じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

22-4

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22-4

「お遊びはここまでだ。とっとと終わらせっぞ」

セカンドはかつかつと、足で床をタップした。途端、膝立ちで耐えていたフランが、べちゃりと床に叩きつけられた。重力がさらに増したのだ。被害はそれだけじゃない。

「ぐああぁぁぁ……」
「ぎっ、くそが……」
「あぐうぅぅぅ……」

三人の勇者はなすすべもなく潰され、悲鳴を上げた。

「ぶざまだねえ、勇者くんたち。おっと、勇者ちゃんもいたんだっけか?」

ひれ伏す勇者たちの間を、セカンドは悠然と歩きまわる。そして、尊の前で足を止めた。

「かわいそうになぁ。オレさ、女の子には優しくしようって決めてんだ。だから、楽にしてやるよ」

その瞬間、ヘイズの全身に鳥肌が立った。

「まさか……!よせっ!」

ボンッ!

手を伸ばしかけたヘイズの眼前で、黒炎が迸った。尊が、三人の勇者の内の一人が、火だるまになって燃えている。炎は一瞬で彼女の全身を飲み込み、煙がもうもうと立ち昇る。見えない力に押しつぶされた彼女は、ろくな抵抗もできなかった。
炎はすぐに消えた。すべてを燃やし尽くしたのだ。残ったのは、黒いすすのあとだけだった。

「そ、んな……うそだああああぁぁぁ!」

クラークが絶叫する。ヘイズは、ただ茫然とするしかなかった。残された最後の希望、三人の勇者の内の一人が、こんなにもあっさりと……

(このままじゃ、残りの二人もやられてしまう)

彼らすら消されてしまっては、勝ち目はない。一刻も早く、彼らを救い出さなければ。

(でも、どうやって?)

膝に手をつく。そうでもしないと、震える体を支えられなかった。指先がじんわりと冷たくなり、意識が遠のいていく。
ヘイズの頭脳は、告げていた。セカンドを攻撃したところで、果たしてどれくらいの効果があるものか。あの見えない力に加えて、黒炎の防御まである。エドガーもフランも、全く歯が立たなかった。勇者でないと、あれに対抗するのは不可能だ。
だが、その勇者を救おうにも、“力”そのものをどうやって防げばいい?治療も意味がない。重力のダメージを、どうやって治せと言うんだ。

(打つ手が、ない……)

絶望が、ヘイズの視界を染めていく。尊の燃えカスが、網膜に黒い染みとなって焼き付くようだ。視界が黒く染まり、手から、足から、力が抜けていく……

「ヘイ、ズ……ヘイズ!」

ヘイズはハッとした。振り返れば、倒れたままのエドガーが、這いつくばったままでこちらを見ている。痛々しい姿だったが、その目を見た時、ヘイズははっと息をのんだ。
エドガーの目に、炎が燃えている。その炎は、セカンドの操る、邪悪で冷たい炎とはまるで違った。熱く、強い炎。それは、決意の炎だった。彼はこの状況でも、闘志を折っていない。むしろこの逆境に、一層猛々しく燃え盛るようだった。

(お前が心折れてどうする。こんな時こそ、お前の頭脳が必要なんだ!)

エドガーの目は、そう語りかけてくるかのようだった。ヘイズは奥歯をぎりっと噛み合わせると、自らの頬をバシッと殴った。

(なんてざまだ!何のために、オレたちはここまで来た!)

ヘイズは足に力をこめた。背筋を伸ばして、前を向く。

(諦めるな!思考を止めるな!考えるのをやめた時が、魂が死ぬ時だ!)

ヘイズは必死に頭を回転させた。今の状況、自分たちができること。敵は、完全に油断している。こちらに一切の攻撃をしてこないのが証拠だ。

(オレたちことは、虫けらとしか思っていないわけだ。だが、虫けらにだって、できることはあるんだよ……!)

