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17章 再開の約束
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「なっ、ま、魔王だって!?」
「そ、そんな馬鹿な!ありえない!」
現場は大混乱となった。そりゃそうだ、いきなり大ボスが急襲してきただって?常識はずれにもほどがある!
「とっ、とにかくそちらへ向かおう!おい、桜下!」
ヘイズが泡を食いながら、俺に手ぶりで行けと言ってくる。しゃあない、場合が場合だ。
「みんな、急ぐぞ!クラーク、お前も来いよな!」
「ああ、分かってるよ!こんな時こそ、勇者の出番だ!」
俺たちとクラークは、兵士に先導されて、隊の後方へと急行する。
「で、でも、なんでいきなり魔王……?」
ウィルがすぐ隣を滑るように飛びながら、困惑した声で言う。
「くそ!いっそ本人に訊いてみたいくらいだ!」
「もう後がないと悟って、向こうから打って出てきたのでしょうか?」
「それぐらい潔いタマか?魔王ってのは」
確かに俺たちの進軍は順調だが、それでもそこまでやけっぱちになるほど、追い詰められてはいないはず。魔王自ら参戦するにしては、時期尚早すぎるだろ。
「いったい、何考えてやがるんだ?」
本気で問いただしてやろうかと考えていると、前方から大きな叫び声と、爆発音が聞こえてきた。
「くそ!攻撃されてる!」
「急げ!」
俺たちは馬になったように疾走した。やがて、逃げまどう兵士たちと、その頭上に浮かぶ、マント姿の人影が見えてきた。
「止まれ!あれが、まさか……」
マントの人物(まだ正確には、人か分からないが)は、空中に立つように静止している。頭にはフードを被り、顔は見えない。魔王の正体は、勇者だと聞いているが……あれが、本当に……?
「うわ。あれが、魔王?」
え?この場に似つかわしくない、ずいぶんと気の抜けた声が、後ろから聞こえてきた。俺とクラークが同時に振り返ると、そこには例の鏡を腕に抱えた尊がいた。
「み、尊!」
「尊さん!?危ないですよ、どうして来たんですか!」
「だって、私だって勇者だよ!それに、この鏡は魔法の鏡なんでしょ?何かの役に立つかと思って……」
だが突然、尊はあっと叫ぶと、前につんのめった。うわ、危ない!鏡を落としたら一大事だぞ!幸い踏みとどまってくれたので、最悪の事態は避けられたが……
「尊、気を付けろよ!寿命が縮むぜ」
「ち、違うの!何かに引っ張られたみたいで……」
「引っ張られた?」
するとまた、尊が前にくんっとつんのめる。二度目となると、さすがに俺も気が付いた。今の、尊がつまづいたんじゃない。鏡だ。鏡が、尊を引っ張っている……?
「おい、あれを!」
アドリアが鋭く叫んだ。俺たちは一斉にその先を目で追う。そこには、片手を突き出し、手招きをしているマント野郎の姿があった。
「まさか……あいつが鏡を引っ張ってるのか!」
「くっ!貴様、何が目的だ!」
クラークが叫ぶと同時に、魔法剣を抜いた。それに対して、マント野郎は、努めて冷静に返してくる。
「我は魔王なり。その鏡は貴様らには不要な代物だ。故に取り返しに来た」
げっ!ほんとに魔王なのか?しかも、鏡を取り返しに来ただって?
「それを渡せ。さあ」
マント姿の魔王が手招きすると、また鏡が引っ張られた。それを抱えている尊も、前に数歩引っ張り出される。
「うわわっ」
「尊、大丈夫か!?頼む、そいつを放さないでくれよ!」
「う、うん!分かってる!」
魔王が取り戻しに来たってことは、こいつはいよいよ本物だ。そんなものを、おいそれと奪われるわけにいくか!
