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凛風・桜陽と金狼の結婚が発表されると、桃柊はさっそく二人の従者から好みを聞き出して家のつくりを決め大工を集めて離宮の改築を始めた。
「わざわざこっだにお金さ使って綺麗にする必要あんべか」
「あの二人は皇帝のために子供を産まされるんだ、せめて暮らす場所ぐらい本人の好みに合わせてもいいと思わないか?」
現皇帝の妻になり次代の皇帝の母になるという名誉は大きいが、実際は皇帝本人からの愛も信頼もなくただ都合のいい胎にされるだけの二人にはせめて安らげる場所を作ってやりたかった。
自室は内側からのみ鍵をかけられる扉をつけたり子作りのためだけの大きな寝台を備えた特別な寝所を備えるという、後宮ではありえない造りもそのためだった。
「……桃柊さまはお優しいだね」
宝珠のその声色には愛情と嫉妬が入り混じるが、桃柊は己の美意識をふんだんに盛り込んだ離宮の改造に夢中でその言葉の意味を深読みすることなく「そうか?」と返した。
「凛風と桜陽の部屋以外は完全に私好みにしてしまったしな、帝都中の暇な大工をかき集めての大改築なんて血税でやることじゃないだろう」
「だども根本的には2人への優しさだべ」
「宝珠は私のことを良いように捉えてくれるな」
桃柊は宝珠のやわらかい癖毛を軽く撫でてその好意をねぎらう。
皇帝一族らしからぬやり方ではあるが、宝珠はこのねぎらいがいっとう好きだった。
きっと今宵も桃柊に自分を求められてこの身を差し出す夢を見るのだろう。
****
凛風と桜陽のもとに「後宮の改築が終わった」という知らせが届いたのは結婚から三か月後のことだった。
朱家の凛風はその知らせに胸をときめかせ、黒く艶やかな御髪をきれいに結い自分の手持ちで一番の服をまとった。
もうすぐ20代も終わりに差し掛かろうとする年齢であったがその美しさに揺らぎはない。
黒く艶やかな髪を腰まで伸ばし、薄い羽織りものの下に着たチャイナドレスは体の線に密着してその豊満な胸と尻を際立たせている。
良家の令嬢が着るには少々煽情的と呼ばれそうだが凛風に手段を選ぶ余裕はなかった。
凛風は幼少のみぎりから金狼に恋焦がれ彼の妻になることのみを夢見ていた。それ故にあらゆる男を金狼と比較してしまうせいで相手に嫌われて結婚話を幾度もふいにしてきた。
第二夫人とは言え愛した男に抱かれる日が来たのだ。その期を逸するぐらいなら己の矜持などゴミ同然だった。
それに比較すると桜陽は冷静だった。
ようやく17になったばかりの彼女はこれが世継ぎを作るための結婚に過ぎないと理解していたが、同時に自分が身分の高い男に嫁げば対等に言い合える身分になることを理解していた。
父兄にたびたび自分の手柄を持って行かれたせいで正しく周囲に自らの才能を評価されなかった彼女にとって皇帝の母という地位はどんな美男よりも魅力的だった。
とにかく自分は健康な男児を産めると示すことがいいだろうと考えた彼女は、ベリーダンサーのような鮮やかな赤い衣装を身にまとう。さすがにこのまま外に出るのは憚られたので上に上着を羽織る。
ふたりとも金狼と顔を合わせるのは挙式の日以来、己の未来は今日にかかっていた。
「わざわざこっだにお金さ使って綺麗にする必要あんべか」
「あの二人は皇帝のために子供を産まされるんだ、せめて暮らす場所ぐらい本人の好みに合わせてもいいと思わないか?」
現皇帝の妻になり次代の皇帝の母になるという名誉は大きいが、実際は皇帝本人からの愛も信頼もなくただ都合のいい胎にされるだけの二人にはせめて安らげる場所を作ってやりたかった。
自室は内側からのみ鍵をかけられる扉をつけたり子作りのためだけの大きな寝台を備えた特別な寝所を備えるという、後宮ではありえない造りもそのためだった。
「……桃柊さまはお優しいだね」
宝珠のその声色には愛情と嫉妬が入り混じるが、桃柊は己の美意識をふんだんに盛り込んだ離宮の改造に夢中でその言葉の意味を深読みすることなく「そうか?」と返した。
「凛風と桜陽の部屋以外は完全に私好みにしてしまったしな、帝都中の暇な大工をかき集めての大改築なんて血税でやることじゃないだろう」
「だども根本的には2人への優しさだべ」
「宝珠は私のことを良いように捉えてくれるな」
桃柊は宝珠のやわらかい癖毛を軽く撫でてその好意をねぎらう。
皇帝一族らしからぬやり方ではあるが、宝珠はこのねぎらいがいっとう好きだった。
きっと今宵も桃柊に自分を求められてこの身を差し出す夢を見るのだろう。
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凛風と桜陽のもとに「後宮の改築が終わった」という知らせが届いたのは結婚から三か月後のことだった。
朱家の凛風はその知らせに胸をときめかせ、黒く艶やかな御髪をきれいに結い自分の手持ちで一番の服をまとった。
もうすぐ20代も終わりに差し掛かろうとする年齢であったがその美しさに揺らぎはない。
黒く艶やかな髪を腰まで伸ばし、薄い羽織りものの下に着たチャイナドレスは体の線に密着してその豊満な胸と尻を際立たせている。
良家の令嬢が着るには少々煽情的と呼ばれそうだが凛風に手段を選ぶ余裕はなかった。
凛風は幼少のみぎりから金狼に恋焦がれ彼の妻になることのみを夢見ていた。それ故にあらゆる男を金狼と比較してしまうせいで相手に嫌われて結婚話を幾度もふいにしてきた。
第二夫人とは言え愛した男に抱かれる日が来たのだ。その期を逸するぐらいなら己の矜持などゴミ同然だった。
それに比較すると桜陽は冷静だった。
ようやく17になったばかりの彼女はこれが世継ぎを作るための結婚に過ぎないと理解していたが、同時に自分が身分の高い男に嫁げば対等に言い合える身分になることを理解していた。
父兄にたびたび自分の手柄を持って行かれたせいで正しく周囲に自らの才能を評価されなかった彼女にとって皇帝の母という地位はどんな美男よりも魅力的だった。
とにかく自分は健康な男児を産めると示すことがいいだろうと考えた彼女は、ベリーダンサーのような鮮やかな赤い衣装を身にまとう。さすがにこのまま外に出るのは憚られたので上に上着を羽織る。
ふたりとも金狼と顔を合わせるのは挙式の日以来、己の未来は今日にかかっていた。
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