「……魔術師!全員、動けるやつは呪文の詠唱の準備をしろ!」

ヘイズはそう叫びながら走り出した。魔術師たちがぼんやりとした目で見つめてきたので、そいつらの背中を引っぱたきながら、ヘイズは怒鳴りつける。

「ぼさっとすんな!ありったけの攻撃呪文をぶつけろ!いいな!ただし、対象は……」

そうやって走り回った結果、腑抜けていた魔術師たちは、ようやく魔力の感覚を取り戻した。一斉に呪文の詠唱が開始される。
セカンドはその動きに気付いていたが、ニヤニヤ笑うばかりで、何もしようとはしなかった。所詮三流の魔術師が何人束になったところで、自分に傷一つ付けることなどできないと、高を括っていたからだ。むしろその差をまじまじと見せつけることで、心を折ろうとさえ企てていた。

「放て!」

ヘイズの号令の下、魔法が一斉に放たれる。シュシュシュシュ!セカンドはそれを、花火でも見る気分で眺めていた。だが、違和感に気付く。狙いが、妙に低い。

「……!まさか、てめえ!」

セカンドが真の狙いに気付いた時には、すでに魔法は着弾していた。魔法は、床に向かって放たれたのだ。ガガガガーン!あらゆる攻撃魔法が連発し、床がぐらりと揺れる。ヘルズニルの床は、魔法に対してもある程度は頑丈に作られていた。だが、ここまで大量の魔法に対しては、さすがに持ち応えられるほどの設計はされていなかった。
結果、床は崩落を始めた。
ガラガラガラ!

「ちいっ!」

セカンドとサードは、その場から飛びすさるしかなかった。ヘイズたち連合軍も、合わせて後退する。そして当然、床に叩きつけられていた勇者たちは、崩落に巻き込まれるほかなかった。ヘイズは、これを狙っていたのだ。上から押しつぶしてくるなら、床をなくしてしまえばいい。そうすれば少なくとも、そのまま圧死することはなくなる。

(賭けだけどな……!この下がどうなっているのかなんて、オレにも分かりゃしねえ)

ヘイズたちはここまで、ずいぶんと登ってきた。そしてヘルズニルは、人間の建築法ではまず考えられない、くねくねと捻じ曲がるような構造をしている。このすぐ下が別のフロアになっているのか、それとも地表まで真っ逆さまなのか、調べている余裕はなかった。
だが確実に、状況は変わった。ゼロパーセントの固定された現状から、未知の領域へと変化した。その先が希望なのか、さらなる絶望なのかは、分からない。

「だがな、このまま大人しくやられるよか、百倍マシだ!」

魔術師たちによって、床には大穴が空けられた。ちょうど穴を挟むようにして、セカンドたちと連合軍は睨み合う形になった。
たかだか床一枚を破壊しただけだったが、魔術師たちの気分は高揚していた。あの絶望的な状況のなかで、多少なりとも敵の算段を狂わせてやったというのは、予想以上の手ごたえがあった。兵士たちや騎士たちもまた、剣を握り直した。
勇者は、まだ残っている。ということは、戻ってくる可能性もあるわけだ。可能性に過ぎない、わずかな希望が、彼らの剣に輝きを取り戻させた。

「……やってくれるじゃねえかよ。クソカスふぜいがよぉ……!」

対して、セカンドは自分の計画が台無しにされたことに逆上していた。勇者を一網打尽にする、またとない機会だったのに。セカンドの溢れる怒りは、当然連合軍に向けられる。

「ぶっ殺してやる!」

ヘイズは唇を舐めた。彼の仕事は、まだ終わっていない。ここからどうやって退却するか、腕の見せ所だ。すでに布石は打ってある。床に空いた穴は、自分たちを守る盾の役割も果たしていた。

(だが、いつまでもは持ちこたえられん。頼んだぜ、桜下……!)

ヘイズは心の中で念じると、大声で指示を飛ばし始めた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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