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17章 再開の約束
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「お前が、セカンド……?」
ヘイズは、茫然とそう繰り返した。さっきまでサードと名乗っていた男は、自分の胸を指さす。
「オレのことだ。お前がさっきまでオレだと思ってたのが、本物のサードっつうこと」
「……いつ、入れ替わって……?」
「はぁ?くひゃひゃははは!」
男は腹を抱えると、下品な笑い声を立てる。
「ひひひ……ありがたいねぇ。そこまで信じてくれてたのか?いつも何も、最初からずーっとだっつの」
「初めから、だと……?それなら、オレたちと共に居たサードは……」
「いねえよ、そんな奴。てめーらが知ってるサードは、ずっとオレだ」
ヘイズはにわかには信じられなかった。目の前の男のことは常に監視していたが、疑わしい点こそあれ、サードではない証拠はほぼ見つからなかったからだ。
(顔、声、背格好……)
連合軍の将校は、サードの声を知っていた。なにせ伝説の勇者だ、その容姿も詳細に伝わっている。おかしかった点はどこにもない。
(本人の記憶……)
サード自らが尋問を担当した。記憶と記録に誤りはなかった。
(何より……ギネンベルナの連中が、エドガー隊長が、セカンドの顔を見間違えるはずがねえ)
「馬鹿な……ありえない!」
すると男は、呆れたように首を振った。そしてよく見ておけと言わんばかりに、両手でゆっくりと顔を覆う。
「いないいない……ばあ!」
手がパッとのけられると、そこにあったのは、初めて見る男の顔だった。さっきまでの、サードの顔ではない。
「顔が……!」
「オレ様の能力の一つだ。もっとも、お前たちには教えてなかったけどな」
得意げに男は語る。すると、低く唸るような声が、ヘイズの足下から聞こえてきた。
「セ、カンドぉ……!」
「え、エドガー隊長!」
見れば、総隊長であるエドガーが、すぐそこにうずくまっているじゃないか。ヘイズは驚いた。エドガーがいることに、今の今まで気が付いていなかったなんて。幸い死んではいなかったようだが、再会を喜んでいる暇はない。エドガーは燃える瞳で、その男……セカンドを睨む。
「きっさまぁ……!生きておったのか!」
「ん~?わりいな、オッサン。覚えてねえわ。どっかで会ったか?」
「黙れぇぇ!貴様をこの手で、地獄へ送り返してくれる!」
エドガーはつんのめるように駆け出すと、雄たけびを上げながらセカンドに突進する。だがセカンドは、それをあざ笑うかのように、無造作に手を振った。
「ぐあぁ!」
突如、エドガーが後ろに吹き飛んだ。彼はヘイズの真横を過ぎ去り、ゴロゴロと床を転がった。
(まただ!見えない力……!)
ヘイズの目には、エドガーを吹き飛ばしたものの正体が見えなかった。これもおそらく、セカンドの能力の一つだろう。
「ザコがしゃしゃり出てくんじゃねーよ、ったく。今の主役は勇者だっつの。な?」
そう言うとセカンドは、倒れた勇者たちを振り返った。まずい!今の彼らは、ろくな抵抗もできずにいる。このままでは……
(ちくしょう!考えろ、このウスノロが!)
ヘイズはなんとか彼らを救う手立てがないかと、必死に頭を回転させる。その間に、セカンドは勇者たちのそばまで行き、彼らを見下ろした。
「おぉぉ、勇者諸君!やられてしまうとは情けない!ってな」
「くっ……っそおぉぉぉぉ!」
絞り出すような叫びと共に、クラークが必死に起き上がろうとする。だが、どれだけ力をこめても、彼の体は少しも浮き上がらない。
「ぐううぅ……!」
「おーい、やめとけよ。重力に逆らっても、ろくなことないぜ?」
ヘイズは聞き逃さなかった。重力?ということは、彼らを襲っているのは、まさしく力そのものか?下へ下へと、押しつぶそうとする力。
「だ、まれ……!僕は、悪に屈したりなど……しない!」
クラークは顔を真っ赤にしながら、両掌を床につけた。ぶるぶる震えながらも、ほんのわずかに、体を持ち上げたのだ。
「っ!」
ヘイズは息をのんだ
「ほぉー、すげえな。重力の十倍のエネルギーを掛けてるってのに」
セカンドは感心したようにうなずいた。十倍の重力ということは、背中に自分を九人乗せているようなもの。わずかに体を持ち上げただけでも、本来であれば、凄まじいことだ。がしかし、今の現状では、その程度何の影響も与えない。
その時だ。
「セカンド!」
「っ!」
サードの鋭い警告に、セカンドはがばっと振り返った。信じられないことに、連中の一人が起き上がっている。
(いけ、ゾンビ娘!)
