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17章 再開の約束
28-2
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28-2
「クラーク、立てるな?」
「あ、ああ……」
助けてもらいはしたものの、クラークも相当に驚いている。
「あの……ペトラさん、なのか?」
「そうだ。これが私本来の姿だ、と言ったら驚くか?」
本来の姿……そうか。ペトラが魔物なんだってこと、すっかり忘れてた。人間そっくりなのは、あくまで仮の姿か。
今のペトラは、全身を黒い甲殻で覆われている。四肢は鋭く細く尖り、顔は流線形のフォルムに変化している。長いしっぽは槍のようだ。どことなくエイリアン感があるが、不気味さよりもかっこよさが勝つな。俺が男だからかもしれないけど。
「えっと……すまない。助かったよ」
「礼は働きで返してもらおう。行くぞ!」
ペトラは砂利を蹴り上げ、すぐさま敵に飛び込んでいく。クラークも剣を握って走り出した。
「よし……二人がかりなら、勝機はある。俺たちも動くぞ!」
俺は仲間を振り返った。みんなは決意に満ちた目をしている。
「あの二人に続くんだ。その役目を……フラン。お前にやってほしい」
「え」
フランは意外そうに、目をしばたいた。
「わたし……で、いいの?」
「ああ。お前に頼みたい。つっても、お前にとってあいつは……」
「やめて。あんな奴、わたしと何のつながりもない」
フランはきっぱりと言った。
「わかった。わたしが、行ってくる」
フランはざりっと一歩踏み出した。俺は彼女を正面から見つめる。
「クラークたちを助けてやってくれ」
「嫌」
「ありが……うえぇ?」
こ、この場面で断られるなんてあるの?俺が目を白黒させていると、フランがこちらを振り向いた。
「わたしは、あなたのために戦うの。勘違いしないで」
「へ。あ……」
それだけ言い残すと、フランはたたっと走り出してしまった。遠ざかる背中を見ながら、ロウランがしみじみという。
「いいなぁ。あのコみたいなストレートさ、アタシも忘れたくないの」
……なんも言えん。と、ともかく!頑張れフラン。俺は見ていることしかできないが……
「桜下、ライラたちはどーするの?」
ライラが俺の袖を引いてくる。俺はその手を握ると、前方に注視する。
「今は、待機だ。フランたちを見守ろう。下手にちょっかいかけて、あいつを警戒させちゃならねえ」
クラーク、ペトラ、フランは、セカンドに猛攻を仕掛けている。だがきっと、セカンドも本気じゃない。まずはあいつの本気を引き出さないと、話にならないんだ。
「おらおら、どうしたぁ!三人まとまってもこの程度か!?」
セカンドは悠々と攻撃をかわしながら、そんなふざけたセリフを吐く余裕を見せた。
ペトラの甲殻で覆われた拳を避けると、クラークの剣を硬化させた腕で受け止める。さらにその剣を押し返すことで、そのわきから鍵爪を突き出そうとしていたフランの前に、クラークを押し出した。二人はぶつかり合ってしまった。
「くっ」
「ぐあっ」
セカンドが拳を振るうと、二人は固まったまま吹っ飛ばされてしまった。その背中に、ペトラが襲い掛かる。だがセカンドは、背中に目がついているのかというくらい正確に、その攻撃をかわした。
「あめーんだよザコが!」
突き出された腕を掴むと、セカンドはおもちゃを振り回す子どものように、ペトラを振り回した。そのままクラークとフラン目掛けて投げ飛ばす。ドガアッ!
「ああっ。くそ、あの野郎……!」
三人は砂煙に巻かれて見えなくなってしまった。なんて奴だ、あの三人相手に……!
