異世界ヤクザ -獅子の刺青を背負って行け-

万怒 羅豪羅

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第一章

第74話/Listening

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第74話/Listening

「……そいつはこの前と同じ場所で、同じようにアパートの壁にもたれてぐったりしていた。この町(プレジョン)は掃き溜めみてぇなところだが、さすがにガキこの町(プレジョン)は掃き溜めみてぇなところだが、さすがにガキがこう何度も倒れてるのは珍しい。だからかもしれん、つい声をかけちまった……オレらしくもねぇ。今さら善人ぶったところで……」

「……その辺で売ってるような、安もんのパンと惣菜だ。そいつをやると、あいつは犬みたいにバクバク食った(そいつを本人に言ったらえらい怒りやがった)。聞けば、なんでも親の言いつけで、絶食に近いことをやっていたらしい。いったい何を考えてやがんだ?だいたい倒れるまで飯を食わないって、こいつアホか……」

「……そいつは“クロ”という。本当はもっと長ったらしい名前だったが、いちいち覚えてられんから勝手に名付けた。“こっち”の連中の名はなんであぁ分かりずらいんだ?まぁともかく、クロは飯を食い終わってしばらくした後、しばらくぼーっとしていたが……」

「……突然、しまったという顔して、みるみる青くなった。と思った次には、口に手をつっこんでゲーゲー吐きやがった。驚きもしたが、このオレが恵んでやったものを目の前で吐かれたあげく、それが買ったばかりの靴にまで跳ねやがったからな。気が付いたらぶん殴っていた……」

「……クロは背(タッパ)はでかい割に、紙みてぇに軽かった。ぶっ飛んでいったクロを起こすのは大変だったし、起こしてから口を利くようになるまでも大変だったが……ヤツの家庭はある種の宗教のような状態になっていて、親の言うことは絶対らしい。ヤツの凶行は、親の命令だったってことだ……」

「……だが分からんことに、クロはそんな両親を溺愛しているのだ。愛ゆえに、試練を与えているだとかなんとか。そんな愛、オレならごめんだが……しかしその愛とやらも、だいぶガタが出始めているらしい。見ず知らずのオレにそんな事をベラベラ話しているのがいい証拠だ……」

「まぁしかし、こんなことはこれっきりだ。オレにはやるべきことがある。ガキ一人に構ってる時間は無い。そのことを戒め、忘れないためにも、今ここにこれを記す……」



「これは……」

おそらく、十数年前のアオギリの様子が綴られているのだろうが……

「全然印象ちがうな……」

今と違って、当時はだいぶ粗暴な人だったみたいだ。
それに、クロという人物との関わり。今メイダロッカ組の周りに、クロという名前の人はいない。これもアオギリが付けたあだ名みたいなものなんだろうが……

俺はもう少しページをめくって、その先のことを読み進めてみた。



「……新月の日、深夜。星明りも無い、本当に暗い夜だった。その日は朝っぱらから大忙しで、くたびれ果てていた。鼻にしみこんだ嫌なにおいを忘れたくて、廃ビルの屋上でタバコをふかしている時、懐かしい顔がたずねてきた。クロの野郎だ……あいつは未だにやせ細っていたが、一応は元気でやってるようだった。野垂れ死なれちゃ、ちっとは夢見が悪い……」

「……ヤツとはとりとめのない話をした。気ぃ抜くとあくびが出るような、くだらない話だ。そんなことを十数分ほど話した後、ヤツからまだあのイカレタ家族ごっこを続けているということを聞いた。いや、むしろ前よりエスカレートしている。最近、オレは“家族”のことでうまくいってなかったから、そのことでクロと口喧嘩になってしまった……」

「……今思えば、わざわざオレを探して会いに来たんだ。何か言いたいことがあったのかも知れない。しかし互いに火に油で、最後は殴り合い……つくづく、ヤクザってのが嫌になる。結局オレたちは、暴力以外の解決法を持っちゃいないんだ……」

