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17章 再開の約束
22-2
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22-2
「くそったれ……」
傷ついた腕をかばいながら、彼……ヘイズは悪態をついた。
(油断した……つもりじゃなかったんだがな)
ヘイズはついさっきまで、サードの監視役兼、情報の受け取り役として、彼の側についていた。ところが、突然見えない熊にでも殴り飛ばされたかのような衝撃が走り、ヘイズの体は宙を舞っていた。そのまま、わずかの間だけ気絶していたらしい。意識を取り戻すと、うめき声を上げるか、あるいは完全に沈黙した状態で横たわる兵士たちが、そこかしこにひしめく中にいた。先ほどの衝撃を受けたのが自分だけではないことを悟ったヘイズは、真っ先にサードの姿を探した。だが、彼はどこにもいなかった。
(一人だけ無傷だってことは、そいつがしでかしたってことだ)
ヘイズは悟った。自分は、誤った人間を信じてしまったのだと。だが、それならなぜ今なんだ?スキを突くチャンスなら、いくらでもあったはず。あいつは一体、何を待っていた?
「まさか……」
ヘイズは歯噛みすると、近くの救護テントへと向かう。治療が目的ではなく、そこには怪我人を搬送するために、馬が準備されているのだ。幸い、馬はひどく興奮していたが、無傷だった。ヘイズは四苦八苦しながらも、何とか馬をなだめ、その背によじ登った。だが、腕の骨が折れたのか、まともに手綱を握ることもできない。それどころか、痛みのせいで座っているのがやっとだった。いつ振り落とされてもおかしくなかったが、よく訓練された軍用馬は、背中に主の存在を認めると、すぐに落ち着きを取り戻した。
「よし、いい子だ……頼むぞ」
馬は耳をぴくりと動かすと、手綱による指示がなくとも騎手の意図を読み取った。馬が走り出すと、気絶しそうな痛みがヘイズを襲ったが、歯をくいしばって耐える。
「急がねえと……」
骨をかなづちで叩かれているようだったが、それでもヘイズは速度を緩めようとはしなかった。痛みを感じていられるうちは、まだマシだと思っていたからだ。ここで腕をかばえば、代わりにもっと大事なものを失う。このままでは、取り返しがつかなくなる。
(つまり、裏を返せばだ……まだ、取り返しがつくってことなんだよ)
痛みで朦朧としながらも、ヘイズの頭は回転していた。そう、まだ希望はある。彼の脳裏に、二人の少年と、一人の少女の背中が浮かぶ。今は己の失態を悔やむよりも、やるべきことを全うするべきだ。この希望を潰えさせないことこそ、ヘイズに残された使命だった。
凄まじい苦痛に耐え、ヘイズは何とか前線に到着した。
「おい……」
ヘイズはもはや気絶寸前だったが、それでも意志を振り絞って、近くの兵士に声を変えた。兵士はヘイズが見たこともない顔だったが、向こうはヘイズを知っているようだった。驚いた顔をする。
「へ、ヘイズ殿!?どうしてこちらに……」
「い、今は……それどころじゃ、ねえ。早く……桜下は、勇者は、どこだ?」
兵士は途端に苦渋に満ちた顔になる。ヘイズの腹の底を、恐怖が巨大な魚のように、ゆっくり静かに通り過ぎた。
ヘイズを待ち受けていた光景は、彼に安息を与えるものではなかった。
「なんだよ、こりゃあ……!」
クラークが、尊が、そして桜下が……三人の勇者が、地に倒れ伏している。彼らだけでない、彼らの仲間もまた、這いつくばるような姿勢で、動けずにいた。さらにその数の何十倍もの兵士が、そこら中に倒れている。
「まさか、三人とも、もう……」
希望は、潰えたのか。自分は遅すぎたのか……
だが、ヘイズは気付いた。違う……彼らは、まだ生きている!だが、様子がおかしい。一の国のクラークは、額に青筋を浮き上がらせて、床についた腕に必死に力をこめているようだ。にもかかわらず、彼の体はピクリとも持ち上がらない。
(倒れているわけじゃない……?むしろ、立てないのか?)
