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エルフさんと安全なお寿司:後
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ある初春の土曜日、チョウラクとミツナリの母が自宅へと帰ってきた。
「あなたが今うちのお寺に住んでるエルシアさんね?初めまして。佐野朱鷺子です」
「こちらこそご挨拶に伺えず申し訳ありませんでした、エルシアと申します」
トキコは柔和な微笑みを持つ優しい雰囲気の小柄な初老女性で、どちらかと言えばチョウラクに雰囲気が似ている。
「それにしても本当にきれいな人ねえ」
エルフが言われがちな言葉ナンバーワンを掛けつつも、私を気に入ってくれたようなのはありがたい。
ミツナリは朝から台所に立って料理をしており、チョウラクとミズハも久しぶりに帰ってきた母親にお茶を出してくる。
「エルシア、お茶飲む?」
「ああ。いただこう」
この世界で良く流通しているお茶はさっぱりしているのに、香りが良くて程よい苦みがすっきりさせてくれて私は好きだ。
「エルシアさんお茶好きなのね」
「ええ。私の故郷にはこんなにお茶はありませんでしたから」
冒険者として大陸中を回っていた私だが、こんなにお茶が豊富な場所は見たことがない。
チョウラクとともに四人でお茶を飲みつつ雑談していると正午の鐘が鳴り響く(このお寺の梵鐘は時間になったら自動的に鳴る仕組みだ)
「お昼ごはんにしようか」
ミツナリが大きな木製の桶を出してくると、そこには色とりどりの野菜と共に魚の切り身らしきものが散らばっている。
「今日はちらし寿司なのね?ありがとう」
「三成。俺の分は?」
チョウラクが自分の分は別で用意されてると判断してそう問いかけると、ミツナリは「大丈夫」と言って袋を取り出した。
「これね、ヴィーガン向けに開発されたお魚風のこんにゃくなんだ」
その袋には見覚えがある。
たしかその袋を見たのは―……
「この間テレビでやってたやつだ!」
「そう。テレビのヴィーガンフード特集で紹介されてて、これだ!と思って取り寄せたんだ」
ミツナリが悪戯を成功した子供のように笑うので、袋の裏面を確認したチョウラクとトキコが「はー」と感嘆の声を上げる。
「長樂が僧侶になってからみんなでお寿司が難しかったから、こういうのがあると本当に嬉しいわ」
「ミツナリも良く見つけて来たなあ」
「まあ近所のスーパーのマグロ柵よりちょっとお高いんだけどね、これ」
「ミツナリもすっかり主婦業が板についたわねえ」
そんな話を尻目にミズハはちらし寿司を5等分しており、早く食べたいと目で訴えてくる。
私も早く食べてみたいので私の分を小皿によそって貰うと「私もお願いしていい?」とトキコが皿をミズハに渡す。
小皿に盛られたちらし寿司は赤黄色緑と鮮やかな色どりが目にも鮮やかだ。
「「「「「いただきます」」」」」
さっそくちらしずしを木匙で救い上げて、ぱくりとほうばるとこりこり・シャキシャキ・くにくにといろいろな食感と共に多様な旨味が広がってくる。
その奥から海の香りがしてきた。これがきっと魚の味(を再現したもの)なのだろう。
「このお魚全然生臭くない!三成君天才!」
「天才なのは僕じゃなくて食品メーカーさんのほうですね」
「酢飯がべちゃくちゃしてなくて美味しいわ。ありがとう、三成」
「褒めてもマグロ一切れしかあげられないよ」
「久しぶりのちらし寿司ほんとに美味いわ。俺のために気ぃ使ってくれてありがとうな」
「エルシアさんもお魚食べられないしこの方が良いと思ったからなんだけどね」
各々から思い思いに褒められて照れくさそうにミツナリが笑う。
その光景は実に微笑ましく、幸せな家族の光景そのものだ。
「あ、エルシアさんはどうですか?」
「スシは初めてだが本当に美味しいな。特にこの黄色くてコリコリした三角の奴とか」
「それ筍ですね。甘めに煮付けたんですけどお口に合ったなら良かったです」
「タケノコと言うのか、初めて聞いた食材だ」
いくつか気になった食材について聞いた後、私は心から思った言葉を口にする。
「ミツナリはこの魚は食品メーカーがすごいと言っていたな」
「え、ええ」
「確かにこの世界の人々の制限があっても美味しいものを食べたいと思う、その心意気はすごい。
けれどそれを家族や私のために制限に触れない食材を探し、丁寧に調理して見事な逸品に仕立て上げたミツナリの料理の腕前も称賛に値するものだと思う」
