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17章 再開の約束
27-2
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27-2
「くうぅぅぅ……」
「おいクラーク、情けない声出すなよ」
「う、うるさいな。僕は君らと違って、空を飛ぶのに慣れていないんだよ……」
ふむ。言われてみれば、その通りか。俺らはしょっちゅう、なんなら最初も最初のころから落っこちてばかりだ。それがこんなところで役に立つとはな。
ペトラがぶち破った壁を越えて、俺たちはヘルズニルの外に出ることができた。だが外とは言っても、そこは当然地上うん百メートル地点だ。そこでライラの風の魔法に乗って、ゆっくりと宙を移動しているところなのだ。
「あ!見えた!あそこだ!」
さっきまで真っ青な顔をしていたクラークだったが、突然下を見て叫んだ。俺たちの足元には、ヘルズニルの城門付近の光景が広がっている。その外壁付近に、一か所に固まっている人類連合軍の姿が見えた。
「追い詰められてるんだ!急がないと!」
「いや、待て!誰かが戦闘中だ!」
あっ!確かに一人、連合軍から離れたところで、何者かと戦っている。敵はほぼ一択だが、連合軍側は一体誰だ?
連合軍は今、崖を背にした状態で、外壁に張り付くようにして固まっている。クラークの言う通り、確かに追い込まれているようにも見えるが、少し様子がおかしい。その戦っている一人を援護するわけでもなく、静かに見守っているように見えるのだ。どうしてそんな孤軍奮闘じみたことを……
ライラは連合軍の上空まで来ると、魔法を緩めた。俺たちの体は重力に従い、少しずつ加速しながら落下し始める。
隊の先頭に降り立つと、周囲の兵士たちは度肝を抜かれた顔で飛び退った。
「うおぉ!?なんだ、って……お前たち!」
「お?なんだ、エドガーじゃないか」
ちょうど着地したすぐそばに、エドガーとヘイズがいた。俺はほっと安堵のため息をつく。よかった、こいつらも生き残っていたか。
「お前ら……無事だったのか……」
呆気にとられる二人に、俺はにやりと笑いかけた。
「よう。地獄の底から這い戻ってきてやったぞ」
「こ、この憎まれ口!本当に帰ってきたんだな!」
エドガーは言うが早いか、俺の背中をバシバシ叩いた。ぐえ、戦う前に怪我させる気か?ヘイズも明るい顔で笑い、周りの兵士もクラークたちの姿を見て、歓声を上げている。だが、再会ムードは長くは続かなかった。
「……っと、和んでる場合じゃないぞ。誰が戦ってるんだ?」
「ああ……」
エドガーは気まずそうに言葉を濁した。妙だな……俺は背後を振り返る。セカンドと一騎打ちをしているのは、かなり小柄な兵士だ。両手に剣を持ち、それを振り回すたびに、鳶色の髪が揺れている。え?おい、あれって!
「まさか……アルアか?」
「ああ、そうだ。一の国の傭兵だとかで、ファーストの血を継いでいるそうだな」
アルアが!驚きと怒りと不安とが、いっぺんに湧き上がってきた。
「何考えてるんだ!あの娘一人を戦地に追いやったのか!?」
俺にだってさすがに分かる。アルアが、一人でセカンドに勝てるはずがない。むしろ、今まで生きていたことが奇跡的ですらある。だがそれも、次の瞬間には崩れ去っているかもしれないんだ。だっていうのに、こんなところでのんきにしていたってのか?許せない!
