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17章 再開の約束
34-2
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34-2
「あ、そうだ」
ふと思い出した。ここにいるはずの仲間の内、二人の顔が見えない。
「アルルカと、フランはどこ行ったんだ?」
俺が訊ねると、ウィルの表情が一瞬陰った。どういう意味だ……?だがすぐに、小首をかしげて笑う。
「アルルカさんなら、連合軍のお手伝いに行ってます」
「えっ。ほんとに?」
「ええ。ほんとに」
あのアルルカが……?信じられん。雪でも降っているんじゃと、俺は窓の外を見た。うーむ、晴れている……
「びっくりですよね。アルルカさん、桜下さんが目を覚ました時、少しでも片付いてるようにって。頑張ってますよ」
「そうなのか……意外、って言ったら悪いけど」
「あはは。私も同じことを思いましたから、おあいこですね……あの時、アルルカさんが誤った時にも驚きましたけど」
確かに。よかった、一時の気まぐれではなかったんだな。アルルカの中の変化は。
「それと……フランさんは……」
ウィルが顔を伏せる。こっちはあまりポジティブな理由じゃないらしい。
「どうした?……なんか、あったのか」
「あ、いえ。何も、起きてはいないんです……フランさんは、いつもお城の上の方で、風に当たっています。一人になりたいそうで……」
一人に……俺は彼女の姿を思い浮かべる。誰もいない塔のてっぺんで、一人風に吹かれるフラン。骨だけの体となってしまった彼女は、風を感じるのだろうか。
「私たちも、いろいろ言ってはみたんですが……情けないですが、どうにも力になれなくて」
ウィルだけでなく、ロウランとライラもしゅんとしてしまった。
「別にライラたち、怖がったりしないよって言ったんだけど……」
「そういう気遣いをされる時点で、フランさんからしたら、居心地の悪いものだったのかもしれないです。すみません、まだどう接したらいいのか分からなくて……」
「ウィルが謝ることじゃ」
「いえ……フランさんだって辛いはずなのに。本当に、情けない限りです」
そうだな……いずれにせよ、このまま放っておいちゃいけないな。フランは一匹狼気質だが、本当はすごく寂しがりの甘えたがりだ。本当は今すぐにでも迎えに行きたいくらいだが……まだ体が動きそうもない。体がダメなら、せめて頭を動かそうか。
「ウィル。フランのことも、なんか分からないかな?例えばペトラなら、治し方とか……」
闇の魔法について詳しいペトラならば、何か知っているかもしれない。そう思ったんだけれど、ウィルはやるせなさそうに首を横に振る。
「……実は、もうすでに訊いているんです。なにかいい方法がないか」
「あ、そうだったのか……」
「残念ながら、ペトラさんも今すぐには思いつかないそうです。けど、動けるようになったら、方法を探すのを手伝うとおっしゃってくれました。魔族は人間の知らない魔法についても詳しいそうですから」
「そっか……ペトラの傷も深いだろうに、ありがたいな」
しかし、今すぐに解決策は見つからないのも事実だ……フランを焼いた呪いの黒炎は、普通の火じゃない。俺の“ファズ”でも、彼女の右腕は戻せなかった。体全てを戻すとなると、どれほど困難なことか……
「……」
諦めるつもりは、毛頭ない。しかし、長期戦の覚悟はしなければ。そしてそれを、フランにも分かってもらわないと……現実主義の彼女が、それを聞いてどう思うだろうか。
俺が沈み込んでしまったので、みんなも押し黙ってしまった。その時、部屋の扉がガチャリと開いた。
「戻ったわ……って、あによ。辛気臭い顔して」
入ってきたのは、アルルカだった。直前まで何かの作業をしていたのか、土埃がマントについている。ウィルはアルルカに振り向くと、空気を換えるように、明るく笑みを浮かべた。