心からの賛辞を投げかけると、ミツナリは顔を真っ赤にして固まるのであった。
「あなたが今うちのお寺に住んでるエルシアさんね?初めまして。佐野朱鷺子です」
「こちらこそご挨拶に伺えず申し訳ありませんでした、エルシアと申します」
トキコは柔和な微笑みを持つ優しい雰囲気の小柄な初老女性で、どちらかと言えばチョウラクに雰囲気が似ている。
「それにしても本当にきれいな人ねえ」
エルフが言われがちな言葉ナンバーワンを掛けつつも、私を気に入ってくれたようなのはありがたい。
ミツナリは朝から台所に立って料理をしており、チョウラクとミズハも久しぶりに帰ってきた母親にお茶を出してくる。
「エルシア、お茶飲む?」
「ああ。いただこう」
この世界で良く流通しているお茶はさっぱりしているのに、香りが良くて程よい苦みがすっきりさせてくれて私は好きだ。
「エルシアさんお茶好きなのね」
「ええ。私の故郷にはこんなにお茶はありませんでしたから」
冒険者として大陸中を回っていた私だが、こんなにお茶が豊富な場所は見たことがない。
チョウラクとともに四人でお茶を飲みつつ雑談していると正午の鐘が鳴り響く(このお寺の梵鐘は時間になったら自動的に鳴る仕組みだ)
「お昼ごはんにしようか」
ミツナリが大きな木製の桶を出してくると、そこには色とりどりの野菜と共に魚の切り身らしきものが散らばっている。
「今日はちらし寿司なのね?ありがとう」
「三成。俺の分は?」
チョウラクが自分の分は別で用意されてると判断してそう問いかけると、ミツナリは「大丈夫」と言って袋を取り出した。
「これね、ヴィーガン向けに開発されたお魚風のこんにゃくなんだ」
その袋には見覚えがある。
たしかその袋を見たのは―……
「この間テレビでやってたやつだ!」
「そう。テレビのヴィーガンフード特集で紹介されてて、これだ!と思って取り寄せたんだ」
ミツナリが悪戯を成功した子供のように笑うので、袋の裏面を確認したチョウラクとトキコが「はー」と感嘆の声を上げる。
「長樂が僧侶になってからみんなでお寿司が難しかったから、こういうのがあると本当に嬉しいわ」
「ミツナリも良く見つけて来たなあ」
「まあ近所のスーパーのマグロ柵よりちょっとお高いんだけどね、これ」
「ミツナリもすっかり主婦業が板についたわねえ」
そんな話を尻目にミズハはちらし寿司を5等分しており、早く食べたいと目で訴えてくる。
私も早く食べてみたいので私の分を小皿によそって貰うと「私もお願いしていい?」とトキコが皿をミズハに渡す。
小皿に盛られたちらし寿司は赤黄色緑と鮮やかな色どりが目にも鮮やかだ。
「「「「「いただきます」」」」」
さっそくちらしずしを木匙で救い上げて、ぱくりとほうばるとこりこり・シャキシャキ・くにくにといろいろな食感と共に多様な旨味が広がってくる。
その奥から海の香りがしてきた。これがきっと魚の味(を再現したもの)なのだろう。
「このお魚全然生臭くない!三成君天才!」
「天才なのは僕じゃなくて食品メーカーさんのほうですね」
「酢飯がべちゃくちゃしてなくて美味しいわ。ありがとう、三成」
「褒めてもマグロ一切れしかあげられないよ」
「久しぶりのちらし寿司ほんとに美味いわ。俺のために気ぃ使ってくれてありがとうな」
「エルシアさんもお魚食べられないしこの方が良いと思ったからなんだけどね」
各々から思い思いに褒められて照れくさそうにミツナリが笑う。
その光景は実に微笑ましく、幸せな家族の光景そのものだ。
「あ、エルシアさんはどうですか?」
「スシは初めてだが本当に美味しいな。特にこの黄色くてコリコリした三角の奴とか」
「それ筍ですね。甘めに煮付けたんですけどお口に合ったなら良かったです」
「タケノコと言うのか、初めて聞いた食材だ」
いくつか気になった食材について聞いた後、私は心から思った言葉を口にする。
「ミツナリはこの魚は食品メーカーがすごいと言っていたな」
「え、ええ」
「確かにこの世界の人々の制限があっても美味しいものを食べたいと思う、その心意気はすごい。
けれどそれを家族や私のために制限に触れない食材を探し、丁寧に調理して見事な逸品に仕立て上げたミツナリの料理の腕前も称賛に値するものだと思う」
心からの賛辞を投げかけると、ミツナリは顔を真っ赤にして固まるのであった。
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