俺が憤りそうになっていたその時、ぽんと肩を叩かれた。
「そうじゃないよ。あれ」
なに?フランが目を細めながら、アルアの戦いを見つめている。
「遊ばれてるんだ」
「遊ばれ……てる?」
「そうとしか見えない。あの子は必死みたいだけど、まるで相手になってないよ」
なんだって?するとフランの言葉に、エドガーとヘイズもうなずいている。俺は少し冷静になると、改めて戦いを注視する。
アルアは必死の形相で攻撃を繰り出しているが、気が付いた。そのどれも、セカンドの体に掠ってすらいない。完全に見切られている。だと言うのに、セカンドからは何一つ攻撃をしていないのだ。これは確かに、フランの言う通りだ。遊ばれている。
「これは……ヘイズ、エドガー。どういうことなんだ?」
「どうもこうもない……お前の仲間の言う通りだ。あの娘は、弄ばれているんだよ。ちくしょう!」
弄ばれている……?じゃああれは、戦いですらないってことか?ヘイズが暗い顔で説明する。
「お前たちを地下に落とした後だ。オレたちは何とか奴の攻撃を凌ぎながら、撤退を開始した。正直絶望的な撤退だったが、どうにかここまでは来れたんだ」
「すごいじゃないか。名采配だったってことだろ」
「ちげえよ……奴は、本気じゃねえんだ」
「本気じゃない?」
ヘイズは苦虫をかみつぶした顔で続ける。
「あいつが本気で殺しに掛かってきたら、オレたちはヘルズニルを出ることすらできなかっただろうよ。だがあいつは、明らかに手を抜いていた。遊んでんのさ。オレたちをウサギに、自分をジャッカルに見立ててな」
「ウサギ狩り……それなら、セカンドはわざと見逃したってことか?」
「ああ。それも、確実な狩りだ。オレたちはどうやっても、ここで詰むことになってた。地上への唯一の橋が落とされちまったからだ」
そうか……!あの橋を落としたのは、魔王の命令だ。魔王がセカンドだったってことはつまり、連合軍が地上には逃げられないことも、奴は知っていたに違いない。必ず追いつくと分かった上で、逃がしたんだ。
「……くそったれめ。どこまで悪趣味なんだ!」
「まったくだ……そしてあれも、それの延長だ。いよいよ奴に追いつかれた段階で、彼女が名乗りを上げたんだ。セカンドはそれを面白がって、一騎打ちを受け入れた」
「クソが……それであんなことに」
「正直、万に一つも勝ち目はないと思っていた。けどこうやってお前らが間に合ったんだ。彼女の奮闘も報われたってもんだぜ」
アルアがいなかったら、暇を持て余したセカンドの毒牙が連合軍に襲い掛かっていたかもしれない。この時間を稼いでくれたのは、めちゃくちゃでかいぜ。
「わかった。こっから先は、俺たちに任せてくれ」
「ああ……すまん。頼んだ」
ヘイズはうなだれるように頭を下げ、エドガーは無言で敬礼をした。これ以上、アルアに無茶もさせられない。彼女からバトンを引き継がなければ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「くうぅぅぅ……」
「おいクラーク、情けない声出すなよ」
「う、うるさいな。僕は君らと違って、空を飛ぶのに慣れていないんだよ……」
ふむ。言われてみれば、その通りか。俺らはしょっちゅう、なんなら最初も最初のころから落っこちてばかりだ。それがこんなところで役に立つとはな。
ペトラがぶち破った壁を越えて、俺たちはヘルズニルの外に出ることができた。だが外とは言っても、そこは当然地上うん百メートル地点だ。そこでライラの風の魔法に乗って、ゆっくりと宙を移動しているところなのだ。
「あ!見えた!あそこだ!」
さっきまで真っ青な顔をしていたクラークだったが、突然下を見て叫んだ。俺たちの足元には、ヘルズニルの城門付近の光景が広がっている。その外壁付近に、一か所に固まっている人類連合軍の姿が見えた。
「追い詰められてるんだ!急がないと!」
「いや、待て!誰かが戦闘中だ!」
あっ!確かに一人、連合軍から離れたところで、何者かと戦っている。敵はほぼ一択だが、連合軍側は一体誰だ?
連合軍は今、崖を背にした状態で、外壁に張り付くようにして固まっている。クラークの言う通り、確かに追い込まれているようにも見えるが、少し様子がおかしい。その戦っている一人を援護するわけでもなく、静かに見守っているように見えるのだ。どうしてそんな孤軍奮闘じみたことを……
ライラは連合軍の上空まで来ると、魔法を緩めた。俺たちの体は重力に従い、少しずつ加速しながら落下し始める。
隊の先頭に降り立つと、周囲の兵士たちは度肝を抜かれた顔で飛び退った。
「うおぉ!?なんだ、って……お前たち!」
「お?なんだ、エドガーじゃないか」
ちょうど着地したすぐそばに、エドガーとヘイズがいた。俺はほっと安堵のため息をつく。よかった、こいつらも生き残っていたか。
「お前ら……無事だったのか……」
呆気にとられる二人に、俺はにやりと笑いかけた。
「よう。地獄の底から這い戻ってきてやったぞ」
「こ、この憎まれ口!本当に帰ってきたんだな!」
エドガーは言うが早いか、俺の背中をバシバシ叩いた。ぐえ、戦う前に怪我させる気か?ヘイズも明るい顔で笑い、周りの兵士もクラークたちの姿を見て、歓声を上げている。だが、再会ムードは長くは続かなかった。
「……っと、和んでる場合じゃないぞ。誰が戦ってるんだ?」
「ああ……」
エドガーは気まずそうに言葉を濁した。妙だな……俺は背後を振り返る。セカンドと一騎打ちをしているのは、かなり小柄な兵士だ。両手に剣を持ち、それを振り回すたびに、鳶色の髪が揺れている。え?おい、あれって!