「無駄な抵抗はするな。お前らがどれだけ足掻こうが、我はその全てを無にできる」
「うるせえ!そんなに大事なものなら、きちんと管理しとけってんだ!アルルカ!」
俺の掛け声に合わせて、アルルカが杖を銃のように構えた。
「メギバレット!」
氷の弾丸が、魔王に向かって発射される。魔王はもう片方の手も付き出すと、手の平で弾丸を受け止めた。
「無駄なことを」
魔王がさらに手招きすると、いよいよ尊が引き摺られ始めた。尊は腰を落として踏ん張っているが、それでもずりずりと、鏡と一緒に引っ張られている。ロウランとミカエルが慌てて尊の腰を抱えたが、それでも止まらない。
「クラーク!あいつを追い払わないとダメだ!」
「そのようだね!そっちで隙を作れないか?僕が叩く!」
「よし、分かった!フラン、アルルカ!」
俺が叫ぶや否や、フランが銀色の矢のように飛び出して行く。それに合わせて、アルルカが呪文を唱えた。
「バッカルコーン!」
ズガガガッ!床を砕いて、氷の柱が何本も生えてきた。宙に浮かぶ魔王は、それを難なくかわした。だが、これは攻撃だけが目的じゃない。
「やああ!」
氷の柱を踏み台に、フランが跳躍して、魔王に殴り掛かった!魔王は、フランの渾身の一撃を受け止めた。だが、両手を使ったぞ!
「今だ!やれ、クラーク!」
「コンタクト・ガルネーレ!」
バラララッ!クラークの剣から、紫電が飛び出し、魔王を直撃した。
「はああああ!」
クラークが気合を入れると、魔王が後退し始めた。そのまま雷は魔王を押し返し、ついには壁に叩きつける。ドガーン!
「いいぞ!このまま畳みかけて……」
「まって!様子がおかしい」
え?フランが走って行って、魔王が叩きつけられたあたりで立ち止まった。煙がおさまると、そこには……
「え?いない?」
魔王の姿は、どこにもいなくなっていた。いや、今は姿を消したが、機会を伺っているだけだろう。俺たちは油断なく、警戒を続けた。
……。
…………。
「……おかしい。なにも、起きないぞ」
それから五分、十分と待っても、攻撃が来ることはなかった。
「追い返した、のか?」
「こんなにあっさり?馬鹿な……」
あまりにも手ごたえがないので、クラークも釈然としていない。だけど、待てど暮らせど、魔王は姿を見せない。そしてついには、行軍が再開されることとなった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「そ、そんな馬鹿な!ありえない!」
現場は大混乱となった。そりゃそうだ、いきなり大ボスが急襲してきただって?常識はずれにもほどがある!
「とっ、とにかくそちらへ向かおう!おい、桜下!」
ヘイズが泡を食いながら、俺に手ぶりで行けと言ってくる。しゃあない、場合が場合だ。
「みんな、急ぐぞ!クラーク、お前も来いよな!」
「ああ、分かってるよ!こんな時こそ、勇者の出番だ!」
俺たちとクラークは、兵士に先導されて、隊の後方へと急行する。
「で、でも、なんでいきなり魔王……?」
ウィルがすぐ隣を滑るように飛びながら、困惑した声で言う。
「くそ!いっそ本人に訊いてみたいくらいだ!」
「もう後がないと悟って、向こうから打って出てきたのでしょうか?」
「それぐらい潔いタマか?魔王ってのは」
確かに俺たちの進軍は順調だが、それでもそこまでやけっぱちになるほど、追い詰められてはいないはず。魔王自ら参戦するにしては、時期尚早すぎるだろ。
「いったい、何考えてやがるんだ?」
本気で問いただしてやろうかと考えていると、前方から大きな叫び声と、爆発音が聞こえてきた。
「くそ!攻撃されてる!」
「急げ!」
俺たちは馬になったように疾走した。やがて、逃げまどう兵士たちと、その頭上に浮かぶ、マント姿の人影が見えてきた。
「止まれ!あれが、まさか……」
マントの人物(まだ正確には、人か分からないが)は、空中に立つように静止している。頭にはフードを被り、顔は見えない。魔王の正体は、勇者だと聞いているが……あれが、本当に……?
