じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

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「……ダメだ。レーヴェは、命令を守ル」

レーヴェは、首を横に振った。くっ!だけど、彼女ははっきりと悩んでいた。揺れているのなら、崩しようがあるかもしれない。

「レーヴェ。命令って言ったけど、それは誰からの命令なんだ?あの部屋を作って、お前をあんな目に遭わせた奴か?そんな奴でもまだ、お前は忠誠を誓うのかよ?」

「……命令は、命令ダ」

「……そうか。お前も、あのヴォルフガングとかいう魔物と同じなんだな。あいつも、魔王を絶対的にあがめてたよ。てことは、あの狼も、自ら望んでああなったってことか?」

「そんなわけなイ!」

突然、レーヴェが大声を出した。

「あんなの、レーヴェだって嫌だっタ!誰が、あんな姿に、望んでなるものカ!」

レーヴェの剣幕に一瞬怯んだが、すぐに落ち着きを取り戻す。こうなるのを、待っていたんだ。

「そうだよな。お前だって、ほんとは嫌だったはずだ。知ってるか?お前が生きてるって教えてくれたのは、あの狼だったんだぜ」

「え?」

「あいつが、死に際に教えてくれたんだ。だから俺たちは、お前を助け出せた」

「…………」

レーヴェの黄金色の瞳が、にわかに潤んだ。くぅ、心が痛いな……だけど、心を鬼にしなければ。ここで彼女を味方にできないと、俺たちは闇の中で敵と戦うことになる。

「レーヴェ。お前だって、あれには納得してないんだろ?」

「……当たり前ダ。あんな、気持ち悪いもノ……!」

レーヴェは両手で目を拭いながら言う。

「なら、それを話してくれよ。それによって、俺たちがすべきことも変わってくるはずだ」

「すべきこト……?」

「そうだ。俺たちが一体、誰と戦わなくちゃいけないのか、だな」

レーヴェはよく分からないとばかりに、眉根を寄せた。

「オマエたち勇者は、レーヴェたちヲ滅ぼすために来たんじゃないのカ?」

「うん?まさか、ちげーよ。少なくとも俺はな。ま、他がどうかはわからねーが」

俺はちらりとクラークを見る。クラークはふんと鼻を鳴らした。

「僕が滅ぼすのは悪だ。君も知っているだろう」

「知ってるよ、耳タコだから。それで?」

「つまり、例え魔物であっても、善の心を持つのであれば、僕の敵ではないってことさ。なにもすべての魔物が、悪に堕落しているわけじゃないだろう」

ほう、珍しく聞き分けが良いな。初めはもっと石頭だったと思ったが?俺たちを認めたことで、やつの中でも変化があったのだろうか。

「だからこそ、僕も君の口からはっきりと聞きたい。僕が何を滅ぼすことになるのかは、それ次第だ」

クラークはきっぱりと言った。多少融通が利くようになっても、根っこは変わらないらしい。もしもレーヴェを悪だと判断したら、コイツは本当に彼女を切るだろう……俺は真剣な顔で、レーヴェを見る。

「てことだ、レーヴェ。圧を掛けるようだが、お前の返答次第だ。できれば、本当のことを正直に話して欲しい」

「……」

「それに、俺の見たところ、お前が守りたいのは、魔王じゃないんじゃないか?」

「……!」

やっぱり、か。レーヴェたちをあそこに閉じ込めたのは、魔王の命令だろう。だがレーヴェは、それを不服に感じている。それなら、レーヴェが頑なに守ろうとしている命令は、他の誰かから出されたものってことだろ?

「う、ううぅ……」

レーヴェは低く唸りながら悩んでいる。だが、その時間は長くはなかった。

「……わかっタ。魔物全てを、滅ぼされては困ル。あの部屋のことを話せばいいのカ?」

「っ!ああ、助かるよ!それで、あの実験室みたいなところは、一体何なんだ?」

「そのまま、実験室ダ。レーヴェたちが聞かされた話でハ、あそこで魔力の増幅が行われていたらしイ。レーヴェたちは一番魔力が弱くテ、その分数を増やさなければならなかっタと」

