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6.帝国よりの使者
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帝国から要らない子扱いされ王国へ養子に出される予定の皇子の思わぬ秘密への戸惑いを抱えつつ、自室に戻るとアイリスが「この場合ってどうしたらいいのかしらね」とつぶやいた。
「……妙な性癖があると言っても希少な複数ギフト持ちだからなぁ、うちに来てくれれば色々助かりそうだよね。王国で受け入れが難しいなら魔王城に連れていくという手もあるし」
「正直私としてもその方が都合良いのよね、なんせ相手は帝国皇子だから王国の王位継承権があるとなると国内が荒れそうなのよね」
「じゃあ私のところで引き取って魔族と人間の橋渡しができるよう教育を受けてもらった方が良いかな」
「私たちの子供の教育係になってもらう、と言うのもいいかもね」
その前提で動くなら互いの国に利益がある。
帝国は継承問題の火種になりそうなアンヘル皇子を外に出せる、王国は帝国からの無茶ぶりを回避できる、魔王城は魔族に通じた人間がゲットできる。
「未来の私たちの子に変な性癖植え付けないようにだけは気をつけましょうね……」
それはそう。
「養子の件、お引き受けいたしますわ」
老皇帝にそう伝えると皇帝は実に満足げに頷いた。
「ノアが主要な養育者となり、私たちの子として立派に育てあげることをお約束いたしますわ」
「ほう、魔王が人の子を育てるか」
「魔王と言えど私は人の子として育った身の上、魔族のことも人の事もわかる人材は貴重であろう」
老皇帝は「魔族が育てた人の子がどのようになるか、楽しみに見守ろう」とゆかいに笑った。
***
帝国からアンヘル皇子を養子に迎え入れることを魔王領一帯に宣告すると、人間嫌いの一部の魔族から色々言われつつすぐさま準備が行われた。
「魔王城へ引っ越しですか」
アンヘル皇子は驚き、彼についているメイドや執事も恐怖を抑えて立っているのが分かった。
「私としてはアンヘル皇子のもとで働く意思があるならばこれまでの従者を迎え入れるつもりでいる」
従者たちのほうを見ると、恐怖で腰が抜けた庭師やビビってしまったメイドたちなど魔王城への転勤に怯えてるものが多かった。
「……私は行きますわ」
手を挙げたのは最年長のメイド・サフィニアだ。
確かアンヘル皇子の母親と古い付き合いで、彼に付いて子爵家から王城まで移ってきたはずだ。
「私はあの子の、カンパニュラの忘れ形見をひとりで魔王の城に置いておくなどできません」
アンヘル皇子はサフィニアの愛情に感動したようにその目を見つめているが私の耳には「え、百合じゃん」というつぶやきが聞こえていた。感動を壊すな。
他のメイドや騎士たちもそれで覚悟が決まったようでアンヘル皇子付きの従者10人のうち4人が魔王城についていく決意を固めた。
「従者たちの分の部屋や給与も準備しておこう。半月後、アイリスとともに迎えに来る」
「……妙な性癖があると言っても希少な複数ギフト持ちだからなぁ、うちに来てくれれば色々助かりそうだよね。王国で受け入れが難しいなら魔王城に連れていくという手もあるし」
「正直私としてもその方が都合良いのよね、なんせ相手は帝国皇子だから王国の王位継承権があるとなると国内が荒れそうなのよね」
「じゃあ私のところで引き取って魔族と人間の橋渡しができるよう教育を受けてもらった方が良いかな」
「私たちの子供の教育係になってもらう、と言うのもいいかもね」
その前提で動くなら互いの国に利益がある。
帝国は継承問題の火種になりそうなアンヘル皇子を外に出せる、王国は帝国からの無茶ぶりを回避できる、魔王城は魔族に通じた人間がゲットできる。
「未来の私たちの子に変な性癖植え付けないようにだけは気をつけましょうね……」
それはそう。
「養子の件、お引き受けいたしますわ」
老皇帝にそう伝えると皇帝は実に満足げに頷いた。
「ノアが主要な養育者となり、私たちの子として立派に育てあげることをお約束いたしますわ」
「ほう、魔王が人の子を育てるか」
「魔王と言えど私は人の子として育った身の上、魔族のことも人の事もわかる人材は貴重であろう」
老皇帝は「魔族が育てた人の子がどのようになるか、楽しみに見守ろう」とゆかいに笑った。
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帝国からアンヘル皇子を養子に迎え入れることを魔王領一帯に宣告すると、人間嫌いの一部の魔族から色々言われつつすぐさま準備が行われた。
「魔王城へ引っ越しですか」
アンヘル皇子は驚き、彼についているメイドや執事も恐怖を抑えて立っているのが分かった。
「私としてはアンヘル皇子のもとで働く意思があるならばこれまでの従者を迎え入れるつもりでいる」
従者たちのほうを見ると、恐怖で腰が抜けた庭師やビビってしまったメイドたちなど魔王城への転勤に怯えてるものが多かった。
「……私は行きますわ」
手を挙げたのは最年長のメイド・サフィニアだ。
確かアンヘル皇子の母親と古い付き合いで、彼に付いて子爵家から王城まで移ってきたはずだ。
「私はあの子の、カンパニュラの忘れ形見をひとりで魔王の城に置いておくなどできません」
アンヘル皇子はサフィニアの愛情に感動したようにその目を見つめているが私の耳には「え、百合じゃん」というつぶやきが聞こえていた。感動を壊すな。
他のメイドや騎士たちもそれで覚悟が決まったようでアンヘル皇子付きの従者10人のうち4人が魔王城についていく決意を固めた。
「従者たちの分の部屋や給与も準備しておこう。半月後、アイリスとともに迎えに来る」
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