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17章 再開の約束
6-3
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6-3
周囲のざわめきが落ち着き、連合軍の仕事がひと段落したころ、俺たちのテントに、二人の訪問者が現れた。
「邪魔するぞ、桜下」
「お邪魔します」
たれ布をまくって現れたのは、ひげ面のゴツイ兵士と、黄色い髪の少女。
「エドガーか。それと……えっ、キサカ?」
驚いた、妙な組み合わせだな。二の国の指揮官であるエドガーとはしょっちゅう顔を合わせているけれど、どうして光の聖女様がここに?
「すまんな、休んでいた所を。体は大丈夫か?」
そう言いながら、エドガーはどかっと腰を下ろした。キサカもスカートをきっちり折って、隣に座る。
「なんだ、なんだ?まさか、見舞いにでも来たつもりか?」
「ふん、それでは悪いか?」
ええ、てことはほんとに?けど、指揮官のエドガーが、単なる知り合いの俺を、わざわざ見舞うはずがない。つまり、なにかの用があるということだ。
「それでお前、体は?」
「ん、ああ。とりあえず、仲間に治療してもらったところだ。だいぶマシになったよ。まだ本調子じゃないけどな」
「そうか……まずは、無事で何より。そして礼を言わねばな」
エドガーは床に拳をつくと、武人らしく頭を下げた。
「感謝する。おぬしがいなければ、今頃我らはここにいまい」
隣ではキサカが、同意を示すように何度もうんうんとうなずいている。こうやって真っ向から感謝されると、それはそれで恥ずかしいな……
「まあ、いちお、仕事はしないとな。そういう約束だし」
「ふっ。確かにそうだな」
俺の捻くれた返事に、エドガーはにやりと笑った。だがすぐに、しかめ面になる。
「しかし……言い訳するわけではないが、まさか、魔王軍があの橋を破棄するとは。全く予想できなかった」
「ああ、アニに聞いたよ。前の戦争では、わざわざ守りまでした橋だったんだって?」
「その通りだ。ああもやすやす壊してしまえるのなら、なぜ先の大戦でそうしなかったのか……こればっかりは、ヘイズでもいい知恵が浮かばんそうだ。さらに、奇妙なことはこればかりではない」
「他にも、なにか?」
「まず一つが、今、この状況だ」
今?俺は目をぐるりと見回して……あ、そうか。
「静かすぎる、ってことだな」
「そうだ。あれほど強烈な奇襲を仕掛けてきたのに、なぜ今、魔王軍は攻めてこない?おかげでやすやすと陣を敷くことができたが、腑に落ちん」
「ふむ……で、二つ目は?まだあるんだろ」
「ああ、先ほど斥候兵が、敵地の偵察から戻ってきたのだ。その報告によれば、かなり奇妙な光景が広がっていたらしい」
「奇妙な光景?」
「うむ……娘っ子の前で話すのは、ちと気が引けるが」
そう言うと、エドガーはちらりと、ライラの方に目をやった。するとライラは憤慨した様子で、俺の腕にひしと掴まった。意地でも離れないって顔だ。エドガーは諦めたようにため息をつくと、そのまま続きを話す。
「魔王城の周りに、魔物の死体が、無数に転がっていたらしいのだ」
「ひえっ……死体?それも、魔物の?」
「ああ。しかも、まともな死骸ではない。そのどれも、奇妙な損傷をしていたという。あるものは、肌が真っ黒に焼けただれていて、異様に黒い煙をぶすぶすと吐き続けていたそうだ。そしてあるものは、体中の体積を抜き取られてしまったように、干からびていた」
う……ライラは俺の腕を握る手に力をこめた。
「いったい何があったら、そんな風になるんだ。だいたい、なんで魔王城で、魔物が死んでる?」
「まったくわからん……謀反か反乱でも起きたのか、あるいは何者かの襲撃があったか……しかし、それこそありえんな。我々以外に、誰が魔王城を襲撃する?」
「それは、まあ……」
「だが、なにかが起こったのは事実だ。死体の傷み具合から見ても、それが起こったのはつい最近、おそらく一、二週間以内のことだ」
「一、 二週間……魔王城で起こった事件……んっ!?」
俺がびくんと緊張すると、ライラが腕を引っ張った。
「桜下、どうしたの?何かわかったの?」
