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Lesson 17 微笑みの檻
しおりを挟む「準、さっきの誰?僕がいるのに……浮気?」
「浮気? は?ただのクラスメイトだよ」
準は小さくため息をつき、歩き出そうとする。
「もう遅いから、帰るぞ」
「だめ。帰らない」
茜はその場に立ち止まり、しがみつくように準を抱きしめた。
「……家に来て。準がいないと眠れないんだ」
「……はぁ」
準は自分の頭を押さえる。
「帰るよ、な? 帰ろ?」
「やだ。準じゃなきゃだめなんだ」
声が震えるほどの依存。
「わかった、とりあえずわかったよ」
準は力なく応じる。その胸の奥では冷めた声が響いていた。
(……面倒くさい。正直、無理。別れたい)
けれど、顔を上げた茜の美貌を見た瞬間、足が止まった。
月に照らされたその横顔は、あまりにも綺麗すぎて。
(……くそ、こいつの顔だけは反則だ)
「……行こっか」
準は無理やり笑みを作り、茜の背中に手を回す。
そのまま一歩近づき、ふいに茜の唇へ軽く口づけた。
触れるだけの、短いキス。
「……これで満足?」
準は低く囁く。
茜の頬は赤く染まり、切れ長の瞳が潤む。
「……うん。でも、もっと」
準はまた小さくため息をつき、視線を逸らした。
(……ほんと、顔だけなんだよ。俺がまだここにいる理由は)
「準、好き」
隣で歩く茜が、不意に指先を絡めてきた。
夜風に揺れる長い黒髪、浴衣姿に切れ長の瞳。街灯の下では、まるで絵画の中から抜け出してきた美少年にしか見えない。
「今日、来てくれるよね?」
「いや、おまえを送ったら帰る」
「……嫌だ。帰らないで」
「茜…」
苛立ちを押し隠すように低く名を呼ぶが、彼は子どものように首を振り、しつこく袖を引いてくる。
「準がいないと眠れないの」
縋る声。潤んだ瞳。
その美しさに、準の胸の奥で苛立ちと諦めがせめぎ合った。
(……ほんと、ずるいよな。こいつの顔だけが、俺を繋ぎ止めてる)
「……わかったよ。少しだけな」
しぶしぶ足を向けたのは、茜の家――広い門構えの和風屋敷。書道家の息子らしい格式ばった佇まいに、準はため息をもう一度、胸の奥で飲み込んだ。
玄関を上がると、畳の香りと静けさ。
広すぎる廊下を歩きながらも、茜はぴたりと準の手を離さない。
「ねぇ、冷たいよね、準。最近」
「そんなことない。……お前だけだよ」
言葉は優しく響いても、心の中では真逆の声が呟いている。
(俺が欲しいのは、お前の顔だけだ)
茜は安堵したように微笑み、準の首に腕を回して唇を寄せた。
反射的に受け入れてしまう自分に、準はまた苦く笑う。
長いキスのあと、茜は耳元で囁く。
「ねぇ、帰らせない。朝まで一緒にいて」
(……どうせ離れられない。顔だけでも、俺を縛るには十分すぎる)
準はもう拒む気力もなく、その背に手を回した。
唇を重ねるたび、茜の瞳が潤んで縋りついてくる。
その美貌に絡め取られるように、準は小さく目を伏せた。
(なのに、俺の心は空っぽのまま……。ただ、この顔を失うのが怖いだけなのか?)
Lesson 18へ続く
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