異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館2年目・春(9部分)

駐日金羊国大使館の話

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東京都内港区麻布十番、の路地裏に佇むの古い雑居ビルに掲げられた真新しい看板は何かと人目を引く。
駐日金羊国大使館。世界初、異世界の小国の名前を掲げたそこは大使館の多い界隈でも異色を放っていた。
エレベーターもない古いビルを登ること5階、運動不足のオフィスワーカーにはなかなか辛いものを感じながら目的の部屋の扉の前に辿り着く。
「飯島さんお疲れ様です」
扉を叩く間もなく出てきたのはロヴィーサ駐日大使だ。
二足歩行の白うさぎのようなその愛らしい見た目は子供やマスメディアに人気で、西の国からの侵攻があった間はテレビに引っ張りだこだった。
「お疲れ様です、お昼食べました?」
「いえ、停戦合意が出来てからはずっと荷物の荷解きしてまして」
「なら皆さんでご飯食べませんか?」
大きなビニール袋を掲げて、今回ここに立ち寄った目的を告げる。
駐日金羊国大使館の人々はこの先うちの部署と深く関わることになるので、その顔と名前くらいは覚えておきたかったのだ。
「では、ご馳走になります」

***

テイクアウトしてきた大きなピザに4人がキラキラと目を輝かせるのを見て、何となく嬉しくなる。
今回は近くのお店からテイクアウトしてきたLサイズのピザ(ハーフアンドハーフにして4種類の味が楽しめる)2枚とサラダやチキンナゲット、さらにコーラの1.5リットルボトル。
何となく机の上がパーティみたいになったが、これは箸やフォークを使わずに手軽に食べやすそうだからと選んだ結果なので仕方ない。
「全部美味しそうですね~!ロヴィーサさん、食べていいですか?」
キラキラとした目でそう聞いてきたのはシマリスのしっぽを揺らした可愛らしい少年だ。
「ヨウン、買ってきたの私じゃないからそれは飯島さんに言うべきよ」
「飯島さんありがとうございます!」
「お気になさらず、ヨウンさん?は何の担当になりますか?」
「ロヴィーサさんのお手伝いです」
こちらの感覚だと秘書のような感じだろうか?
しかしどう見ても少年なので合法なのか、少し気になってしまうが異世界のことを日本の価値観で測るのはあまり良くないので「そう」と軽く受け流す。
後でロヴィーサ駐日大使本人に話しておこう。
「あ、エンプラ!それ1人で食べる気?!」
チキンナゲットを1人黙々と食べているのは年老いたコンドルの獣人で、大きな翼でチキンナゲットの箱を覆いながら1人で食べている。
「ババアはこれが気に入ったのさ」
ニヒルに笑いながら何もつけずにチキンナゲットをかじるその姿には何とも言えない風格がある。
映画や漫画に出てくるかっこいいババアキャラにコンドルの翼を備えた、と言うとわかりやすいだろうか。
「気に入られたのならこの近くで食べられるお店を後でご紹介しますよ」
「じゃあ後で教えてくれるかい?これは毎日食えるね」
「エンプラ、私たちに一個づつ渡しなさい。そうしないとこの丸い奴は私たちで食べるわよ」
「そういやこの丸いのもあったね」
飄々とした口ぶりでチキンナゲットの箱を置いたが、もう一個も残っていない。よほど気に入ったのだろう。……猛禽類の獣人だから肉が好きなのだろうか?
俺も久しぶりに照り焼きチキンピザに手を伸ばす。
チーズと照り焼きソースの甘辛さが刺激的で、たまにこう言うのって食べたくなるよな。
しかし彼らには味が濃いめなようでたびたび水で舌を洗いながら飲んでいることに気づいた。実際エンプラ婆さんもチキンナゲットにはほとんど何もつけずに食べている。
(金羊国は地球に比べて調味料が未発達だからこういうのは俺たちの感覚より濃く感じるのかもな)
「味濃いですかね?」
「事前に話として聞いてましたから」
ロヴィーサ駐日大使がさらりとそう答えた。
「カウリはどう?」
「このシュワシュワした思ったよりいけます」
カウリと呼ばれたのは大きなカナヘビの獣人だ。
人間とほぼ同じサイズのカナヘビがコーラを飲みピザを食べるのは中々現実離れした光景だ。
(爬虫類嫌いのうちの妻がこの人と出会ったらたぶん泣いて逃げるな……)
「カウリはうちで料理を担当してくれていて、こちらのもてなし料理について調べさせているので」
「へえ」
雑な返答を自覚しつつも大使館はこの4人で回っているらしい事をロヴィーサ駐日大使に確認すると、そうよと軽やか告げられる。
この人数で回すとなるとかなり苦労しそうだな……。
そんなことを考えながらもぐもぐと久しぶりのピザを楽しむのだった。
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