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17章 再開の約束
8-3
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ウィルがヘルズニルに仕掛けてきた爆弾は、塔を丸々一本倒壊させてしまった。ガラガラと建物が崩れ落ちていく。それはあくまでも、巨大な城の一角でしかなかったが、少なくともこの戦場においては、劇的な効果をもたらした。
浮遊砲台が、一斉に動きを止めたのだ。
「……はっ。チャンス、チャンスだ!」
目の前のスペクタクルな光景に呆気に取られていた俺だったが、この絶好の機会を逃すわけにはいかない!
「ウィルの爆発で、砲台の司令塔が吹き飛んだんだ!もうあいつらは、ふわふわ浮かぶだけの風船に過ぎない!」
アルルカが杖を構えて、氷の弾丸を一発撃ち込んだ。弾丸は砲台に命中したが、今度はバリアに弾かれることはなかった。バリアが消えている!それに、反撃もしてこない!
「一斉攻撃ぃぃぃー!」
誰かの大声が、連合軍の方から聞こえてきた。
「うおおおおー!」
雄たけびが上がり、連合軍の反撃が始まった!
魔術師たちは最後の魔力を振り絞って、砲台に魔法を浴びせかける。弓兵たちもありったけの矢を放った。
「バンブーシュート!」
「メギバレット!」
ライラとアルルカも、持ちうる魔力を全て注ぎ込んで攻撃する。空を覆うほどだった砲台は、あっという間に、目視で数えられるほどになった。
「パグマボルト!」
ガガーン!雷鳴が轟き、残った砲台を一掃した。
「砲台が消えた!これでもう、門を守るものは無くなったぞ!」
やった!城を守るバリアは残っているが、あれはあくまで魔法だけを防ぐもの。素通りしちまえば問題ない!
「よーし、一斉とつげ……」
ビイイィィィィィ!
背筋が凍り付くような、かん高いサイレン音が響き渡った。俺はびっくりして舌を噛みそうになる。その音と共に、さっきまで透明だったバリアが、急にはっきりと色を持った。鉄のような鈍い青色で、透明度は失われ、向こう側が全く見えない。
「今度はなんだ!?バリアが変わったぞ!」
「見りゃ分かるわよ、んなもん!それより問題なのは、アレが性質を変えたのかどうかでしょ!」
するとフランが、試したほうが早いとばかりに、足下のこぶし大の石ころを拾い上げた。振りかぶると、ぶんと投げる。
ゴォン!石はバリアにぶつかると、鈍い音を立てて跳ね返ってしまった。
「……最悪のケースが思い浮かんでるんだが、口に出したほうがいいか?」
「……いいわよ、別に。あたしも、おんなじこと考えてるでしょうから」
こんちくしょうが……ここに来てバリアは、物理も通さなくなったらしい。ウィルが塔を吹き飛ばしたことによって、魔王軍が警戒を引き上げたのだろうか?さっきのサイレンみたいなのが、それの合図だったんだろう。この土壇場で、よくもまあ、これほど柔軟に動けるもんだ!それとも、このバリアはもともとこういうもんで、非常時には切り替えられるようになってるのか。
(物理に強くなった分、魔法には弱くなったんじゃ……なんてのは、都合がよすぎるな)
この世界は、ゲームのようにプレイヤーに優しい仕様にはなっていない。分かりやすい弱点が剥き出しの敵なんて、あるはずがないのだ。
「ならば!僕が道を切り拓く!」
え?うわっ。クラークが白い剣を掲げて、城門に狙いを澄ましている。あいつ、真っ向からバリアを破る気なんだ!小細工も策も弄さず、純粋に力のみで、門をこじ開けようってんだな。短絡的と言えばそれまでだが、今のやつの姿は、ムカつくほどに勇者そのものだった。
「コンタクト・ガルネーレ!」
バララララ!紫電がうねりながら城へと飛んだ。ガキィィィン!雷がバリアに触れた瞬間、電撃が弾き返される。だがすぐに立て直すと、バリアに食らいついた。
クラークの雷は、バリアに電流を流し続ける。その度に、バリアは抵抗するかのように青白く明滅する。だが、クラークも負けていない。さらに魔力を込め、雷の勢いが増すと、目も眩むほどの閃光が走った。
「くうっ、直視してられないな……!どうなってるんだ?バリアは、破れそうなのか?」
「ううん……あれでも、まだ足りないんだ……」
驚いたことに、ライラはフラッシュの連続にも全く怯まず、まっすぐ前を見つめていた。まぶしくないのだろうか?……いや、そうじゃない。彼女の横顔を見て、俺は悟った。今のライラの目に映っているのは、二つの魔術の対決だけ。勇者と魔王、一流の魔術師同士の戦いを前にして、ライラの魂が燃え上がっているんだ。
「あのバリア、やっぱり堅い……!」
「……それなら、クラークばかりに花を持たせるわけにもいかないな。ライラ、行けるか?」
「……もちろんだよ!」
ライラは深く息を吸い込むと、低い声で途切れることなく、呪文の詠唱を開始した。周囲から見えない力が、ライラに引き寄せらえれていくようだ……
「重ねるよ!マッタブゥゥゥ……」
ライラが両手を向かい合わせる。その間に、真っ赤に燃えるエネルギーが集まっていく……!