ヘイズは無意識に拳を握り締めていた。さっき彼が息を飲んだのは、クラークの後ろで立ち上がるフランを見ていたからだった。この超重力の空間で立ち上がることができるのは、怪力と不死の体を持つ彼女以外にいない。ヘイズは必死に平静を装い、彼女の奇襲がバレないように、表情を殺していたのだ。
「やあああぁぁぁ!」
フランは強烈な重力下の中でも、かなりのスピードで走った。普段の彼女の全速に比べれば駆け足程度であったが、振り向いたばかりで不安定な姿勢のセカンドの虚をつくには十分だ。毒の鉤爪が振り下ろされる。
獲った!ヘイズはそう思った。
ゴウッ!
炎が、揺らめいた。それは、闇のように暗く、奈落のように黒い炎だった。黒炎はセカンドを守る盾のように、フランの拳に覆いかぶさった。そのとたん、フランの腕から、真っ黒な煙が立ち昇り始めた。
「くくく……気ぃつけな。そいつは、火傷じゃ済まねぇぜ?」
セカンドがニヤニヤと笑みを浮かべる。黒い炎がフランの右腕を飲み込んだ。だが、それが何だというのか。ゾンビであるフランは、痛みを感じない。炎に巻かれる程度、どうってことないはずだった……
だがフランは、動物的な直感で、“それ”を察知した。瞬時に左手の爪をひるがえすと、自身の右腕を切り落としたのだ。
「ばっ、なにを!」
ヘイズが驚愕する中、地面に落ちた右腕は、真っ黒に変色しだした。黒い炎に巻かれ、黒い煙を噴き上げながら、黒く染まっていく腕。そこだけ網膜に穴でも空いたかのように、黒い染みとなって視界に映った。
炎が収まると、そこには何も残っていなかった。黒い焦げ跡だけが辛うじて見えるが、それだけだ。セカンドが放った黒炎は、骨まで燃やし尽くしてしまった。どう考えても、普通の炎じゃない。ヘイズは身震いした。
「あーあー、パーツが欠けちゃったじゃないの。ほら、もういいから、大人しくしてなって」
セカンドが、子どもをあやすように、おざなりに手を振ると、フランはがくんと膝をついた。見えない力がまた強くなったのだ。
「さぁてと……これ以上は、茶番も必要ねぇよな」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ヘイズは、茫然とそう繰り返した。さっきまでサードと名乗っていた男は、自分の胸を指さす。
「オレのことだ。お前がさっきまでオレだと思ってたのが、本物のサードっつうこと」
「……いつ、入れ替わって……?」
「はぁ?くひゃひゃははは!」
男は腹を抱えると、下品な笑い声を立てる。
「ひひひ……ありがたいねぇ。そこまで信じてくれてたのか?いつも何も、最初からずーっとだっつの」
「初めから、だと……?それなら、オレたちと共に居たサードは……」
「いねえよ、そんな奴。てめーらが知ってるサードは、ずっとオレだ」
ヘイズはにわかには信じられなかった。目の前の男のことは常に監視していたが、疑わしい点こそあれ、サードではない証拠はほぼ見つからなかったからだ。
(顔、声、背格好……)
連合軍の将校は、サードの声を知っていた。なにせ伝説の勇者だ、その容姿も詳細に伝わっている。おかしかった点はどこにもない。
(本人の記憶……)
サード自らが尋問を担当した。記憶と記録に誤りはなかった。
(何より……ギネンベルナの連中が、エドガー隊長が、セカンドの顔を見間違えるはずがねえ)
「馬鹿な……ありえない!」
すると男は、呆れたように首を振った。そしてよく見ておけと言わんばかりに、両手でゆっくりと顔を覆う。
「いないいない……ばあ!」
手がパッとのけられると、そこにあったのは、初めて見る男の顔だった。さっきまでの、サードの顔ではない。
「顔が……!」
「オレ様の能力の一つだ。もっとも、お前たちには教えてなかったけどな」
得意げに男は語る。すると、低く唸るような声が、ヘイズの足下から聞こえてきた。
「セ、カンドぉ……!」
「え、エドガー隊長!」
見れば、総隊長であるエドガーが、すぐそこにうずくまっているじゃないか。ヘイズは驚いた。エドガーがいることに、今の今まで気が付いていなかったなんて。幸い死んではいなかったようだが、再会を喜んでいる暇はない。エドガーは燃える瞳で、その男……セカンドを睨む。
「きっさまぁ……!生きておったのか!」
「ん~?わりいな、オッサン。覚えてねえわ。どっかで会ったか?」
「黙れぇぇ!貴様をこの手で、地獄へ送り返してくれる!」
エドガーはつんのめるように駆け出すと、雄たけびを上げながらセカンドに突進する。だがセカンドは、それをあざ笑うかのように、無造作に手を振った。
「ぐあぁ!」
突如、エドガーが後ろに吹き飛んだ。彼はヘイズの真横を過ぎ去り、ゴロゴロと床を転がった。
(まただ!見えない力……!)
