雨音に溶けるひだまり

氷月

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Lesson 3 指先に触れた熱

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今日も変わらない日常。

チャイムが鳴り、実験室への移動でざわつく教室。

「日向、行こうぜ!」

「ちょっと待って」

廊下に出ると、反対側から特進クラスの生徒たちが歩いてきた。
――御堂雨音。

すれ違った瞬間、目が合った。
心臓がどくんと跳ねる。

まぶしい。
あの整った顔立ちと、漂う気品。
本当に、同じ高校生なのかな。
隣には桜庭蒼。雨音といつも一緒にいて、まるで絵画みたいに並んでいる。
僕なんかじゃ近づけない。
ただ、胸がズキズキする。
……なんで、こんなに。



昼休み。

「日向!今日は天気いいし、テラスで食べようぜ」

「うん!」

お弁当を広げれば、友人が笑いながら覗き込む。

「相変わらず可愛い弁当だな。お母さんにめっちゃ愛されてんじゃん、いいな」

「まぁ……母さん、お菓子作りとか料理が趣味だから」 和やかに笑う声が響く。

そのとき。

「ねぇ見て、特進組……雨音様と桜庭くん、それに女子ひとり」

ざわめきが広がる。視線の先に、やっぱり彼がいた。

光に包まれて微笑む横顔。
会話しているだけなのに、一際目立つ。
――雨音は、美しい。

「ヒーナタ!」
背後から突然抱きつかれて、体がびくっと跳ねる。

「アユカ!? 急にびっくりするよ!」

「いいでしょ、ひなちゃんだから」

「おい羨ましいぞ! 俺にも抱きつけよ!」

「やーだ。ヒナだけ♡」

アユカは小学校からの同級生。明るくて、運動神経抜群で、ずっと僕を守ってくれたお姉さんみたいな存在――でも、その笑顔の奥にある想いに気づかないふりをしてきた。

視線を上げると。
……雨音が、こちらを見ていた。

彼の唇が、僅かに緩む。
誰にも気づかれない微妙な笑み。
思わず小さく手を振って、僕も笑顔を返す。

それは、僕と雨音だけが分かち合った秘密みたいで――胸が熱くなった。


放課後のチャイムが鳴り、教室のざわめきが消えていく。

「ふーっ……今日はちょっとだけ、ピアノ弾いてから帰ろうかな」

音楽室の扉を開けると、春の風がカーテンを揺らしていた。

鍵盤に手を置き、好きなアニメ曲を軽やかに弾く。

音が広がるたびに、胸の奥が解きほぐされていく。

「……勉強も、こんなふうに弾けたらいいのにな」

思わず笑みがこぼれる。

――カタッ。

足音がして、振り返った。

「……雨音くん!?」

「部活、今日は早めに切り上げた。ちょっと肩を痛めたんだ。」

「え、大丈夫?」

「……たぶん。湿布貼っとく」

「ちゃんと貼ってよ。無理したらだめだから」

気づけば声が熱を帯びていた。雨音は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく微笑む。

「……日向、今の曲。すごく良かった」

(呼び捨てだ…)
「え?ほんと?エヴァの曲なんだ」

「ふふ。意外だね。隣、いい?」

「……うん」

雨音が腰掛けると、空気が変わった気がした。
横顔は整っていて、指先は細く美しい。

その手が鍵盤に触れると、静かな旋律が流れ出した。

「……“糸”。これだけは弾けるんだ」

「すごい……! 一緒に弾こうよ」

二人の音が重なった。

不思議と息が合い、旋律はひとつに溶けていく。

楽しさで胸がいっぱいになった瞬間――指先が、触れた。

「……っ」

重なった手の温度に、ドキドキした。

顔を上げれば、至近距離に雨音の横顔。
風がカーテンを揺らし、夕日の光が彼の瞳を照らした。


「……日向…」

「え…」

「可愛い…」

その一言が、世界でいちばん残酷に甘い音に聞こえた。

次の瞬間――

視界が揺れて、まぶたが自然に閉じる。
ほんの一瞬、柔らかな熱が触れた気がして。

鼓動が耳を打ち、世界が止まった。


――初めてのキスは、音楽みたいに、美しかった。


Lesson 4続く♡

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