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17章 再開の約束
20-1 レーヴェとドルト
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20-1 レーヴェとドルト
「けほっ、ごほっ。いてて……」
「こほこほ。うぅ……はっ。桜下、だいじょうぶ?」
煤にまみれたライラが、慌てた様子で、ぺたぺたと這ってくる。俺は安心させてやりたくて、無理に微笑みかけた。
「ああ。ギリギリだったけど、何とか間に合った」
「そ、そっか。よかった……」
「けど、危ないところだったな……」
俺とライラは、すっかり様変わりしてしまった部屋を眺めた。ガラスは全て飛び散り、壁際にあった鉢植えは、無残にも吹き飛ばされてしまった。美しかった室内は、一瞬で荒れ果てた廃墟と化してしまった。
「桜下!ライラ!」
「桜下さーん!ライラさーん!無事ですか!?」
おっと。背後から、騒々しい足音が聞こえてくる。振り返るまでもなく、フランが銀髪を振り乱して、俺たちの側に滑り込んできた。
「平気!?怪我してない?わたしが誰だかわかる!?」
「だ、大丈夫だって。頭打ったわけじゃないんだから」
「ほんとに?ちゃんと言える?」
「言えるよ。俺を八つ裂きにしてやるって言った女の子だ」
「……」
ひいっ!フランは鬼のような形相で俺を睨むと、ガシッ!両手で俺の顔を掴み、思い切りぐにぐにしてきた。
「やっぱり、ちょっと頭を打ったみたいだね」
「ぐわ、め、目が……」
フランのガントレットが食い込んできて、め、目玉が飛び出しそうだ……腕をバシバシタップしていると、ふっと力が緩んだ。そのまま、フランが体を投げ出してくる。俺は胸で、彼女を抱きとめる形になった。
「……悪い。心配かけたな」
「……心臓に、悪いよ」
「あはは。そりゃ、大変だ」
さらさらの銀髪を撫でていると、他の仲間たちや、連合軍の兵士なんかが駆け寄ってきた。
「桜下さん!ああよかった、無事だったんですね。ライラさんも、ああ、本当によかった!」
ウィルは安どの表情で胸を押さえると、へなへなとひざから崩れ落ちた(幽霊だから、そのまま半分くらい床にめり込んでしまったが)。
「おねーちゃん、そんなに心配したの?ふふん。ライラと桜下が、負けるわけないじゃん!」
「ええ、それはそうなんですが……だとしても、最後の爆発は、驚きましたよ。まさか、自爆するだなんて……」
自爆、か。ドルトヒェンの最後の攻撃は、みんなにそう見えたことだろう。彼女の決死の攻撃は、勇者をもろとも相討ちにしたかに思われたが、辛くも勇者は生き延びた。筋書きとしちゃ、こんなところか。ちっ、胸糞わるいシナリオだ。あいにくと俺は、そういうのは趣味じゃない。
「そのことなんだけどな。ウィル、ちょっといいか?あと、ロウランも」
「え?はい、なんですか?」
「アタシも?なんなの、ダーリン?」
ウィルとロウランが顔を見合わせ、近づいてくる。
「実はな……」
彼女らの耳元に口を寄せて、小声で指示を伝えた。その内容を聞いた二人は目を真ん丸くしたが、すぐにうなずくと、実にさりげないそぶりで、それとなく俺のそばを離れて行った。
「桜下!おぬし、無事だったか!」
ぐえっ。バシッと背中が叩かれた。こ、この馬鹿力とだみ声は……
「エドガー……お前、俺を無事じゃなくしたいのか?」
「わっはっは!減らず口が叩けるのも、命あってというものよ。見事な戦いだった!」
くそ、調子いいぜ……エドガーは上機嫌で俺の肩を掴むと、笑顔を引っ込め、声を潜めた。
「だが、最後のアレには肝を冷やしたぞ。さすがのお前でも、死神に襟首を掴まれたと思ったわ」
「ふふん、ご心配どうも。期待に沿えなくて悪いな」
「ふんっ!それで、最後のアレは、自爆だったのか?あの女魔族の姿が見えんが」