「……強いな。やはり」
俺は隣を振り向く。アドリアがいつの間にか、俺たちのそばまでやって来ていた。
「さっきから隙を伺っているのだが、矢を一本も撃たせてくれん。己の無力をこれほどまで痛感したことはないよ」
アドリアの表情はいつも通りに見えたが、その声はいつもよりずいぶん弱弱しく聞こえた。
「あいつの尊大な態度は、あの力に裏打ちされたものという事か。まったく……」
「あんたから見ても、そうなのか?」
「ああ。単に力が強いだけでない。技術、判断力、敏捷性。どれも極めて高いと言わざるを得ん。武人の域に達していると見て間違いない。あやつは、そういうものの上にあぐらをかいている」
くそ……並外れた武人であるアドリアが、そう評価しているってのか。この場にエラゼムがいたら、彼も同じ評価を下したんだろうか……
「セカンドはきっと、何人もの戦士の技術を盗み取ったんだ。今フランたちは、その人たちを束にして相手にしてるようなもんなんだよ」
「一人の体に、軍隊が宿っているようなものか……」
「そうかもしれない。けど」
「けど?」
「けど所詮、あいつは一人だ。それに、力は全て盗んだもの。そんな偽物の力をいくつ集めたって、フランは負けない!」
「おーい、そんなもんかよって。もっと頑張ってくれよなぁ」
セカンドは倒れたフランたちを煽り立てた。クラークは頭に血がかあっと上ったが、フランとペトラは冷静だ。
「わたしが先に突っ込む。わたしをおとりにして」
フランが二人に告げると、クラークは面食らった。
「そんな!女の子をおとりにするなんて……」
「今はいいから、そういうの。わたしは死なないんだから、そうするのが一番でしょ。それとも、死んでもいいって言うなら変わるけど」
そう言われては、ぐうの音も出なかった。ペトラもうなずく。
「それで行こう。クラーク、お前は一番脆いが、一番有効打を与えられるはずだ。我々を盾にし、機を逃すな。分かったな」
クラークは不満でいっぱいだったが、彼が反論を口にする前に、二人は動き始めていた。クラークは心の中で舌打ちをし、後を追う。
「やあああ!」
フランが鉤爪を突き出す。片腕を失ったフランは、一番攻撃力が低い。彼女はそれを承知で、切り込み役を買って出た。
「なんだよそれ。つまんねー突きだな」
セカンドは余裕をもってそれをかわし、フランの腹に蹴りを喰らわせた。吹っ飛ぶフランだったが、彼女は焦ってはいなかった。自分の攻撃は、捨て石でいい。次の一撃を、確実なものにするために……!
「ふっ!」
短い気合と共に、猛加速したペトラが、吹っ飛ばされたフランの陰から現れた。死角からの急襲と、動作の切れ目を狙った二重の不意打ちだ。さしものセカンドでも、これには対応できまい。ペトラはそう睨んでいた。
「だから、つまんねーっつってんだよ」
ペトラは驚愕した。セカンドはまっすぐに、ペトラを見据えていた。この速度、この角度からの不意打ちにすら反応できるなんて。人間の反応速度を越えている。
「おらあ!」
突っ込んでくるペトラに合わせるように、セカンドは彼女の顔面を蹴り飛ばした。フランを越える怪力は、ペトラをものけ反らせる。会心の一撃に、セカンドはにやりと笑った。
が、彼はここで慢心した。ペトラは、吹き飛ばされたのではない。のけ反っただけだったのだ。それは、彼女がギリギリのとことで反応し、体を逸らせて蹴りの威力を抑えていたためだ。
(今だ!クラーク!)
「はああぁぁぁぁ!」
ペトラの体の陰から、クラークが飛び出した。ペトラもまた、彼のおとりだったのだ。雷の力によって強化された肉体から放たれる一突きは、セカンドの心臓を正確に狙いすました。
ガイィーン!
「ぐぅ……!」
「学習しねぇなぁ。お前の剣じゃ、オレには傷一つ付けらんねーよ」
セカンドの胸を覆うように、黒色の鱗のようなものが出現していた。その鱗が、クラークの剣を防いでいる。
「確かに……」
「あん?」
「確かに僕一人の力じゃ、お前の鎧は貫けない……」
「へっ、潔いな。美徳ってやつかよ?」
「だがそれは……一人ならの話だ!」
なに……?セカンドはそう続けようとしたが、それよりも早く体が反応していた。バックステップで下がろうとするが、間に合わない。
ペトラが体を起こし、クラークの剣の柄を目掛けて、蹴りを放っていた。
「ふんっ!」
「はあっ!」
クラークの剣を媒介にして、ペトラの力が、ゼロ距離でセカンドに伝わった。それと息を合わせるように、クラーク自身も剣を押し出す。ビキィ!
