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完璧な執事の、不完全な自制心
しおりを挟むミラ様が12歳――俺が18歳の時に出会った。
「公爵」令息、俺には重すぎて退屈すぎた。
イギリス公爵家の次男として生まれた俺の人生は、何から何まで決められたレールの上だった。
追い打ちをかけるように、自由奔放だった兄が恋人と駆け落ちし、その責任という名の鎖が俺の首に巻き付く。
「……勝手なことばかり……」
窮屈な未来なんていらない。
俺は家を飛び出し、そのまま隣国の門を叩いた。
高貴な血筋も、公爵家という重苦しい名前もすべて捨てて。
誰にも縛られず、自分の意志で誰かに仕える。その「自由」こそが、俺が何よりも欲しかったものだった。
「今日から君の執事となる、アークだよ。ミラ様」
芝生に片膝をつき、目の前の小さな少女――ミラ様を見上げる。
彼女は俺の赤い髪をじっと見つめると、小さく声を溢した。
「……綺麗」
まだ幼い彼女は、お気に入りのワンピースの裾を所在なげに弄りながら、不思議そうに俺を覗き込んでいる。
「あなたが執事……? 私に、ずっと付いていてくれるの?」
「ええ。あなたが望まれる限り、どこへでも」
それは、嘘偽りのない俺の本音だった。
この自由な身分で、愛らしい少女が美しく成長していく姿を、誰よりも近くで眺めていたい。
しがない執事として彼女の隣で、穏やかに年を重ねていく。
そんな気楽で幸福な未来を、この時の俺は微塵も疑っていなかったんだ。
――アーク様……本当に美しい美貌ですわよね……
見てるだけでドキドキしますわ
わかりますわ~もうあの綺麗な顔立ち。王子様って言うほどお美しいわ~
周りのメイドや使用人たちが俺を見ては囁いていた。
――一週間が過ぎた頃。――
アークどこにいるの?アーク??
宮殿の中で、アークを探している様子。
どうしましたか?少しばかり席を外してました。
ワンピースのリボン結んで欲しくて……。
かしこまりました。後ろを向いてください……
俺はミラ姫の服のリボンを結ぶ。
ミラ姫、これから教育の先生がきます。算数をしっかり学んでくださいね
あの先生好きじゃない――だから話聞かないの。
アークが教えてよ?
わたしがですか?……姫をじっと見つめて
かしこまりました苦笑。
姫様は好き嫌いがハッキリしてる、子らしい。
執事も俺で4人目らしい――……
ワガママで執事たちは困り果て辞めた……
そんな噂を聞いたが……ワガママなのだろうか?
――可愛い甘えん坊なのでは?そんな予感がした。
いつも隣で姫様を見守る……それが執事。
真剣にお勉強をしている様子だな……。
色白で目が大きく睫毛が長い……
そんな姫様に俺は一瞬だけ――見惚れてしまった。
(待て待て、何を考えてるんだ俺……)
額に手を当てて一瞬だけ小さなため息を溢す。
そして――15時――姫様のお茶の時間。
宮殿の庭――
ミラ姫。学業お疲れ様でした。お茶ですよ?
ミラ姫が好きなカヌレと紅茶です。
ありがとう……。ミラはカヌレをたべる
アークも食べなよ?
いえ、わたしは後ほどで。
その時、ミラは俺を睨みながら、わたしの「言うこと聞けないの?はい、たべて。」
ミラは強引にアークの口元にカヌレを
食べさせる。俺は思わず苦笑した
「美味しいですね。クスクス。」
ミラ様は顔真っ赤になり目線を下に傾けていたそんな穏やかな日常が続いた――
――そして――ミラ様は17歳となった――
誰が見ても可愛く美しい女性へと成長した――
あまりの美しさに色んなの貴族たちからの
婚約を申し込まれるようになった。
「ミラ、また婚約の申し込みが来ているんだが」
「お父様……。何度言えば分かってくださるんですか? 私はまだ、婚約も結婚もするつもりはありません」
旦那様の呆れた顔を横目に、俺は静かにミラ様の後を追った。
ミラ様は、着飾ることに興味がない。ギラギラした宝石や窮屈なドレスよりも、繊細なレースをあしらった清楚なワンピースを好んで身に纏う。
そんな彼女の飾らない美しさが、俺の胸を何度も静かに騒がせる。
自室に戻った途端、彼女は張り詰めていた糸が切れたように、俺に顔を向けた。
「……私はまだ、結婚なんてしたくないの」
執事である俺に向けられる、無防備な不満。
「ねえ、アークからもお父様に説得してくれない? 本当に嫌なの」
「……ミラ様がそう仰るなら。今度、折を見て旦那様にお話ししてみます」
「……うん。お願いね」
安心したのか、ミラ様がそっと俺に寄り添ってきた。
彼女の柔らかな体温をワンピース越しに伝えてくる。
(……近い、な)
服越しに伝わる、彼女の柔らかな体温。
俺は反射的に、彼女の腰に手を回していた。
そのまま強く抱き寄せてしまいたい衝動を、必死に理性で抑え込んだ。
俺の役割は、あくまで彼女を守る執事だ。この幼い甘えを、男としての欲望で汚すわけにはいかない。
「……ミラ様」
俺は感情を殺したまま、そっと彼女の髪を撫でた。
けれど、指先に触れる髪の心地よさに、俺の中の理性が少しずつ、壊れていく予感がしていた。
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