「……さすがに、ひょろガリの若造に負けはしない。仮にも“一家の長”であるオレだ。だが皮肉にも、その立場を固めれば固めるほど、俺の居場所は無くなっていくように思えた。一方、歪ながらも、クロには確かに帰る場所と、家族の愛情があった。オレにはそれが、無性に情けなく、羨ましく思えたんだ。だからつい……言い過ぎた」

「……ヤツの家族を否定した。ヤツの環境を否定した。ヤツの……在り方を否定した。ヤツは、酷く傷ついた顔をして、そのまま行ってしまった……頭の冷えた今ならわかるが、それは言っちゃならなかった、と思う。別に、今さら善人ぶりたいワケじゃねぇ。ただ……」

「……それは、今のオレをも否定する言葉だ。オレは、血と暴力で今の地位を築き上げた。そうすることで、自分の居場所を作ってきた……つもりだった。だが、それは歪で、あちこちにヒビが入り始めていた。いままで見ないふりをしてきたが、限界だ。けど、もう引き返せないじゃないか。オレはこれを正しいと思って行くしかないんだ。なのに……」

「……歪なものは間違い。美しいものこそが正しい。そういうクソッタレなもんをぶち壊したくて、今までやってきたはずだった。なのに結局、最後には自分がそれを認めちまってる。これじゃあ、今まで組のために血を流してくれた連中に示しがつかねぇ……この国始まって以来、最大の極道組織『鳳凰会』の“初代会長”が、このざまじゃ……」



「……な」

ここは事務所の二階、元先代の部屋。現実に戻ってきてなお、俺の意識は半分ほど本の中に取り残されているようだった。
アオギリが、鳳凰会の初代会長……?だって、彼はメイダロッカ組の組長だったはずだろ。いやけど、何も一つの組しか組長をやれないなんてことはないのか……

「……よう。読み終わったのか?」

気が付くと、アオギリが部屋に戻ってきていた。幽霊だから、足音はしないんだ。

「ええ……驚きましたよ」

「だろうなぁ。その本に書いてあることは結局、キリーたちにも伝えられずじまいだった。文字通り、墓場まで持ってくところだったな、カカカ!」

アオギリはケタケタと笑うが、その声にはちっとも覇気が無かった。

「……先代。あなたが、鳳凰会の創始者……初代会長なんですか」

「ああ。もっとも当時は、別の名前を名乗ってたがな……知っとるか?」

「不死鳥……」

鳳凰会、伝説の一代目。不死鳥と呼ばれたその男は、いま俺の目の前で、肉体を失った幽霊と化していた。

「まったく、お笑いだぜ。不死鳥どころか、ゾンビのほうがしっくりくるだろ?だが、これが現実だ……」

「……あなたは、どうしてメイダロッカ組の組長に?鳳凰会の地位を追われたんですか?」

「逆だ。鳳凰会から逃げ出したかったから、メイダロッカ組を立ち上げたんだ」

「逃げ出す?」

鳳凰会は、当時プレジョンを席巻した最強の極道組織だ。そのトップとなれば、全極道のあこがれの存在と言っていい。ヤクザってのは、みなその頂を目指しているのだと思っていたが……

「ああ。それにも書いてあっただろう?ワシの目的はな、ヤクザのカシラでも、金でも女でも名誉でもない。そんなもん、その気になればいつでも手に入れられたし、前の世界で十分に味わい尽くしとった……」

前の世界……アオギリは東京のヤクザだと言っていた。当時からそれなりの地位にいたってことなんだろう。

「ワシが欲しかったのはな、居場所なんだよ」

「居場所……?」

「ああ。まったく、泣けてくるぜ。ワシがどれだけあがいても手に入れられず、死ぬ直前になってようやく見つけたモンを、お前さんはもうとっくに手に入れとる」

「……いえ、そんなことは。これはキリーが、みんながくれたものです」

「ああ。ワシだってそうだよ。あんなにチビだったキリーが、ワシに何より得難いものを与えてくれたんだ……」

アオギリはキリーの眠るベッドにそっと腰かけたが、スプリングが軋むことはなかった。

「……ワシは、確かに地位と力を手に入れた。だが、そうやって上に行けば行くほど、ワシの周りは敵ばかりになっていった。そりゃそうよな、ヤクザはそういう生きものだ。いつだって上の首を狙っとる。分かってたはずなのになぁ……」