ヘイズの目には、エドガーを吹き飛ばしたものの正体が見えなかった。これもおそらく、セカンドの能力の一つだろう。
「ザコがしゃしゃり出てくんじゃねーよ、ったく。今の主役は勇者だっつの。な?」
そう言うとセカンドは、倒れた勇者たちを振り返った。まずい!今の彼らは、ろくな抵抗もできずにいる。このままでは……
(ちくしょう!考えろ、このウスノロが!)
ヘイズはなんとか彼らを救う手立てがないかと、必死に頭を回転させる。その間に、セカンドは勇者たちのそばまで行き、彼らを見下ろした。
「おぉぉ、勇者諸君!やられてしまうとは情けない!ってな」
「くっ……っそおぉぉぉぉ!」
絞り出すような叫びと共に、クラークが必死に起き上がろうとする。だが、どれだけ力をこめても、彼の体は少しも浮き上がらない。
「ぐううぅ……!」
「おーい、やめとけよ。重力に逆らっても、ろくなことないぜ?」
ヘイズは聞き逃さなかった。重力?ということは、彼らを襲っているのは、まさしく力そのものか?下へ下へと、押しつぶそうとする力。
「だ、まれ……!僕は、悪に屈したりなど……しない!」
クラークは顔を真っ赤にしながら、両掌を床につけた。ぶるぶる震えながらも、ほんのわずかに、体を持ち上げたのだ。
「っ!」
ヘイズは息をのんだ
「ほぉー、すげえな。重力の十倍のエネルギーを掛けてるってのに」
セカンドは感心したようにうなずいた。十倍の重力ということは、背中に自分を九人乗せているようなもの。わずかに体を持ち上げただけでも、本来であれば、凄まじいことだ。がしかし、今の現状では、その程度何の影響も与えない。
その時だ。
「セカンド!」
「っ!」
サードの鋭い警告に、セカンドはがばっと振り返った。信じられないことに、連中の一人が起き上がっている。
(いけ、ゾンビ娘!)
ヘイズは無意識に拳を握り締めていた。さっき彼が息を飲んだのは、クラークの後ろで立ち上がるフランを見ていたからだった。この超重力の空間で立ち上がることができるのは、怪力と不死の体を持つ彼女以外にいない。ヘイズは必死に平静を装い、彼女の奇襲がバレないように、表情を殺していたのだ。
「やあああぁぁぁ!」
フランは強烈な重力下の中でも、かなりのスピードで走った。普段の彼女の全速に比べれば駆け足程度であったが、振り向いたばかりで不安定な姿勢のセカンドの虚をつくには十分だ。毒の鉤爪が振り下ろされる。
獲った!ヘイズはそう思った。
ゴウッ!
炎が、揺らめいた。それは、闇のように暗く、奈落のように黒い炎だった。黒炎はセカンドを守る盾のように、フランの拳に覆いかぶさった。そのとたん、フランの腕から、真っ黒な煙が立ち昇り始めた。
「くくく……気ぃつけな。そいつは、火傷じゃ済まねぇぜ?」
セカンドがニヤニヤと笑みを浮かべる。黒い炎がフランの右腕を飲み込んだ。だが、それが何だというのか。ゾンビであるフランは、痛みを感じない。炎に巻かれる程度、どうってことないはずだった……
だがフランは、動物的な直感で、“それ”を察知した。瞬時に左手の爪をひるがえすと、自身の右腕を切り落としたのだ。
「ばっ、なにを!」
ヘイズが驚愕する中、地面に落ちた右腕は、真っ黒に変色しだした。黒い炎に巻かれ、黒い煙を噴き上げながら、黒く染まっていく腕。そこだけ網膜に穴でも空いたかのように、黒い染みとなって視界に映った。
炎が収まると、そこには何も残っていなかった。黒い焦げ跡だけが辛うじて見えるが、それだけだ。セカンドが放った黒炎は、骨まで燃やし尽くしてしまった。どう考えても、普通の炎じゃない。ヘイズは身震いした。
「あーあー、パーツが欠けちゃったじゃないの。ほら、もういいから、大人しくしてなって」
セカンドが、子どもをあやすように、おざなりに手を振ると、フランはがくんと膝をついた。見えない力がまた強くなったのだ。
「さぁてと……これ以上は、茶番も必要ねぇよな」
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