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17章 再開の約束

21―4

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21―4

「なっ、ま、魔王だって!?」

「そ、そんな馬鹿な!ありえない!」

現場は大混乱となった。そりゃそうだ、いきなり大ボスが急襲してきただって?常識はずれにもほどがある!

「とっ、とにかくそちらへ向かおう!おい、桜下!」

ヘイズが泡を食いながら、俺に手ぶりで行けと言ってくる。しゃあない、場合が場合だ。

「みんな、急ぐぞ!クラーク、お前も来いよな!」

「ああ、分かってるよ!こんな時こそ、勇者の出番だ!」

俺たちとクラークは、兵士に先導されて、隊の後方へと急行する。

「で、でも、なんでいきなり魔王……?」

ウィルがすぐ隣を滑るように飛びながら、困惑した声で言う。

「くそ!いっそ本人に訊いてみたいくらいだ!」

「もう後がないと悟って、向こうから打って出てきたのでしょうか?」

「それぐらい潔いタマか?魔王ってのは」

確かに俺たちの進軍は順調だが、それでもそこまでやけっぱちになるほど、追い詰められてはいないはず。魔王自ら参戦するにしては、時期尚早すぎるだろ。

「いったい、何考えてやがるんだ?」

本気で問いただしてやろうかと考えていると、前方から大きな叫び声と、爆発音が聞こえてきた。

「くそ!攻撃されてる!」

「急げ!」

俺たちは馬になったように疾走した。やがて、逃げまどう兵士たちと、その頭上に浮かぶ、マント姿の人影が見えてきた。

「止まれ!あれが、まさか……」

マントの人物(まだ正確には、人か分からないが)は、空中に立つように静止している。頭にはフードを被り、顔は見えない。魔王の正体は、勇者だと聞いているが……あれが、本当に……?

「うわ。あれが、魔王?」

え?この場に似つかわしくない、ずいぶんと気の抜けた声が、後ろから聞こえてきた。俺とクラークが同時に振り返ると、そこには例の鏡を腕に抱えた尊がいた。

「み、尊!」

「尊さん!?危ないですよ、どうして来たんですか!」

「だって、私だって勇者だよ!それに、この鏡は魔法の鏡なんでしょ?何かの役に立つかと思って……」

だが突然、尊はあっと叫ぶと、前につんのめった。うわ、危ない!鏡を落としたら一大事だぞ!幸い踏みとどまってくれたので、最悪の事態は避けられたが……

「尊、気を付けろよ!寿命が縮むぜ」

「ち、違うの!何かに引っ張られたみたいで……」

「引っ張られた?」

するとまた、尊が前にくんっとつんのめる。二度目となると、さすがに俺も気が付いた。今の、尊がつまづいたんじゃない。鏡だ。鏡が、尊を引っ張っている……?

「おい、あれを!」

アドリアが鋭く叫んだ。俺たちは一斉にその先を目で追う。そこには、片手を突き出し、手招きをしているマント野郎の姿があった。

「まさか……あいつが鏡を引っ張ってるのか!」

「くっ!貴様、何が目的だ!」

クラークが叫ぶと同時に、魔法剣を抜いた。それに対して、マント野郎は、努めて冷静に返してくる。

「我は魔王なり。その鏡は貴様らには不要な代物だ。故に取り返しに来た」

げっ!ほんとに魔王なのか?しかも、鏡を取り返しに来ただって?

「それを渡せ。さあ」

マント姿の魔王が手招きすると、また鏡が引っ張られた。それを抱えている尊も、前に数歩引っ張り出される。

「うわわっ」

「尊、大丈夫か!?頼む、そいつを放さないでくれよ!」

「う、うん!分かってる!」

魔王が取り戻しに来たってことは、こいつはいよいよ本物だ。そんなものを、おいそれと奪われるわけにいくか!

「無駄な抵抗はするな。お前らがどれだけ足掻こうが、我はその全てを無にできる」

「うるせえ!そんなに大事なものなら、きちんと管理しとけってんだ!アルルカ!」

俺の掛け声に合わせて、アルルカが杖を銃のように構えた。

「メギバレット!」

氷の弾丸が、魔王に向かって発射される。魔王はもう片方の手も付き出すと、手の平で弾丸を受け止めた。

「無駄なことを」

魔王がさらに手招きすると、いよいよ尊が引き摺られ始めた。尊は腰を落として踏ん張っているが、それでもずりずりと、鏡と一緒に引っ張られている。ロウランとミカエルが慌てて尊の腰を抱えたが、それでも止まらない。

「クラーク!あいつを追い払わないとダメだ!」

「そのようだね!そっちで隙を作れないか?僕が叩く!」

「よし、分かった!フラン、アルルカ!」

俺が叫ぶや否や、フランが銀色の矢のように飛び出して行く。それに合わせて、アルルカが呪文を唱えた。

「バッカルコーン!」

ズガガガッ!床を砕いて、氷の柱が何本も生えてきた。宙に浮かぶ魔王は、それを難なくかわした。だが、これは攻撃だけが目的じゃない。

「やああ!」

氷の柱を踏み台に、フランが跳躍して、魔王に殴り掛かった!魔王は、フランの渾身の一撃を受け止めた。だが、両手を使ったぞ!

「今だ!やれ、クラーク!」

「コンタクト・ガルネーレ!」

バラララッ!クラークの剣から、紫電が飛び出し、魔王を直撃した。

「はああああ!」

クラークが気合を入れると、魔王が後退し始めた。そのまま雷は魔王を押し返し、ついには壁に叩きつける。ドガーン!

「いいぞ!このまま畳みかけて……」

「まって!様子がおかしい」

え?フランが走って行って、魔王が叩きつけられたあたりで立ち止まった。煙がおさまると、そこには……

「え?いない?」

魔王の姿は、どこにもいなくなっていた。いや、今は姿を消したが、機会を伺っているだけだろう。俺たちは油断なく、警戒を続けた。
……。
…………。

「……おかしい。なにも、起きないぞ」

それから五分、十分と待っても、攻撃が来ることはなかった。

「追い返した、のか?」

「こんなにあっさり?馬鹿な……」

あまりにも手ごたえがないので、クラークも釈然としていない。だけど、待てど暮らせど、魔王は姿を見せない。そしてついには、行軍が再開されることとなった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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