アオギリは自分の爪先のあたりを見つめながら、ぼそりと呟いた。

「クロとケンカした夜、ワシはそのことをはっきり自覚したよ。ちょうどその日は最後の敵対勢力を潰して、名実共に鳳凰会がトップになった時だった。皆が浮かれる中、一人だけ妙に冷静な自分がいたよ」

ハハハ。アオギリは力なく笑う。

「だからワシは、自分の居場所を探す事に決めた。力で強引に造るんじゃなく、自然と帰ってこれるような、そんな場所を」

「それで出来たのが、メイダロッカ組……」

「ああ。結局ワシ一人ではどうにもできなかった。キリーが、ウィローが、スーが、アプリコットが……みんながワシを救ってくれた。だが、ワシは……」

アオギリはそこで言葉を区切ると、それきり口を閉ざしてしまった。いったい何を言おうとしたのだろう?

「……ワシの知っとるマフィアっちゅうのは、クロのことだ」

「え?そのクロさんって、マフィアだったんですか」

「いや、マフィアになったんだ。いつ頃かは知らんが、ワシとやりあった後のことだ」

「まさか……その人がゴッドファーザー……?」

「それはないだろうさ。やつがその道に入ってからまだ十年かそこいらだぞ?よほどのやり手か幸運でもない限りは、な」

「そうですか……それか、もしかしたらクロさんに話を聞けたりとかはしませんかね?」

「うぅ~ん……だいぶワシのことを恨んでるだろうしなぁ……ていうか、見たことないか?だいぶ目立つ容貌なんだが。ギラギラしとる金色の眼に、瞳が十字の形をしとって……」

え?
十字の瞳だって!

