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17章 再開の約束
28-1 セカンドの力
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28-1 セカンドの力
「さて。とは言っても、最初から全力ってのも芸がないな。お前らにハンデをやるよ」
セカンドは首をぐりぐりと捻りながら、そんなことをのたまう。
「オレ一人で相手してやる。魔物どもは控えさせておいてやるよ。ラスボスってのは、やっぱ単騎でってのが相場だろ?」
「どこまでも、舐めたマネを……!」
クラークは怒り狂っている。だがその肩を、ペトラがそっと押さえた。
「落ち着け、一の勇者よ」
「ぐっ、今度はあなたか!どうしてどいつもこいつも、あいつの肩を持つんだ!」
「そんなことは言っていない。落ち着けと言っただけだ。それに、あまり奴の言葉を真に受けん方がいいぞ。あいつはああやって口先で人心を誑かすことに長けている」
びくりと、クラークが身をすくめた。声を抑えて訊き返す。
「罠だと?」
「そうだ。ああして油断を誘っているが、最初からあいつは一人だった。もう戦える魔物が残っていないのを、ああして言い換えているのだ」
なるほどな。油断も隙も無い男だ。何も考えていないように見えて、常に策略を巡らせている。卑怯だろうが姑息だろうがお構いなしなタイプってのは、なかなか厄介だな。
「わかった。そのつもりで、気を引き締めていくよ」
「そうしたほうがいいだろうな」
クラークはうなずくと、セカンドを睨み返す。
「いいだろう。ただし、僕らは全力で行かせてもらう!」
「じゃなきゃ困るっての。何のためのハンデだよ。さ、どっからでもいいぞ」
セカンドは両の手を掲げて、クイクイと手招きした。クラークは怒りを飲み込むようにぎりりっと歯を噛むと、アルアを後ろに下がらせる。
「さあ、アルア。ここから先は、僕たちに任せて」
「で、ですが……!」
「アルア。君はもう十分よく戦った。続きは僕らの番だ。頼むよ」
懇願するかのようなクラークの声に、アルアは唇を噛みしめている。本当は、彼女だって分かっているんだろう。自分が足手まといだということも……でも、ここまで来て、いまさら退くこともできない……そんなところだろうか。俺はそこで、ある事を閃いた。うまくいくかどうかは分からないが……伝える価値はあるかもしれないな。よし。
「なあ、ちょっといいか。アルア」
「……?」
アルアは眉間にしわを寄せるだけで付いて来ようとはしなかったので、ちょっと強引に、手首を掴んで引っ張って行く。
「な、なにするの!私は……」
「分かってる。そのことで、伝えたいことがあんだよ」
「え……?」
クラークから少し離れたところで、俺はアルアに顔を近づける。何を思ったのか、彼女はギョッとして体を逸らせたが、構わず口を開く。
「なあおい、いいから聞けよ。あんた、魔王を倒したいんだろ?」
「……当たり前でしょ。いまさら何を訊くの」
「だがな、はっきり言う。あんたがウロウロされちゃ、クラークは力を発揮できねーぞ」
「っ」
アルアの顔が引きつるが、無視する。こればかりは、はっきり言っておかないと。
「でもな。あんたにも、やれることがあるかもしれないって言ったら、どうする?」
「え……ど、どういうこと……ですか?」
「これから言うことを、よく聞いてくれ。もしかしたら、あんたにできることが、まだあるかもしれない。だけど簡単じゃないし、危険も伴うぞ。その覚悟があるなら、続きを教える。どうする?」
アルアは目を大きく見開き、きゅっと瞳孔を細めた。俺はその目をじっと見つめ返す。アルアは、俺の言うことを信じるだろうか?それとも、聞き分け悪く駄々をこねるだろうか?
アルアがぎゅっと目を閉じる。ゆっくりと、口が開かれ……
「ふぁ……作戦会議は済んだか?勇者諸君よう」
セカンドはのんきにあくびをしている。俺がアルアに話している間、奴はずっと動かなかった。だが、もう分っている。その間奴は、抜け目なく俺たちを観察していた。おおかた、俺たちの力を測っていたんだろう。
ペトラとクラークが並んで、セカンドに相対する。その後ろに俺たちとアドリア。さらに後ろに、力を使い果たしたミカエルと、それを支えるデュアン、そしてアルアが戦いを見守る。そしてさらに後方には、連合軍がかかしのように立ち尽くしていた。彼らはここまで退却する中で、戦意を完全に失ってしまったようだ。彼らに再び剣を握れと言うのは、酷かな。どっちにしても、ここからの戦いにはあまり役立ちそうにない。こっからは、ペトラとクラークに掛かっている。
クラークがしゅるりと剣を抜いた。
「セカンド!僕がお前を討つ!」
油断するなよ、クラーク……俺は心の中で呼びかける。きっとあいつも分かっているだろうが、こっちの能力は、おそらくセカンドに筒抜けだ。狼耳の魔族レーヴェは、魔王の命令で俺たちの力を探っていた。セカンドは周到に、俺たちを迎え撃つ準備を進めていたのだ。
「ははっ、いいね。せめて威勢くらいよくねぇとな」
セカンドは余裕しゃくしゃくの態度で、クラークを挑発する。だがきっと、クラークの能力に対しても、なにがしかの対策を立てているはずだ。だからこそ、一瞬でケリを付けないと。
「行くぞ!コネクトボルボクス!」
クラーク全身が、電撃のオーラで光り輝く。それとほぼ同時にクラークがイナズマのように走り出した。さあ、開戦だ!