「アルルカさん。ほら」
ウィルが俺を手で指し示す。アルルカの顔がついとこちらに向き、俺と目が合った。
「……!」
「よ」
俺は片手をあげて挨拶する。するとアルルカは、大きく目を見開くと、すぐさまバッと背中を向けてしまった。なんだ、思っていたリアクションと違ったな……
「……ぐすっ」
いや、違った。アルルカは背中を向けたまま、しきりに腕をゴソゴソやっている。そしてずびーっと鼻をすすると、ようやくこっちに振り向いた。
「ふ、ふん。なによ、やっと目が覚めたってわけ?相変わらずノロマね!」
そうやって憎まれ口をたたくが、俺はちっとも腹が立たなかった。目元があんなに赤いからな。
「悪いな、アルルカ。いろいろ頑張ってくれてたんだって?」
「ま、暇だったからね。あくまで暇つぶしよ」
「そっか。ありがとな、アルルカ。嬉しいよ」
「……ふん」
ぷいとそっぽを向いてしまうアルルカ。それを見て、ウィルがくすくす笑う。
「桜下さん、照れ隠しですから」
「なぁっ。ち、違うわよ!」
「それより、桜下さん。元気になってからでいいんですが、一つお願いがあって」
「うん?お願い?」
ウィルは両手をお腹の前で合わせると、俺の目を上目遣いに見上げて言う。
「はい。やっぱり一度、フランさんに会ってあげてくれませんか?」
「うん?ああ、そりゃそのつもりだけど。ああでも、フランは一人になりたがるかな……」
「ええ。たぶんフランさんは、一人にしてほしいと言うはずです。でも……きっと心の底では、桜下さんに会いたいはずですよ。だってあんなに、大好きなんですから」
ウィルの付け加えた一言は、俺の胸に響いた。戦いの前のフランとのやりとりが思い出される。フランの気持ち、俺のフランへの想い……どうすれば、彼女を傷つけずに済むのか。
「……分かった。よく考えてから、それから……必ず、会いに行くよ」
俺がそう言うと、ウィルはほっとしたようにうなずいた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「あ、そうだ」
ふと思い出した。ここにいるはずの仲間の内、二人の顔が見えない。
「アルルカと、フランはどこ行ったんだ?」
俺が訊ねると、ウィルの表情が一瞬陰った。どういう意味だ……?だがすぐに、小首をかしげて笑う。
「アルルカさんなら、連合軍のお手伝いに行ってます」
「えっ。ほんとに?」
「ええ。ほんとに」
あのアルルカが……?信じられん。雪でも降っているんじゃと、俺は窓の外を見た。うーむ、晴れている……
「びっくりですよね。アルルカさん、桜下さんが目を覚ました時、少しでも片付いてるようにって。頑張ってますよ」
「そうなのか……意外、って言ったら悪いけど」
「あはは。私も同じことを思いましたから、おあいこですね……あの時、アルルカさんが誤った時にも驚きましたけど」
確かに。よかった、一時の気まぐれではなかったんだな。アルルカの中の変化は。
「それと……フランさんは……」
ウィルが顔を伏せる。こっちはあまりポジティブな理由じゃないらしい。
「どうした?……なんか、あったのか」
「あ、いえ。何も、起きてはいないんです……フランさんは、いつもお城の上の方で、風に当たっています。一人になりたいそうで……」
一人に……俺は彼女の姿を思い浮かべる。誰もいない塔のてっぺんで、一人風に吹かれるフラン。骨だけの体となってしまった彼女は、風を感じるのだろうか。
「私たちも、いろいろ言ってはみたんですが……情けないですが、どうにも力になれなくて」
ウィルだけでなく、ロウランとライラもしゅんとしてしまった。
「別にライラたち、怖がったりしないよって言ったんだけど……」
「そういう気遣いをされる時点で、フランさんからしたら、居心地の悪いものだったのかもしれないです。すみません、まだどう接したらいいのか分からなくて……」