「がはぁ……!」
セカンドがよろけた!胸を覆っていた黒い鱗には、ひびが入っている。初めて感じた確かな手ごたえに、クラークは胸が高鳴った。そしてその勢いのまま、追撃を仕掛けようとする。
だが次の瞬間、彼の体は動かなくなってしまった。とてつもない重力に、押しつぶされるようだ……
「やってくれんじゃんかよ……ならそろそろ、こっちも力、出してかないとなぁ……!」
セカンドの目に、怒りが燃えている。ついに奴の能力の一つ、磁力魔法が牙を剥いたのだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「あ、ああ……」
助けてもらいはしたものの、クラークも相当に驚いている。
「あの……ペトラさん、なのか?」
「そうだ。これが私本来の姿だ、と言ったら驚くか?」
本来の姿……そうか。ペトラが魔物なんだってこと、すっかり忘れてた。人間そっくりなのは、あくまで仮の姿か。
今のペトラは、全身を黒い甲殻で覆われている。四肢は鋭く細く尖り、顔は流線形のフォルムに変化している。長いしっぽは槍のようだ。どことなくエイリアン感があるが、不気味さよりもかっこよさが勝つな。俺が男だからかもしれないけど。
「えっと……すまない。助かったよ」
「礼は働きで返してもらおう。行くぞ!」
ペトラは砂利を蹴り上げ、すぐさま敵に飛び込んでいく。クラークも剣を握って走り出した。
「よし……二人がかりなら、勝機はある。俺たちも動くぞ!」
俺は仲間を振り返った。みんなは決意に満ちた目をしている。
「あの二人に続くんだ。その役目を……フラン。お前にやってほしい」
「え」
フランは意外そうに、目をしばたいた。
「わたし……で、いいの?」
「ああ。お前に頼みたい。つっても、お前にとってあいつは……」
「やめて。あんな奴、わたしと何のつながりもない」
フランはきっぱりと言った。
「わかった。わたしが、行ってくる」
フランはざりっと一歩踏み出した。俺は彼女を正面から見つめる。
「クラークたちを助けてやってくれ」
「嫌」
「ありが……うえぇ?」
こ、この場面で断られるなんてあるの?俺が目を白黒させていると、フランがこちらを振り向いた。
「わたしは、あなたのために戦うの。勘違いしないで」
「へ。あ……」
それだけ言い残すと、フランはたたっと走り出してしまった。遠ざかる背中を見ながら、ロウランがしみじみという。
「いいなぁ。あのコみたいなストレートさ、アタシも忘れたくないの」
……なんも言えん。と、ともかく!頑張れフラン。俺は見ていることしかできないが……
「桜下、ライラたちはどーするの?」
ライラが俺の袖を引いてくる。俺はその手を握ると、前方に注視する。
「今は、待機だ。フランたちを見守ろう。下手にちょっかいかけて、あいつを警戒させちゃならねえ」
クラーク、ペトラ、フランは、セカンドに猛攻を仕掛けている。だがきっと、セカンドも本気じゃない。まずはあいつの本気を引き出さないと、話にならないんだ。
「おらおら、どうしたぁ!三人まとまってもこの程度か!?」
セカンドは悠々と攻撃をかわしながら、そんなふざけたセリフを吐く余裕を見せた。
ペトラの甲殻で覆われた拳を避けると、クラークの剣を硬化させた腕で受け止める。さらにその剣を押し返すことで、そのわきから鍵爪を突き出そうとしていたフランの前に、クラークを押し出した。二人はぶつかり合ってしまった。
「くっ」
「ぐあっ」
セカンドが拳を振るうと、二人は固まったまま吹っ飛ばされてしまった。その背中に、ペトラが襲い掛かる。だがセカンドは、背中に目がついているのかというくらい正確に、その攻撃をかわした。
「あめーんだよザコが!」
突き出された腕を掴むと、セカンドはおもちゃを振り回す子どものように、ペトラを振り回した。そのままクラークとフラン目掛けて投げ飛ばす。ドガアッ!
「ああっ。くそ、あの野郎……!」
三人は砂煙に巻かれて見えなくなってしまった。なんて奴だ、あの三人相手に……!