クラークの抵抗する姿は、何か巨大なものに踏み付けられ、必死に抗っているように見えた。だが奇妙なことに、彼の上には何もない。
(見えない、力……?)
ヘイズはハッとした。自分たちを襲った、目に見えない何かと同じだ。透明な何かが、彼らを踏みつぶそうとしている。ということはつまり、この力を操っているのは、同じ人物……
「よーしよし。上出来だ。勇者さまどもが、一網打尽だぜ、オイ」
パチ、パチ、パチ。
舞台に立つ役者のような、芝居がかった口調で手を叩く男。そいつの顔を見て、ヘイズは腕の痛みも忘れ、ガリリと奥歯を噛んだ。
「サァード……!どうして、お前がッ!!!」
その男……サードは、倒れた勇者たちの間を、楽しそうに笑いながら歩いていた。ヘイズの存在に気付くと、ことさら満面の笑みを浮かべる。
「おや。やあやあ、へぼ軍師どの。この度は、みごとに我が策に嵌っていただき、誠に感謝いたします……」
サードは大げさなしぐさでお辞儀をする。ヘイズははらわたが煮えくり返る思いだった。
「なぜだ、サード!なぜ裏切った!」
「なぜ?うぅーん、さきからちょっちズレてんだよなぁ。なあ、サード?」
「なに?」
ヘイズは一瞬、耳を疑った。サードは、自分自身に向かって問いかけたのか?だがうなずいたのは、彼ではなかった。
「ああ。その通りだ」
そう言って……サードの顔をした魔王が、前に進み出た。
「……!ちくしょうが……そういう事だったのか……!」
ヘイズの絞り出すような悲痛な呻きに、サードは……いや、サードだと思い込んでいた男は、顔を歪ませた。
「やっと気づいたか。くくく……そうよ。オレ様はサードなんかじゃねえ」
その男は、親指を下に向けると、がぱっと口を開いた。
「オレが、セカンドだ!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「くそったれ……」
傷ついた腕をかばいながら、彼……ヘイズは悪態をついた。
(油断した……つもりじゃなかったんだがな)
ヘイズはついさっきまで、サードの監視役兼、情報の受け取り役として、彼の側についていた。ところが、突然見えない熊にでも殴り飛ばされたかのような衝撃が走り、ヘイズの体は宙を舞っていた。そのまま、わずかの間だけ気絶していたらしい。意識を取り戻すと、うめき声を上げるか、あるいは完全に沈黙した状態で横たわる兵士たちが、そこかしこにひしめく中にいた。先ほどの衝撃を受けたのが自分だけではないことを悟ったヘイズは、真っ先にサードの姿を探した。だが、彼はどこにもいなかった。
(一人だけ無傷だってことは、そいつがしでかしたってことだ)
ヘイズは悟った。自分は、誤った人間を信じてしまったのだと。だが、それならなぜ今なんだ?スキを突くチャンスなら、いくらでもあったはず。あいつは一体、何を待っていた?
