異世界大使館雑録

大使館3年目・秋(17部分)

嘉神恭弘は休めない

大使が北の国の訪日に伴う調整役として選ばれて、この秋は大使館不在の時間が増えることが確定した。
「と言うわけで北の国の訪日終了まで僕と深大寺くんと石薙さんの3人で仕事を回すことになります」
深大寺くんは「わあ……」と困ったような声をあげ、石薙さんの表情が僅かに引き攣ったように見えた。
「特に石薙さんのは苦労をおかけしますがよろしくお願いします」
「秋の収穫祭どうするんですか？！」
「掲示物は修正だけ入れて使い回します、ノベルティ配布は評判いいので追加発注かけて、麦茶の配布を無しにします」
麦茶配布も評判がいいのだが大量生産が大変なので、ここをカットすれば飯山さんの手が空くので人員に余裕を持って大使館を回せる。
「大使が不在のことが増えるので判断が少し遅れますが、基本的には去年秋の収穫祭と同じ動きで考えてください。僕としては大使には北の国の訪日調整役に集中してもらう方針です」
今回の訪日は日本側にとって大きいイベントである。
去年と同じ流れの収穫祭よりそちらに集中してもらうべき、というのは当然の判断と言えるだろう。
この点は2人とも同意してくれたようで深大寺くんも石薙さんもうんうんとうなづいてくれた。

「2人には苦労かけますが、よろしくお願いします」

率直に言えば、真柴さんを訪日に巻き込んだ上層部に文句はある。ようやく戻ってきたばかりなのだから溜まってる仕事に集中させてあげて欲しいとか、なんでよりによって金羊国のイベントシーズンであるこの秋なのかとか、言いたい事はいくらでもある。
しかしあの国を知る外務省の人間と言う調整役に必要な条件を満たしてる人があの人しかいないのだから仕方ない。恨み言を言っても役職を変えられないのだ。
「頑張りましょうね」
訪日が終わるまでの1ヶ月半、僕はまだ休めそうに無い。