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外伝 - 第二章 龍姫と薙刀姫
二章六節 - 西日の大通り
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二人は熱いこい焼きを食べながら、行き交う人々を眺めた。買い物中の親子に、仕事帰りの官吏、大通りを巡回する武官、屋台で軽食の準備をする人――。夕方の大通りは大勢の人々で賑わっている。
「あら、大地武官こんばんは。今日は夜勤だそうですね。お気をつけて」
「こらそこ、ちゃんばらごっこしながら帰らないの!」
華奈は時折見かける顔見知りの武官や道場の門弟たち一人ひとりに声をかけていた。強くて美しい上に、愛想よく礼儀正しい。華奈に憧れを感じる一方で、彼女のようになるのは難しそうだとも思う。与羽に彼女ほどの努力は、たぶんできない。与羽は再び湧き起こった負の感情をかき消そうと、こい焼きの味に集中した。
――甘い。おいしい。
心の中をそんな幸せな感情で埋めなおす。少しずつこい焼きをかじりながら、華奈と同じように通りを見渡した。長く伸びた影、汗をぬぐう人。
「あ。たつ……」
与羽はその中に、見慣れた幼馴染の姿を発見した。たくさんの人がいるにも関わらず、気づいてしまったのは、心のどこかで常に彼のことを考えているからだろうか。
辰海はおそらく学問所の帰りなのだろう。勉強道具を包んだ重そうな風呂敷を抱え、足早に城方向へ進んでいる。その表情は疲れているようで暗い。
彼の周りには同じ学問所で学ぶ少女が二人いた。辰海に向かってしきりに話しかけているようだが、辰海は顔をしかめるだけで相手にしていない。目を細め、唇を引き結んだ彼の横顔はいらだっているように見えた。辰海の内側で、怒りが膨らんでいる。しかし、少女たちは辰海の内心に気づいていないようだ。無言の辰海は冷静な印象を与えるらしい。
辰海か少女たちに声をかけるべきだろうか。与羽は小さく口を開いた。
「…………」
しかし、勇気が足りずにすぐ閉じる。
「与羽ちゃん」
気づかわしげな華奈の指先が、与羽の小さな肩にそっとふれた。その瞬間、華奈が隣にいることを忘れていたように、与羽の上半身がびくりとはねる。
「……華奈さん」
大きく見開いた紫の目が華奈を見上げて、すぐに細くなった。与羽が笑みを浮かべたのだ。
「心配は無用ですよ」
にこにこしながら、残っているこい焼きにかぶりつく与羽。華奈はそれを複雑な気持ちで見た。
「古狐の若君は――」
「辰海は友達ですよ、大切な。小さいころから一緒に育って。頼れるお兄ちゃんみたいな」
与羽は辰海を誇るように生き生きと話す。強がりには見えないほど――。
「今は官吏登用試験で気が立って冷たいですけど、まぁ、そう言う時もあるのかなって」
――だから、自分には関係ない。
表情豊かな与羽は辰海に対する心配をにじませつつも、どこか冷たさを秘めていた。あまり彼の話はしたくないようだ。
――結構、傷ついてるみたいね。
寂しそうな顔をしていると思ったら、突然笑顔になり、不安そうになり、幼馴染を突き放すような態度を取る。情緒不安定な与羽を見て、華奈はそう判断した。呼吸や視線、体の小さな動きから相手の行動や気持ちを読み取るのは、華奈の得意分野だ。
「知ってはいたけれど、与羽ちゃんってものすごく仲間思いよね」
「そんなことないですよ。私は辰海が大変なのを知っていて、何もしてあげられないんですから」
与羽の言葉は謙遜ではなく、本当にそう思っているのだろう。
「でも、そんな自分を変えたくて一鬼道場に来てるんでしょう?」
「……大斗先輩から聞いたんですか?」
「少しだけ、ね」
大斗は求めてもいないのに、華奈に色々な話をしてくる。その中に与羽との出会いや道場に連れてきた経緯の説明もあった。
