指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson2 額に落ちた秘密のキス

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ホストー 今日で、十日目。

「出勤、少し早かったかな……まあ、いっか」

小声でつぶやきながら控室の前に立つと、中から笑い声が漏れてきた。

「どーせ遊びだろ。新人に手を出すのはいつもだろ、すぐ飽きられる」

「新人は、また餌食か?かわいそうに」

(タバコをくゆらせて、笑いながら)「けどよ……イケメンすぎんだよ、あいつ。見てるだけで沼る。俺だって……遊ばれて、一回でポイ。ひでーよな。泣くわ」

「女も抱くって噂だし、それでNo.1だろ?」

「……あんなの、俺でも惚れるっつーの」

「じゃあ、新人のみのるも狙われてんじゃね?」

「さぁな?」

みのるは息を呑んだ。

(えっ……食べられる? しかも男…?)

(イケメンすぎて沼? 僕、そんな危ない人のいる店に来ちゃったの?)

背後から低い声。

「おい、お前ら。無駄口たたいてねーで姫の営業行け」

No.2のリュウが現れ、肩をすくめた。

メガネが似合うミステリアスイケメン

「はーい」と笑いながら散っていくスタッフたち。

フロアは一気にざわめき始め、煌めく照明が点って夜の空気に切り替わっていった。

(……レオさん、まだかな)

そう思った瞬間、扉が開く。

遅刻ギリギリに現れたのは、艶やかなスーツに身を包んだNo.1。

視線を浴びるだけで場が華やぐ。

「おはよー」

スタッフたち「おはようございます!」

「お、おはようございます」

視線が交わった瞬間、心臓が跳ねた。

「ん? なんだよ、そんなに見て」

(あっ……!)「……イケメンだから、見惚れてました」

自分でも驚くくらい自然に口から出ていた。

レオは一瞬だけ目を見開き、次の瞬間には余裕の笑み。

サラッと頭を撫でて通り過ぎる。

ケンは無言でそれを見て、拳をぎゅっと握りしめた。

リュウは口元をニヤつかせている。


CLUB開店ー

ネオンに照らされ、シャンデリアが光を散らす。

煌びやかなドレスの姫たちが次々と席につき、グラスの音が鳴り響く。

ある女性客がふいに声をかけた。

「あれ? この前の……。今日は指名で来たの、みのるくん」

「おー! みのる、でかしたな!」

「他はいらないわ。あなただけでいいの」

「えっ、僕で……? ありがとうございます、美奈子さん」

彼女は距離を詰め、腕を絡め、頬に唇を寄せようとする。

(ど、どうしよう……!)

必死で笑顔を保ちながらも、みのるの視線は自然と助けを求めていた。

シャンパンに囲まれながらも、なぜか隣のテーブルが気になる。

(……あの女、やけに距離近ぇな)

ちらりと見た先で、みのるは困ったように笑いながらも必死に応じている。

(……チッ。潰されてんじゃねーよ)

「みのる、2番テーブル」

短く声をかけると、みのるは救われたような笑みを浮かべて立ち上がった。

「美奈子さん、後でまた伺いますね」

「はーい、待ってるわよ」

ホストたちがひそひそと話す。

「あの美奈子って女、相当お気に入りだよな。めっちゃくっついてたし」

「……おい、みのる。お前大丈夫か?」

(小さく)「……頬にキスされて、口にされそうになったので……助けてくださって、ありがとうございます」

レオはわざとそっけなく笑った。

「……さすがにな、嫌なもんは嫌だから」

けれど、無意識に視線がまた彼を追っていた。

VIP席

グラスが煌めく。高級香水の匂いとシャンパンの泡が混じる中、レオは涼やかに微笑んでいた。

「レオ、久しぶり」

「すみれさんに会えて嬉しいですよ」

その笑顔は絵画のように完璧。

「シャンパン開けちゃおうかしら?」

「ありがとうございます」

慣れた仕草でスタッフに合図を送る。

狙いうち入りまーす!

「ねえ、いつになったらホテル行ってくれるの?」

挑発するような目線。

「すみれさん……またですか? 俺は付き合ってからじゃなきゃ寝ませんよ」

にこり、と人懐こい笑みを浮かべながらも、声色には一切の隙がない。

「んもう、ひどいわ!」

拗ねるように肩をすくめる。


フロアー

その頃、美奈子の腕に絡め取られ、困っていたみのるのもとにセイヤが入ってくる。

「みのる、4番席頼む」

「あ、ありがとうございます」

「え? わたしのみのるは?」

「美奈子ちゃん、俺じゃダメかな?」

「仕方ないわね。我慢するわよ。……あんたNo.何?」

「No.8いつか1位になりたいんだけどね」

「ふふ。No.1って、VIP席のあのイケメンでしょ?」

「……そう」

「無理よ。彼は実力主義者よ。あなたは敵わないわよ」

嫉妬混じりに笑うセイヤの視線は、無意識にVIP席のレオへと向かっていた。


化粧室ー

鏡の前で、みのるはポケットからリップを取り出した。

ゆっくりと唇に色を乗せる。艶めいた縁取られた口元。伏せた睫毛の影が頬に落ち、その横顔はどこか危うい色気を纏っていた。

「……よし」
深呼吸してリップをしまった瞬間――

ガチャ、と扉が開く。

「……レオさん?」

思わず声を上げる。

レオは頬を少し赤くして、わざとらしく壁に手をついた。

「……悪い、飲みすぎたみたいだ」

「えっ、大丈夫ですか!?」 

慌てて駆け寄るみのる。小さな身体で必死に支えると、レオは自然にその肩に体重を預け、柔らかく笑った。

「おまえが支えてくれたから、安心だな」

(……っ、近い、近すぎる……!)
耳まで赤くなるみのる。

次の瞬間。

レオは酔ったふりを続けながら、ふいに顔を寄せた。

「……可愛い」

吐息混じりの声と同時に、額にそっと口づけが落ちる。

「……っ!!」
全身が跳ね上がる。

(な、なに今の……やばい、心臓が止まる……!)

レオは口角をわずかに上げ、何事もなかったように言う。

「水飲もう。控室、行くぞ」

その腕が自然に腰へ回され、導かれるまま歩き出す。
熱く火照った額に、まだ“その痕跡”が残っていた。

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