大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 9すれ違いの夜、確かめ合う心

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ハルはその朝、ユウヤの方を向かずに背を向けて眠ったふりをしていた。

(……昨日の写真、頭から離れない)

ユウヤはベッド脇に腰を下ろし、そっと囁く。

「……ハル?まだ寝とるか。俺、先に行くで」

額に軽くキスを落とし、音を立てぬように準備して会社へ向かっていった。

静かな部屋にひとり残されたハルは、昼近くまで動けなかった。

ようやく大学に向かった頃には、もう正午を回っていた。

サークルの集まりに遅れて顔を出すと、マコト姉さんが真っ先に気づいた。

「あら、ハルちゃん?遅れてくるなんて珍しいわね。どうかしたの?」

「……ううん、なんでもないよ」

曖昧に笑ってごまかす。

マコト姉はハルの顔をじっと見て、ふいに手を叩いた。

「よし!今日ね、サークルの飲み会あるでしょう? ハルちゃんも参加、はい決定~!」

「え、えぇ……」

断りきれずに頷くと、少しだけ心が軽くなった。

(……行こうかな。何か忘れられるかもしれない)

夕方17時。

居酒屋のテーブルに集まったのは男女8人。

笑い声とジョッキの音が重なり、賑やかな空気に包まれる。

その頃、ユウヤのスマホからメッセージが飛んできた。

【ハル? サークルか? まだ帰らないのか?】

既読はついたが、返信する気になれなかった。

(……今、顔合わせられない)

「ハル先輩~!こっちこっち!」

「ハルちゃんってほんと可愛いよな」

仲間の声が飛び交い、隣に座った先輩男子が煙草をふかしながら軽く頭をポンポンと叩いた。

その瞬間、ゾワリと寒気が走る。

思わず体を固くすると、すぐにマコト姉さんが割って入った。

「こらこら!ハルちゃんに気安く触んない!」

場が笑いに包まれる。

ハルはジョッキを持ち上げ、一気に口へ運んだ。

喉を焼くアルコールに、胸の奥のざわつきが少しだけ誤魔化される。

(……ユウヤのこと、考えたくない。今だけは)

グラスが何度も空になる。

21時、足取りはふらつき、頬は熱く染まっていた。

(……帰ろ。帰って……顔を見たら、どうなるんだろ)

ガチャリ──扉を開けた瞬間、リビングに重たい空気が流れた。

「……お前、なんで連絡くれんのや」

低い声が落ちる。

「……っ」

答える前に、ユウヤの鋭い視線がハルを射抜いた。

「酒、どんだけ飲んだ? それに……タバコに香水……どんな奴と一緒やったんや」

強く腕を掴まれる。

「こい!」

「いたっ、ユウヤ!」

そのままソファへ押し倒される。

距離ゼロの顔、熱を帯びた瞳──。

「……離さへん」

次の瞬間、激しい口づけが降り注いだ。息ができないほど、何度も何度も。

「……やめ、ユウヤ……っ!」

涙が滲み、胸が苦しくて思わず突き飛ばす。

震える指でスマホを差し出した。

「じゃあ……これ、なに?」

画面には──南条美咲と密着する、あの一枚。

ユウヤの頭の中が真っ白になる。

言葉を失ったあと、かすれる声がこぼれた。

「……ハル……嫉妬してくれてるんか……」

震える声で、喉の奥から絞り出す。

「……ごめん。ごめん。愛してる。仕事で断れんかった。説明もしなくて……ほんま、ごめんや」

ハルはスマホを握ったまま、涙を隠すようにユウヤの胸に顔を埋める。

その細い肩を抱きしめながら、ユウヤの心の中でただひとつの願いが響いた。

(……離したくない。何があっても、俺のもんや。絶対に)

胸の奥の熱と痛みが、ハルへとすべて流れ込んでいく。

ハルはぎゅっと目を閉じ、震える唇で心の奥につぶやいた。

(……やっぱり、ユウヤが好きだ)


Lesson 10へ続く
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