大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 12 ごめんと、愛してるの証

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腕枕をしていたユウヤに、ハルがもぞもぞと動いて顔を上げる。

「……ユウヤ。朝からそんなにキスしたらダメだよ。遅刻しちゃう」

「かまへん。お前の寝起きの顔、今だけやからな」

額に軽くキスを落とし、二人で支度を整える。

朝食のテーブルには、卵焼きとトースト、トマトの軽いサラダ。

ふと、ユウヤの目がハルの耳に止まった。

「……あれ? 今日はいつもと違うシンプルなピアスやな」

ハルは一瞬言葉を詰まらせ、照れ隠しのように笑った。

「お気に入りのやつ……なくしちゃったんだ。サークル飲み会で酔っ払いの先輩に頭触られたとき、多分落としたんだと思う」

ユウヤは眉をひそめたが、すぐに優しく笑ってハルの頭を撫でる。

「……しゃあないな。きっとまた見つかるわ」

「また探してみるよ」

そう口にしたハルの胸の奥には、小さな寂しさが広がっていた。

その日、大学帰りのハルは街のアクセサリーショップに立ち寄った。

お気に入りに似たものを探してみたが、どれもしっくりこない。

「……やっぱりないか。もう帰ろう」

心の中でため息をついたとき、偶然レンと再会する。

一方その頃、ユウヤは撮影の合間にふらりとアクセサリーショップへ。

「いらっしゃいませ。プレゼント用ですか?」

「せやな……プラチナで、ダイヤが付いたチェーンタイプのピアス探してんねん」

差し出されたトレーの上で、小さな光が揺れた。

「……おお、これやな。ハルによう似合う」

迷うことなくカードを差し出すユウヤ。

心の中で小さく呟く。

(あいつの笑顔がまた見たい。それだけや)



午後の柔らかな光が射し込むカフェー


カップから立ちのぼる甘いキャラメルの香りに、ハルはふっと笑みを浮かべた。

「……レンさん、久しぶりですね。偶然会えて嬉しい」

「ほんと。元気そうで安心したわ」

ハルの前に置かれたキャラメルマキアートは泡がふわふわで、レンの前には氷がカランと鳴るアイスコーヒー。

ハルは、一口飲む。そしてつい口に出してしまう。

「ふふ……タクミとはどうなんですか?」

レンは一瞬だけ目を伏せ、苦笑いを浮かべた。

「あぁ、別れたよ」

「えっ?! ほんとに?!」

思わず声をあげたハルに、レンが低い声で「声でかい」と注意する。

「どうして?」

「……自然消滅やな。俺が忙しすぎて、構ってやれなかった」

「……タクミは?」

「さぁな」

肩をすくめる仕草すら絵になるレンに、ハルはなんとも言えない気持ちで目を瞬かせた。

そんなハルを見て、レンは不意に口元を緩める。

「ところで……ユウヤの話、知ってるか?」

「……?」

「この前、南条美咲と一緒に撮った写真……あれ、マジ嫌そうにしてたんだよ。お前を裏切るような真似、あいつがするわけない」

ハルの心臓が小さく跳ねる。

レンは続けた。

「心配すんな。俺がプロデューサーに掛け合った。南条美咲とはもう共演NGにした。あいつの目は本気だ。お前のこと、必死で守ろうとしてる」

ハルは唇を噛み、潤んだ瞳を落とした。

「……ユウヤ……」

レンの真剣な眼差しが心に響き、ついテーブルに伸ばした手が、レンの手に重なる。

「ありがとう……レンさん」

小さな声で呟くハル。

レンは片眉を上げ、余裕の笑みを浮かべた。

「だろ? 俺もあの女は嫌いだから、共演者キラーなんかに、あいつを渡す気はない」

ハルは頬を赤らめ、涙を隠すようにキャラメルマキアートに口をつけた。

窓の外に広がる街のざわめきの中で、二人の空間だけが、やけに静かに感じられた。

マンションに帰り着いたハルは、ポツリと「ただいま……」と独り言。

冷蔵庫を開けながら、献立を考える。

「昨日買ったサーモンがあるな。……よし、バターソテーにしよ。付け合わせにキノコにサラダも添えて……おつまみは、生ハムチーズとクラッカーにキャビア添えるか。ふふ、ビールもあるし完璧」

音楽を聴きながらキッチンで料理を並べていると、18時過ぎ。

「……ハル~!」

ドアを開けるなり、ユウヤが駆け寄ってきて、後ろからぎゅっと抱きすくめる。

「んっ、ちょっ……まだエプロン着けてるのに!」

「ええやん。……帰ったら一番に、お前を抱きしめたいんや」

テーブルに料理が並んだタイミングでユウヤはシャワーへ。

数分後、髪を濡らしたままラフな部屋着姿で戻ってきた姿に、ハルの胸はまた高鳴る。

「乾杯」

グラスを合わせ、食卓には笑顔と湯気が広がる。

「……今日も美味いな。ほんま幸せやわ」

「ふふ……僕もだよ」

食後、ユウヤがふと立ち上がり、ポケットから小さな箱を取り出す。

「……ちょっと待ってな」

差し出された箱に、ハルの瞳が揺れる。

「開けていい?」

「もちろん」

箱を開けた瞬間、きらりと光るプラチナのチェーンピアス。小さなダイヤが揺れて、繊細に煌めいた。

「……っ! わぁ……すごい……めちゃくちゃ好み……嬉しい……」

声が震え、涙が溢れそうになる。

「おいで」

ユウヤはそのまま強く抱き寄せ、耳元で低く囁く。

「……二度と無くさんでええ。俺がずっと選んで、お前に着けさせる。……お前は俺のもんやから」

幸せそうに、微笑みながら「……ユウヤ、ありがとう。大好き」

ユウヤは微笑んで、唇を額に落とした。

「おう。俺も大好きや。……一生、離す気ない」

夜のリビングは、料理よりも甘い余韻で包まれていた。


Lesson 13へ続く
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