「うわ。あれが、魔王?」
え?この場に似つかわしくない、ずいぶんと気の抜けた声が、後ろから聞こえてきた。俺とクラークが同時に振り返ると、そこには例の鏡を腕に抱えた尊がいた。
「み、尊!」
「尊さん!?危ないですよ、どうして来たんですか!」
「だって、私だって勇者だよ!それに、この鏡は魔法の鏡なんでしょ?何かの役に立つかと思って……」
だが突然、尊はあっと叫ぶと、前につんのめった。うわ、危ない!鏡を落としたら一大事だぞ!幸い踏みとどまってくれたので、最悪の事態は避けられたが……
「尊、気を付けろよ!寿命が縮むぜ」
「ち、違うの!何かに引っ張られたみたいで……」
「引っ張られた?」
するとまた、尊が前にくんっとつんのめる。二度目となると、さすがに俺も気が付いた。今の、尊がつまづいたんじゃない。鏡だ。鏡が、尊を引っ張っている……?
「おい、あれを!」
アドリアが鋭く叫んだ。俺たちは一斉にその先を目で追う。そこには、片手を突き出し、手招きをしているマント野郎の姿があった。
「まさか……あいつが鏡を引っ張ってるのか!」
「くっ!貴様、何が目的だ!」
クラークが叫ぶと同時に、魔法剣を抜いた。それに対して、マント野郎は、努めて冷静に返してくる。
「我は魔王なり。その鏡は貴様らには不要な代物だ。故に取り返しに来た」
げっ!ほんとに魔王なのか?しかも、鏡を取り返しに来ただって?
「それを渡せ。さあ」
マント姿の魔王が手招きすると、また鏡が引っ張られた。それを抱えている尊も、前に数歩引っ張り出される。
「うわわっ」
「尊、大丈夫か!?頼む、そいつを放さないでくれよ!」
「う、うん!分かってる!」
魔王が取り戻しに来たってことは、こいつはいよいよ本物だ。そんなものを、おいそれと奪われるわけにいくか!
「無駄な抵抗はするな。お前らがどれだけ足掻こうが、我はその全てを無にできる」
「うるせえ!そんなに大事なものなら、きちんと管理しとけってんだ!アルルカ!」
俺の掛け声に合わせて、アルルカが杖を銃のように構えた。
「メギバレット!」
氷の弾丸が、魔王に向かって発射される。魔王はもう片方の手も付き出すと、手の平で弾丸を受け止めた。
「無駄なことを」
魔王がさらに手招きすると、いよいよ尊が引き摺られ始めた。尊は腰を落として踏ん張っているが、それでもずりずりと、鏡と一緒に引っ張られている。ロウランとミカエルが慌てて尊の腰を抱えたが、それでも止まらない。
「クラーク!あいつを追い払わないとダメだ!」
「そのようだね!そっちで隙を作れないか?僕が叩く!」
「よし、分かった!フラン、アルルカ!」
俺が叫ぶや否や、フランが銀色の矢のように飛び出して行く。それに合わせて、アルルカが呪文を唱えた。
「バッカルコーン!」
ズガガガッ!床を砕いて、氷の柱が何本も生えてきた。宙に浮かぶ魔王は、それを難なくかわした。だが、これは攻撃だけが目的じゃない。
「やああ!」
氷の柱を踏み台に、フランが跳躍して、魔王に殴り掛かった!魔王は、フランの渾身の一撃を受け止めた。だが、両手を使ったぞ!
「今だ!やれ、クラーク!」
「コンタクト・ガルネーレ!」
バラララッ!クラークの剣から、紫電が飛び出し、魔王を直撃した。
「はああああ!」
クラークが気合を入れると、魔王が後退し始めた。そのまま雷は魔王を押し返し、ついには壁に叩きつける。ドガーン!
「いいぞ!このまま畳みかけて……」
「まって!様子がおかしい」
え?フランが走って行って、魔王が叩きつけられたあたりで立ち止まった。煙がおさまると、そこには……
「え?いない?」
魔王の姿は、どこにもいなくなっていた。いや、今は姿を消したが、機会を伺っているだけだろう。俺たちは油断なく、警戒を続けた。
……。
…………。
「……おかしい。なにも、起きないぞ」
それから五分、十分と待っても、攻撃が来ることはなかった。
「追い返した、のか?」
「こんなにあっさり?馬鹿な……」
あまりにも手ごたえがないので、クラークも釈然としていない。だけど、待てど暮らせど、魔王は姿を見せない。そしてついには、行軍が再開されることとなった。
つづく
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