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17章 再開の約束
21-3
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「桜下さん、どう思いますか?」
ウィルが耳元でささやいてくる。みんなに気付かれないように、俺も声を潜めた。
「どうって、この成り行きのことか?」
「ええ……桜下さんは、クラークさんと同じように、疑っていたみたいですけど」
「まあな。けど、いいんじゃないか。みんなが安全になるのなら、ちょっとくらい胡散臭くても探す価値はあるだろ」
「ですか……」
ウィルは微妙そうな顔をしている。と、アルルカが首にがばっと手を回してきた。
「うわ!なんだよ、アルルカ」
「あんた、ほんっとに甘ちゃんね!あんなこと言われて、腹立たないわけ?」
「は?何のことだよ」
「だから、あの偉そうなオヤジよ。戦っているのは自分たちも同じだなんて、よく言えたものね」
「わっ、バカ、あんまりそういうこと、大声で言うなよな……」
俺は冷や冷やしながら、後ろを振り返る。幸い将校とエドガーたちは、難しい顔で話し合っていて、こっちの声は届いていないようだ。
「だって、そうじゃないの。実際戦ってるのはあたしたちでしょう。あいつらザコじゃなくて」
「いや、そんなことは……」
「ほんとにお人好しねぇ。けどあいつらだって、きっとそう思ってるわよ」
「は?」
「あいつらは、勇者対魔王になることを望んでるはずよ。それが一番安全だもの」
む……俺たちが、危険を押し付けられているって言いたいのか?そんな風には考えたことなかったが……
「あー。ごほん。諸君ら、少し聞いてくれんか」
俺たちが話している間に、向こうでもまとまったらしい。しかめっ面をしたエドガーが歩み寄ってきた。
「事情は、おおむねわかった。にわかには信じがたい話だ。だが、事実である可能性も否定できん。そうだな?」
エドガーは俺たちに訊ねたというより、ヘイズに確認したみたいだった。ヘイズは何も言わなかったが、それが最大の肯定だ。
「ならば、確かめてみるほかあるまい。異議無いな?」
沈黙。無言は最大の肯定だ。もっとも、クラークは不満たらたらだけど。エドガーはうなずいた。
「よし。では、サード。その鏡とやらの在処、教えてもらおう」
お?エドガーまで、サードをサードと呼ぶことにしたのか。サードは、「初めから素直に訊いておけばいいのに」と言いたげな、ふてぶてしい態度でうなずくと、視線をついと滑らせた。
「この先に、隠し扉がある。そこに隠されているんだ」
「その扉とやらは、どんなだ?」
「巧妙に隠されているから、見つけるのは難しいだろう。その場所まで来たら、僕が報せる。後の判断はそちらに任せるよ」
「うむ、わかった。では、進行を再開するぞ」
話しはまとまったようだ。結局探すことにしたんだな。
(しっかし、ほんとにそんなアイテムがあるのかね?)
ゲームなら、こういうイベントは定番だ。ラスボスを倒す為のキーアイテムが、ラストダンジョンの奥深くに隠されている。勇者一行はそれを手に入れて、魔王をやっつける……いかにもありがち。だけど、今俺たちがいるのは、現実だ。ゲームの中じゃない。
(もっとも、勇者が魔王を倒そうとしているってのは、たいがい非現実的だけども……)
魔法や魔王が存在する世界なら、ご都合主義のアイテムがあってもおかしくない、のだろうか?俺たちに降って沸いた幸運が訪れた?嬉しいけど、釈然としないな……
それからしばらく進んだころ。サードが言っていた、隠し部屋とやらは、果たして本当に見つかった。
「あったよ……嘘じゃなかったんだな」
鏡の隠し部屋は、一見すると何の変哲もない通路の途中にあった。サードが立ち止まり、壁をごそごそまさぐると(その時点で、サードの拘束は手首を括るだけのものになっていた)、いきなりぐいと引っ張った。すると壁だと思っていたところが、横にスライドしたのだ。
「なんだ、この空間は……?狭いし、がらんどうだ」
そこは、まるで物置のような場所だった。といっても、肝心の物は少ない。狭いすき間に忘れ去られたように、岩をくりぬいてできた棚や、割れた壺なんかが捨てられている。
「ここは、魔王城のあちこちにある、吹き溜まりのような場所なんだ」
サードはそう言うと、部屋の奥へ進むように指示をする。ヘイズは兵士に命じて、サードと数人の兵士だけを、その奥に進ませた。
「どうだ?何か見つかるか」
「いえ、特には……あ?」
「どうした?」
「鏡が……大きな鏡があります!」
「なんだって?」
マジかよ、本当にあるのか?しばらくして、兵士たちは、一抱えほどの鏡を持って戻ってきた。
ミラー・オブ・ラーは、一言で言えば、ありきたりな鏡だった。楕円形で、大きさは俺の胴と同じくらい。フレームには象形文字のような模様が刻まれていて、骨董品としては値が張ってもおかしくなさそうだ。けどさ、こいつの値打ちに期待しているわけじゃねーんだぜ?