「……強いな。やはり」
俺は隣を振り向く。アドリアがいつの間にか、俺たちのそばまでやって来ていた。
「さっきから隙を伺っているのだが、矢を一本も撃たせてくれん。己の無力をこれほどまで痛感したことはないよ」
アドリアの表情はいつも通りに見えたが、その声はいつもよりずいぶん弱弱しく聞こえた。
「あいつの尊大な態度は、あの力に裏打ちされたものという事か。まったく……」
「あんたから見ても、そうなのか?」
「ああ。単に力が強いだけでない。技術、判断力、敏捷性。どれも極めて高いと言わざるを得ん。武人の域に達していると見て間違いない。あやつは、そういうものの上にあぐらをかいている」
くそ……並外れた武人であるアドリアが、そう評価しているってのか。この場にエラゼムがいたら、彼も同じ評価を下したんだろうか……
「セカンドはきっと、何人もの戦士の技術を盗み取ったんだ。今フランたちは、その人たちを束にして相手にしてるようなもんなんだよ」
「一人の体に、軍隊が宿っているようなものか……」
「そうかもしれない。けど」
「けど?」
「けど所詮、あいつは一人だ。それに、力は全て盗んだもの。そんな偽物の力をいくつ集めたって、フランは負けない!」
「おーい、そんなもんかよって。もっと頑張ってくれよなぁ」
セカンドは倒れたフランたちを煽り立てた。クラークは頭に血がかあっと上ったが、フランとペトラは冷静だ。
「わたしが先に突っ込む。わたしをおとりにして」
フランが二人に告げると、クラークは面食らった。
「そんな!女の子をおとりにするなんて……」
「今はいいから、そういうの。わたしは死なないんだから、そうするのが一番でしょ。それとも、死んでもいいって言うなら変わるけど」
そう言われては、ぐうの音も出なかった。ペトラもうなずく。
「それで行こう。クラーク、お前は一番脆いが、一番有効打を与えられるはずだ。我々を盾にし、機を逃すな。分かったな」
クラークは不満でいっぱいだったが、彼が反論を口にする前に、二人は動き始めていた。クラークは心の中で舌打ちをし、後を追う。
「やあああ!」
フランが鉤爪を突き出す。片腕を失ったフランは、一番攻撃力が低い。彼女はそれを承知で、切り込み役を買って出た。
「なんだよそれ。つまんねー突きだな」
セカンドは余裕をもってそれをかわし、フランの腹に蹴りを喰らわせた。吹っ飛ぶフランだったが、彼女は焦ってはいなかった。自分の攻撃は、捨て石でいい。次の一撃を、確実なものにするために……!
「ふっ!」
短い気合と共に、猛加速したペトラが、吹っ飛ばされたフランの陰から現れた。死角からの急襲と、動作の切れ目を狙った二重の不意打ちだ。さしものセカンドでも、これには対応できまい。ペトラはそう睨んでいた。
「だから、つまんねーっつってんだよ」
ペトラは驚愕した。セカンドはまっすぐに、ペトラを見据えていた。この速度、この角度からの不意打ちにすら反応できるなんて。人間の反応速度を越えている。
「おらあ!」
突っ込んでくるペトラに合わせるように、セカンドは彼女の顔面を蹴り飛ばした。フランを越える怪力は、ペトラをものけ反らせる。会心の一撃に、セカンドはにやりと笑った。
が、彼はここで慢心した。ペトラは、吹き飛ばされたのではない。のけ反っただけだったのだ。それは、彼女がギリギリのとことで反応し、体を逸らせて蹴りの威力を抑えていたためだ。
(今だ!クラーク!)
「はああぁぁぁぁ!」
ペトラの体の陰から、クラークが飛び出した。ペトラもまた、彼のおとりだったのだ。雷の力によって強化された肉体から放たれる一突きは、セカンドの心臓を正確に狙いすました。
ガイィーン!
「ぐぅ……!」
「学習しねぇなぁ。お前の剣じゃ、オレには傷一つ付けらんねーよ」
セカンドの胸を覆うように、黒色の鱗のようなものが出現していた。その鱗が、クラークの剣を防いでいる。
「確かに……」
「あん?」
「確かに僕一人の力じゃ、お前の鎧は貫けない……」
「へっ、潔いな。美徳ってやつかよ?」
「だがそれは……一人ならの話だ!」
なに……?セカンドはそう続けようとしたが、それよりも早く体が反応していた。バックステップで下がろうとするが、間に合わない。
ペトラが体を起こし、クラークの剣の柄を目掛けて、蹴りを放っていた。
「ふんっ!」
「はあっ!」
クラークの剣を媒介にして、ペトラの力が、ゼロ距離でセカンドに伝わった。それと息を合わせるように、クラーク自身も剣を押し出す。ビキィ!
「がはぁ……!」
セカンドがよろけた!胸を覆っていた黒い鱗には、ひびが入っている。初めて感じた確かな手ごたえに、クラークは胸が高鳴った。そしてその勢いのまま、追撃を仕掛けようとする。
だが次の瞬間、彼の体は動かなくなってしまった。とてつもない重力に、押しつぶされるようだ……
「やってくれんじゃんかよ……ならそろそろ、こっちも力、出してかないとなぁ……!」
セカンドの目に、怒りが燃えている。ついに奴の能力の一つ、磁力魔法が牙を剥いたのだ。
つづく
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