禅寺暮らしのエルフさん

あかべこ

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エルフさんと畑に行く:後

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家に帰ると、まずは数本の大根を水洗いする。
残りは魔法鞄に収納しておくことで少しでも大根の日持ちを伸ばすよていらしい。
「大根は葉っぱ・皮・上中下に分けます!」
「葉っぱや皮も使うんだな」
「はい。葉っぱは小さく刻んでおいてください」
言われた通り、大根の葉っぱは風魔法で小さく一気に刻んでおく。
……なんかミツナリが変な顔してるな。
「魔法って便利ですね。とりあえず全部フライパン入れて、ごま油で炒めておいてください。出来ます?」
「それぐらいなら出来るさ」
言われた通りにごま油で大根の葉を炒めていると、その間に大きなジッパー付きの袋から野菜の皮や芯を取り出すとを大きな鍋に出すと大根の皮と共に水で煮込み始めた。
「これは……?」
「ベジブロスと言いまして、野菜の皮や芯などの捨てられる部分から出汁を取るんですよ」
「美味しいのか?」
「今朝お粥はこのスープで炊いてます」
言われてみれば今朝のお粥は具材も入っていないのにしみじみとした滋味深さがあった。
(野菜の旨みが溶け込んだスープで煮込んだお粥だからあのような味だったのか!)
森にいた時は野菜の皮などは土に埋め戻していたが、こうした使い方を見せられると衝撃的だ。
「野菜の皮からも旨みが出るんだな」
「いつも昆布と椎茸だけだと飽きが来ますしね」
そして残った大根の下の部分を縦に四つ割りにしたあと薄くスライス(日本では銀杏切りと呼ぶそうだ)していく。
その間に少量のみりんをレンジで加熱して酒精を飛ばし、砂糖・塩・お酢と先程酒精を飛ばしたみりんを混ぜて最後に酸味のある果実の汁と削った皮を混ぜる。
「何故酒精を飛ばすんだ?」「宗教的都合です」
そこに先程の大根を入れておくだけらしい。
大根は二つの蓋付き容器に分けられ、片方は明日ミズハの手で畑の主へ渡される予定らしい。
「お礼になるんだな」
「ええ。あと大根の上の部分は大根おろしにして冷凍したいので、お願いして良いですか」
木と金属のすりおろし機とジッパー袋を手渡されるので「このおろし金はどう違うんだ?」と聞いてみる。
「おろした大根の荒さが変わるんです。木製の方は鬼おろしという荒い大根おろしに、金属の方は細かい大根おろしになります。あ、金属平気ですか?」
「金属類は平気だ。じゃあサッと済ませよう」
髪の毛を媒介として大根に巻きつけると、そのまま勝手にすりおろされてジッパー袋へと溜まっていく。
やはりミツナリが変な顔をするので「何か問題があったか?」と聞いておく。
「エルフの魔法って何でもありなんですね……」
「私達は魔法が使えて一人前だし、森を出て研究に勤しむには魔法で何でも出来るようにならないといけない決まりだったから頑張ったんだぞ?」
森を出られるようになるまで200年以上かかったことを思えばこれぐらい出来て当たり前と言う部分がある。
エルフイコール魔法がうまいと言うイメージは森の外は危険が多過ぎるので魔法による護身が出来ないと森の外へ出る許可が降りない事に由来する。
「人間は魔法使えないんですか?」
「当人の素質と努力次第だな」
「僕は出来るようになります?」
「後で調べてみようか。ところで、大根の残りは何にするんだ?」
こちらの世界の人間が魔法に適合する素質があるかは私も興味がある、しかし今は残りの大根を使い切る事が最優先である。
「大根の残りは大根ステーキと煮物になります!」
残った大根の真ん中部分を全て厚めに切り分け、表面に切り込みを入れる。
「さっきのベジブロスとうちでいつも作り置きしてる昆布と椎茸の出汁で煮込みます」
「ステーキにするのに全部煮るのか?」
「個人的にはこの方が美味しいと思うのでステーキにする分も軽く煮ておくんです」
その隙に小さな器に酒・砂糖・醤油・みりんを混ぜておく。
大根の一部を取り上げると、油で大根を焼き始め、さらに先程のタレと絡め焼く。
「おお、美味しそうだ……!」
「ですよね、酒と味醂は焼いてる間にアルコール飛びますから煮切りの手間がないのは楽なんですよね」
じゅうじゅうとステーキを焼く間に大根もよく煮えて来た。
「大根の煮物の味付けは?」
「醤油酒味醂です」
「ほぼ同じじゃないか!」
「日本人は醤油で味付けすれば文句を言わない生き物なんですよ」
ミツナリの言い分にはだいぶ疑問があるが、エルフとてだいたい塩味かハーブ味で暮らしてるの似たようなものなのだろうと思う事にした。そもそも入手しやすい調味料の種類が違うが。
(調味料が豊富なこの国でそこまで愛される味付けというのもすごい話だな)
煮物の火を落とし、大根ステーキが皿に大盛りで乗せられる。
「さて、今日は大根祭りですよ」
自分で収穫し、自分で調理した大根達が食卓に並ぶ。
そんな生活子供の頃以来である。
「楽しみだ」
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