「ああ。死なばもろとも、だったんだろうな。目論見は外れたけど」
「そうか。うむ、何はともかく、ご苦労だった」
エドガーはもう一度肩を叩くと、あごを高く上げて、周りの兵士に呼びかけた。
「お前たち!三幹部の二柱目が、ついに倒された!我々の勝利だ!」
うわあー!一斉に歓声と、万歳と、拍手と、とにかくそう言った祝辞が飛び交った。ふう……確かに、エドガーの言うことも一理ある。何はともあれ、これで魔王に一歩近づいた。
「よし。おぬしは一度、光の聖女様の下へ行け。体を治してから、ゆっくりついてくるがよい」
「……あんまり気は、乗らないけどな」
「気持ちは分からんでもないがな。おぬしとしても、同じ内容で説教されるのは、いい気分でもなかろう?」
「ちっ。わーったよ」
しょうがない、この後にもまだまだ、残りの四天王が残っているんだから。いつでも戦えるようにしておかないとな。
俺はフランの肩を借りて、立ち上がった。いてて、ソウルレゾナンスの後は、いつもこれだからな。俺が足を引きずりながら、キサカの下へ向かい始めた、その時だった。
「うわっ。こいつ!」
「まて、こら!」
「どけ!ドルト、ドルトぉー!」
うん?この声は……騒がしい方へ顔を向けると、数人の兵士たちが、何か小さなものを押さえつけている。
「あれは……レーヴェか」
「うん。騒ぎを聞きつけたんだ」
狼に似た少女、レーヴェが、兵士たちを振り払おうと躍起になっている。
「はなセ!はなセー!」
「こいつめ、いつ抜け出しやがった!」
「戦いのスキに乗じて逃げ出したみたいだ。くそ、どうせ動けないと思って油断した」
兵士たちはレーヴェを引っ掴むと、そのまま連れて行こうとする。いても立っても居られなくなった俺は、アルルカのマントを引っ張った。
「アルルカ、頼む。あの子を連れてきてやってくれ」
「はぁ?あたしが?」
「頼むよ。ほら、急がないと」
「ええ……もぉー、面倒事にはすーぐ首突っ込むんだから」
アルルカはぶちぶち言いながらも、翼を広げて、レーヴェの下へと飛んで行った。そのまま兵士たちの目の前に降り立つと、呆気にとられる彼らの手からレーヴェをむしり取り、すぐさまこっちに戻ってくる。
「ほら。三角耳のお届け物よ」
「コラ、なにすんダ!はなセー!」
「ご苦労さん、アルルカ。しばらく持っといてくれ。んでもって、エドガー!この子は責任もって戻しとくから、しばらく貸してくれー!」
俺が呼びかけると、エドガーは背中を向けたまま、ひらひらと手を振った。好きにしろってことだな。
「よし。そんじゃ、行こう」
「行こうって、こいつも連れてく気?」
「ここじゃ目立つだろ。とりあえず、静かな所まで行こうぜ」
アルルカは不満げだったが、こんなに目と耳があるところじゃ、あの事は話せない。奇異の視線が追っかけてくるのを感じながら、俺たちは後方部隊がいる、隊の最後尾へと向かった。
「うず……ぐじゅ……ドルト、ドルト……」
俺たちが歩き始めると、レーヴェは次第に抵抗しなくなり、代わりにずびずびと鼻をすすり始めた。狼そっくりの耳はしんなりと垂れ、床には時折、ぽたぽたと透明なしずくが垂れている。がぁー、まいったな、もう。
「はぁー。レーヴェ、そんなに泣くなよ。しょうがないな」
俺はフランから離れると、屈みこんで(背中がピキピキ言った……)、レーヴェの垂れた狼耳を持ち上げ、口を近づけた。
「いいか、よく聞けよ。あのドルトヒェンとかいう魔族は、死んじゃいないよ」
「……情けなんか、かけるナ。おまえなんかに、慰めてほしくなイ!」
「おう、あいにく俺も、そこまでお人好しじゃねえ。これはつまらない慰めなんかじゃなくて、事実だ。今俺の仲間が、あいつを治療してるところだ」
俺が真剣だと気づいたのか、レーヴェは垂れた耳をピンと立てて、こっちを見た。
「ほっ、ほんとに?」