魔法で強化されたクラークは、フラン以上のスピードで突進していく。オーラも相まって、本当に電気が走っているみたいだ。さあそれに対して、セカンドはどう出てくる!
「え……」
なにも、しない?
セカンドはただ、ぼけーっと突っ立っている。無抵抗で切られようっていうのか?それとも罠か……だがクラークは、構わず奴を切りつけた。輝く白い剣が、斜めに振り下ろされる。
グワアァーン!
「ぐあぁ……!」
悲鳴を漏らしたのは、攻撃したはずのクラークだった。苦しそうに背中を丸めながら、よろよろと数歩後ずさる。ど、どうしたんだ?それにさっきの音、あれは?鐘を突いた様な音がしたぞ!
「くくく。おい、大丈夫か?手首が砕けたんじゃねえか。鉄をぶん殴ったようなもんだぜ?」
セカンドは悶えるクラークをニヤニヤと見下ろしている。見れば、奴の体の一部が、黒い鱗のようなもので覆われている。今まであんなのなかったぞ?てことは、あれも奴の能力か!
「てことで、まずは一人ィ!終わりだ!」
まずいぞ!クラークは衝撃でまだ動けない!だがその時、俺のわきを、黒い何かが駆け抜けていった。
「任せろ。私が助ける」
「え?」
今の声、ペトラ……か?駆けていった黒い影は、セカンドとクラークの間に飛び込むと、ぶんと尻尾でセカンドを振り払う。え、尻尾?
「チッ。水を差すことだけはお得意だなあ、お姫さんよ」
「そうやすやすと、獲らせはせんさ」
そいつは、ペトラの声で……だけどさっきまでのペトラとは全く違う姿で、不敵に笑った。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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セカンドは首をぐりぐりと捻りながら、そんなことをのたまう。
「オレ一人で相手してやる。魔物どもは控えさせておいてやるよ。ラスボスってのは、やっぱ単騎でってのが相場だろ?」
「どこまでも、舐めたマネを……!」
クラークは怒り狂っている。だがその肩を、ペトラがそっと押さえた。
「落ち着け、一の勇者よ」
「ぐっ、今度はあなたか!どうしてどいつもこいつも、あいつの肩を持つんだ!」
「そんなことは言っていない。落ち着けと言っただけだ。それに、あまり奴の言葉を真に受けん方がいいぞ。あいつはああやって口先で人心を誑かすことに長けている」
びくりと、クラークが身をすくめた。声を抑えて訊き返す。
「罠だと?」
「そうだ。ああして油断を誘っているが、最初からあいつは一人だった。もう戦える魔物が残っていないのを、ああして言い換えているのだ」
なるほどな。油断も隙も無い男だ。何も考えていないように見えて、常に策略を巡らせている。卑怯だろうが姑息だろうがお構いなしなタイプってのは、なかなか厄介だな。
「わかった。そのつもりで、気を引き締めていくよ」
「そうしたほうがいいだろうな」
クラークはうなずくと、セカンドを睨み返す。
「いいだろう。ただし、僕らは全力で行かせてもらう!」
「じゃなきゃ困るっての。何のためのハンデだよ。さ、どっからでもいいぞ」
セカンドは両の手を掲げて、クイクイと手招きした。クラークは怒りを飲み込むようにぎりりっと歯を噛むと、アルアを後ろに下がらせる。
「さあ、アルア。ここから先は、僕たちに任せて」
「で、ですが……!」
「アルア。君はもう十分よく戦った。続きは僕らの番だ。頼むよ」
懇願するかのようなクラークの声に、アルアは唇を噛みしめている。本当は、彼女だって分かっているんだろう。自分が足手まといだということも……でも、ここまで来て、いまさら退くこともできない……そんなところだろうか。俺はそこで、ある事を閃いた。うまくいくかどうかは分からないが……伝える価値はあるかもしれないな。よし。
「なあ、ちょっといいか。アルア」
「……?」
アルアは眉間にしわを寄せるだけで付いて来ようとはしなかったので、ちょっと強引に、手首を掴んで引っ張って行く。
「な、なにするの!私は……」
「分かってる。そのことで、伝えたいことがあんだよ」
「え……?」
クラークから少し離れたところで、俺はアルアに顔を近づける。何を思ったのか、彼女はギョッとして体を逸らせたが、構わず口を開く。
「なあおい、いいから聞けよ。あんた、魔王を倒したいんだろ?」
「……当たり前でしょ。いまさら何を訊くの」
「だがな、はっきり言う。あんたがウロウロされちゃ、クラークは力を発揮できねーぞ」
「っ」
アルアの顔が引きつるが、無視する。こればかりは、はっきり言っておかないと。
「でもな。あんたにも、やれることがあるかもしれないって言ったら、どうする?」
「え……ど、どういうこと……ですか?」
「これから言うことを、よく聞いてくれ。もしかしたら、あんたにできることが、まだあるかもしれない。だけど簡単じゃないし、危険も伴うぞ。その覚悟があるなら、続きを教える。どうする?」
アルアは目を大きく見開き、きゅっと瞳孔を細めた。俺はその目をじっと見つめ返す。アルアは、俺の言うことを信じるだろうか?それとも、聞き分け悪く駄々をこねるだろうか?
