおりを挟む
6-1 束の間の休息

「どうにか、追い払えたか……」

クラークは剣を鞘に納めると、額の汗をぬぐった。そこまで激しい戦闘じゃなかったはずだけど、かなり疲弊しているようだ。ボクは彼のもとまで降りていくと、からかうように笑う。

「なんだよぉクラーク。ずいぶんお疲れみたいじゃない」

「う、うるさいな。急展開の連続で、ついてこれてないんだよ……」

クラークはため息をつくと、背後を振り返って、仲間たちや連合軍の無事を確かめた。そして何度かうなずくと、改めてこちらに向き直る。

「それはそうと、君。男だって言っていたけれど、あれ、本当なのかい?」

「えぇ?まだ疑ってたの?いいよ、今融合を解いてあげるよ。どっちにしろ時間切れだしね」

ボクの魔力ももう限界だ。まばゆい光がボクの体を包み込み、ボクとライラの魂は分離した。

パアアァァー!

「っとと」

「うわ、わ。元に戻った……」

俺とライラは、それぞれの体に戻ってきた。ライラはぽかんとした表情で、自分の手のひらを見つめている。今しがた起きたことが信じられないみたいだ。うぐっ、それはそうと……やっぱり全身が痛む。融合の後は、いっつもこれだもんな。あいてて。

「うわっ!お、桜下じゃないか!」

クラークは元の姿に戻った俺たちを見て、驚愕したようすで震えていた。

「ば、馬鹿な!どうやって女の子に……?」

「だーから、もともと男だっつの。お前も見たことあるだろ?俺の技、ソウルレゾナンス」

「あ、あれで?じゃあ、本当に君だったのか……うっ!じゃあ、あの時も、中身は君で……」

クラークはぶるぶる震えると、腕をさすった。こいつ、ぶん殴ってやろうか?

「にしても……恩を着せるつもりじゃないが、九死に一生だったな。いやぁ、焦った」

「ああ、うん。そうだね。本当に、危ないところだった……」

ようやくまともに戻ったクラークが、顔をしかめた。

「油断していたよ。情けない。君たちがいなかったら、本当に一巻の終わりだった」

「いやあ、マジで焦ったよ。助かったのは、ライラのおかげだ」

俺が頭を撫でると、ライラは気持ち良さそうに目を細めた。猫みたいでかわいいな。

「さてと、詳しい話は、ちょっと落ち着いてからにするか?」

「そうだね。今はまず、事態を収集するところから始めようか」

俺はうなずくと、離れたところで固まっている仲間たちのもとへ、ライラと一緒に歩き始めた。



その後、体勢を立て直した連合軍は、宙に浮かぶ島の端っこに、仮設のキャンプ地を設営した。そこからそう遠くない丘の上に、魔王城がそびえている。敵の本拠地の目前に陣を敷くのは落ち着かないが、橋が落とされた今、地上へ帰ることは叶わない。背水の陣とは、まさにこの事だ。

「しかし、魔王軍の追撃がなかったのは幸いだったな……いてて」

「こら、桜下さん。動いちゃダメですよ」

「へーい」

俺は仮設テントの中でうつ伏せになり、ウィルの治療を受けていた。つっても、俺の体の痛みは、いわゆる筋肉痛みたいなもんだ。回復魔法をかけてもらい、薬草を刷り込んだシップを張ってもらうくらいなんだけど。ウィルの冷たい手が背中に触れると、思わず声が出そうになる。

「ほんとなら、無茶しないでって言いたいところですけど……さっきの場面、桜下さんが居なかったら、間違いなく全滅していましたからね。すごいです、大活躍じゃないですか」

「こら、やめろってウィル」

「謎の美少女、連合軍を救うって持ちきりですよ」

「ウィル!」

俺が脅すように唸っても、ウィルにはちっとも効いていない様子だった。こいつめ!
俺とライラの活躍によって(ライラの部分を強調して言いたいが)、危機を脱した連合軍は、俺たちに賞賛の嵐を浴びせかけた。もちろん俺だけじゃなくて、クラークや尊にもだが、やはり一番は俺たち……ではなく、謎の魔法少女が最も脚光を浴びていた。