「ああ。確かにあいつは、自爆しようとした。けど、ギリギリのところで邪魔してやったんだ。酷い怪我だけど、死んじゃいない。今はがれきの陰に隠してる」
ドルトヒェンの決死の特攻が失敗に終わったにも関わらず、レーヴェは安堵と喜びを隠そうとはしなかった。
「そ、そうだったのカ……」
「ああ。だから、そんなに泣くな。このまま大人しくしといてくれれば、後で会わせてやるよ」
「いいのカ?レーヴェは、ホリョなのだロ?」
「だから、こっそりな。目立たないよう、大人しくしといてくれ」
俺が念を押すと、レーヴェは力強くうなずいて、口をばっと押えた。息も漏らすまいって感じだな。俺はにっこり笑うと、体を起こして、再びフランの肩を借りた。
「甲斐甲斐しいね」
「……そりゃ、皮肉か?」
フランの横顔に訊ねる。面白くなさそうな顔をしているけど、かといって怒っているわけではなさそうだ。
「半々、かな。あなたの誰にでも優しい所は好きだけど、ちょっともどかしくもなるよ」
「もどかしい?」
「この子や、あの魔族が、恩を感じているとは限らないってこと」
「……見捨てて、見殺しにした方がよかったって、言いたいわけじゃないんだろ」
「うん。でも、それをあの子に言う必要は、なかったかもしれない。元気が無くなれば、また戦おうって気にもならなくなる。従順な捕虜は、何かと使い道が多いでしょ」
俺はぞくりと震えた。フランの言っていることは恐ろしいが、でも正しいことに思えた。今は、戦争中だ。時には非情にならないと、自分や、それ以外の人たちを守れないかもしれない。
「確かに、そうかもしれないな。でもさ」
「ん?」
「戦いが終わった後、後世に伝わるような話は、必ず美談だろ。誰それをうまく騙して利用したとか、どこそこの部隊を何人ぶっ殺したとか、そう言うんじゃなくてさ。まぬけかもしれないけど、それでも聞いた人の心がじんわりするような、そんなエピソードを残したかったんだよ」
フランはきょとんとした顔で、俺をまじまじと見つめた。それから、呆れたようにフッと笑う。
「あんがい、勇者の素質があるよ、あなた」
「え?あはは、それこそ冗談だ」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「こほこほ。うぅ……はっ。桜下、だいじょうぶ?」
煤にまみれたライラが、慌てた様子で、ぺたぺたと這ってくる。俺は安心させてやりたくて、無理に微笑みかけた。
「ああ。ギリギリだったけど、何とか間に合った」
「そ、そっか。よかった……」
「けど、危ないところだったな……」
俺とライラは、すっかり様変わりしてしまった部屋を眺めた。ガラスは全て飛び散り、壁際にあった鉢植えは、無残にも吹き飛ばされてしまった。美しかった室内は、一瞬で荒れ果てた廃墟と化してしまった。
「桜下!ライラ!」
「桜下さーん!ライラさーん!無事ですか!?」
おっと。背後から、騒々しい足音が聞こえてくる。振り返るまでもなく、フランが銀髪を振り乱して、俺たちの側に滑り込んできた。
「平気!?怪我してない?わたしが誰だかわかる!?」
「だ、大丈夫だって。頭打ったわけじゃないんだから」
「ほんとに?ちゃんと言える?」
「言えるよ。俺を八つ裂きにしてやるって言った女の子だ」
「……」
ひいっ!フランは鬼のような形相で俺を睨むと、ガシッ!両手で俺の顔を掴み、思い切りぐにぐにしてきた。
「やっぱり、ちょっと頭を打ったみたいだね」
「ぐわ、め、目が……」
フランのガントレットが食い込んできて、め、目玉が飛び出しそうだ……腕をバシバシタップしていると、ふっと力が緩んだ。そのまま、フランが体を投げ出してくる。俺は胸で、彼女を抱きとめる形になった。
「……悪い。心配かけたな」
「……心臓に、悪いよ」
「あはは。そりゃ、大変だ」
