じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

9-1 動く死体

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9-1 動く死体

「門が……」
「開いたぞ!」
「うおおおおお!勇者に加護あれ!」

兵士たちは今度こそ、大声で勝鬨を上げた。

「や、やった……はあぁ」

おっと!気が抜けたのか、ライラがへなへなと崩れ落ちる。俺は慌てて彼女を支えると、そのままひょいと抱き上げた。小柄でやせぎすのライラくらいなら、俺でも軽々だ。

「ライラ、お疲れ。さすがだな!」

「へへへ……あいつらばっかりに、いいかっこさせたくなかったんだ。ライラたちだって、こんなに強いんだぞって」

「もちろん。これを見て、誰がそんなこと言うもんか」

仲間たちの大活躍が誇らしい。とくに、バリアを破ったライラと、そして何より、塔一つを吹き飛ばして見せたウィルだ。

「ウィル!さっきの、とんでもなかったな!お前がいなかったら、今ごろみんなお陀仏だったぜ」

「えへへへ……」

ウィルは照れ臭そうに、赤くなった頬を押さえた。

「お役に立てたなら、何よりです。けど、みなさんが敵の気を引いてくれたから、あれだけ自由に動けたんですよ。それに、残念ですが、スクロールは使い切ってしまいました」

「あ、そうだったのか。そう考えると、少しもったいなかったかな……」

「いいえ、あの場でよかったと思いますよ。私のはやっぱり、準備に時間がかかり過ぎますから。いざという時に頼りになるのは、私じゃなくて、桜下さんの力です」

「お、そ、そうか?」

「そうですよ。温存ができてよかったです。頼りにしてますからね?」

「わかったよ。そう言われちゃ、気を引き締めないとな」

ウィルの言う通り、俺の能力……ソウルレゾナンスは、切り時を慎重に見極めないといけない。なにせ、一日一回しか使えないのだ。焦って使いどころを誤ったら、取り返しがつかない。
戦いがひと段落したところで、連合軍は怪我人の手当てを始めた。尊も俺たちに別れを告げ、自分の国の陣営に戻って行った。城へ突入するまで、少しだけ間がありそうだ。

