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17章 再開の約束

27-1 決戦―魔王

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27-1 決戦―魔王

「よーし!それじゃ、いくよー!」

ライラは気合十分とばかりに、ふんすと息巻いた。
彼女を中心に、俺たちは円を描いて集まっている。今から俺たち全員を、風の魔法で飛ばしてもらうのだ。セカンドの罠によって、ここまでずいぶんと落っこちてきたはずだから、かなりの距離を上らなくちゃいけない。ライラには頑張ってもらわないとな。
ライラはたっぷりと息を吸うと、張り切って詠唱を開始しようとした。

「すぅー、はぁー……よし!いく」

「待て」

「んぶへぇっ!?ごほ、けほげほ」

あ、あら?いよいよという瞬間に邪魔が入って、ライラは盛大にむせてしまった。ウィルがライラの背中をさすりながら言う。

「ペトラさん……いくらなんでも、タイミングってものがあるでしょう」

ほんとだよ、がくっと来ちゃうな……水を差した張本人であるペトラは、そんなことなど全く意に介していない。あごをまっすぐ上に上げて、鋭く睨んでいる。

「妙だな。上から、気配がしない」

「気配?」

上にはセカンドや、連合軍のみんながいるはずだが……

「これは、どちらかと言えば……下か」

今度は足下を見据えるペトラ。するとフランが地面に伏して、耳を床に押し当てた。

「……本当だ。小さな音だけど、下の方から聞こえてくるよ」

フランが言うなら間違いないだろう。しかし、どういうことだ?

「セカンドは、上じゃなくて、下にいるのか?」

「どうやら、そのようだ。戦線に何か変化が起こったようだな」

「え。それって、まさか……」

まさか、上が全滅したから、下まで俺たちを探しに来たのか……?いくら俺でも、そんなこと口にはできなかったが。それでも、嫌な予感はそれぞれの胸をよぎったようだ。全員の顔が曇る。

「もう!さっきからしたしたって、じゃあ穴でも掘る気?」

唯一、せっかく張り切っていた所を邪魔されたライラだけは、プリプリと怒っている。

「そうだな……いや、やはりお前に運んでもらうとしよう」

「へ?でも、上じゃないんでしょ?」

「昇りも降りも、そこまで差はないだろう。こうすれば……なっ!」

するとペトラは、壁の方へ歩いて行くと、おもむろに足を上げた。何をする気……
バゴーン!

「わあ!」

「きゃあ!な、なにしてるんですかペトラさん!」

ペトラが蹴っ飛ばしたことによって、壁は崩れて、大穴が空いてしまった。

「こうすれば近道だ。さあ、行くぞ」

「近道って……自分の城の壁を蹴破る人が、どこにいるんですか」

ウィルはすっかり呆れた様子だ。ペトラは城の構造を熟知しているのか、あるいは相当豪胆なのか、迷いなく次々と壁をぶち抜いてく。まあ、ああしていればいつかは、外には出られるだろうな……その前に城が崩れ落ちなければ、だけど。

「まあいいや。確かに近道かもな」

俺たちはペトラの後に続いて、崩れたがれきの中を進み始めた。
俺たちが眠っている間、アドリアは怪我を治療し、精神を集中させていたようだ。さっきよりも顔色がよくなっている。反対に結界の維持で精神を使い果たしたミカエルは、立っているのもやっとのようだ。だがそれでも気丈に足を動かし、遅れまいとしている。
クラークも眠ったことで、かなり元気を取り戻した様子だ。表情はこわばっているが、さっきの腑抜けた面よりは百倍マシだろう。デュアンも顔は青白いが、それでもしっかり自分の足で歩いている。彼が恐怖を克服できたのかは、分からないけど……まあ、仮にできていなかったとしても、誰も彼を責めないだろう。
そして、俺の仲間たち。ライラは少しだけ眠って、魔力を回復させていたようだ。ウィルはそんなライラの側で、ひさびさの祈祷をしていたと聞いた。心を落ち着けるには、普段のルーティーンが一番だそうだ。ロウランもロウランで、体のメンテナンスをしていたらしい。彼女の体は、いろいろと複雑だから。
だが一方で、フランとアルルカが何をしていたのかがよく分からない。訊いても教えてくれないんだ。それになぜか、アルルカの表情が妙に硬い。どうしたのかと訊ねてもだんまりで、事情は分からないんだが……

「なあ、フラン」

「なに?」

俺は少しだけ歩く速度を落とすと、みんなから距離を取った。フランも俺に合わせて隣に並ぶ。

「お前、ひょっとしてだけど……アルルカとまたケンカしたのか?」

「え?ううん、してない。さすがにこんなところじゃ、ヒマないよ」

「まあ、それもそうか……」

「最近はあいつも、少しはまともになったしね」

「あ、やっぱりそうだよな?よかった、口酸っぱく言い聞かせてきたかいがあったってもんだ」

「そうだね」

うんうん。俺たちも第三勢力として、なかなかまとまってきたんじゃないか?この後の戦いを考えると、チームワークがいいに越したことはないし。

「……みんな、頼もしいよね」

「ん?フランがそういうこと言うのは、珍しいな。おっと、皮肉ってるわけじゃないぞ」

「うん、分かってる。けど、そう思ったんだ。ほら、わたし、腕失くしちゃったし」

「フラン……あんまり気に病むなよ。お前のせいじゃないんだから」

「うん。けど……みんながいれば、わたしがいなくても……」

「は?フラン、何言って……」

フランが小声でつぶやいた事の意味が分からず、俺は思わず足を止めた。するといきなり、フランが片腕を背中に回して抱き着いてくる。

「わ、ふ、フラン?」

「……おねがい。一つだけ、きいて」

お願い……?よく分からないが、とにかくうなずく。

「すきって言って」

「え、え?」

聞き間違いかとも思ったが、フランはそれ以上何も言わない。こんな時に、こんなことを言うってことは……フランも、やっぱりこの後の戦いに不安を感じているのか?

「……」

もしそうなら、俺は……俺は両手で、フランの小さな体を抱きしめる。

「フラン。お前が好きだよ」

「……うん」

ぎゅっと、腕に力が込められた。
数秒後、フランがぱっと体を離す。

「行こ。遅れちゃう」

「あ、ああ。けど、フラン。お前……」

「お願い。なにも訊かないで。集中したいから」

ぴしゃりと言われて、俺は口をつぐんだ。フランはそのまま歩きだしてしまう。結局俺は、彼女の背中に、その理由を問えなかった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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