大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 7 笑顔の裏に滲む寂しさ

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シーシャの甘い香りが漂う店内。

柔らかなライトがソファを照らし、煙のヴェールがふたりの間を揺らす。

レンはグラスを傾けながら、低い声で切り出した。

「なぁユウヤ、見たろ?南条美咲。あの女、業界じゃ“共演者キラー”って呼ばれてる。家庭壊したとか、不倫の火種になったとか……ろくな噂がねぇ。魔性ってやつだ」

俺は片眉を上げて、ストローを軽く咥える。


レンの視線は挑むように、ユウヤの横顔は静かな熱を帯びていた

「……え、そこまでヤバいんか? まぁ、俺には関係あらへんけどな。俺にはハルがいるし」

レンは煙を吐き出し、じっと俺を見据えた。

「いやいや、甘いな。お前、御曹司で顔まで良すぎんだろ。あの目、完全に“狙ってる目”だったぞ。もうターゲットにされてると思っとけ」

俺は苦笑して、目線を落とす。

「興味はない。俺にはハルしかおらん。……絶対に手放したくない、大事なもんや」

言葉にしてみると、胸の奥がじんと熱を帯びた。

レンはくつくつ笑って、グラスを掲げる。

「お前さ、前よりずっと男になったな。……いい顔してるぜ」

ふとスマホを開くと、未読のLINEが光っていた。

【今日は先輩と駅前で飲んでる~】

俺は指で打ち込みながら、にやりとする。

「……駅前、韓国料理店か。同じ駅前にいるみたいやな」

(先輩? 誰や……ちょっと嫉妬するやんけ)

立ち上がりながら、レンに向き直る。

「悪い、俺そろそろ出るわ。ハル迎えに行く」

レンは片手をひらひら振りながら、煙越しに笑った。

「おぅ、行けよ。……ユウヤ、いつでも相談しろ。相棒だろ?」

「ありがとうな」

心からそう言って、俺は夜の街へと歩き出した。

韓国料理店のテーブル。

ハルは支払いを済ませ、帰り支度をしていた。

そこへユウヤがやってくる。

「ユウヤ!」

嬉しそうに立ち上がるハル。

マコト姉はすかさず席を立ち、両手を合わせて大げさに声を上げた。

「あらまぁ~!ついにお会いできたのね、噂の御影様!ほんっと素敵だわ、ハルちゃんとお似合いすぎる♡」

ユウヤはにこやかに会釈して、

「ハルがいつもお世話になってます。ありがとうございます」

と大人の余裕を見せる。

けれど、その直後。

マコト姉がユウヤの耳元に顔を寄せ、声を落とした。

「ねぇ御影様。ハルちゃんね、最近大学で“可愛い”って噂なのよ。この前なんて告白までされてたんだから。男女両方からモテモテ、本人は全然気づいてないけどね。……安心してちゃダメよ?」

ユウヤの笑みが一瞬だけ固まる。

「……は?」

思わずハルを見やる。だが本人は何も気づかず、にこにこと手を振った。

「ユウヤ、早く帰るよ!」

「マコト姉、また明日ねー」

マコト姉は手を振り返しながら、最後に軽くウインク。

「また明日ね、ハルちゃん。バイバイ~♡」

二人は並んで店を出ていった。

ユウヤの胸に、独占欲と微かな不安がじんわり広がっていく。

ハルは、にこにこしながら腕を組んで歩く。

「ユウヤ、前に話した噂のマコト姉さんね、いつも僕に優しいんだよ。面白くて、つい笑っちゃうんだ」

「……ええ人みたいやな」

そう答えながら、俺の心は別のとこにあった。

(……大学でのハルの様子、ちょっと聞けたわ。けど……やっぱり俺だけのもんやって確かめたくなる)

足を止め、ハルの髪を指先で梳く。

「……ハルは俺のや。誰にも渡さん」

声が自然に低くなる。唇を近づけ、軽く触れるキス。

「……っ?!」

ハルは固まったまま顔を真っ赤にして、言葉も出ない。

俺はその反応に思わず苦笑して、額を軽く押しつけた。

「……可愛いなぁ、お前は」

夜風がふたりの間をすり抜ける。

俺の胸の奥は、ますますハルでいっぱいになっていた。

Lesson 8 へ続く
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