雨音に溶けるひだまり

氷月

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Lesson 16 花火に照らされたダブルデート

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夏の夜空に、人の声と提灯の灯りが混ざり合う夏祭り。

4人は並んで屋台の通りへと足を踏み入れた。

浴衣姿の彼らは、周囲の視線を集めていた。

雨音は黒地に銀の模様が走る浴衣を纏い、端正な横顔が光に浮かび上がるたび、どこか雅やかで詩的だった。

桜庭は白一色の浴衣に身を包み、モデルのような佇まいで人々の視線をさらっていく。

紺色の浴衣を着た日向は、その小さな背丈と柔らかな笑顔が誰よりも愛らしく映り、花柄の浴衣に蝶が舞うようなアユカは、可憐な華そのものだった。

人の波に押されそうになる日向の腕を、雨音が自然に引き寄せる。

「……気をつけて。俺から離れるなよ」

その低く甘い声に、日向の鼓動が跳ねる。

桜庭も同じようにアユカを庇い、肩に手を添えていた。

屋台の灯りに照らされ、ガラス玉のように輝くリンゴ飴。

雨音が足を止め、日向の横顔を覗き込む。

「……食べる?」

「うん」

その返事に、雨音は迷わず財布を取り出し、ひとつ買って差し出す。

「ほら。日向に似合う」

差し出された飴を両手で受け取り、日向は小さく笑った。

「ありがとう」

そんな二人のやり取りを見ていたアユカが、思わず声をあげる。

「いいなぁ~!わたしも食べたい!」

すると桜庭も、当然のように屋台に手を伸ばし、リンゴ飴を買ってアユカに差し出す。

「ほら。お前も」

「……っ、ありがと!」

日向がリンゴ飴をかじった瞬間、口の端に蜜がついた。

「……ついてる」

雨音の指先が、そっと日向の口元を拭う。

そのまま、雨音は何のためらいもなく指先を唇へ運び、蜜を舐め取った。

「……甘いな」

細めた瞳に、いたずらな光と独占欲が滲む。

日向は頬を真っ赤に染め、胸がどくんと跳ねた。

――やばい、今の雨音、かっこよすぎる……。

浴衣姿で林檎飴を抱える二人の可愛さに、屋台の灯りも花火の前触れのように揺れて見えた。

人混みを抜けて辿り着いたのは、少し高台の開けた場所。

夏の夜風が吹き抜け、遠くに花火が見える。

最初の一発が夜空に咲く。

鮮やかな光が空を裂き、群衆の歓声が響いた。

アユカは桜庭の肩に寄り添い、彼の浴衣の袖をぎゅっと握る。

日向もまた、花火の音に驚いて身体を揺らし、その瞬間、雨音の胸に引き寄せられていた。

「大丈夫。俺がいる」

耳元に囁く声は、花火の轟音にかき消されながらも、日向の胸の奥にしっかり届いた。

その瞬間、夜空よりも鮮やかに、心臓が鳴り響いていた。

花火の音が夜空を震わせる。

鮮やかな光が弾けるたび、日向の横顔が一瞬だけ浮かび上がる。

その表情を見ていたはずなのに――ふと視線の先、そこに準がいた。

隣には、長い髪に切れ長の瞳を持つ美しい人影。

女に見えたが、声は男。彼が準の手を取っていた。

「……日向」

呼びかけようとした瞬間、準はその手をするりと離し、迷いなく日向へ近づいてきた。

光と影に揺れる中、耳元に顔を寄せ――

「久しぶり。……会いたかった、偶然でも嬉しい」

低く甘い声が、雨音の鼓膜を焼いた。

次の瞬間、隣の男が「ほら、行くよ」と準を引き戻す。

準は振り返りもせず、群衆の中へ消えていった。

「え?すご……やば。めっちゃ綺麗な子だと思ったのに、声が男だった!?」

アユカの驚きが弾け、桜庭は小さく鼻でクスクス笑った。

だが雨音の耳には、花火の音しか届かない。

しかし花火の轟音に紛れた、準の囁きだけが残響のようにこびりついて離れない。

「……日向、何を話したの?」

思わず低く問うと、日向は目を逸らし、ぎこちなく笑った。

「……花火の音で、よく聞こえなかった」

嘘だ。

そう気づいた瞬間、胸の奥が熱を持つ。

――嫉妬だ。

理性を装っても、今にもあふれ出しそうな黒い独占欲。

雨音はふっと笑みを作り、日向の手を握りしめた。

「……なら、いい」

だがその手の力は、花火よりもずっと強く震えていた。

花火が終わった夜空に、まだ余韻が漂っていた。

アユカが

「花火終わったら、どうする?」

と問いかけると、桜庭は涼しい顔で

「帰らせねーよ。朝まで一緒だ。俺ん家に行くぞ」
と当然のように言い切った。

「え?なにも持ってきてないよ!」

と慌てるアユカに、桜庭は薄く笑って「ゲスト用あるから大丈夫だ」と言い切る。

ふたりのやり取りを横目に、雨音は柔らかな笑みを浮かべて日向へ視線を落とした。

「……日向も、家においで」

「えっ?ぼ、僕も?だって何も持ってきてないし……」

タジタジと答える日向の頬が、夜の灯りで赤く染まっている。

雨音はその手をそっと取り、しっかりと絡める。

「大丈夫。全部あるから。日向は何も心配しなくていい」

一歩近づいて、耳元で囁く。

「……俺、さっき、嫉妬したかもしれない…
朝まで離さないよ。」

ふっと笑みを浮かべる雨音の横顔は穏やかで、それでいて――燃えるような独占欲が静かに滲んでいた。


Lesson 17へ続く


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