指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson11 交差する視線

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屋上テラスに足を踏み入れた瞬間、風と香ばしい炭火の匂いが混ざり合い、活気のある声が耳に広がる。

空は群青に染まり始め、頭上にはライトアップされた観覧車がゆるやかに回っていた。

「おーい、こっちこっち!」

リュウが手を挙げる。隣には、青いサラサラの髪に大きな瞳を輝かせた可愛げのある男――カイトが腕を組んでいた。ピンクのニットに細身のパンツ。どう見ても、守りたくなるタイプだ。

「わぁ!レオさん、久しぶりー!」

無邪気に笑うその顔に、なるほどリュウが甘やかす理由がよく分かる。

「……相変わらずだな」

口元を緩めつつ、俺の隣に立つ子犬へと視線を流す。

「隣の子は?」

「はじめまして、みのるです」

みのるは少し緊張気味に頭を下げた。

「俺、カイト!みのくんは何歳?」

「20歳です」

「俺21!おぉ、同世代だね~よろしく!」

すぐに打ち解ける二人。無邪気に笑い合う様子が、なんだか兄弟みたいに見える。

「……なんかふたり、身長一緒じゃない?」とリュウが茶化す。

「僕163です」みのるが答えれば、カイトが「俺162~!1センチ負けたー!」と悔しそうに肩を落とす。

「おまえら可愛すぎ」リュウは呆れ顔だが、頬がゆるんでいる。

思わず俺もクスクス笑ってしまった。

……子犬が笑ってると、場がほんのり明るくなる。

「さて、海鮮取りに行くぞ」

俺は軽く声をかけ、皿を手にビュッフェ台へと向かう。

炭火の上では、肉や海鮮がじゅうじゅうと音を立て、食欲を煽ってくる。

「何食べたい?」

「ホタテ、エビ、イカ……うわ、美味しそう!」

みのるが無邪気に指差すたび、俺は皿に山盛りにしてやる。

「ゆ……リュウ~、お肉のせるね」

横でカイトが慌てたように声をかける。

「お前、今本名言いかけただろ?クスクス」

「うっかり!」

「呼ぶのは二人きりのときな?」

自然に交わされるやり取り。こいつら、本当にいい空気感だ。

(……そういえば、あいつの本名はユウトだったな)

心の中で呟きながら、俺はビールのグラスを手に戻る。

「じゃ、乾杯」

四人のグラスが軽やかに触れ合い、炭火の煙の中で笑い声が弾ける。

海鮮も肉も次々網に乗り、煙の向こうで笑う顔がひとつ、またひとつ、照らされていく。

気づけば、ただの食事じゃなく――

映える夜景の中で、俺たち四人がやけに目立っていた。

炭火の煙がふわりと立ちのぼり、海風がそれをさらっていく。

四人で囲むテーブルは、笑い声と香ばしい匂いで満ちていた。

「ねぇ、レオさんはいつからみのくんと付き合ってるんですか?」

カイトが、何気ない調子で爆弾を落とした。

「……さて、いつからだと思う?」

レオはグラスを傾け、余裕の笑みを浮かべながらさらりと返す。

(まるで肯定も否定もせず、ただ“俺のもの”と匂わせるその声に――)

「……っ」

みのるは顔を真っ赤にして、慌ててビールを口に運んだ。

(心臓が…!)

「これからだよ」

リュウが笑い、隣のカイトの頭をくしゃっと撫でる。

「えー!なんだ。てっきり!」

カイトはぷくっと頬を膨らませる。

「お前、酔ってんのか?」

「まだだよ~」

リュウとカイトの掛け合いに、場はまた笑いに包まれた。

――やがて、みのるとカイトが並んでビールを取りに行く。

「ね、みのくん。見て。月が出てるよ」

指さす先に、大きな満月。

「ほんとだ……」

「ねぇ、みのくんって可愛いよね。本当、顔もイケメンだし」

「カイトくんこそ」

「知ってる」

にかっと笑う顔に、無邪気さと小悪魔っぽさが混ざる。

ふいに、カイトの声が落ちた。

「……なんで俺が店を移動したか、知ってる?」

「え?」

「セイヤっているでしょ。あいつさ、可愛いのばっか狙うんだよ。俺もずっと嫌な思いしてて……入店して三ヶ月くらいのとき、待ち伏せまでされたんだ」

「……」みのるは息を呑む。

「その時リュウが助けてくれてさ。オーナーに頼んで系列の別店舗に移してくれた。……気づいたら、守られてたんだ」

にかっと笑い直すカイト。

「……そうだったんだ」

胸がずきんとする。自分も今、同じように――。

「だから気をつけてね?でも、もうレオさんが守ってるんでしょ?」

「……っ」

「それにね、レオさんって遊びの相手にはキスしないらしいよ?リュウが言ってた」

「え……そう、なの……?」

みのるの頬が一気に熱を帯びる。

(じゃあ、あのキスは……)

「おーい!お前ら、なにコソコソしてんだ」

リュウが声をかけてくる。

「肉、焦げるぞ?」

「……ほら、戻るぞ」

背後から低い声。振り返れば、レオが真っ直ぐこちらを見ていた。

その瞳に射抜かれ、みのるは慌ててうなずく。

「みのる。ちゃんと食え」

自然に肩へと添えられた手の温もりに、胸の奥がじんわり熱くなる。

(……やっぱり僕は、この人に――)

時間が経ち、バーベキューの賑わいもひと段落していた。

炭火の代わりに、焚き火の赤が静かに揺れている。

その向こうではカイトがリュウに肩を預けて笑っていた。

「……はぁ。酔ったか」

リュウは呆れたように頭を撫で、でもどこか幸せそうで。

その光景を、ちらりと横で見上げた子犬がぽつり。

「……幸せそう」

羨ましそうに、けれど素直に。

――胸が、不意にざわついた。

俺はグラスを置き、立ち上がる。

「……帰るぞ」

みのるが驚いた顔をする。

「え? うん。」

「風も冷えてきたしな」

テラスを抜け、夜風を受けながら歩く。

夜風は心地いい。

「……気持ちいいな」

そう言いながら、自然とみのるの手を取った。

一瞬びくりと震えた指が、少し迷ってから絡んでくる。

「このままどうする? 送って帰すか?」

軽く聞いたつもりだった。

だが、みのるは足を止めて、俯いたまま。

「……」

「ん?」

沈黙のあと、声が零れた。

「レオさんと……まだ一緒にいたい」

――心臓が跳ねた。

ほんの小さな言葉で、俺は簡単に調子を狂わされる。

「……お前は本当に、人を惑わせる子犬だな」

思わず苦笑し、頭をくしゃりと撫でる。

「ほら。行くぞ。俺ん家」

夜景の灯りが遠ざかる。

繋いだ手のぬくもりが、もう離せなくなっていた。

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