「ビィィィーーム!」
ライラが両手を突き出した!手のひらから、赤熱する極太のビームが照射される。ビームは雷が食らいついているところへ、重なるようにぶち当たった。
ズギャアアァァァ!
「どうだ!?」
激しさを増す閃光に、俺は目を細めながら、前方を睨む。ライラのビームが加わったことで、バリアはさっきよりも短い間隔で明滅していた。だけど、そのリズムが不規則に乱れている。それに、青色がじわじわと、オレンジ色に変化してきている!
「やああああぁぁぁぁ!」
ギギギイィィィィ!ジュウウゥゥゥ!
バリアが発する音が、少しずつ変化してきた。軋み、たわむような音と、焼け焦げるような音。いいぞ!あと少しで……
だがバリアも、必死の抵抗を見せる。あと一息というところで、なかなか破れない。
(まずいぞ、ライラもクラークも、連続で魔法を使って消耗してる。これ以上長引くと……)
心なしか、さっきよりも閃光が弱まってきたようだ。本当に、あと一押しなのに!
「一人、忘れてない!」
え?城門の前に踊り出した少女が一人。尊だ!
「私だって、勇者なんだから!」
尊が目をつぶって両手を合わせると、地面が揺れ始めた。じ、地震?いや、これは……!
「ベア・フィスト!」
グゴゴゴゴ!地面から、鋭い爪のついた、バカでかい手が生えてきた!手はぐっと握り拳を作ると……
「いっけええぇぇぇぇ!」
尊の掛け声に合わせて、バリアに叩き込んだ。
グギギギギ……バリィーン!
尊の一撃が、風穴を開けた。ついに魔王城を守っていたバリアは、粉々に砕け散ったのだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ウィルがヘルズニルに仕掛けてきた爆弾は、塔を丸々一本倒壊させてしまった。ガラガラと建物が崩れ落ちていく。それはあくまでも、巨大な城の一角でしかなかったが、少なくともこの戦場においては、劇的な効果をもたらした。
浮遊砲台が、一斉に動きを止めたのだ。
「……はっ。チャンス、チャンスだ!」
目の前のスペクタクルな光景に呆気に取られていた俺だったが、この絶好の機会を逃すわけにはいかない!
「ウィルの爆発で、砲台の司令塔が吹き飛んだんだ!もうあいつらは、ふわふわ浮かぶだけの風船に過ぎない!」
アルルカが杖を構えて、氷の弾丸を一発撃ち込んだ。弾丸は砲台に命中したが、今度はバリアに弾かれることはなかった。バリアが消えている!それに、反撃もしてこない!
「一斉攻撃ぃぃぃー!」
誰かの大声が、連合軍の方から聞こえてきた。
「うおおおおー!」
雄たけびが上がり、連合軍の反撃が始まった!
魔術師たちは最後の魔力を振り絞って、砲台に魔法を浴びせかける。弓兵たちもありったけの矢を放った。
「バンブーシュート!」
「メギバレット!」
ライラとアルルカも、持ちうる魔力を全て注ぎ込んで攻撃する。空を覆うほどだった砲台は、あっという間に、目視で数えられるほどになった。
「パグマボルト!」
ガガーン!雷鳴が轟き、残った砲台を一掃した。
「砲台が消えた!これでもう、門を守るものは無くなったぞ!」
やった!城を守るバリアは残っているが、あれはあくまで魔法だけを防ぐもの。素通りしちまえば問題ない!
「よーし、一斉とつげ……」
ビイイィィィィィ!