さらさらの銀髪を撫でていると、他の仲間たちや、連合軍の兵士なんかが駆け寄ってきた。
「桜下さん!ああよかった、無事だったんですね。ライラさんも、ああ、本当によかった!」
ウィルは安どの表情で胸を押さえると、へなへなとひざから崩れ落ちた(幽霊だから、そのまま半分くらい床にめり込んでしまったが)。
「おねーちゃん、そんなに心配したの?ふふん。ライラと桜下が、負けるわけないじゃん!」
「ええ、それはそうなんですが……だとしても、最後の爆発は、驚きましたよ。まさか、自爆するだなんて……」
自爆、か。ドルトヒェンの最後の攻撃は、みんなにそう見えたことだろう。彼女の決死の攻撃は、勇者をもろとも相討ちにしたかに思われたが、辛くも勇者は生き延びた。筋書きとしちゃ、こんなところか。ちっ、胸糞わるいシナリオだ。あいにくと俺は、そういうのは趣味じゃない。
「そのことなんだけどな。ウィル、ちょっといいか?あと、ロウランも」
「え?はい、なんですか?」
「アタシも?なんなの、ダーリン?」
ウィルとロウランが顔を見合わせ、近づいてくる。
「実はな……」
彼女らの耳元に口を寄せて、小声で指示を伝えた。その内容を聞いた二人は目を真ん丸くしたが、すぐにうなずくと、実にさりげないそぶりで、それとなく俺のそばを離れて行った。
「桜下!おぬし、無事だったか!」
ぐえっ。バシッと背中が叩かれた。こ、この馬鹿力とだみ声は……
「エドガー……お前、俺を無事じゃなくしたいのか?」
「わっはっは!減らず口が叩けるのも、命あってというものよ。見事な戦いだった!」
くそ、調子いいぜ……エドガーは上機嫌で俺の肩を掴むと、笑顔を引っ込め、声を潜めた。
「だが、最後のアレには肝を冷やしたぞ。さすがのお前でも、死神に襟首を掴まれたと思ったわ」
「ふふん、ご心配どうも。期待に沿えなくて悪いな」
「ふんっ!それで、最後のアレは、自爆だったのか?あの女魔族の姿が見えんが」
「ああ。死なばもろとも、だったんだろうな。目論見は外れたけど」
「そうか。うむ、何はともかく、ご苦労だった」
エドガーはもう一度肩を叩くと、あごを高く上げて、周りの兵士に呼びかけた。
「お前たち!三幹部の二柱目が、ついに倒された!我々の勝利だ!」
うわあー!一斉に歓声と、万歳と、拍手と、とにかくそう言った祝辞が飛び交った。ふう……確かに、エドガーの言うことも一理ある。何はともあれ、これで魔王に一歩近づいた。
「よし。おぬしは一度、光の聖女様の下へ行け。体を治してから、ゆっくりついてくるがよい」
「……あんまり気は、乗らないけどな」
「気持ちは分からんでもないがな。おぬしとしても、同じ内容で説教されるのは、いい気分でもなかろう?」
「ちっ。わーったよ」
しょうがない、この後にもまだまだ、残りの四天王が残っているんだから。いつでも戦えるようにしておかないとな。
俺はフランの肩を借りて、立ち上がった。いてて、ソウルレゾナンスの後は、いつもこれだからな。俺が足を引きずりながら、キサカの下へ向かい始めた、その時だった。
「うわっ。こいつ!」
「まて、こら!」
「どけ!ドルト、ドルトぉー!」
うん?この声は……騒がしい方へ顔を向けると、数人の兵士たちが、何か小さなものを押さえつけている。
「あれは……レーヴェか」
「うん。騒ぎを聞きつけたんだ」
狼に似た少女、レーヴェが、兵士たちを振り払おうと躍起になっている。
「はなセ!はなセー!」
「こいつめ、いつ抜け出しやがった!」
「戦いのスキに乗じて逃げ出したみたいだ。くそ、どうせ動けないと思って油断した」
兵士たちはレーヴェを引っ掴むと、そのまま連れて行こうとする。いても立っても居られなくなった俺は、アルルカのマントを引っ張った。
「アルルカ、頼む。あの子を連れてきてやってくれ」
「はぁ?あたしが?」
「頼むよ。ほら、急がないと」