「華奈さんと大斗先輩も幼馴染なんでしたっけ?」
「一応ね」
言葉を濁しつつ肯定した華奈の口元は、苦虫を噛み潰したように歪んでいる。その表情だけで、華奈が大斗にあまり良い感情を抱いていないことがわかった。
「あら、大地武官こんばんは。今日は夜勤だそうですね。お気をつけて」
「こらそこ、ちゃんばらごっこしながら帰らないの!」
華奈は時折見かける顔見知りの武官や道場の門弟たち一人ひとりに声をかけていた。強くて美しい上に、愛想よく礼儀正しい。華奈に憧れを感じる一方で、彼女のようになるのは難しそうだとも思う。与羽に彼女ほどの努力は、たぶんできない。与羽は再び湧き起こった負の感情をかき消そうと、こい焼きの味に集中した。
――甘い。おいしい。
心の中をそんな幸せな感情で埋めなおす。少しずつこい焼きをかじりながら、華奈と同じように通りを見渡した。長く伸びた影、汗をぬぐう人。
「あ。たつ……」
与羽はその中に、見慣れた幼馴染の姿を発見した。たくさんの人がいるにも関わらず、気づいてしまったのは、心のどこかで常に彼のことを考えているからだろうか。
辰海はおそらく学問所の帰りなのだろう。勉強道具を包んだ重そうな風呂敷を抱え、足早に城方向へ進んでいる。その表情は疲れているようで暗い。
彼の周りには同じ学問所で学ぶ少女が二人いた。辰海に向かってしきりに話しかけているようだが、辰海は顔をしかめるだけで相手にしていない。目を細め、唇を引き結んだ彼の横顔はいらだっているように見えた。辰海の内側で、怒りが膨らんでいる。しかし、少女たちは辰海の内心に気づいていないようだ。無言の辰海は冷静な印象を与えるらしい。
辰海か少女たちに声をかけるべきだろうか。与羽は小さく口を開いた。
「…………」
しかし、勇気が足りずにすぐ閉じる。
「与羽ちゃん」
気づかわしげな華奈の指先が、与羽の小さな肩にそっとふれた。その瞬間、華奈が隣にいることを忘れていたように、与羽の上半身がびくりとはねる。
「……華奈さん」
大きく見開いた紫の目が華奈を見上げて、すぐに細くなった。与羽が笑みを浮かべたのだ。
「心配は無用ですよ」
にこにこしながら、残っているこい焼きにかぶりつく与羽。華奈はそれを複雑な気持ちで見た。
「古狐の若君は――」
「辰海は友達ですよ、大切な。小さいころから一緒に育って。頼れるお兄ちゃんみたいな」
与羽は辰海を誇るように生き生きと話す。強がりには見えないほど――。
「今は官吏登用試験で気が立って冷たいですけど、まぁ、そう言う時もあるのかなって」
――だから、自分には関係ない。
表情豊かな与羽は辰海に対する心配をにじませつつも、どこか冷たさを秘めていた。あまり彼の話はしたくないようだ。
――結構、傷ついてるみたいね。
寂しそうな顔をしていると思ったら、突然笑顔になり、不安そうになり、幼馴染を突き放すような態度を取る。情緒不安定な与羽を見て、華奈はそう判断した。呼吸や視線、体の小さな動きから相手の行動や気持ちを読み取るのは、華奈の得意分野だ。
「知ってはいたけれど、与羽ちゃんってものすごく仲間思いよね」
「そんなことないですよ。私は辰海が大変なのを知っていて、何もしてあげられないんですから」
与羽の言葉は謙遜ではなく、本当にそう思っているのだろう。
「でも、そんな自分を変えたくて一鬼道場に来てるんでしょう?」
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「少しだけ、ね」
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「華奈さんと大斗先輩も幼馴染なんでしたっけ?」
「一応ね」
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