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大使館3年目・夏(16部分)
深大寺くんの双海公国見聞録3(後)
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*深大寺くんの双海公国見聞録3(前)の続きです
「総合的に言えば人間に都合良過ぎません?」
話を聞いた感想を答えると、カウサル女公爵は「まあそうかもね」と答えた。
「カウサル女公爵もそう思われるなら奴隷制度廃止してもいいんじゃないですか?」
「でも人間の側に立てばこれ以上に便利で安価な労働力はないし、こんな都合のいいものを手放すメリットがない。それを穴埋めするのが日本の持つ科学技術なんだろうけどね」
「なら奴隷制廃止してもいいのでは?」
「じゃあもし奴隷制廃止した場合の問題を考えよう」
そう言いながらカウサル女公爵は僕の手元にあった紙とペンを取って、一番上に【奴隷制廃止によって起きる問題】という文字を書いて四角で囲む。さらに下に線を引いて【価格競争】と書き込んだ。
「まず大陸の他の国では奴隷制が存続してるから、価格競争の問題がある。機械を導入すればいいけれど、導入するコストはどこから出てくる?」
「当初赤字覚悟でも長期的に見れば高品質なものを少ない人数で生産出来ますから最終的には元が取れると思いますけど……」
「でもみんなが身銭を切ってまで未知の技術をすぐ導入してくれると思う?」
「未知というか地球全体では既に成功してますよ」
「地球では、ね。ではこの世界で機械は問題なく正しく動くという保証は?正しく動いたところで奴隷制のある国の製品よりも質や生産性で劣れば売り上げに関わるけれど、奴隷労働による製品と質や生産性で差がない事をどうやって納得させる?」
そう語る彼女には商売人の真剣さが滲む。
奴隷の存在はこの世界では最上級に便利なのだ、その便利さを手放すにはそれ以上の便利さや合理性を提示しなければ手放してくれない。
「次に解放された元獣人奴隷達をどう養うかを考えよう。彼らは長く単純労働や肉体労働に勤しんできたが、解放後に機械を導入した事で職を失う者が出てくる。彼らを放置したらどうなる?」
「普通に考えれば食い詰めて犯罪に走る可能性はありますね。そうなると就労支援を行うのが妥当でしょうか」
「就労支援か。じゃあ技術をつけた元汚物処理の獣人を雇う人は見つかるか?という問題になるけど、私は正直に言ってしまえば悲観的だね。どうしても汚物処理という汚れのイメージを引きずっているから身直に置きたがる人は少ないと思う」
「そうなるとどっちにせよ食い詰める、って事ですね」
「だね。最後に、さっき会った孔雀の子のような愛玩用奴隷は見目麗しい以上の能力はない。歌や踊りは出来るけど需要には限界がある。彼のような奴隷の再就職先をいかに確保するべきだろう?他の獣人を見下す癖に非力で見目が良いばかりの者たちが主人をなくした後に何をさせれば良い?」
「……すいません、すぐには思いつきません」
「私もここは正直悩みどころでね。日本で芸能活動させるという手もあるが、向こうのことはよく分からないからいま結論は出せない。
総合的に考えた結果『この世界ではすぐに奴隷制廃止には至れない』というのが私の結論だね」
これまでの話を紙にまとめて書き出した末、結論として【即時の奴隷廃止は無理】と書き付けてある。
思ったよりもカウサル女公爵は現実的に考えていたらしい、恐らく僕よりもずっと真面目に考えていたのだろう。
「日本側と組む上では奴隷制廃止は恐らく絶対に通らないとならない。なんせ間に立つ金羊国は逃亡奴隷の国だ、逃亡奴隷が奴隷を黙認なんてするとは到底思えない。
北の国は金羊国内の国内の獣人を自国の人間と対等に遇することで当座はごまかせるだろうけど、この状態がずっと続けば国内で獣人と人間が同じ額もらってることに不満が出るはずだ。将来的には奴隷制による利益か金羊国と日本の関係による利益を天秤にかける時が来るだろうね」
その指摘は僕らの中に無かったものであり、先々の禍根の萌芽でもあった。
カウサル女公爵の指摘を必死で紙に書き留めながら僕はこれを日本側に伝えなければという気持ちが湧き上がる。