「ウィルが謝ることじゃ」
「いえ……フランさんだって辛いはずなのに。本当に、情けない限りです」
そうだな……いずれにせよ、このまま放っておいちゃいけないな。フランは一匹狼気質だが、本当はすごく寂しがりの甘えたがりだ。本当は今すぐにでも迎えに行きたいくらいだが……まだ体が動きそうもない。体がダメなら、せめて頭を動かそうか。
「ウィル。フランのことも、なんか分からないかな?例えばペトラなら、治し方とか……」
闇の魔法について詳しいペトラならば、何か知っているかもしれない。そう思ったんだけれど、ウィルはやるせなさそうに首を横に振る。
「……実は、もうすでに訊いているんです。なにかいい方法がないか」
「あ、そうだったのか……」
「残念ながら、ペトラさんも今すぐには思いつかないそうです。けど、動けるようになったら、方法を探すのを手伝うとおっしゃってくれました。魔族は人間の知らない魔法についても詳しいそうですから」
「そっか……ペトラの傷も深いだろうに、ありがたいな」
しかし、今すぐに解決策は見つからないのも事実だ……フランを焼いた呪いの黒炎は、普通の火じゃない。俺の“ファズ”でも、彼女の右腕は戻せなかった。体全てを戻すとなると、どれほど困難なことか……
「……」
諦めるつもりは、毛頭ない。しかし、長期戦の覚悟はしなければ。そしてそれを、フランにも分かってもらわないと……現実主義の彼女が、それを聞いてどう思うだろうか。
俺が沈み込んでしまったので、みんなも押し黙ってしまった。その時、部屋の扉がガチャリと開いた。
「戻ったわ……って、あによ。辛気臭い顔して」
入ってきたのは、アルルカだった。直前まで何かの作業をしていたのか、土埃がマントについている。ウィルはアルルカに振り向くと、空気を換えるように、明るく笑みを浮かべた。
「アルルカさん。ほら」
ウィルが俺を手で指し示す。アルルカの顔がついとこちらに向き、俺と目が合った。
「……!」
「よ」
俺は片手をあげて挨拶する。するとアルルカは、大きく目を見開くと、すぐさまバッと背中を向けてしまった。なんだ、思っていたリアクションと違ったな……
「……ぐすっ」
いや、違った。アルルカは背中を向けたまま、しきりに腕をゴソゴソやっている。そしてずびーっと鼻をすすると、ようやくこっちに振り向いた。
「ふ、ふん。なによ、やっと目が覚めたってわけ?相変わらずノロマね!」
そうやって憎まれ口をたたくが、俺はちっとも腹が立たなかった。目元があんなに赤いからな。
「悪いな、アルルカ。いろいろ頑張ってくれてたんだって?」
「ま、暇だったからね。あくまで暇つぶしよ」
「そっか。ありがとな、アルルカ。嬉しいよ」
「……ふん」
ぷいとそっぽを向いてしまうアルルカ。それを見て、ウィルがくすくす笑う。
「桜下さん、照れ隠しですから」
「なぁっ。ち、違うわよ!」
「それより、桜下さん。元気になってからでいいんですが、一つお願いがあって」
「うん?お願い?」
ウィルは両手をお腹の前で合わせると、俺の目を上目遣いに見上げて言う。
「はい。やっぱり一度、フランさんに会ってあげてくれませんか?」
「うん?ああ、そりゃそのつもりだけど。ああでも、フランは一人になりたがるかな……」
「ええ。たぶんフランさんは、一人にしてほしいと言うはずです。でも……きっと心の底では、桜下さんに会いたいはずですよ。だってあんなに、大好きなんですから」
ウィルの付け加えた一言は、俺の胸に響いた。戦いの前のフランとのやりとりが思い出される。フランの気持ち、俺のフランへの想い……どうすれば、彼女を傷つけずに済むのか。
「……分かった。よく考えてから、それから……必ず、会いに行くよ」
俺がそう言うと、ウィルはほっとしたようにうなずいた。
つづく
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