雨音に溶けるひだまり

氷月

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Lesson 15 独占に揺れる微笑み

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夏休みデート


「お待たせ、雨音!」

改札を駆け抜けてきた日向の声に、雨音は振り返る。

軽く息を弾ませた日向がそこに立っていて、雨音は自然と口元を緩めた。

「……行こうか」

差し出された雨音の手に、日向は少し照れながらもそっと自分の手を重ねる。
温かさが伝わった瞬間、胸の鼓動が跳ねるのを日向は誤魔化すように笑った。

映画館に着くと、雨音がチケットを受け取りながら首を傾げる。

「せっかくだし、4D観よう。……大丈夫?」

「うん、いいよ」

自然に並んだ肩と肩が近くて、選んだ二人並びの席に、少しだけ心がざわついた。

ドリンクを置いて、館内が暗くなる。

やがてスクリーンに映像が映し出されると、日向は真剣に見ていたが……気付けばまぶたが重くなり、カクン、と小さく首を揺らす。

雨音はその様子に小さく笑みを零し、ためらいもなく自分の肩へと日向の頭を引き寄せた。

「……無防備すぎるんだよ」

心の中でそう呟きながら、繋いだ手をぎゅっと握る。
右手で髪をゆっくり撫でれば、日向の寝息が小さく揺れて、ますます可愛さが胸に沁みていく。

(ずっとこの寝顔を独り占めしていたい――)

映画が終わるころ、日向が目を覚ました。

「……あ、寝ちゃった」

気まずそうに呟く日向に、雨音は肩を揺らして笑う。

「三十分は見逃したな」
そして、スクリーンの余韻がまだ残る闇の中で、雨音は日向の額へそっと唇を落とした。

「俺だけに見せろよ、こんな顔」


映画館を出て、二人は少し歩いて駅近くのカフェへ。

ガラス扉を押し開けた瞬間、カウンターにいた高校生くらいの男の子が日向を見て、照れくさそうにニコッと微笑んだ。

「?」

日向は小首を傾げただけだったが、その一瞬を雨音は見逃さなかった。

「……こっち、座ろう」
雨音は日向の腰にそっと手を添え、
奥の二人席へと導いた。

ランチは、雨音がパスタ、日向がドリア。
熱々の湯気と笑い声が交じり合い、気づけば自然に笑顔が溢れていた。

「おいしいね」

「そうだな。……けど、お前が楽しそうに食べてる顔の方が、もっといい」

雨音がそう囁くと、日向は嬉しそうに
笑った。

食後にはカフェラテとアイスティー。

日向がグラスに口をつけると、雨音は不意にカップを差し出す。

「一口飲む?」

「え、うん……」

ストローを共有してしまい、日向の胸は一気に早鐘を打った。

雨音はそんな反応を楽しむように、ふっと笑みを浮かべる。

――俺以外に、そんな顔見せるなよ。

声にならない独占が、瞳の奥に滲んでいた。

食事を終えて店を出ると、街の風が心地よく頬を撫でた。

「ねぇ、次、どこ行きたい?」 

雨音が何気なく問う。

「えっと……どこでも」

「……そう。じゃあ俺が決めていい?」

「うん」

雨音は繋いだ手をぎゅっと強める。

「じゃあ――俺が、お前をもっと独り占めできる場所」

「え?…」
日向は思わず足を止めた。

その言葉の重みに、胸の奥が熱くなっていく。

映画とカフェを終えて、夜の街に出る二人。
アウトレットのイルミネーションが光る先に、巨大な観覧車がそびえていた。

「わぁ……綺麗だね」

日向が思わず足を止めると、雨音はクスッと笑った。

「じゃあ、乗ろうか」

「えっ……いいの?」

「俺、お前と一緒にあの景色を見たい」

観覧車に揺られ、ゆっくりと上がっていく。
外の夜景が広がる中、二人だけの小さな空間。
日向が窓の外を見て「すごい……!」と目を輝かせた瞬間、雨音の手が自然に重なる。

「……日向」

呼ぶ声は低く甘く、観覧車の静けさに溶けていく。

「お前が他の誰かに微笑むのを見ると、俺……やっぱり嫉妬する」

日向はドキリと胸を鳴らす。
雨音はふっと笑い、軽く額をくっつける。

「俺だけ見てろよ。……だって俺は、日向しか見てないんだから」

観覧車の光に包まれながら、二人はそっと唇を重ねた。

外の夜景よりも、互いの瞳の方がずっと眩しく思えた。

「好きだよ…」


夜、家に戻った雨音は、シャツのボタンを緩めながらソファに沈み込んだ。

スマホを取り出すと、待ち受けに映る日向の笑顔がふと目に入る。

――笑ってる顔、反則だろ。

胸の奥がじんと熱くなる。
映画館で眠そうに肩に凭れた姿も、カフェで照れながら笑った顔も、全部が頭から離れない。

「……俺、なんでこんなに日向を独り占めしたいんだろ」

低く呟き、スマホを握りしめる。

画面越しの笑顔に手を伸ばす自分が、少し情けなくて、それでも止められなかった。

ソファに身を預け、まぶたを閉じる。
浮かんでくるのは、日向の瞳、日向の声、そして唇の感触。

「好きで、仕方ないんだよ」


ため息のように零した言葉は、静かな部屋に溶けていった。

それでも、その胸のざわめきは、ますます深く、強くなっていくばかりだった。


Lesson 16へ続く

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