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Lesson11 ぬいぐるみの笑顔と、琥珀の夜
しおりを挟むその頃ー タクミ
「ふー……今日もいい汗かいた。久しぶりのフットサルで筋肉痛なりそうだ」
ロッカールームに戻り、タオルで汗を拭きながら着替えていると──
「おぅ、タクミ!お疲れ!ほれ、スポドリ飲め!」
「ありがとうございます、先輩!」
差し出された冷たいペットボトルを受け取り、一気に喉を潤す。
「なぁ、噂聞いたか?」
「噂……なんですか?」
「今日な、隣町の超美人が来てたんだよ!聖麗女子大の子!もう、学内ざわついて大騒ぎ!」
「聖麗女子大って……青蘭の次に頭いいとこじゃないっすか」
「おう。特に経済学部はトップだがな。……ま、うちの青蘭経済には“ユウヤ様”がおるけどな!」
「ユウヤ様……確かに」
冗談めかして笑うけれど、先輩の次の一言に心臓が跳ねた。
「でな、その美人──レン様の元カノなんだってよ!」
「……え?」
耳を疑う。
「二人で仲良く手ぇ繋いで、学園出てったらしいぜ。しかも走って!はははっ」
(いや、それ……絶対話盛られてる……
でも、頭の中に浮かぶのは観覧車の夜。
あの額のキスは……なんだったんだ)
呼吸が少し乱れる。胸がざわざわして、どうしようもなく落ち着かない。
「ん?タクミ、服着ねーのか?」
「……あ、はは……忘れてました」
苦笑いでごまかしながら、俺はシャツを手に取った。
心の奥は、もう笑える状態じゃなかった。
ズキズキする。
汗を拭いても、胸のざわつきは消えなかった。
青ざめた顔のまま、気づけば足は校門を越え、青蘭美術大の前に立っていた。
ちょうど帰り支度をしていたハルが、画材道具を抱えて友人たちに笑顔で手を振っていた。
「ハルまたなー!」「またな。バイバーイ!」
その姿は、まるで光そのものだった。
校門の影に立つタクミに気づいた瞬間、ハルは目を丸くする。
「うわっ、なに?タクミ!びっくりしたー。どうしたの?」
気づけば言葉より先に体が動いていた。
「……ハル!」
抱きしめた腕の中で、ハルが驚きに固まる。
「ちょ、な、なに?」
「……聞いてくれよ……」
胸に溜まっていた不安が、溢れそうになる。
──その頃レンとユウヤ
夜景が滲むレンのマンションの窓辺。
静かなリビングにジャズが小さく流れ、
ソファには二人。
ユウヤはグラスを軽く回し、琥珀色の液体が氷を叩く音だけが響いていた。
「……で?レンくん、わざわざ俺呼ぶくらいや。何かあったんやろ」
ユウヤが視線を向ける。
レンはグラスを唇に運び、ゆっくりと飲み干す。
「……俺さ、女と付き合ってきて……それなりに遊んだ。けど結局、全部中途半端で終わった」
「知っとる。お前の名前出す女、結構おったしな」クスクス
ユウヤは薄く笑う。
「……でもな。タクミといるとき、変な気持ちになるんだよ、なんかペースが乱れる」
レンの声がわずかに低く揺れる。
「守りたいのか、惹かれてるのか……まだよくわからない。ただ……あいつが笑うと、俺まで救われるような気がする」
ユウヤはグラスを置き、レンをじっと見つめた。
「……なるほどな。タクミは素直で明るいしな、笑顔がいい。真っ直ぐなんだよな」
「たしかに、素直で明るいよな」
レンは小さく笑い、ソファに身を沈める。
「……俺は、あれ以来誰かを好きになった事がない。でも」
ユウヤはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「なら……気づいたときにはもう遅い、っちゅうことや」
二人の間に沈黙が落ちる。
グラスに残る氷が、カラン、と小さく鳴った。
レンはグラスを揺らしながら、低く問いかけた。
「……なぁ、ユウヤ。お前は、本気で誰かを好きになったことあるのか?」
ユウヤは一瞬驚いたように眉を上げ、それから小さく笑った。
「ははっ……あるよ」
「……俺の知ってるやつか?」
「知ってる。その子すげぇ可愛くて、一目会った瞬間に、一目惚れ」
レンの指がグラスの縁をなぞる。
「……誰だ?」
ユウヤは迷いなく答えた。
「……ハルだよ」
レンの目が一瞬大きく開く。
ユウヤは笑みを浮かべたまま続ける。
「わかるやろ? あいつ、本当にそこらの女より可愛い。無自覚に人を夢中にさせるんや、沼に落とされたわ」
「……確かにな、わかる。」
レンはふっと息を吐き、夜景の向こうに視線を投げた。
ユウヤは逆に身を乗り出すように問い返す。
「で、レン。お前はどうしたいんや?」
静かなリビングに、重い問いが落ちた。
レンは答えを出せず、グラスの中で揺れる氷を見つめ続ける。
「……俺は──タクミの事… す…っ、気になるんだよ」
レンは小さく、ほとんど自分に言い聞かせるように呟いた。
ユウヤはニヤッと口角を上げ、グラスを持ち上げる。
「ほんなら、元カノとはちゃんと決着つけなあかんやろ」
その声には茶化す軽さと、本気の忠告が混じっていた。
「……だな」
レンは小さく頷き、また琥珀色の液体を喉に流し込む。
二人はそのまま、くだらない話を交えながら夜中までお酒を飲み続けた。
笑い声とグラスの音だけが、静かな部屋に響いていた。
一方その頃。
タクミはモヤモヤを抱えたまま、ハルに連れられてゲームセンターに来ていた。
「ほらタクミ!次は太鼓のやつやろ!」
「え、俺リズム感ないんだけど……」
「大丈夫大丈夫、僕が隣でやるから!」
ハルの無邪気な笑顔に、タクミは胸が少し軽くなる。
さっきまで頭を占めていた噂のざわめきが、ゲームの音と笑い声にかき消されていくようだった。
クレーンゲームの前で、ハルが真剣な顔でレバーを操作する。
カラン、と音を立ててぬいぐるみが落ちた瞬間、周りのライトがきらめく。
「よし!取れた!」
誇らしげにぬいぐるみを抱き上げ、タクミの前に差し出す。
「はい、あげる!」
「……え?」
戸惑うタクミに、ハルはにっこり笑った。
「ほら、元気出して。噂は噂。大体盛られてんだから。……気になるなら、本人にちゃんと確認して?」
ハルの軽やかな言葉に、胸の重みが少し和らぐ。
気づけばまた、俺はハルをぎゅっと抱きしめていた。
「……ハル~。泣きそうだ俺」
「はいはい、わかったわかった、よしよし」
ハルは困ったように笑いながらも、その背中を受け止めてくれたー
ゲーセンのざわめきの中、タクミの鼓動だけが妙に大きく響いていた。
Lesson12 へ続くー♡♡
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