背筋が凍り付くような、かん高いサイレン音が響き渡った。俺はびっくりして舌を噛みそうになる。その音と共に、さっきまで透明だったバリアが、急にはっきりと色を持った。鉄のような鈍い青色で、透明度は失われ、向こう側が全く見えない。
「今度はなんだ!?バリアが変わったぞ!」
「見りゃ分かるわよ、んなもん!それより問題なのは、アレが性質を変えたのかどうかでしょ!」
するとフランが、試したほうが早いとばかりに、足下のこぶし大の石ころを拾い上げた。振りかぶると、ぶんと投げる。
ゴォン!石はバリアにぶつかると、鈍い音を立てて跳ね返ってしまった。
「……最悪のケースが思い浮かんでるんだが、口に出したほうがいいか?」
「……いいわよ、別に。あたしも、おんなじこと考えてるでしょうから」
こんちくしょうが……ここに来てバリアは、物理も通さなくなったらしい。ウィルが塔を吹き飛ばしたことによって、魔王軍が警戒を引き上げたのだろうか?さっきのサイレンみたいなのが、それの合図だったんだろう。この土壇場で、よくもまあ、これほど柔軟に動けるもんだ!それとも、このバリアはもともとこういうもんで、非常時には切り替えられるようになってるのか。
(物理に強くなった分、魔法には弱くなったんじゃ……なんてのは、都合がよすぎるな)
この世界は、ゲームのようにプレイヤーに優しい仕様にはなっていない。分かりやすい弱点が剥き出しの敵なんて、あるはずがないのだ。
「ならば!僕が道を切り拓く!」
え?うわっ。クラークが白い剣を掲げて、城門に狙いを澄ましている。あいつ、真っ向からバリアを破る気なんだ!小細工も策も弄さず、純粋に力のみで、門をこじ開けようってんだな。短絡的と言えばそれまでだが、今のやつの姿は、ムカつくほどに勇者そのものだった。
「コンタクト・ガルネーレ!」
バララララ!紫電がうねりながら城へと飛んだ。ガキィィィン!雷がバリアに触れた瞬間、電撃が弾き返される。だがすぐに立て直すと、バリアに食らいついた。
クラークの雷は、バリアに電流を流し続ける。その度に、バリアは抵抗するかのように青白く明滅する。だが、クラークも負けていない。さらに魔力を込め、雷の勢いが増すと、目も眩むほどの閃光が走った。
「くうっ、直視してられないな……!どうなってるんだ?バリアは、破れそうなのか?」
「ううん……あれでも、まだ足りないんだ……」
驚いたことに、ライラはフラッシュの連続にも全く怯まず、まっすぐ前を見つめていた。まぶしくないのだろうか?……いや、そうじゃない。彼女の横顔を見て、俺は悟った。今のライラの目に映っているのは、二つの魔術の対決だけ。勇者と魔王、一流の魔術師同士の戦いを前にして、ライラの魂が燃え上がっているんだ。
「あのバリア、やっぱり堅い……!」
「……それなら、クラークばかりに花を持たせるわけにもいかないな。ライラ、行けるか?」
「……もちろんだよ!」
ライラは深く息を吸い込むと、低い声で途切れることなく、呪文の詠唱を開始した。周囲から見えない力が、ライラに引き寄せらえれていくようだ……
「重ねるよ!マッタブゥゥゥ……」
ライラが両手を向かい合わせる。その間に、真っ赤に燃えるエネルギーが集まっていく……!
「ビィィィーーム!」
ライラが両手を突き出した!手のひらから、赤熱する極太のビームが照射される。ビームは雷が食らいついているところへ、重なるようにぶち当たった。
ズギャアアァァァ!
「どうだ!?」
激しさを増す閃光に、俺は目を細めながら、前方を睨む。ライラのビームが加わったことで、バリアはさっきよりも短い間隔で明滅していた。だけど、そのリズムが不規則に乱れている。それに、青色がじわじわと、オレンジ色に変化してきている!
「やああああぁぁぁぁ!」
ギギギイィィィィ!ジュウウゥゥゥ!
バリアが発する音が、少しずつ変化してきた。軋み、たわむような音と、焼け焦げるような音。いいぞ!あと少しで……
だがバリアも、必死の抵抗を見せる。あと一息というところで、なかなか破れない。
(まずいぞ、ライラもクラークも、連続で魔法を使って消耗してる。これ以上長引くと……)
心なしか、さっきよりも閃光が弱まってきたようだ。本当に、あと一押しなのに!
「一人、忘れてない!」
え?城門の前に踊り出した少女が一人。尊だ!
「私だって、勇者なんだから!」
尊が目をつぶって両手を合わせると、地面が揺れ始めた。じ、地震?いや、これは……!
「ベア・フィスト!」
グゴゴゴゴ!地面から、鋭い爪のついた、バカでかい手が生えてきた!手はぐっと握り拳を作ると……
「いっけええぇぇぇぇ!」
尊の掛け声に合わせて、バリアに叩き込んだ。
グギギギギ……バリィーン!
尊の一撃が、風穴を開けた。ついに魔王城を守っていたバリアは、粉々に砕け散ったのだ。
つづく
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