(男なんだけどなぁ~)

いちおう、あれは俺が変化した姿だ。つまり、肉体はあくまで俺ベース、性別は変わっていないはず……だっていうのに、俺がどれだけ言っても、みんな女だと信じて疑わない。終いにはもう、諦めた。ちょっとヤバい目の色をした兵士が、しつっこくあの娘の居場所を聞いて回っていたからな。身の危険を感じたんだ……

「でも、本当に女の子にしか見えなかったですよ、あの姿。かわいかったな~」

「ウィル、少しは俺をいたわれないのか……?」

「あら、だからこうして手当してあげてるんじゃないですか」

くそ!だいたい、もしそれだけ可愛らしかったとしたら、それはライラの魂の影響だろう。
ソウルレゾナンスで融合した姿は、アンデッドによって異なる。フランとの場合は大男に、ウィルとの場合は修道士となったように。あの姿は、おそらくライラが望んだ姿なのだ。
で、そのライラなんだけど……

「……なあ、ところでさ」

俺はちょいちょいと、指でウィルを呼ぶ。不思議そうなウィルが顔を寄せると、俺は小声で訊ねた。

「ライラは、一体どうしちゃったんだ?」

ウィルは目をぱちくりすると、ライラの方をそっと見た。その当人は、テントの隅っこで、ぽけーっと天井を見上げている。目は何にも見ていなくて、とろんと眠そうだ。疲れてしまったんだろうか?

「ああ、あれですか。そうですね……軽い魔力切れではあるとも、思うんですけど」

「けど?」

「うーんと……あはは、ちょっと恥ずかしいんですけど」

え?ウィルははにかむように笑うと、俺の耳に口を寄せた。

「たぶん……ライラさんも、気持ちよかったんだと思いますよ」

うへっ?俺は思わず首をひねって、ウィルの顔をまじまじと見つめてしまった。

「前にも、少し話しましたか?桜下さんとの融合の感覚は、私も、フランさんも、なかなか忘れられません」

「……なあ、ウィル。この際だからはっきり訊くけど、それって、変な意味じゃないんだよな?」

「あはは、もちろんです。なんて言えばいいんでしょうね……体だけじゃなくて、それこそ魂まで、一つになるわけですから。やっぱり、安心というか、心地いいというか」

ふむ、まあそれは……俺だって、ウィルたちと融合している間は、とても心地いい。力が沸き上がってくるあの感覚は、普段じゃなかなか味わえない。

「後はまあ、ほら?私とフランさんの場合、好きな人と、身も心も一つになるわけですし……」

「……」

俺は黙って、地面にめり込むことにした。顔が熱い……

「ライラさんも、桜下さんのことが大好きですしね。そういう意味でも、嬉しい気持ちがあったとは思います。でも、多分一番は……願い、じゃないでしょうか」

「え?願い?」

思わず顔を上げる。そう言えば、俺も融合中に、そんなことを言った気がする。あの間は人格まで別人になるので、自分が何を思って言ったのか、いまいちピンとこないのだけれど。ウィルも、同じことを思ったってことなのか?

「桜下さんも、気付いているでしょう?桜下さんの術で、魂が一つになった時。フランさんの場合は、強靭で壊れない肉体が。私の場合は、皆さんを守れる強い力が、それぞれ手に入ったんです」

「それが、願い……?」

「そうです。私たちが強く願っていることが、あの時の姿に反映されているんだと思います。もちろんそれだけじゃなくて、個人個人の能力の影響もあるでしょうけど」

「それなら、ライラの願いは……」

「まあ、それは私に訊くよりも、本人に訊いたほうが早いですよ」

ウィルはピシリと、シップの上から背中を叩いた。

「はい、これで終わりました。続きは直接、お願いします」

「ん、そうだな。分かった、そうしてみるか。サンキューな、ウィル。手当てしてくれて」

「これくらい、お安い御用です。それにきっと、ライラさんも、桜下さんと話したがっていると思うので」

ウィルに後押しされて、俺はライラの下へと向かった。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

処理中です...