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エルフさんと安全なお寿司:前
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「うちの母が退院することになりました」
ミツナリが帰って来て早々に私にそんな事を言った。
「それはめでたいな。私はこの家を出て行った方が良いか?」
「あ、いえ、それは大丈夫です。エルシアさんの部屋は元から客間なので専用部屋にすればいいだけですからね」
「そうか?私は野宿も慣れてるから庭先に仮小屋を立ててもいいのだが」
「いや本当に大丈夫ですから!で、うちの母は寿司が好物でして」
「スシ……確かコメの上に生魚を乗せた料理だったか」
テレビで見た記憶を掘り返してそう聞くと「それであってます」とミツナリが言う。
「それでエルシアさん、お寿司って食べたことあったかなって」
「まず生魚も受け付けないからなあ」
私がそう答えると「そう言えばそうだった……」とつぶやく。
エルフは肉も魚も受け付けないので私はスシが食べられないが、長樂も母の退院となれば戒律を脇においてスシを食べるのだろうか?
それともチョウラクだけ家で違うものを食べるのだろうか?私はあくまで居候なので別で食べたっていいが、肉親であるチョウラクだけ母の退院を祝えないと言うのは仕方ないとはいえ可哀想な気がする。
「じゃあ兄さんとエルシアさんも食べられる寿司を用意した方が良いですね」
「生魚のないお寿司と言うのもあるのか?」
「はい、野菜寿司と言いまして火を通して味付けした野菜を乗せたお寿司があるんです」
「という事はコメの上に乗せれば何でもスシなのか?」
「厳密にはお酢を混ぜて少し酸っぱくしたお米に魚や野菜を乗せたものがお寿司って言う方が正しいですね」
ミツナリからの説明を受けると、ちょっと興味がわいてきた。
酸味の利いた米と野菜の組み合わせは初めて見聞きする組み合わせである。
「でも野菜だけだと母さんが物足りない気がするんだよなあ、どうしよ」
ミツナリがぶつぶつと考え込み始めたので、私はちょっと席を離れてテレビをつけた。
この夕方ぐらいの時間にやっているテレビ番組で触れられるこの世界の政治経済はもちろん文化や娯楽についての情報はいつも私の好奇心をくすぐらせてくれる。
この日の番組内容はヴィーガンという人々についての特集であった。
何でもこの世界にはこの世界が持続可能であるために動物性食品を避けて暮らす人々がおり、昨今では彼らのための植物由来の代用食品が色々と開発されているのだそうだ。
(自ら菜食主義を選択する訳だから、これまでの選択の幅が狭くならないようにしてるのだな)
私が冒険者になって間もない頃、ともに旅をしていたドワーフに言われた言葉を思い出す。
『肉が食えなくて人生つまらなくないのか?』
その時は『たかが食い物で人生の楽しさを左右される方がつまらないだろ』と言い返したが、この意見は今でもあまり変わりがない。
なんせ幼少期から私たちエルフは野菜しか食べていないので肉や魚が食卓に並んでいる光景を見たことがない。肉や魚が食べられない事で体調を崩すわけではないし、元々肉や魚を食べずに生きてきたので野菜のみの食事でも人生を楽しむことはできる。
しかし自ら選択して菜食生活になった人にとっては食の選択肢が狭まるというのはつらい事なのであろう。
「これだ!」
ミツナリが突然叫んで部屋を出て行った。
「……なんだったんだ?」
番組は次のコーナーに切り替わっていた。
ミツナリが帰って来て早々に私にそんな事を言った。
「それはめでたいな。私はこの家を出て行った方が良いか?」
「あ、いえ、それは大丈夫です。エルシアさんの部屋は元から客間なので専用部屋にすればいいだけですからね」
「そうか?私は野宿も慣れてるから庭先に仮小屋を立ててもいいのだが」
「いや本当に大丈夫ですから!で、うちの母は寿司が好物でして」
「スシ……確かコメの上に生魚を乗せた料理だったか」
テレビで見た記憶を掘り返してそう聞くと「それであってます」とミツナリが言う。
「それでエルシアさん、お寿司って食べたことあったかなって」
「まず生魚も受け付けないからなあ」
私がそう答えると「そう言えばそうだった……」とつぶやく。
エルフは肉も魚も受け付けないので私はスシが食べられないが、長樂も母の退院となれば戒律を脇においてスシを食べるのだろうか?
それともチョウラクだけ家で違うものを食べるのだろうか?私はあくまで居候なので別で食べたっていいが、肉親であるチョウラクだけ母の退院を祝えないと言うのは仕方ないとはいえ可哀想な気がする。
「じゃあ兄さんとエルシアさんも食べられる寿司を用意した方が良いですね」
「生魚のないお寿司と言うのもあるのか?」
「はい、野菜寿司と言いまして火を通して味付けした野菜を乗せたお寿司があるんです」
「という事はコメの上に乗せれば何でもスシなのか?」
「厳密にはお酢を混ぜて少し酸っぱくしたお米に魚や野菜を乗せたものがお寿司って言う方が正しいですね」
ミツナリからの説明を受けると、ちょっと興味がわいてきた。
酸味の利いた米と野菜の組み合わせは初めて見聞きする組み合わせである。
「でも野菜だけだと母さんが物足りない気がするんだよなあ、どうしよ」
ミツナリがぶつぶつと考え込み始めたので、私はちょっと席を離れてテレビをつけた。
この夕方ぐらいの時間にやっているテレビ番組で触れられるこの世界の政治経済はもちろん文化や娯楽についての情報はいつも私の好奇心をくすぐらせてくれる。
この日の番組内容はヴィーガンという人々についての特集であった。
何でもこの世界にはこの世界が持続可能であるために動物性食品を避けて暮らす人々がおり、昨今では彼らのための植物由来の代用食品が色々と開発されているのだそうだ。
(自ら菜食主義を選択する訳だから、これまでの選択の幅が狭くならないようにしてるのだな)
私が冒険者になって間もない頃、ともに旅をしていたドワーフに言われた言葉を思い出す。
『肉が食えなくて人生つまらなくないのか?』
その時は『たかが食い物で人生の楽しさを左右される方がつまらないだろ』と言い返したが、この意見は今でもあまり変わりがない。
なんせ幼少期から私たちエルフは野菜しか食べていないので肉や魚が食卓に並んでいる光景を見たことがない。肉や魚が食べられない事で体調を崩すわけではないし、元々肉や魚を食べずに生きてきたので野菜のみの食事でも人生を楽しむことはできる。
しかし自ら選択して菜食生活になった人にとっては食の選択肢が狭まるというのはつらい事なのであろう。
「これだ!」
ミツナリが突然叫んで部屋を出て行った。
「……なんだったんだ?」
番組は次のコーナーに切り替わっていた。
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