「えぇー!あいつ、アイツがクロなんですか!?」

「お、やっぱり見とったか?まぁ一目見たら忘れんよなぁ」

「いや、見たなんてレベルじゃないですよ。俺たちはあいつに一度襲われてるんです。なぜだか執拗にキリーを狙ってきて……」

「なにぃ?そいつは……」

アオギリはまたも、喉を詰まらせたように口を閉じる。

「……だが、それならなおさら違うな。マフィアのトップが、のこのこ出てくるなんてこたぁねえだろ」

それは、確かにそうだ。ボスじきじきに現場に出てくるというのは考えずらい。

「悪いが、ワシもゴッドファーザーっちゅうのは知らん。だが、そういった存在がいて、そいつがどこにいるかは聞いたことがある」

「え……そ、それはどこですか!」

「首都だ。あそこに“ピップスポット”っつうエリアがある。そこに向かえ」

「ピップスポット……それで、その地区のどこに?」

「さあな。わからん」

「えぇ?」

「そこにアジトがあると聞いたが、詳しいことは知らんのだ」

「そ、そんな……」

「だからお前らはまず、そのエリアの中からアジトを探し出さなきゃならん。その上で、たった一人のボスを見つけることになるんだ」

おそらく何千人といる人の中から、たった一人を……それも、マフィアを退けながら。気の遠くなりそうな作業だ。

「どうだ?怖気づいたか?」

アオギリは試すように俺を見た。

「いいか、お前さんはヤクザなんだ。組のためなら、命だって投げ捨てなきゃならん。お前にその覚悟はあんのか?」

「……いいえ。俺は、ここじゃ死ねません」

「なんだと?」

「キリーと賭けをしてるんです。まだ降りるわけにはいかない。だから……必ず生きて帰るんです」

「……カッカッカ!いい答えだ、くたばりぞこないめ。なぁに、お前なら大丈夫さ。キリーたちもついとるしな」

「ええ。きっと」

「うん。よし!なら、ワシはぼちぼち行くかな」

「え、どこか行かれるんですか?」

「また眠くなってきたのさ。前みたくぶざまなのはゴメンなんでね、とっととおさらばさせてもらうぞ。あばよ、ユキ坊」

アオギリは俺の返事も聞かず、ドアをすり抜けとっとと行ってしまった。

「神出鬼没だな、まったく……」

しかし、敵の本拠地を掴めたのは大きいな。それに、もう一つわかったことがある。
それは、アオギリがまだ何かを隠しているということだ。
いくら俺でも分かるぞ、あのうろたえかたは。何を隠してるのかはわからないが……でもきっと大丈夫だろう。アオギリのキリーへの視線は、娘を愛する父親そのものだった。危険なことだったら、きっと教えてくれるはずだ。

「なんにしても、これで動けるな……」

マフィアへの対抗策と、アジトがわかった。後は突撃の号令がかかるだけだ。

「いよいよだ……」



翌朝。俺はメイダロッカ組のみんなに、ステリアとリル、黒蜜を集めていた。アオギリから聞いた話を伝え、そして……決戦の時が来たことを知らせるためだ。

「おじいちゃんが、鳳凰会の初代会長……」

「それもだけど、おじいさんもユキくんや黒蜜ちゃんと同じ、異世界の人だったなんて……」

「しかもユキと先代は元ヤクザ……偶然にしては出来すぎですね。もはや恣意的なものまで感じます」

「けど、わざとったってどうすんのよ?世界を移動させるなんてこと、それこそ神様でもないと出来っこないじゃない」

「あるいは、未知の原理でそれを可能にした技術者がいる……とか。聞いたことはないけど、首都にはいろんな科学者がいるから」

「未知の技術って、それこそSFの世界じゃないっすか。映画じゃないんすよ」

「あー、君たち。盛り上がっているところ申し訳ないけども、今はそれより大事なことがあるんじゃないのかな。だろう、ユキ?」

リルに話を振られると、俺はうなずいて前に出た。

「俺たちや先代のことも気になるが、今は置いておこう。まずは、マフィアをどうやって倒すかだ」

「マフィアを……」

「……倒す」

「ああ。俺とリルは警察長官に目を付けられてるから、逃げる事は出来ない。リルは俺が巻き込んだようなものだが……」

「よしてくれよ。私もあそこを抜け出すには、ああするしかなかっただけのことさ」

「なんにしても、センパイたちは首都に戻らないといけないっす。どんな結果であれ、長官に報告しないわけにはいきませんから。それに、時間もあまり残されてはいないようっすから……」

