大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 8危険な共演、嫉妬の炎

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今日はカメラを構える日じゃなく、広報の立場としてスタジオに出向いていた。

照明が照りつけ、スタッフの声が飛び交う。

「……また南条美咲か。ほんま、かぶるよな」

心の奥で小さく呟く。

そのとき、場がざわついた。

「髙田京介、まだ来ないぞ!」「一時間経ってるのに……」「ドタキャンだって?!」

スタッフの慌ただしい声が飛ぶ。

美咲はすでに衣装に身を包み、胸元を強調したセクシーなドレス姿で余裕の笑みを浮かべていた。

今回のテーマは「危険なほどの恋」。ポーズは──顔を寄せ、唇が触れる寸前。

監督が苛立ち混じりに声を上げる。

「……そこの君、御影くんだっけ? 君、代役を務めてくれないか」

「え?」

「背も高いし、雰囲気も合う!」「御影さんなら絶対ハマります!」

スタッフの視線が一斉に集まる。

逃げ場はなかった。

(……仕方ない。仕事や)

衣装に着替え、髪を整えられた瞬間、周囲の空気が変わる。

ラフな俺から一転、“色気を纏った男”として見られているのがわかった。

「……御影さん、やば……」「モデル顔負けじゃん」

小声があちこちから洩れる。

そして、美咲との撮影が始まった。

彼女は当然のように身体を寄せ、胸元を押しつけ、吐息がかかるほどに距離を詰める。

「もっと近く! 触れそうで触れない感じで!」

カメラマンの声に合わせて、美咲はわざとらしく唇を近づけてきた。

ぞわりと不快感が走る。

吐き気すら覚えるほどに、心の中で拒絶の声が響いた。

(……やめろ。こんな距離、ハル以外に許す気はない)

顔を横に逸らし、小さく、しかし低く通る声で囁く。

「……いいかげんにしろ」

美咲の笑みが、一瞬だけ凍りついた。

(……吐き気した。ハル以外と、こんな距離ありえへん)

撮影を終えた俺は、無言のまま衣装を脱ぎ捨て、マンションへ直行した。

「……ただいま」

扉を開けるなり、ハルを力いっぱい抱きしめる。

いつもの甘い匂いじゃなく、どこか香水の匂いがまとわりついているのか、ハルが小さく瞬きをした。

「……ユウヤ、今日は匂いが違うね?」

「……仕事や。気にすんな」

それ以上は言えず、俺はシャワー室に消えた。

その間に、ハルのスマホが震えた。

【これ……ハルのユウヤ様じゃない? 南条美咲と。SNSで流れてきたから送るね】

添えられた写真は──“危険なほどの恋”のコピーと共に、美咲と顔を寄せ合った俺の姿だった。

シャワーを終え、髪を濡らしたままリビングに戻ると、ハルはスマホを握りしめたまま固まっていた。

何も知らない俺は、後ろからそっと抱きしめ、首筋にキスを落とす。

「……なぁ、ベッド行こか」

「……やめて! そういう気分じゃない!」

ハルが声を震わせて振りほどいた。

一瞬、俺は心臓を掴まれたように息が止まる。

「……そっか、ごめん」

苦笑いで取り繕い、俺はワインの栓を抜いた。グラスに赤い液体が注がれ、乾いた喉に流れ込む。

胸の奥のざらつきは消えなかった。

ハルは涙を堪えるように笑い、立ち上がった。

「……ごめん、僕もシャワー浴びてくる」

シャワーの音に紛れて、ハルは壁に額を押しつける。

胸の奥がぎゅっと締めつけられて、熱い息が漏れた。

(……ムカつく。ムカつく。嫉妬だ。どうして僕、こんなに苦しいんだろ)

湯気に包まれながら、目尻に滲んだ涙を手のひらで拭う。

それでも心臓の鼓動は、悔しいほどにユウヤでいっぱいだった。


Lesson  9へ続く
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