「……つい最近、魔王軍がおかしな動きを見せたことを思い出してな」
「おかしな動き?」
俺はエドガーを見つめる。やはりやつも勘付いていたのか、満足げにうなずいた。
「さすがだな。ヘイズもそうじゃないかと言っておった。先日、我々を包囲した魔王軍が、朝には忽然と姿を消した一件があっただろう」
ライラもピンと来たのか、あっ、と目を丸くした。
「あの日、こっちで何かが起きてたってこと?」
「そうだ。我々を包囲していた魔王軍は、城で起こった事件に応じるために、急いで城へと引き返した……と、ヘイズは読んでいる」
「辻褄はあうな」
俺はあごを撫でる。
「それだけ魔物が死ぬほどのことだ。血相変えて戻るほどの、緊急事態だったってことだろ。ひょっとして、今回の橋も、それに関係してるのか?」
「ほう。というと?」
「さっき襲ってきた魔物、ヴォルフガングっつったか?が言ってたんだ。クラークの能力は知っている、だけど俺の能力は初耳だって」
「なにぃ?魔物であるそやつが、勇者の能力を知っているということは……ああっ!」
バチンと、エドガーが拳を手のひらに打ち付ける。
「あの数々のやる気のない襲撃は、そやつの指示か!」
「あの襲撃の目的は、勇者の能力を探ることだって話だったよな。クラークは何度も雷の魔法を使っていたけど、俺のソウルレゾナンスは、今回が初出しだ。知らないのも当然だよな」
「うむ、たしかにその通りだ。そして……」
「そして……つまりヴォルフガングは、見かけによらず、相当慎重な奴だったってことが分かる。事前に敵の手を調べて、万全の状態で迎え撃とうとしてたんだ。少しでも不利だと見るや、すぐに退散するくらいだからな。だけど、奴の計画を大幅に狂わせる事件が起きた」
「それが、件の事件か。完全に予想外の襲撃、もしくはそれに準ずる何かが起き、魔王軍は大きな痛手を被った。なりふり構っていられなくなった敵は……」
「大事な橋を落としてでも、俺たちを抹殺しようとした。今魔王軍が攻めてこないのは、外に出せるだけの兵がいないからかも、しれないな」
ふうー……一気に話したが、ここに来てずいぶん多くのパズルがはまった気がする。まだまだ分からないことも多いが、少しずつ輪郭が見えてきた感じだ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「エドガーか。それと……えっ、キサカ?」
驚いた、妙な組み合わせだな。二の国の指揮官であるエドガーとはしょっちゅう顔を合わせているけれど、どうして光の聖女様がここに?
「すまんな、休んでいた所を。体は大丈夫か?」
そう言いながら、エドガーはどかっと腰を下ろした。キサカもスカートをきっちり折って、隣に座る。
「なんだ、なんだ?まさか、見舞いにでも来たつもりか?」
「ふん、それでは悪いか?」
ええ、てことはほんとに?けど、指揮官のエドガーが、単なる知り合いの俺を、わざわざ見舞うはずがない。つまり、なにかの用があるということだ。
「それでお前、体は?」
「ん、ああ。とりあえず、仲間に治療してもらったところだ。だいぶマシになったよ。まだ本調子じゃないけどな」
「そうか……まずは、無事で何より。そして礼を言わねばな」
エドガーは床に拳をつくと、武人らしく頭を下げた。
「感謝する。おぬしがいなければ、今頃我らはここにいまい」
隣ではキサカが、同意を示すように何度もうんうんとうなずいている。こうやって真っ向から感謝されると、それはそれで恥ずかしいな……
「まあ、いちお、仕事はしないとな。そういう約束だし」
「ふっ。確かにそうだな」
俺の捻くれた返事に、エドガーはにやりと笑った。だがすぐに、しかめ面になる。
「しかし……言い訳するわけではないが、まさか、魔王軍があの橋を破棄するとは。全く予想できなかった」
「ああ、アニに聞いたよ。前の戦争では、わざわざ守りまでした橋だったんだって?」
「その通りだ。ああもやすやす壊してしまえるのなら、なぜ先の大戦でそうしなかったのか……こればっかりは、ヘイズでもいい知恵が浮かばんそうだ。さらに、奇妙なことはこればかりではない」
「他にも、なにか?」
「まず一つが、今、この状況だ」