「うん。今朝、黒蜜くん宛に電報が届いたそうなんだ。リーマス長官から、『キッポウモトム』ってね。どうやら、そろそろ“良い報告”をしないとまずいらしい」

「まぁ、そういうことだ。それでなんだが……みんな、ほんとうに」

「いいに決まってるでしょ、ユキ?わたしたちもついてくよ」

「……聞くだけ野暮だったな。よし、それじゃあ作戦はこうだ」


「マフィアの本拠地は、さっきも言った通り、ピップスポットっていう区画全てだ。ここのことは誰か知ってるか?」

「はい、私が。プレジョンの端にある住宅街だったと記憶しています。まさかマフィアの巣窟だったとは……」

「そういう所の方が、かえって目立たないものなのかな。ともかく、俺たちはそこにのり込んで、やつらのボス『ゴッドファーザー』を見つけ出さなくちゃならない」

「けど、そいつを抑えたからといって、私たちの勝利になるとは限らない。チェックメイトで全員降参してくれるなら、話は早いけど」

「ああ。そうなってくれたら嬉しいけど……まず無理だろうな」

「希望的観測は含まない方がいい。戦略の基本」

「うん。だから、その後には残党狩りが残ってる。トップをこちら側に握っておけば、連中の指揮はガタガタになるはずだ。それが立ち直る前に……一気に叩く!」

パン!俺は手のひらに、拳を打ちつけた。

「いいんじゃないかな?わたしは賛成!とってもわかりやすいもん!」

「き、キリーちゃん。確かにわかりやすいけど、そこまでがすっごく大変だよ?だって、町一つの中から、たった一人を探さなきゃいけないんでしょ?」

「あ~……」

「スーの言う通りだ。だから、まず幹部クラスの連中を探すつもりだ。そいつらからゴッドファーザーの情報を吐かせる」

「……なるほど。カチコミとあらば、幹部連中も出てくるでしょうね。最悪、幹部の居場所は下っ端に聞けばいい。少しずつ上に登っていけば、いずれはボスにたどり着くって寸法ですか」

「ああ。それに、一人心当たりがあるんだ。俺たちが出向けば、喜んで飛び出してきそうなやつが」

「あ……」

「あの、十字の瞳の……クロさん、だっけ」

「そう。ヤツなら、先代のことも知ってる。他の連中よりは、まだ話しやすいと思うんだ」

「……ふむ。ユキの計画はわかった。アラもあるが、これ以上時間もかけられないようだしね。私は賛成だよ」

「他に意見があれば言ってくれ。それでもいいなら……」

俺はみんなの顔を見渡した。
口を開く者は、一人もいなかった。



翌日。俺は、ウィローと一緒に風俗街に繰り出していた。プレジョンにいた時間がだいぶ長くなったからな。プラムドンナのみんなにシノギを任せてたとは言え、流石に見回りくらいはしておきたい。。
それに、またじきに空けることになるからな。今度はすぐ帰ってこれる保障はない。下手すれば、そのまま一生……

「ユキ?大丈夫ですか?」

「あ、悪い。ぼーっとしてた」

「もう、しっかりしてくださいよ。示しがつかないじゃないですか」

ウィローのジト目が刺さる。いかん、集中せねば。

「……それでは、引き続きよろしくお願いしますよ。私たちはまたしばらく留守にしますので、何かあれば代理の者に」

「へいよ、メイダロッカ組さんには世話になってるからね。ちょっとくらいなら任しといてよ」

「頼もしい限りです。では」

ウィローに続いて、俺も店を後にする。斜め前を歩くウィローの横顔を見つめていると、視線に気づいたウィローがこちらへ振り向いた。

「なんです?」

「いや、そつなくこなすなぁと思ってさ。こういうのは慣れてるのか?」

「そう見えました?これでも結構いっぱいいっぱいなんですが……」

「あはは、そうなのか?けど、以外だったな。ウィローが付いてくるって言うとは思わなかったよ」

「ん、まぁそうですね。今まで用心棒としての役回りばかりだったので、たまにはこっち側もいいかなと」

ウィローは今まで現場がメインで、こういった見回りやあいさつなんかはほとんどやっていなかった。単に人手が足りないというのもあったが、本人の好みじゃないんだと思ってたな。

「それに、もう二度とないかもしれませんし……」

「え?なにか言ったか?」

「いいえ?それよりほら、次へ行きましょう」

ウィローはすたすたと先に行く。
気になるが、本人がいいと言うならいいか……

それから店を回る間、ウィローは率先して前に出たがった。
本人も嫌そうではなかったので任せっきりだったが、なんだか焦っているように見えたのが気にかかった。

見回りも終盤になったところで、俺たちはいわゆる、厄介な店とかち合った。

「ですから……」

「あぁ?俺は女の言うこたぁ聞けねぇってんだよ!」

「いや、男とか女ではなく……」

「うるせぇ!だいたい、テメェはまだガキじゃねぇか!とっととお家へ帰れってんだ!」

「……はぁ、埒があきませんね。ユキ、すみませんが代わってもらえますか。大人の男なら、話を聞いてくれそうです」

「はは、だといいが……わかった、代わろう」

俺はウィローと体を入れ替え、こめかみをピクピクさせるおやじの前に出た……

つづく
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