「ええ……もぉー、面倒事にはすーぐ首突っ込むんだから」
アルルカはぶちぶち言いながらも、翼を広げて、レーヴェの下へと飛んで行った。そのまま兵士たちの目の前に降り立つと、呆気にとられる彼らの手からレーヴェをむしり取り、すぐさまこっちに戻ってくる。
「ほら。三角耳のお届け物よ」
「コラ、なにすんダ!はなセー!」
「ご苦労さん、アルルカ。しばらく持っといてくれ。んでもって、エドガー!この子は責任もって戻しとくから、しばらく貸してくれー!」
俺が呼びかけると、エドガーは背中を向けたまま、ひらひらと手を振った。好きにしろってことだな。
「よし。そんじゃ、行こう」
「行こうって、こいつも連れてく気?」
「ここじゃ目立つだろ。とりあえず、静かな所まで行こうぜ」
アルルカは不満げだったが、こんなに目と耳があるところじゃ、あの事は話せない。奇異の視線が追っかけてくるのを感じながら、俺たちは後方部隊がいる、隊の最後尾へと向かった。
「うず……ぐじゅ……ドルト、ドルト……」
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「はぁー。レーヴェ、そんなに泣くなよ。しょうがないな」
俺はフランから離れると、屈みこんで(背中がピキピキ言った……)、レーヴェの垂れた狼耳を持ち上げ、口を近づけた。
「いいか、よく聞けよ。あのドルトヒェンとかいう魔族は、死んじゃいないよ」
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「ほっ、ほんとに?」
「ああ。確かにあいつは、自爆しようとした。けど、ギリギリのところで邪魔してやったんだ。酷い怪我だけど、死んじゃいない。今はがれきの陰に隠してる」
ドルトヒェンの決死の特攻が失敗に終わったにも関わらず、レーヴェは安堵と喜びを隠そうとはしなかった。
「そ、そうだったのカ……」
「ああ。だから、そんなに泣くな。このまま大人しくしといてくれれば、後で会わせてやるよ」
「いいのカ?レーヴェは、ホリョなのだロ?」
「だから、こっそりな。目立たないよう、大人しくしといてくれ」
俺が念を押すと、レーヴェは力強くうなずいて、口をばっと押えた。息も漏らすまいって感じだな。俺はにっこり笑うと、体を起こして、再びフランの肩を借りた。
「甲斐甲斐しいね」
「……そりゃ、皮肉か?」
フランの横顔に訊ねる。面白くなさそうな顔をしているけど、かといって怒っているわけではなさそうだ。
「半々、かな。あなたの誰にでも優しい所は好きだけど、ちょっともどかしくもなるよ」
「もどかしい?」
「この子や、あの魔族が、恩を感じているとは限らないってこと」
「……見捨てて、見殺しにした方がよかったって、言いたいわけじゃないんだろ」
「うん。でも、それをあの子に言う必要は、なかったかもしれない。元気が無くなれば、また戦おうって気にもならなくなる。従順な捕虜は、何かと使い道が多いでしょ」
俺はぞくりと震えた。フランの言っていることは恐ろしいが、でも正しいことに思えた。今は、戦争中だ。時には非情にならないと、自分や、それ以外の人たちを守れないかもしれない。
「確かに、そうかもしれないな。でもさ」
「ん?」
「戦いが終わった後、後世に伝わるような話は、必ず美談だろ。誰それをうまく騙して利用したとか、どこそこの部隊を何人ぶっ殺したとか、そう言うんじゃなくてさ。まぬけかもしれないけど、それでも聞いた人の心がじんわりするような、そんなエピソードを残したかったんだよ」
フランはきょとんとした顔で、俺をまじまじと見つめた。それから、呆れたようにフッと笑う。
「あんがい、勇者の素質があるよ、あなた」
「え?あはは、それこそ冗談だ」
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