「それにしても、ウィル……」

「はい?」

「お前、スクロールを作れるんだよな。どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ」

「はあ……どうしてですか?」

「だってあれ、すっごい高値で売れるじゃないか!あれがあれば、万年金欠ともおさらばだ!」

「桜下さん……そんなこと考えてたんですか?」

ウィルはため息をつくと、額を押さえた。抱っこしたライラが、不思議そうに首をかしげる。

「スクロールって、そんなに高いの?」

「ああ。あれを山ほど買い込むには、国を買えるくらいの金が必要なんだってさ」

「えーっ。あんなの、ただの紙だよ?」

「いやいや、魔法が使える紙を、ただの紙とは言わんだろ」

「だって、自分で使えばいいだけじゃん。誰が買うの?そんな高いお金だして」

「そりゃあ、俺みたいな魔法が使えないやつとか……」

「桜下にはライラがいるじゃん!やっぱりいらないよ、そんなの」

ん、んん?ライラのやつ、いまいち理解できていない気がするが……

「ふふふ。私も、ライラさんの助け無しでは量産できると思えません。儲け話はまたの機会にですね」

ウィルはなぜか、にこにこと微笑んでいた。貧乏がそんなに嬉しいか?もともと質素堅実なウィルは、美味い話にさほど興味は湧かないのかもしれない。

「まあ、いいさ。どっちみち、この戦いが終わらないとな……ふうぅ。信じられるか?これだけ苦労して、まだ中にすら入ってないんだぜ?玄関をノックしただけだ」

「ずいぶん荒っぽいノックですけどね……」

俺がぐちをこぼすと、アルルカが小馬鹿にしたように、くつくつと笑う。

「くくく……あんた、わかっちゃないわねぇ」

あん?やつは得意げに指を一本立てると、偉そうにふんぞり返る。

「いい?城ってのは、いかに門を開かせるかの勝負なのよ。扉が開いたなら、半分は終わったみたいなもんなんだから」

「へえ。知ったように言うじゃないか。城の持ち主だった経験か?」

「まあね。ここよりあたしの城の方が、何倍も優雅だったけど」

するとフランが、ぼそりと呟く。

「確かにその通りだ。あの時も、門番を倒したら、あとは早かったし」

ふんぞり返っていたアルルカが、腰を痛めたような顔になった。俺はケラケラ笑うと、改めてヘルズニルを見上げる。

「そうかもしれないな。ここまでが半分。あともう半分だ。これが終われば、晴れて俺たち、自由な第三勢力ってわけだぜ」

フランはこくりとうなずいた。ライラは目をキラキラさせて、俺の肩にぎゅっと手を回す。俺とアニとフランだけで始まった旅は、気付けばこんなところまで来た。遠いとこまで来たものだ……けど、感慨に浸るのはまだ早い。

「さあ、もうひと踏ん張りだ」



それから間もなく。ヘルズニルの城門に、魔術師たちの魔法が雨のように降り注いだ。門は頑丈な黒い金属で作られていたが、さっきのバリアのような守りはなかった。あのバリアがあれば十分だと思っていたんだろうな。魔術師の集中砲火によって、鉄扉は紙のようにひしゃげ、吹き飛んだ。俺たちは連合軍の後に続いて、ヘルズニルへと足を踏み入れた。

「うわ……なんだ、この建物は」

おそらくここは、城の玄関ホールのはず……だが、二の国の王城や、一の国の宮殿とはまるで違う。というか、俺の知る限りのどの建築様式にも当てはまらない。およそ人間が作ったとは思えない建物だ。
壁沿いに立ち並ぶ柱は、真ん中あたりからぐにゃりと歪んでしまっている。壁も表面が湾曲していて、まっすぐな場所は一辺もない。螺旋に伸びる階段は、俺の頭上で、他の階段と絡み合っていた。

「なんだか、目が回りそうなの……」

ロウランは階段の行く末を見上げて、本当にぐりぐりと目を回している。同感だな、どうしてどこもかしこも、ぐねぐねと曲がっているんだ?まるで子どもがフリーハンドで線を引いたような建物だ。きっちり直線の場所がどこにもない。

「外から見た時も変な城だと思ったけど、中も予想を裏切らなかったか」

「ひとまず、建物のおかしさは置いておいて。それより、他にも違和感があるよ」

ん?フランは油断なく、辺りを警戒していた。

「どうして、こんなに静かなんだろう?あれだけ派手に門を吹き飛ばしたんだ、わたしたちが中に入ったことは、敵も気付いているはず」

おっと、そうだった。確かに妙だな。さっきはあれほど手厚い歓迎を受けたにもかかわらず、城内はシンと静まり返っている。かすかに焦げ臭いのは、ウィルが起こした大爆発のせいだろう。

「見張りの一人もいないのか……?」

「そうなんです。このお城、誰もいないんですよ」

ウィルが城の一角、おそらく崩れた塔があったあたりを指さした。

「さっき、砲台の基地を探している時も、魔物は一体もみませんでした」

「ああ、ちゃんと調べてたんだな」

「はい。殺しはしない、ですからね」

うん、さすがウィルだ。それを知った上で、塔を吹っ飛ばしたんだな。アルルカは呆れて、「そんなの気にしているから、目当ての部屋が見つけられないのよ」と嫌味を言い、それに対してウィルはべーっと舌を出してから、俺に向き直った。

「おかしくないですか。お城を守る魔物が、一体もいないだなんて」

「そうだよな。いくら打撃を受けたとはいえ、まさか魔王軍が全滅したわけじゃあるまいし……」

しかし、ならなぜ、城内の侵入者に対し、なんのリアクションも取らない?連合軍も異様な静けさを妙に感じているようだったが、だからと言ってグズグズしてもいられない。

「ひとまず、この辺りを調べてみようか」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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