「まさか……アルアか?」
「ああ、そうだ。一の国の傭兵だとかで、ファーストの血を継いでいるそうだな」
アルアが!驚きと怒りと不安とが、いっぺんに湧き上がってきた。
「何考えてるんだ!あの娘一人を戦地に追いやったのか!?」
俺にだってさすがに分かる。アルアが、一人でセカンドに勝てるはずがない。むしろ、今まで生きていたことが奇跡的ですらある。だがそれも、次の瞬間には崩れ去っているかもしれないんだ。だっていうのに、こんなところでのんきにしていたってのか?許せない!
俺が憤りそうになっていたその時、ぽんと肩を叩かれた。
「そうじゃないよ。あれ」
なに?フランが目を細めながら、アルアの戦いを見つめている。
「遊ばれてるんだ」
「遊ばれ……てる?」
「そうとしか見えない。あの子は必死みたいだけど、まるで相手になってないよ」
なんだって?するとフランの言葉に、エドガーとヘイズもうなずいている。俺は少し冷静になると、改めて戦いを注視する。
アルアは必死の形相で攻撃を繰り出しているが、気が付いた。そのどれも、セカンドの体に掠ってすらいない。完全に見切られている。だと言うのに、セカンドからは何一つ攻撃をしていないのだ。これは確かに、フランの言う通りだ。遊ばれている。
「これは……ヘイズ、エドガー。どういうことなんだ?」
「どうもこうもない……お前の仲間の言う通りだ。あの娘は、弄ばれているんだよ。ちくしょう!」
弄ばれている……?じゃああれは、戦いですらないってことか?ヘイズが暗い顔で説明する。
「お前たちを地下に落とした後だ。オレたちは何とか奴の攻撃を凌ぎながら、撤退を開始した。正直絶望的な撤退だったが、どうにかここまでは来れたんだ」
「すごいじゃないか。名采配だったってことだろ」
「ちげえよ……奴は、本気じゃねえんだ」
「本気じゃない?」
ヘイズは苦虫をかみつぶした顔で続ける。
「あいつが本気で殺しに掛かってきたら、オレたちはヘルズニルを出ることすらできなかっただろうよ。だがあいつは、明らかに手を抜いていた。遊んでんのさ。オレたちをウサギに、自分をジャッカルに見立ててな」
「ウサギ狩り……それなら、セカンドはわざと見逃したってことか?」
「ああ。それも、確実な狩りだ。オレたちはどうやっても、ここで詰むことになってた。地上への唯一の橋が落とされちまったからだ」
そうか……!あの橋を落としたのは、魔王の命令だ。魔王がセカンドだったってことはつまり、連合軍が地上には逃げられないことも、奴は知っていたに違いない。必ず追いつくと分かった上で、逃がしたんだ。
「……くそったれめ。どこまで悪趣味なんだ!」
「まったくだ……そしてあれも、それの延長だ。いよいよ奴に追いつかれた段階で、彼女が名乗りを上げたんだ。セカンドはそれを面白がって、一騎打ちを受け入れた」
「クソが……それであんなことに」
「正直、万に一つも勝ち目はないと思っていた。けどこうやってお前らが間に合ったんだ。彼女の奮闘も報われたってもんだぜ」
アルアがいなかったら、暇を持て余したセカンドの毒牙が連合軍に襲い掛かっていたかもしれない。この時間を稼いでくれたのは、めちゃくちゃでかいぜ。
「わかった。こっから先は、俺たちに任せてくれ」
「ああ……すまん。頼んだ」
ヘイズはうなだれるように頭を下げ、エドガーは無言で敬礼をした。これ以上、アルアに無茶もさせられない。彼女からバトンを引き継がなければ。
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