大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 5 時計に刻む、二人の未来

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成人の日のお祝い当日。

ガラス張りのエントランスにはシャンデリアが輝き、まるで光の舞台のように豪奢だった。

ユウヤと並んで足を踏み入れたハルは、緊張で肩をすくめている。

待っていたのは、スーツをきっちり着こなしたユウヤの父。その隣には白いスーツをエレガントに着こなしたハルの母、ナツキもいた。

「夏生(ナツキ)さん、今日もお綺麗ですね」

「まぁ……。今日はハルのために、ありがとうございます」

旧友らしい自然な会話。二人のやりとりに長い時間の積み重ねがにじみ出る。

そんな中、ユウヤ父の視線がハルへ。

「……は、はじめまして。晴(ハル)くん、やな?」

その声は裏返り、思わず――

「か、可愛い……」

場が一瞬止まった。

「父さん……?」ユウヤが眉をひそめる。

「ち、違う違う! 夏希さんの若い頃にそっくりで、立派に育ったなって意味や!」

慌てて咳払いする父。

ハルの母は呆れ半分で笑いながらも、どこか頬を赤らめていた。

やがて席につき、落ち着いたジャズが流れだす。グラスに注がれた水音までも特別に聞こえる。

テーブルにはワインと豪華な料理。
御影父がグラスを置き、ゆっくりとハルへ視線を向ける。

「悠哉がな……来年には我が社に入って、本格的に働くとまで言うてくれたんや。せやけど、それは君のおかげや、晴くん。守るもんができたからやろな。悠哉はほんまに変わった。……支えてくれて、ありがとうな」

空気が一瞬止まり、ハルは頬を赤くして目を瞬かせる。言葉を探しながら小さくうなずく。

隣でユウヤは嬉しそうに笑い、そっとハルの手を握る──。


料理が進む頃、ユウヤ父は小箱を取り出した。

「成人のお祝いに。晴くん、これは贈り物や。悠哉とお揃いやで」

ユウヤの手首で輝くのは、漆黒の文字盤にステンレスブレスが重厚に映える腕時計。

隣でハルの細い手首に贈られた時計は、同じシリーズの白い文字盤に黒のレザーベルトが優しく寄り添うモデル。

硬質な輝きと柔らかな艶。

まるでふたりの関係を象徴するかのように、対照的でありながらぴたりと調和していた。

「……ほんま、並ぶと絵になるな」

ユウヤ父は満足げに笑った。

「えっ!? こ、こんなに高級なもの……僕、貰えないです!」

両手で顔を覆い、涙目になるハル。

「……遠慮しいやなぁ」
ユウヤが笑い、胸の奥が高鳴る。

「ええんよ。貰っとけ」

母は優しく見守りながら、「大切にするのよ」と囁く。

そしてユウヤがハルの手首に、そっと時計をつけた。

「……ありがとうございます」

涙をにじませながら笑うハルの横顔に、ユウヤの胸は熱くなる。

父はその姿を眺め、思わず「夏生さんに……ほんま似てるなぁ」と笑みと呟く。

「コホン」と咳払いするナツキに、ユウヤとハルは思わず顔を見合わせて笑った。

グラスを重ねる音が響き、ワインの香りがほんのり漂う。

ユウヤ父は頬を赤らめながら、ふとナツキを見やる。

「いやね、夏生さんに……ずっと片想いやったんだよ」

笑いながらも、その瞳はどこか真剣で。

「君たちを見てると、若い頃の自分を思い出すなぁ。……いや、今も片想いのままやがな」

「えっ……!」

ハルが思わず声を上げ、ユウヤも「父さん、何言うてんねん」と半ば呆れたように睨む。

ナツキはグラスをくるくると回しながら、涼しい顔で返した。

「まぁ……お互いに、いまは独身ですからね」

「じゃあ……希望はあるかね?」と父。

冗談めかした問いに、ナツキは唇の端を上げて――

「なくはないですわよ」

一瞬、場がしんと静まり返る。

次の瞬間、二人の笑い声が重なり、酔いのせいか大人同士の軽やかな空気に包まれた。

ユウヤは顔を真っ赤にして「ほんま勘弁してくれ」とぼやき、ハルは嬉しそうに時計を見つめていた。

グラスの残りを飲み干したユウヤ父は、ふと真顔になりハルに向き直った。

「晴くんさえ良ければ……大学卒業後は、うちの会社で悠哉の秘書として雇っても構わないんだぞ?」

「えっ……!」ハルは目を瞬かせ、頬を赤らめる。

「うん、それは……嬉しいな」ユウヤが横で穏やかに微笑んだ。

「……考えておきます」ハルは小さく俯き、恥ずかしそうに言葉をこぼした。

食事会の終わり、ホテルのロビーでユウヤ父はハルの肩に軽く手を置いた。

「いつでも相談していい。……私は君を大切にしたい。悠哉をよろしく頼むよ」

「は、はい……」ハルは胸がいっぱいで、ただ頷くことしかできなかった。

その横で、ナツキがユウヤに静かに告げる。

「……悠哉くん。晴を、お願いしますね」

二人の親はタクシーを呼び、笑いながら二次会へと夜の街に消えていった。

見送った後、ユウヤがふと肩をすくめて呟く。

「……しかし。ハルのお母さん、ナツキさんってほんま美人やな」

「ちょ、ちょっと!」と照れ隠しに慌てるハル。

けれどその笑顔に釣られて、ユウヤも笑ってしまい、二人は見つめ合ったまま自然と笑みを交わす。

ユウヤはその視線を外さぬまま、低い声で囁いた。

「……けど俺には、ハルだけで十分や。ほんま、誰よりも可愛い。お前がおらんと、俺はやっていかれへん」

耳まで赤く染めるハルの手を取りながら、ユウヤは口角を上げる。

「さてと……マンションで飲み直ししよか。俺とふたりで、な」

甘い沼の夜は、もう始まっていた。

マンションに戻ると、ハルはキッチンに立ち、慣れた手つきでチーズとハムを並べていく。

ユウヤはワインを抱えて、「よっしゃ」とコルクを軽快に抜いた。

「ほら、乾杯や」

差し出されたグラスを合わせると、澄んだ音が夜の静けさに響く。

「……ホテルより、こうしてふたりで飲む方がええな」

ユウヤの目は、ワインよりもハルに向けられていた。

「もう……独占欲丸出しだよ」

呆れたように笑うハル。けれどその頬は赤く染まり、幸せを隠せない。

「そらそうや。ハルは俺だけのもんやからな」

低く甘い声で囁くと、ユウヤはハルを引き寄せ、唇を重ねた。

キスの合間、ユウヤの胸に熱い想いがこみ上げる。

――ほんまに……もう二度と、この笑顔を誰にも渡したくない。

俺のもんや、ずっと。

その心の声が漏れるように、ユウヤは耳元で囁いた。

「……ハル。お前だけは、一生俺の隣におれ。離す気なんか、これっぽっちもあらへん」

ハルは瞳を潤ませながら、小さく「……うん」と頷く。

その瞬間、ユウヤはさらに強く抱きしめ、唇を重ねた。

ワインの香りと温もりに包まれながら――夜はふたりだけのものになっていった。

Lesson 6へ続く
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