今?俺は目をぐるりと見回して……あ、そうか。
「静かすぎる、ってことだな」
「そうだ。あれほど強烈な奇襲を仕掛けてきたのに、なぜ今、魔王軍は攻めてこない?おかげでやすやすと陣を敷くことができたが、腑に落ちん」
「ふむ……で、二つ目は?まだあるんだろ」
「ああ、先ほど斥候兵が、敵地の偵察から戻ってきたのだ。その報告によれば、かなり奇妙な光景が広がっていたらしい」
「奇妙な光景?」
「うむ……娘っ子の前で話すのは、ちと気が引けるが」
そう言うと、エドガーはちらりと、ライラの方に目をやった。するとライラは憤慨した様子で、俺の腕にひしと掴まった。意地でも離れないって顔だ。エドガーは諦めたようにため息をつくと、そのまま続きを話す。
「魔王城の周りに、魔物の死体が、無数に転がっていたらしいのだ」
「ひえっ……死体?それも、魔物の?」
「ああ。しかも、まともな死骸ではない。そのどれも、奇妙な損傷をしていたという。あるものは、肌が真っ黒に焼けただれていて、異様に黒い煙をぶすぶすと吐き続けていたそうだ。そしてあるものは、体中の体積を抜き取られてしまったように、干からびていた」
う……ライラは俺の腕を握る手に力をこめた。
「いったい何があったら、そんな風になるんだ。だいたい、なんで魔王城で、魔物が死んでる?」
「まったくわからん……謀反か反乱でも起きたのか、あるいは何者かの襲撃があったか……しかし、それこそありえんな。我々以外に、誰が魔王城を襲撃する?」
「それは、まあ……」
「だが、なにかが起こったのは事実だ。死体の傷み具合から見ても、それが起こったのはつい最近、おそらく一、二週間以内のことだ」
「一、 二週間……魔王城で起こった事件……んっ!?」
俺がびくんと緊張すると、ライラが腕を引っ張った。
「桜下、どうしたの?何かわかったの?」
「……つい最近、魔王軍がおかしな動きを見せたことを思い出してな」
「おかしな動き?」
俺はエドガーを見つめる。やはりやつも勘付いていたのか、満足げにうなずいた。
「さすがだな。ヘイズもそうじゃないかと言っておった。先日、我々を包囲した魔王軍が、朝には忽然と姿を消した一件があっただろう」
ライラもピンと来たのか、あっ、と目を丸くした。
「あの日、こっちで何かが起きてたってこと?」
「そうだ。我々を包囲していた魔王軍は、城で起こった事件に応じるために、急いで城へと引き返した……と、ヘイズは読んでいる」
「辻褄はあうな」
俺はあごを撫でる。
「それだけ魔物が死ぬほどのことだ。血相変えて戻るほどの、緊急事態だったってことだろ。ひょっとして、今回の橋も、それに関係してるのか?」
「ほう。というと?」
「さっき襲ってきた魔物、ヴォルフガングっつったか?が言ってたんだ。クラークの能力は知っている、だけど俺の能力は初耳だって」
「なにぃ?魔物であるそやつが、勇者の能力を知っているということは……ああっ!」
バチンと、エドガーが拳を手のひらに打ち付ける。
「あの数々のやる気のない襲撃は、そやつの指示か!」
「あの襲撃の目的は、勇者の能力を探ることだって話だったよな。クラークは何度も雷の魔法を使っていたけど、俺のソウルレゾナンスは、今回が初出しだ。知らないのも当然だよな」
「うむ、たしかにその通りだ。そして……」
「そして……つまりヴォルフガングは、見かけによらず、相当慎重な奴だったってことが分かる。事前に敵の手を調べて、万全の状態で迎え撃とうとしてたんだ。少しでも不利だと見るや、すぐに退散するくらいだからな。だけど、奴の計画を大幅に狂わせる事件が起きた」
「それが、件の事件か。完全に予想外の襲撃、もしくはそれに準ずる何かが起き、魔王軍は大きな痛手を被った。なりふり構っていられなくなった敵は……」
「大事な橋を落としてでも、俺たちを抹殺しようとした。今魔王軍が攻めてこないのは、外に出せるだけの兵がいないからかも、しれないな」
ふうー……一気に話したが、ここに来てずいぶん多くのパズルがはまった気がする。まだまだ分からないことも多いが、少しずつ輪郭が見えてきた感じだ。
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