「まさか……」
ヘイズは歯噛みすると、近くの救護テントへと向かう。治療が目的ではなく、そこには怪我人を搬送するために、馬が準備されているのだ。幸い、馬はひどく興奮していたが、無傷だった。ヘイズは四苦八苦しながらも、何とか馬をなだめ、その背によじ登った。だが、腕の骨が折れたのか、まともに手綱を握ることもできない。それどころか、痛みのせいで座っているのがやっとだった。いつ振り落とされてもおかしくなかったが、よく訓練された軍用馬は、背中に主の存在を認めると、すぐに落ち着きを取り戻した。
「よし、いい子だ……頼むぞ」
馬は耳をぴくりと動かすと、手綱による指示がなくとも騎手の意図を読み取った。馬が走り出すと、気絶しそうな痛みがヘイズを襲ったが、歯をくいしばって耐える。
「急がねえと……」
骨をかなづちで叩かれているようだったが、それでもヘイズは速度を緩めようとはしなかった。痛みを感じていられるうちは、まだマシだと思っていたからだ。ここで腕をかばえば、代わりにもっと大事なものを失う。このままでは、取り返しがつかなくなる。
(つまり、裏を返せばだ……まだ、取り返しがつくってことなんだよ)
痛みで朦朧としながらも、ヘイズの頭は回転していた。そう、まだ希望はある。彼の脳裏に、二人の少年と、一人の少女の背中が浮かぶ。今は己の失態を悔やむよりも、やるべきことを全うするべきだ。この希望を潰えさせないことこそ、ヘイズに残された使命だった。
凄まじい苦痛に耐え、ヘイズは何とか前線に到着した。
「おい……」
ヘイズはもはや気絶寸前だったが、それでも意志を振り絞って、近くの兵士に声を変えた。兵士はヘイズが見たこともない顔だったが、向こうはヘイズを知っているようだった。驚いた顔をする。
「へ、ヘイズ殿!?どうしてこちらに……」
「い、今は……それどころじゃ、ねえ。早く……桜下は、勇者は、どこだ?」
兵士は途端に苦渋に満ちた顔になる。ヘイズの腹の底を、恐怖が巨大な魚のように、ゆっくり静かに通り過ぎた。
ヘイズを待ち受けていた光景は、彼に安息を与えるものではなかった。
「なんだよ、こりゃあ……!」
クラークが、尊が、そして桜下が……三人の勇者が、地に倒れ伏している。彼らだけでない、彼らの仲間もまた、這いつくばるような姿勢で、動けずにいた。さらにその数の何十倍もの兵士が、そこら中に倒れている。
「まさか、三人とも、もう……」
希望は、潰えたのか。自分は遅すぎたのか……
だが、ヘイズは気付いた。違う……彼らは、まだ生きている!だが、様子がおかしい。一の国のクラークは、額に青筋を浮き上がらせて、床についた腕に必死に力をこめているようだ。にもかかわらず、彼の体はピクリとも持ち上がらない。
(倒れているわけじゃない……?むしろ、立てないのか?)
クラークの抵抗する姿は、何か巨大なものに踏み付けられ、必死に抗っているように見えた。だが奇妙なことに、彼の上には何もない。
(見えない、力……?)
ヘイズはハッとした。自分たちを襲った、目に見えない何かと同じだ。透明な何かが、彼らを踏みつぶそうとしている。ということはつまり、この力を操っているのは、同じ人物……
「よーしよし。上出来だ。勇者さまどもが、一網打尽だぜ、オイ」
パチ、パチ、パチ。
舞台に立つ役者のような、芝居がかった口調で手を叩く男。そいつの顔を見て、ヘイズは腕の痛みも忘れ、ガリリと奥歯を噛んだ。
「サァード……!どうして、お前がッ!!!」
その男……サードは、倒れた勇者たちの間を、楽しそうに笑いながら歩いていた。ヘイズの存在に気付くと、ことさら満面の笑みを浮かべる。
「おや。やあやあ、へぼ軍師どの。この度は、みごとに我が策に嵌っていただき、誠に感謝いたします……」
サードは大げさなしぐさでお辞儀をする。ヘイズははらわたが煮えくり返る思いだった。
「なぜだ、サード!なぜ裏切った!」
「なぜ?うぅーん、さきからちょっちズレてんだよなぁ。なあ、サード?」
「なに?」
ヘイズは一瞬、耳を疑った。サードは、自分自身に向かって問いかけたのか?だがうなずいたのは、彼ではなかった。
「ああ。その通りだ」
そう言って……サードの顔をした魔王が、前に進み出た。
「……!ちくしょうが……そういう事だったのか……!」
ヘイズの絞り出すような悲痛な呻きに、サードは……いや、サードだと思い込んでいた男は、顔を歪ませた。
「やっと気づいたか。くくく……そうよ。オレ様はサードなんかじゃねえ」
その男は、親指を下に向けると、がぱっと口を開いた。
「オレが、セカンドだ!」
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