アルアがぎゅっと目を閉じる。ゆっくりと、口が開かれ……
「ふぁ……作戦会議は済んだか?勇者諸君よう」
セカンドはのんきにあくびをしている。俺がアルアに話している間、奴はずっと動かなかった。だが、もう分っている。その間奴は、抜け目なく俺たちを観察していた。おおかた、俺たちの力を測っていたんだろう。
ペトラとクラークが並んで、セカンドに相対する。その後ろに俺たちとアドリア。さらに後ろに、力を使い果たしたミカエルと、それを支えるデュアン、そしてアルアが戦いを見守る。そしてさらに後方には、連合軍がかかしのように立ち尽くしていた。彼らはここまで退却する中で、戦意を完全に失ってしまったようだ。彼らに再び剣を握れと言うのは、酷かな。どっちにしても、ここからの戦いにはあまり役立ちそうにない。こっからは、ペトラとクラークに掛かっている。
クラークがしゅるりと剣を抜いた。
「セカンド!僕がお前を討つ!」
油断するなよ、クラーク……俺は心の中で呼びかける。きっとあいつも分かっているだろうが、こっちの能力は、おそらくセカンドに筒抜けだ。狼耳の魔族レーヴェは、魔王の命令で俺たちの力を探っていた。セカンドは周到に、俺たちを迎え撃つ準備を進めていたのだ。
「ははっ、いいね。せめて威勢くらいよくねぇとな」
セカンドは余裕しゃくしゃくの態度で、クラークを挑発する。だがきっと、クラークの能力に対しても、なにがしかの対策を立てているはずだ。だからこそ、一瞬でケリを付けないと。
「行くぞ!コネクトボルボクス!」
クラーク全身が、電撃のオーラで光り輝く。それとほぼ同時にクラークがイナズマのように走り出した。さあ、開戦だ!
魔法で強化されたクラークは、フラン以上のスピードで突進していく。オーラも相まって、本当に電気が走っているみたいだ。さあそれに対して、セカンドはどう出てくる!
「え……」
なにも、しない?
セカンドはただ、ぼけーっと突っ立っている。無抵抗で切られようっていうのか?それとも罠か……だがクラークは、構わず奴を切りつけた。輝く白い剣が、斜めに振り下ろされる。
グワアァーン!
「ぐあぁ……!」
悲鳴を漏らしたのは、攻撃したはずのクラークだった。苦しそうに背中を丸めながら、よろよろと数歩後ずさる。ど、どうしたんだ?それにさっきの音、あれは?鐘を突いた様な音がしたぞ!
「くくく。おい、大丈夫か?手首が砕けたんじゃねえか。鉄をぶん殴ったようなもんだぜ?」
セカンドは悶えるクラークをニヤニヤと見下ろしている。見れば、奴の体の一部が、黒い鱗のようなもので覆われている。今まであんなのなかったぞ?てことは、あれも奴の能力か!
「てことで、まずは一人ィ!終わりだ!」
まずいぞ!クラークは衝撃でまだ動けない!だがその時、俺のわきを、黒い何かが駆け抜けていった。
「任せろ。私が助ける」
「え?」
今の声、ペトラ……か?駆けていった黒い影は、セカンドとクラークの間に飛び込むと、ぶんと尻尾でセカンドを振り払う。え、尻尾?
「チッ。水を差すことだけはお得意だなあ、お姫さんよ」
「そうやすやすと、獲らせはせんさ」
そいつは、ペトラの声で……だけどさっきまでのペトラとは全く違う姿で、不敵に笑った。
つづく
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