「え?待つんだ、その言い方だと……」

クラークが腰を浮かせると、驚愕の表情でレーヴェをせき止めた。

「まるで……まるで他にもあるみたいじゃないか!その装置が!」

「そうダ。他にもあル」

レーヴェは当然のように、あっさりと認めた。クラークは口を大きく開けたかと思うと、ふらふらと倒れるように腰を下ろした。

「そんな……ことが、許されるものか!」

「許す、許されるの問題じゃなイ。魔王様は、決めたことは必ずやル。そして、失敗した部下に容赦しなイ」

「くそ!」

クラークは拳で床を殴りつけた。俺も、口の中に灰を押し込まれた気分だ。

「レーヴェ……あんな機械が、後いくつあるのか、知ってるか?」

「詳しくは知らなイ。だが、多くはないはずダ。あれは、急ごしらえで作られたものだかラ」

「急ごしらえ?元から計画されていたことじゃ、ないってことか?」

「分からなイ……でも、急いでタ。ヴォルフガング様は酷く焦って、イライラしていタ……」

レーヴェはその時のことを思い出したのか、ぶるっと頭を振るった。

「ん?でもレーヴェ、その命令を下したのは、魔王本人じゃないのか?」

「そうダ。そうだけど、実際に動いていたのは、ヴォルフガング様ダ」

ヴォルフガングか……あの鳥骨頭の狂信っぷりは、短時間でもよく伝わった。なるほど、あいつなら魔王のために、いくらでも犠牲を払うだろう。

「つーことは、実質指揮を執ってたのは、そのヴォルフガングだったってことだな」

アドリアが腕組みしてうなずく。

「どうやら、そのヴォルフガングとやらについて、詳しく知る必要がありそうだ」

「ああ。こいつが今んとこ、ぶっちぎりでイカレてるしな。レーヴェ、そいつはどんな奴だ?確か、三幹部の一人だとか言ってたけど」

レーヴェは力なくうなずいた。

「うン……恐ろしいお方ダ。怒らせると、味方にも容赦がなイ。それに、魔王様にとても信頼されていル。魔王様の右腕だと、ドルトは言ってた。でも、魔王様にはちゃんと右手があるのにって、レーヴェはいつも思ってた。ヴォルフガング様がお怒りになった時、ドルトはいつも、レーヴェたちをかばってくれて」

「ん、ん?ちょっと待ってくれレーヴェ、その、ドルトっていうのは?」

「ドルトは、レーヴェの上官ダ。三幹部の一角でもあル」

お、ここに来て二人目が判明したぞ。ドルト、か……いったいどんな魔物だろう?

「まさか、そのドルトってやつも、ヴォルフガングの片棒を担いでるわけじゃないよな?」

「ちがウ!ドルトは優しい!あいつはいいやつダ!」

うわっ!レーヴェがいきなり大声を出したので、みんな驚いた。ミカエルは息を詰まらせたのか、けほけほとむせている。

「ドルトのこと悪く言うのは、許さないゾ!」

「わ、わかった、悪かったって」

レーヴェはそれでもぐるるると唸っている。……ぷっ。笑っちゃ悪いけど、吹き出しそうだ。だって、フランにそっくりだったから。仕草もそうだが、なにより、大切な相手のために唸るところが。俺がちらりとフランを見ると、フランは不思議そうに見つめ返してきた。くくくっ。

「そっか。魔王軍にも、いいやつがいるんだな」

ある意味じゃ、これが一番の収穫だ。

「うン。レーヴェ、ドルトには死んでほしくなイ。レーヴェたちにも、死ぬなって言ってくれたんダ。きっと今ごろ、レーヴェたちが死んだと思って、悲しんでル……」

いたたまれない空気が、辺りを包んだ。口を開くきっかけを失った俺は、このまま続けるべきか、それとも切り上げるべきか悩んでいた。その時だ。

「……私からも、一ついいだろうか」

お?一歩前に出たのは、アドリアだった。

「私はアドリアという。そこの、クラークの仲間だ」

「……知ってル。前に見たからナ」

「そうか。私はかつて傭兵をしていた都合、お前たち魔物に少しは詳しいと自負している。それでも、お前のような人型の……いや、人間そっくりの魔物というのは、初めて見る」

おや?その話、つい最近にも……そうだ、アルアからも似たような話を聞いた。

「私だけに限らず、他の傭兵仲間も同じ事を言っていた。失礼でなければ、お前さんの出自について、訊かせてもらえないだろうか」

レーヴェの出自、か。確かに気になるな。なにせ、狼の耳を持ち、だが両脚のない、女の子のような見た目の、魔物だ。てんこ盛り過ぎるぜ?
レーヴェが首をかしげる。

「レーヴェの、シュツジ?」

「君は、どのように生まれたんだ?つまり、母親と父親はどのような種族か、ということだが」

「そういうことカ……レーヴェは、狼だ」

「狼?狼と、人型の魔物の混血ということか?」

「違う。レーヴェは、狼だっタ……」

だった?どうして過去形なんだ?

「……レーヴェ。君はもしや」

レーヴェは、力なくうなずいた。

「そうダ。レーヴェがこの姿になったのは、レーヴェも実験されたから。魔王・ファーストによっテ」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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