俺たちが疑いの目を向ける中、サードは自信満々に言い切った。
「後は、この鏡を持って、ヴォルフガングとの戦いに臨めばいい。誰が使っても構わないが、正確を期するなら、もっとも実力が高い者が持った方がいいだろう」
馬鹿な……そんなことしたら、叩き割られて終わりじゃないか?やっぱり、こんなのインチキのデタラメだ。
俺がそう思いかけた、その時だった。隊の後方から大きな声が上がり、次いで一人の兵士が、転がるように駆け込んできた。
「てっ、敵襲です!相手は、魔王と思われます!」
「なぁ!?」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「桜下さん、どう思いますか?」
ウィルが耳元でささやいてくる。みんなに気付かれないように、俺も声を潜めた。
「どうって、この成り行きのことか?」
「ええ……桜下さんは、クラークさんと同じように、疑っていたみたいですけど」
「まあな。けど、いいんじゃないか。みんなが安全になるのなら、ちょっとくらい胡散臭くても探す価値はあるだろ」
「ですか……」
ウィルは微妙そうな顔をしている。と、アルルカが首にがばっと手を回してきた。
「うわ!なんだよ、アルルカ」
「あんた、ほんっとに甘ちゃんね!あんなこと言われて、腹立たないわけ?」
「は?何のことだよ」
「だから、あの偉そうなオヤジよ。戦っているのは自分たちも同じだなんて、よく言えたものね」
「わっ、バカ、あんまりそういうこと、大声で言うなよな……」
俺は冷や冷やしながら、後ろを振り返る。幸い将校とエドガーたちは、難しい顔で話し合っていて、こっちの声は届いていないようだ。
「だって、そうじゃないの。実際戦ってるのはあたしたちでしょう。あいつらザコじゃなくて」
「いや、そんなことは……」
「ほんとにお人好しねぇ。けどあいつらだって、きっとそう思ってるわよ」
「は?」
「あいつらは、勇者対魔王になることを望んでるはずよ。それが一番安全だもの」
む……俺たちが、危険を押し付けられているって言いたいのか?そんな風には考えたことなかったが……
「あー。ごほん。諸君ら、少し聞いてくれんか」
俺たちが話している間に、向こうでもまとまったらしい。しかめっ面をしたエドガーが歩み寄ってきた。
「事情は、おおむねわかった。にわかには信じがたい話だ。だが、事実である可能性も否定できん。そうだな?」
エドガーは俺たちに訊ねたというより、ヘイズに確認したみたいだった。ヘイズは何も言わなかったが、それが最大の肯定だ。
「ならば、確かめてみるほかあるまい。異議無いな?」
沈黙。無言は最大の肯定だ。もっとも、クラークは不満たらたらだけど。エドガーはうなずいた。
「よし。では、サード。その鏡とやらの在処、教えてもらおう」
お?エドガーまで、サードをサードと呼ぶことにしたのか。サードは、「初めから素直に訊いておけばいいのに」と言いたげな、ふてぶてしい態度でうなずくと、視線をついと滑らせた。
「この先に、隠し扉がある。そこに隠されているんだ」
「その扉とやらは、どんなだ?」
「巧妙に隠されているから、見つけるのは難しいだろう。その場所まで来たら、僕が報せる。後の判断はそちらに任せるよ」
「うむ、わかった。では、進行を再開するぞ」
話しはまとまったようだ。結局探すことにしたんだな。
(しっかし、ほんとにそんなアイテムがあるのかね?)
ゲームなら、こういうイベントは定番だ。ラスボスを倒す為のキーアイテムが、ラストダンジョンの奥深くに隠されている。勇者一行はそれを手に入れて、魔王をやっつける……いかにもありがち。だけど、今俺たちがいるのは、現実だ。ゲームの中じゃない。
(もっとも、勇者が魔王を倒そうとしているってのは、たいがい非現実的だけども……)
魔法や魔王が存在する世界なら、ご都合主義のアイテムがあってもおかしくない、のだろうか?俺たちに降って沸いた幸運が訪れた?嬉しいけど、釈然としないな……
それからしばらく進んだころ。サードが言っていた、隠し部屋とやらは、果たして本当に見つかった。
「あったよ……嘘じゃなかったんだな」
鏡の隠し部屋は、一見すると何の変哲もない通路の途中にあった。サードが立ち止まり、壁をごそごそまさぐると(その時点で、サードの拘束は手首を括るだけのものになっていた)、いきなりぐいと引っ張った。すると壁だと思っていたところが、横にスライドしたのだ。
「なんだ、この空間は……?狭いし、がらんどうだ」
そこは、まるで物置のような場所だった。といっても、肝心の物は少ない。狭いすき間に忘れ去られたように、岩をくりぬいてできた棚や、割れた壺なんかが捨てられている。
「ここは、魔王城のあちこちにある、吹き溜まりのような場所なんだ」
サードはそう言うと、部屋の奥へ進むように指示をする。ヘイズは兵士に命じて、サードと数人の兵士だけを、その奥に進ませた。
「どうだ?何か見つかるか」
「いえ、特には……あ?」
「どうした?」
「鏡が……大きな鏡があります!」
「なんだって?」
マジかよ、本当にあるのか?しばらくして、兵士たちは、一抱えほどの鏡を持って戻ってきた。
ミラー・オブ・ラーは、一言で言えば、ありきたりな鏡だった。楕円形で、大きさは俺の胴と同じくらい。フレームには象形文字のような模様が刻まれていて、骨董品としては値が張ってもおかしくなさそうだ。けどさ、こいつの値打ちに期待しているわけじゃねーんだぜ?
俺たちが疑いの目を向ける中、サードは自信満々に言い切った。
「後は、この鏡を持って、ヴォルフガングとの戦いに臨めばいい。誰が使っても構わないが、正確を期するなら、もっとも実力が高い者が持った方がいいだろう」
馬鹿な……そんなことしたら、叩き割られて終わりじゃないか?やっぱり、こんなのインチキのデタラメだ。
俺がそう思いかけた、その時だった。隊の後方から大きな声が上がり、次いで一人の兵士が、転がるように駆け込んできた。
「てっ、敵襲です!相手は、魔王と思われます!」
「なぁ!?」
つづく
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続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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