「私達双海公国がこれらの問題を背負ってでも奴隷制を手放す代わりに日本側が与えてくれる知識と技術体系が、これまでの世界を破壊してより高みを見せてくれると約束できる?」
「総合的に言えば人間に都合良過ぎません?」
話を聞いた感想を答えると、カウサル女公爵は「まあそうかもね」と答えた。
「カウサル女公爵もそう思われるなら奴隷制度廃止してもいいんじゃないですか?」
「でも人間の側に立てばこれ以上に便利で安価な労働力はないし、こんな都合のいいものを手放すメリットがない。それを穴埋めするのが日本の持つ科学技術なんだろうけどね」
「なら奴隷制廃止してもいいのでは?」
「じゃあもし奴隷制廃止した場合の問題を考えよう」
そう言いながらカウサル女公爵は僕の手元にあった紙とペンを取って、一番上に【奴隷制廃止によって起きる問題】という文字を書いて四角で囲む。さらに下に線を引いて【価格競争】と書き込んだ。
「まず大陸の他の国では奴隷制が存続してるから、価格競争の問題がある。機械を導入すればいいけれど、導入するコストはどこから出てくる?」
「当初赤字覚悟でも長期的に見れば高品質なものを少ない人数で生産出来ますから最終的には元が取れると思いますけど……」
「でもみんなが身銭を切ってまで未知の技術をすぐ導入してくれると思う?」
「未知というか地球全体では既に成功してますよ」
「地球では、ね。ではこの世界で機械は問題なく正しく動くという保証は?正しく動いたところで奴隷制のある国の製品よりも質や生産性で劣れば売り上げに関わるけれど、奴隷労働による製品と質や生産性で差がない事をどうやって納得させる?」
そう語る彼女には商売人の真剣さが滲む。
奴隷の存在はこの世界では最上級に便利なのだ、その便利さを手放すにはそれ以上の便利さや合理性を提示しなければ手放してくれない。
「次に解放された元獣人奴隷達をどう養うかを考えよう。彼らは長く単純労働や肉体労働に勤しんできたが、解放後に機械を導入した事で職を失う者が出てくる。彼らを放置したらどうなる?」
「普通に考えれば食い詰めて犯罪に走る可能性はありますね。そうなると就労支援を行うのが妥当でしょうか」
「就労支援か。じゃあ技術をつけた元汚物処理の獣人を雇う人は見つかるか?という問題になるけど、私は正直に言ってしまえば悲観的だね。どうしても汚物処理という汚れのイメージを引きずっているから身直に置きたがる人は少ないと思う」
「そうなるとどっちにせよ食い詰める、って事ですね」
「だね。最後に、さっき会った孔雀の子のような愛玩用奴隷は見目麗しい以上の能力はない。歌や踊りは出来るけど需要には限界がある。彼のような奴隷の再就職先をいかに確保するべきだろう?他の獣人を見下す癖に非力で見目が良いばかりの者たちが主人をなくした後に何をさせれば良い?」
「……すいません、すぐには思いつきません」
「私もここは正直悩みどころでね。日本で芸能活動させるという手もあるが、向こうのことはよく分からないからいま結論は出せない。
総合的に考えた結果『この世界ではすぐに奴隷制廃止には至れない』というのが私の結論だね」
これまでの話を紙にまとめて書き出した末、結論として【即時の奴隷廃止は無理】と書き付けてある。
思ったよりもカウサル女公爵は現実的に考えていたらしい、恐らく僕よりもずっと真面目に考えていたのだろう。
「日本側と組む上では奴隷制廃止は恐らく絶対に通らないとならない。なんせ間に立つ金羊国は逃亡奴隷の国だ、逃亡奴隷が奴隷を黙認なんてするとは到底思えない。
北の国は金羊国内の国内の獣人を自国の人間と対等に遇することで当座はごまかせるだろうけど、この状態がずっと続けば国内で獣人と人間が同じ額もらってることに不満が出るはずだ。将来的には奴隷制による利益か金羊国と日本の関係による利益を天秤にかける時が来るだろうね」
その指摘は僕らの中に無かったものであり、先々の禍根の萌芽でもあった。
カウサル女公爵の指摘を必死で紙に書き留めながら僕はこれを日本側に伝えなければという気持ちが湧き上がる。
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