雨音に溶けるひだまり

氷月

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Lesson14真夏の独占、逃げられない沼

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真夏の太陽が降り注ぐリゾートプール。

白いパラソルとデッキチェアが並び、ガラスのグラスに光が差し込むたび、きらめく水面と溶け合って眩しかった。

「……すごい場所。リゾートホテルみたい」

アユカは思わず見渡し、目を細める。
すると桜庭は肩をすくめ、軽く笑った。

「当たり前だろ。うちが会員になってるプライベート施設だ。夏は人が増えるけどな」

「そ、そういうことさらっと言わないで……」

照れ隠しのように水しぶきを跳ねさせるアユカに、桜庭は余裕たっぷりの笑みを浮かべ、腕を伸ばす。


「ほら、浮き輪なんて要らねぇ。俺が支えてやる」 

「やっ……人が見てるから!」

「見せときゃいい。――俺の女だってな」

耳元にかかる低い声。水中で引き寄せられる腰。

鼓動が早鐘のように高鳴り、アユカの唇からかすかな声が漏れた。

「……蒼」

小さな呼びかけに、桜庭の目が鋭く光る。

「……もう一回言え」

「……蒼」

「その名前呼ぶの、俺だけにしとけよ」

次の瞬間、桜庭はアユカをプールサイドへ押し上げ、濡れた髪を指で梳きながら、その唇を強く奪った。

水滴がきらめく中、アユカは彼の熱に飲み込まれ、抵抗するどころか全身で受け止めてしまう。

「お前は俺だけのもんだ。他の男に笑うな、目も合わせるなよ?ずっと、俺だけ見てろ」

「……うん。蒼だけだよ」

キスを終えたアユカは、恥ずかしさを隠そうと慌ててタオルで顔を押さえた。

「な、なんか……のど乾いた。休憩しよ?」

赤い頬を隠すその姿に、桜庭は喉を鳴らして笑う。

「なら、頼んでやるよ」

桜庭が指を鳴らすと、すぐにスタッフが駆け寄ってきた。
「この店で一番いい季節のフルーツプレートと、マンゴーパフェ。それからシャンパングラスでノンアルの炭酸で。」

「かしこまりました」

数分後、運ばれてきたのは宝石のような鮮やかな果物と、背の高いグラスに盛られた贅沢なパフェ。

「す、すご……!」

アユカは目を輝かせてスプーンを手にするが、桜庭がひょいと取り上げ、自分のスプーンですくって差し出した。

「ほら、口開けろ。アユカは甘いの好きだろ?」
「も、もう……!自分で食べる!」

「ダメだ。……俺が食わせてやる」

抗う間もなく口に入れられ、甘酸っぱい果実と冷たいアイスが広がる。
頬を赤くするアユカに、桜庭は満足そうに目を細めた。

「ほら見ろ。美味しいやろ?」

「……うん」

照れ隠しにうつむくアユカの肩を抱き寄せ、桜庭は低く囁く。

「俺以外に、そんな顔見せんなよ。」

夏の日差しも、水のきらめきも霞むほどに。
ふたりの世界は、独占と甘さに満ちて、どこまでも深い沼に沈んでいった。


帰りぎわ、プールサイドを後にして並んで歩く。
濡れた髪をタオルで押さえながら、アユカがふと口にした。

「……蒼って、本当にお金持ちなんだね。……ありがとう」

横顔を見上げると、桜庭は涼しい目で笑い、肩を軽くすくめた。

「俺が金持ちかどうかなんてどうでもいい。――お前のためだからやったんや。
お前を好きだから、だろ?」

耳に響く低い声に、胸の奥が一気に熱くなる。
足が止まり、アユカは小さく呟いた。

「……蒼にハマったかも。ずっと一緒にいたい。キスも……好き」

その言葉に、桜庭は一歩近づき、逃げ場を塞ぐように影を落とした。
唇が触れる寸前、低く囁く。

「やっと気づいたか。……いい子だな。もう二度と俺から離れられねぇ。俺がお前を沈めてやる」

熱に触れた瞬間、アユカの世界は完全に蒼に支配され、甘く危うい沼へと落ちていった。

ー帰り道。

夕暮れに染まる道を並んで歩きながら、アユカの胸はまだ熱を持っていた。

――どうしよう。こんなに好きになるなんて。
さっきのキスも、囁きも、全部が心臓に突き刺さって離れない。

「蒼……」と呼ぶだけで胸が苦しくて、でもそれ以上に甘くて、溺れそうになる。

イケメンで、お金持ちで、余裕があって。
なのに、わたしをこんなにも独占してくれる。

「……どうかしそう。蒼が好きすぎて」

見上げると、桜庭はまた涼しい笑みを浮かべ、軽く肩を抱き寄せてきた。
その仕草一つで、理性も逃げ場も消えてしまう。

――もう抜け出せない。
わたしは完全に、桜庭という沼に堕ちてしまった。


Lesson 15へ続く
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